〔第63話〕エネ•ローゼ•ユワナ•ベクター
今回の話もツグネ視点です。
ウチの兎が不安定になっている理由に関しましては、物語の視点が兎側に変わった時にトイプードルしますので、兎を見捨てないであげて下さい。
レイと未知のスフィアがネネの姿に気を取られた。
その一瞬をnew orderは見逃さなかった。
new orderはスフィアの口を使い未知のスフィアの肩から胸にかけて噛み千切った。
——————バキバキバキバキッ!!!
金属の圧縮される鈍い音が耳を通り抜けると同時に未知のスフィアの右半身が腕と共に海へ向かって落ちた。
半身が欠けた未知のスフィアはバランスを崩し、捕縛していたnew orderからその手を離した。
——————【▽△▽△▽ッ…!】
動揺する未知のスフィアのパイロットを差し置き、new orderはnew orderで意味不明な言動を繰り返している。
——————[一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×一兆×…]
new orderの呪文の様な奇声を最後にモニターからの通信は途絶えてしまった。
その様子をモニター越しで見たタフナはその場でタタラを踏みその心境をツグネへ吐露した。
「しょ、正気ですかアレ…」
「正気じゃねぇだろ…アレは…」
とは言え、心当たりが無いわけでもない。
前にフブから聞いた話なのだが、兎とゲームで対戦している時、こちょこちょで邪魔して勝とうとしたら兎は自分の集中力を高める為、デカい数字を使って掛け算を始めたのだとか…。
あれか、天才の所業って奴か。キモいな。俺あーゆーの嫌いなんだよな。持たざる者の嫉妬って奴だ。
とは言え今、兎は集中力を高める為にあんな狂気に走っていると言うことになる。
タフナにはこの事内緒にしといて、兎がただの気狂い狂人だと思わせておこう。
どの道、兎が狂人である事に変わりはないがな。
——————シーン。
通信が途切れた事に動揺したのかnew orderの狂いっぷりに動揺したのか皆が黙りこくる中、勲章オジが一人叫んだ。
———『どうした!なぜ映らん!回線はどうなっている!報告せよ!』
——————「new orderが一方的に回線を切ったと思われますッ!」
———『何故そんな事を!!!おい!回線をネネのスフィアへ切り替えろ!』
——————「了解!」
前方のモニターがネネのスフィアからの映像に切り替わった。
———『ネネ!状況を報告せよ!』
しかし、ネネから帰ってきた言葉は素朴なものだった。
——————[はいはい、落ち着いて。落ち着いて。こちらネネさんだよ。]
———『早く状況を報…』
その時、未知のスフィアから場に居る全ての人へ対して、オープン回線が入った。
——————【▽△ッ!あーーーッ?!あーーーーーー?!あーーーーーーーー!!】
どうやら回線が切れて状況が見えなくなったその数十秒で状況は変に進んでいるらしい。
それだけは皆、共通認識で悟った。
未知のスフィアに乗っているパイロットが、ただひたすらに叫んでいる。
——————『▽△△!!!あーー?!あーー??あーーーー!!!』
奇しくもそれを聞いた全員が同じ様な受け取り方をしていた。
《お前は何の為に戦っているんだ。お前はどうしてそんな必死に戦っているんだ。》
言葉の意味はわからずとも語尾の上げ下げや、感情の乗ったその声のせいで、そう言われている様な…そんな意思を問われている様な気がした。
きっと何かこちら側の意思を確認する様な問いかけに違いないと…。
敵からの問い掛けに勲章オジが応答しようと無線をオープン回線へ繋げた。
———『我々は…』
しかし、勲章オジよりも早くnew orderがオープン回線で返した。
——————[ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッ…ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!]
その咆哮はこの世のどうしようもない理不尽に抵抗するかの様な儚さを持ち、それ以上に怒りと悲しみの感情に溢れていた。
同時にnew orderはスフィアの開口部を全部開けるだけ開き内部にあるエンジンを全開で蒸した。
開口された部位から内部の核の様な部分が剥き出しになっている。
その核の周辺は重力が歪んでいる様な錯覚を起こすレベルの熱気を放ち、激しく半透明な煙に包まれている。
そしてありとあらゆる開口部から轟音が鳴り、兎に呼応するかの様にスフィア自身も吠えていた。
——————《グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!》
皆がその異様な光景に再度黙りこくる。
1回目の時とは大違いなこの現状に、ツグネはただひたすらに考えた。
何故こうなったのか。
何が原因でこうなったのか。
わからない。ただわからない。
1回目の時は駆逐艦瀬音夏に乗ったミルとレイの2機だけが敵だった。
しかし、今回は何故か未知のスフィア1機がそのメンツに追加されていた。
new orderは圧倒的な強さを持っているが故に過去の偉人ミルとレイをも瞬殺してしまう。
だが、未知のスフィアはどうだろうか。
未知のスフィアはnew orderと拮抗する程の実力を持ち合わせていた。
…何故だ。
ッ…?!
もしかしたら俺がもっとも恐れてた事が起こってるのかもしれない。
それは222が俺の“やり直し”に対応してきていると言う事だ。
何の確証も無い。
無いがもしそうなら今までみたいに行き詰まったら死んでやり直すが安易に出来なくなる。
相手が時間の巻き戻りを自覚しているなら、もちろんその対策もして来るはずだ。
もしかするとその対策が今回の未知のスフィアの配置だったのかもしれない。
マズいぞ…本当にマズい。
でも、そう考えるのが1番自然になってしまう。
“222はやり直しを知覚している”
絶望に陥るツグネを無視するかの様に現実では状況が進む。
——————《グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!》
未知のスフィアは兎から発せられる咆哮を聞き、若干気圧されたのか少し後ろへ体をのけぞらせた。
しかし、少しの間を置いた後、未知のスフィアのパイロットは、ただどこか懐かしそうな声でゆっくり言った。
——————【そうか…。そうなのだな。言葉を介さずとも理解したぞ。貴様は世のことわり即ち理不尽に抗おうと…必死なのだな。】
未知のスフィアから紛れもない共通言語が聞こえてきた。
皆が愕然とする中、ラスターだけが一人嫌な顔でボソッと呟いた。
「new orderと言い、未知のスフィアと言い、規格外のパイロットってのは何で女が多いんだ?」
今そんな事気にしてる場合か?と言いたくなる所だが、ラスターの言う通り、この声の持ち主は聞くにきっと女に違いないだろう。
女のパイロットの方がスフィアをうまく操れるのか?
いやいや、そんな事より今222が送り込んできた未知のスフィアが共通言語を喋ったぞ!?
「一体どういう…」
事態が沈黙の混乱を招く中、勲章オジがネネへ向かってすかさず指示を出した。
———『パイロット03番“ネネ”、離脱しろ。』
——————『嫌よ。』
———『死ぬぞ。』
——————『戦場で死ねるなら兵士の誉よ…。』
———『未知のスフィアからnew orderと同等レベルのエネルギー効率を検出した。』
——————『…だから何よ。』
ネネはその意味をしっかり理解した上で、子供が駄々をこねる様にその場へ残ろうとしている。
———『今お前を失うわけにはいかないのじゃ。』
——————『情に訴えかけても無駄よ。』
———『理性で動くんじゃ!』
——————『私一様六防様なんだけど。貴方より上司なんだけど。何一丁前に命令してんのよ。』
(いや…司令塔が司令出すのは当たり前だろ…)
そんな事を思いながらツグネは今までの経験を兼ねて222の能力を改めて考察する。
恐らく、さっきまで周波数の違うラジオみたいな言語に聞こえていたのは222本体からの妨害だろう。
いや、恐らく妨害と言うより半ば洗脳に近いのかも知れないな。
〈歴史の死者を蘇らせ、その身を操る。〉
そんなところか…?
そうじゃないと、かつて世界の平和を追い求めて戦ったミルとレイが今、都市を奇襲する理由が見つからねぇからな。
でも…今の感じだと洗脳なんてされてなさそうな口ぶり…
エネ•ローゼの奴はきっとnew orderとの激しい戦闘で洗脳の効果が薄れていったとか…?
…待て、ミルはどこにいる?
「なぁ、おっさんミルは…」
ツグネが勲章オジへ声を掛けようとしたその時、ネネから映し出された映像に言葉が詰まった。
——————[ねぇ、アレが都市を救う救世主なのよね…。]
——————バキバキバキバキッ!!!!
ネネのスフィアから直接中継されたnew orderの姿は酷く荒れていた。
new orderは未知のスフィアにしがみ付き、口でひたすら四肢を食い破っている。
その姿は肉食獣が草食動物を食らう様な物だった。
——————[まるで獣みたいじゃない。アレがスフィア同士の戦いだっていうの?]
そんな中、ネネの方に一機のスフィアが接近してきた。
——————《警告。後方から対象エネミーの接近を確認。》
ネネのスフィア内部に激しい警告音が鳴る。
——————ヒュンッ!!!
鋭い槍先がネネのスフィアの顔に向かって放たれた。
——————[ッ!!!]
ネネは間一髪でそれを交わし、不意打ちで攻撃を加えてきたレイのスフィアを蹴り飛ばした。
しかし、レイは蹴りの足を片手で掴み逆にネネを捕縛した。
——————[気持ち悪いのよッ!!!変態ッ!!!]
ネネは量子演剣をレイの胸めがけて振り抜く。
レイはそれを軽く受け流し、ネネに肘打ちを喰らわせた。
——————バキッ!!!
鉄同士が歪み、鈍い音を場に残す。
不意の反撃を喰らいネネのスフィアが体勢を大きく崩した。
——————[しまッ…]
レイは片手で持った槍を器用に使いネネへトドメの一撃を見舞う。
——————バキッン!!!
ネネはスフィアの体を限界まで捻り何とか致命傷を避けたが、槍の攻撃はネネのスフィアに装備されてある背中のバーニアを破壊していた。
「だッ、大丈夫ッ…!バーニアはまだあるからッなんて事ないのよ!!!」
お互いスフィアの種類は違えど、バーニアが1つ無いという事はその分、相手のスフィアより推進力が弱くなったという事だ。
つまり、今足を掴まれているネネのスフィアはレイのスフィアから逃れられないという事だ。
レイが狙いを定め、ネネに斬撃を加えようと再度、腕を振り上げた。
——————[ヤバいッもう、回避出来なッ…]
——————バビュンッ!!!バキッ!!!
ネネが槍で貫かれるよりも早く、前方から勢いよく飛んできた飛来物にレイが被弾した。
——————[ハッ…。]
ネネは素早く首を振り空を見渡す。
そしてnew orderの方を見て理解した。
new orderの投げた未知のスフィアの残骸がレイに直撃したのだと。
“直撃した”というより“直撃させてくれた”の方が正確だろう。
——————[助太刀なんて…。私ッ、情け無いわね…]
レイのスフィアの頭が一部破損し、内部が剥き出しになっている。
顔のフレームが大きく崩れ、内部の配線が火花を上げている。
剥き出しになっているその内部構造は人間の構造によく似た頭蓋骨の様な形になっていた。
そしてその眼光がギラリと光りネネを睨んでいる。
しかし、レイはネネの脚から手を離さない。
それを見たnew orderは未知のスフィアを蹴り飛ばし、物理的に距離を離した後、ロスアクでレイとの距離を一瞬で詰めて反撃に出た。
——————バリバリバリバリッ!!!
new orderがレイを吹き飛ばした。
それでもレイはネネの脚から片手を離さない。
しかし、そのせいで勢い余ってネネごと下の海へ吹き飛ばされた。
それに対し、new orderはネネ達が海へ入水するよりも早く、再度レイだけにポイントを絞り、ロスアクで貫いた。
——————ブゥゥゥゥンッ!!!
時空の歪む様な鈍い音と同時にレイのスフィアがバラバラ砕け、淡い光を上げ、爆発した。
一方、レイに掴まれていたネネはそのままの勢いで海へ落ちた。
——————ドボォォォォォォォッン!!!
——————[あのレイを一瞬でッ…]
ネネが周回移動都市に来た子供の頃、レイはまだ生きていた。もう数千年前の事にはなるが、その姿を私は鮮明に覚えている。
都市では珍しく市民権の無いレイは老いたその姿でスフィアのパイロットをしていた。
主に戦いに出ると言うよりかは新人パイロットを訓練すると言った様な事を中心的に行なっていた。
“世の中の大体は根性で何とかなるのよ!”元気よく言い放つ老人の言葉をよく覚えている。
子供の私は我ながら天才だった。
スフィアのパイロットになって一ヶ月もしない内にラウンドを達成し、ラウンダーになった。その時はもう誰も私に敵わない。本気でそう思っていた。
でも、唯一1回も勝てなかった相手が居た。
それがレイだ。
私は少し特殊な方法で周回移動都市の市民権を得て、その都市の市民となった。
それ故、いきなりパイロットとして師団で活動していた為、レイと手合わせした事がなかった。
ラウンダーになった時、同じラウンダーのレイが老体を引きずって私に勝負を挑んできた。
私はボッコボコにされた。
そしてレイが老体の体で死ぬまでのその間、一回も勝てなかった。
しかし、今はどうだろうか私も数千年色々な経験を積んで全盛期と思われるレイを相手出来るまでになった。
222によって復活させられた最盛期のレイと戦えている。
正直勝てるかどうか危うい状況であったがネネはこのまま続ければ勝てると確信していた。
しかし、現実は私が人生を賭けて目標にしていたレイは新人パイロットサキミネウサギに瞬殺された。
ネネはそのまま海底へ沈み、海面を見上げた。
——————[なによ、アンタ…]
ネネが海面から空の景色は異様だった。
花火でも上がっているかの様な広範囲のキラキラと、2つの流れ星の様な線が継続的にシュンシュン反射している。
その流れ星がぶつかり合い激しい花火を作り出しては流れ星の如く空へ線を描き光を放っている。
正直心が折れそうになっているネネは先輩として兎のことが心配になり、すかさず兎へ回線を繋いだ。
——————〈ツーッ。ツーッ。回線が途切れました。再度繋ぎ直して下さい。〉
——————[ちょっと?!回線切られてるじゃないっ!!!]
ネネは敵へ警告用のオープン回線を使い、叫ぶ。
——————[ちょっと!状況ぐらい報告しなさいよ!!!]
しかし、返事はない。
——————[チッ、何なのよッ!世話焼いてやったのにッ!]
ネネは危険を承知で海面へ浮上する事を決断した。
そしてスフィアを動かそうとしたその時…
——————バリバリバリバリッ!!!!!!
空から放たれた直径10m程のレーザービームがネネの隣を横切った。
——————[はぁあ?!?!]
レーザービームは左右に激しく揺れた後、ゆっくり余韻を残す様に消えた。
その様子をモニター越しに見ていた勲章オジが何か悟る。
———『なっ…アレは不可視の破壊光線じゃ…。ミル…、お主はまたアレを撃つ気なのか…。』
何か思い入れがあるのかその声は僅かに揺れていた。
——————[不可視の破壊光線って割にはよく見えたけどね。]
———『海水が蒸発して視覚的に見えただけじゃ!油断するなッ!!!』
——————[ふんっ。new orderの加勢に行くわ。]
回線越しにネネは言うが、勲章オジはそれを断固拒否する。
———『ダメじゃ。お前を死なせる訳にはいかない。』
——————[はぁ?]
———『ダメじゃ。』
ネネは勲章オジを無視して、海面へ浮上し出す。
———『ダメだと言っとるじゃろ!!!』
しかし、地上へ出ると同時にネネは悟った。
瞬間移動でもするかの様に動くnew orderとそれに対応し、攻撃を交わす未知のスフィア。
脊髄でわかった。
戦っているステージが違うと。
——————ドドドドドドドドドドドドッ!!!
——————ヂュュュュュュュッン!!!!
——————プシューッ!!!バリバリバリバリッ!!!
——————ガキンッ!!!ガキンッ!!!
攻守交代しながらお互いがぶつかっている姿を見る。
ただ見る。
new orderも未知のスフィアそれぞれ半身が損壊してる。
半身が損壊していながらネネでは再現不可能な動きでパフォーマンスを発揮している。
——————[あそこに割り込んだらきっと私、死ぬわね。]
ネネは冷静に感情を押し殺し、淡々と言った。
しかし、その心根は絶望に満ち溢れていた。
(私にはこれしかなかったのにッ…あぁクッソ…くやじぃ。なんでッ…なんで私はあそこに立てないのよ……。)
その時、new orderからネネへ回線が入った。
——————[死にに来たなら、ちゃんと死んで。]
——————[はぁ?何よ!偉そうにッ!!!]
その一言だけで回線は切れた。
new orderはネネへ対し嫌味を一方的に伝え回線を切った。
その事実だけで悔しさと情け無さで憤慨しそうになるネネ。
——————[キィィィッ!生意気なガキッ…!]
そんな事を言いつつ、ネネは首を振り周り、状況を伺った。
そして見つけた。
new orderと未知のスフィアが激しい戦闘を繰り広げているその真上、駆逐艦瀬音夏と接続を果たしたミルのスフィアを見つけた。
ついにミルが映像にその姿を現した。
そして、未知のスフィアといい、レイといい見たことない種類のスフィアで戦っていた。
しかし、ネネはミルのスフィアに見覚えがあった。
——————[ちょっと…アレ…プロメテウスじゃないの?!って、バーニアがクソッ海水でイカれたわね…ブースターを再起動するしか…]
モニター越しのネネから聞こえてきた、馴染み深い単語に反応するツグネとタフナ。
「今、プロメテウスって言いましたか?」
「プロメテウスってあのトワイライト5000が使ってた奴か?」
俺とタフナの声が思いの外、大きかったのか場内に響く。
それを聞いた勲章オジがモニターから目を逸らさず2人に言った。
———『プロメテウスは接続部品によって大きく性能を変化させる特殊なスフィアじゃ。そして今、ミルの操縦しているプロメテウスは駆逐艦瀬音夏に接続されておる。』
「あ?はっきり言えよ!」
「ツ、ツグネさんッ…」
「何が来るかはっきり言えよジジイ。」
———『かつてエヴァンテをも唸らせたプロメテウスと駆逐艦瀬音夏との接続。』
「はっきり言えやジジイ。つまり、どんな攻撃してくんだよ。」
———『不可視の破壊光線じゃ。』
——————バリバリバリバリバリバリッ!!!
激しい音が鳴ると同時に、海に電子を帯びた円柱形の空洞出来る。
しかし、いくら不可視だろうとnew orderにはその攻撃は当たらない。
擦ればどんな合金でも溶かしてしまう不可視の破壊光線はnew orderにとっては遅すぎた。
何というか見た感じ2人の速度に不可視の破壊光線がついていけてない感じだ。
(でも、クソォッ、不可視の破壊光線って何だよッ…1回目の時と状況が違いすぎるだろ!)
———『おかしい。ミルが放つ破壊光線はもっと…』
勲章オジが吃って何か歯痒い事を言っているが、聞く感じ生きている時のミルの方が凄かったって言いたいのだろうか?
まぁ、弱くなっている分、今は気にしなくてイイか…。
——————ガキンッ!!!
数分の長い戦いの末、new orderの放った攻撃が未知のスフィアの残った腕を刈り取った。
四肢の無くなった未知のスフィアはnew orderと距離を取り、一旦攻撃を止めた。
new orderも何か感じ取ったのか、相手を倒す絶好の機会なのに動きを止めた。
それに合わせて上空で不可視の破壊光線を打ちまくっていたであろうミルもその動きを止めた。
すると、未知のスフィアがオープン回線で話しかけてきた。
——————[私の名はエネ•ローゼ•ユワナ•ベクター。今意識がハッキリした。死んだはずの私がなぜもう一度生を成しているのかはわからないが、イイ機会だ。今世は好きな様に生きよう。]
それに対し、ネネが対話を試みる。
——————[こちら周回移動都市パイロット03番、ネネ。貴方は222にくみする者なの?なぜ最初から共通言語で対話を試みなかった?]
ネネの的確な質問が飛んだ。
——————[すまない。最初は何か頭の中にモヤが掛かっていて……。そうだな、上手く表現できないが何か鋭い意思に突き動かされていた様な感覚だった。…それから、めっぽう強いパイロットと戦っている内にそれが完全になくなって今に至る。]
——————[……そう。なら222にくみする者では無いと。]
——————[222がいかなる者かわからないが、貴様らに対する敵意はもう無い。そしてこれ以上軍事的対話をする意思も無い。]
——————[はぁ?!]
——————[さっきから黙っているめっぽう強いパイロットよ。私は今夢から覚めた時の様に完全に目が覚めた。もう何も戦う理由は無い。]
ネネと対話しているにも関わらず、new orderに話しかけたエネ•ローゼ•ユワナ•ベクター。
そしてマイペースに誰の返事も待たずにただひたすら1人で話し続ける。
——————[約束しよう。私からは如何なる軍事的行動もしない。その制約で逃してはくれまいだろうか。]
それでもnew orderは一言も発しようとしない。
そして再びnew orderの代わりにネネが不満をあらわにする。
——————[はぁ?アンタ、何勝手な事言ってんの。どんな理由があれ、私達を攻撃したんだからその責任ぐらいは果たしなさいよ。]
——————[パイロット03番、“ネネ”と申した者よ。すまない、都合が良いのは分かっている。だが、今世は好きに生きさせてくれ。]
——————ブォォォォォッ!!!
エネ•ローゼ•ユワナ•ベクターがバーニアを搾る音が場に響く。
——————[…待ちなさい。アンタ…簡単に逃げれると思ってんの?エネ•ローゼ。]
——————[思わない。だからこうして頼み込んでいるのだ。]
——————[アンタがどれだけ強かろうとスフィアの損壊具合で言えばこちらが圧倒的に有利。後、数分で何十万という周回移動都市のスフィアも増援に来るわ。簡単に逃げれると思わない事ね。]
——————[む…。私の名前は“エネ”でも“ローゼ”でも“ベクター”でもない。“ユワナ”だ…。ユワナで認知しておいてくれ。所で今、ヴェルサイユが死んでから何年が経ったのだ?]
——————[…は?]
ネネは意表を突かれた質問に動揺する。
——————[つまり、私が死んでから222?とやらに復活させられるまでに何年時間が経過しているのかが知りたいのだ。]
——————[え、ちょっ待ッ…アンタ今ヴェルサイユが死んだってッ…]
——————[……むっ。馬鹿な私でも分かってしまったぞネネ。私はめんどくさくなる事を言ってしまった時のアレだな。」
——————[…ッ。ま、まぁいいわ。とりあえず、余計にアンタを逃すこと、出来なくなったわね。]
——————[もう、私は死者らしく世界の表舞台には出ないし関わらない。周回移動都市に対して如何なる敵対行動も取らない。約束しよう。だから、改めて言う。もう何も聞かず逃してくれ。]
——————[…ふんっ。軍部と掛け合うまでもなく答えは決まってるわ。ノーね。逃すわけないでしょ。]
——————[……一つ勘違いしている様だから言っておこうネネ。先程から私が逃して欲しいと頼み込んでいるのはめっぽう強きパイロットに対してだ。現状、ネネ貴様には何の脅威も感じていないぞ。]
——————[……実力的にはそうかもね。でも、これだけ機体の損壊というハンデがあってもそう言い切れるかしら。]
——————[……そうだな。ネネ貴様が43としよう。]
——————[はぁ?戦闘力でも表してるわけ?全くガキの遊びじゃないんだから。で?new orderやアンタは100とでも言いたいわけ?]
ネネはちょっとその例えにモジモジしている。
——————[“1000”だ。]
——————[な゛ッ…]
——————[いや…強きパイロットに関しては確実にそれ以上だ。私に並ぶパイロットなどこの世に二人と居ないと思っていたが世界は長いのだな…。それにしてもその領域、オーダーに踏み込んでいると言っても過言では……あぁ、そうか。だから、new orderと呼ばれているのだな。]
——————[な、何の事よ?!なに一人で勝手にッ…!]
——————[二度と表舞台に出てこないと約束しよう。さらばだ。]
——————ブォォォォォッン!!!
——————[ちょッ?!待ッ!!!]
未知のスフィアはその言葉を最後に残ったバーニアを使って、周回移動都市とは真反対の方向へ飛び去って行った。
その速度はネネがバーニアを絞って本気で飛行した時の数倍は速かった。
故に追いつけるはずもなく、ネネはただその後ろ姿を見て叫ぶ。
——————[気安くネネって呼ぶな馬鹿野郎ーーーーー!!!]
未知のスフィアの急発進を見て、ネネは再度レベルの違いを思い知った。
そして、追跡を諦めたネネとは違い、new orderは未知のスフィアの背中すら追おうとしなかった。
もちろん追跡しなかった理由は機体の損傷具合を見れば自ずと理解できる。が…
——————キィィィィィィィッ…。
new orderは真上にいたミルに視線を移し、黙ってバーニアを絞りエンジンを蒸した。
——————キィィィィッ…!!!
未知のスフィア、エネ•ローゼ•ユワナ•ベクターの様に自我が戻り、敵対する気がないと言えばお互い痛み分けになるこの状況下でミルは何も喋らない。
残念な事にミルは洗脳が解けていないし、エネ•ローゼの様に周波数の違う様な声で話すことすらしない。
つまり、自我を取り戻す予兆も無いと言う事だ。
正直ミルを正気に戻す事は絶望的と言って良いだろう。
一発触発、その言葉が完璧に当てはまる状況に対し、勲章オジは眉をかしげた。
———『レイと同等、いやそれ以上の戦闘能力を持つミルがなぜ最初から姿を表さなかったんじゃ…。』
——————ブゥゥゥゥンッ。
new orderから出る鈍く低い、時空の歪む様な音が聞こえた瞬間、決着は着いた。
瞬きする間もない程早くnew orderはミルをロスアクで貫いていた。
——————バキィィィィィィィッン!!!
new orderとミルのその力量差は圧倒的だった。
しかし、その分new orderと同等のチカラを持っていた未知のスフィアの異様性が浮き彫りになる。
——————ドガァァァァァァァァァァッン!!!
駆逐艦瀬音夏と共に爆発するミルの姿を背景にnew orderはその眼光をギラ付かせていた。
俺にはnew orderのその姿がモニター越しの皆を睨み付けている様に見えた。
気のせいか…。
戦いが終わったと見た勲章オジはネネへ司令を出す。
———『とりあえず、言いたい事は色々あるがお疲れ様だ。よく生き残ったな二人共…。』
しばらくの間を空けてもnew orderが頑なに喋ろうとしなかった為、仕方なくネネが先導する。
——————[帰還するわ。帰りはエヴァンの教会に近いレーンにして。あそこに屯ってる連中に話したい事が山程あるの。]
———『了解じゃ。』
その報告を最後にネネからの配信映像も途絶えた。
これはついでの話でしか無いのだが、ミルとレイという親の亡霊を目の前で撃墜された時のセネカの表情は酷く歪んでいた。
——————————————————#####
——————ギィィィィッ…。ガコンッ。
ボロボロになったnew orderのスフィアがレーンを通じてエヴァンテの軍庫へ到着した。
エヴァンテ直属の整備士達がわらわらと集まり、その姿を大きなシートで覆う。
まぁいつもの事といえばいつもの事なのだが、今回は一ついつもと明確に違う点がある。
それはnew orderのスフィアが破損していると言う事だ。
かつて無い程の苦戦を強いられていたが、やはり今回も勝ってみせた。
しかし、機体の損傷は過去一だ。
——————ギィィィィ…キキッッ。
——————プシューーーンッ…。
駆逐艦瀬音夏との決戦を見届けた俺、タフナ、フブ、エウレカ、セネカは兎とネネを労う為、二人のスフィアの到着レーンで待機していた。
兎のスフィアのハッチが開閉される音が響くとフブはあり得ない運動神経でコックピットまで整備用足場をよじ登る。
「アイツ猿かよ……。なぁ、セネカ。」
俺は何と無くセネカに話を振る。
気を遣っている訳ではないが何だか底知れぬ気まずさを感じているからだ。
「カンネ•ロードと並ぶ野生具合だね。」
「げぇ…マジかよアイツ…。怒らへんとこ…。」
そんな時、フブの悲鳴とも取れる叫び声が聞こえてきた。
「兎ぃ!!!」
その声に皆の視線が集まる。
俺は咄嗟に聞き返す。
「おい!フブどーした!?」
「う、兎の両脚が変な方向にッ…。それに、意識も無い!!し、死んじゃう!死んじゃうよッ!!!」
「はぁ?!」
唖然とする俺を置き去りに隣にいたエウレカはすぐさま医療班を呼ぶ様に叫んだ。
兎は両脚の骨折に加え、左右両腕の腱が完全に切れた状態で意識を失っていた。
——————《ゴーーーンッ。ゴーーーーンッ。ゴーーーーンッ。》
全てが作戦通りだと言わんばかりのタイミングで222到来まで残り数時間を知らせる鐘が鳴る。
今回の222からの奇襲で兎は両脚骨折と両腕の腱断裂という怪我を負った。
残り数時間で癒えるはずもない兎の重傷が皆を絶望の底へ叩きつける。
そして、ツグネはポケットに入れている拳銃を握り“やり直し”をしようとするが、その手を止める。
“やり直し”をすれば222が更に対策をして来るかもしれないからだ。
そして次回は今回と違い負けるかもしれない。
現状の酷い状況から更に酷い状況になるかもしれない。
「あぁ、チクショウ…」
ツグネはポケットに握りしめている拳銃を手放し、ボロボロになったnew orderのスフィアを触る。
「硬ってぇな…」
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new orderの重傷と引き換えに駆逐艦瀬音夏を退けた。と、簡単に片付けて良いほど事態はそんな簡単に終わらせてはくれない。
朝と昼の狭間、駆逐艦瀬音夏との決着がついた同時刻、周回移動都市の中の街“海白町”では、朝の特売市場が開かれていた。
朝の特売市場は子供から大人でごった返し、賑わいを見せていた。
「ねぇーママぐるぐるアメ買って〜!」
「ダメでしょ〜。そんなわがまま言ってたら成人した時、市民権貰えないわよ。」
「それは嫌だ〜!」
「我慢を覚えなさい〜。」
「う〜…わかった。我慢する…。うぅ…。」
「……仕方ないわね、じゃぁ一個だけよ。」
「え?いいの?ほんとに?」
「えぇ、いいわよ。今日早起きだったしね。」
「え?!やったー!ありがと!」
何気ない平和が漂う市場。
——————ドォォォォォォォッン!!!!
そこへ突如として、大人ですらバランスを保てず転倒してしまう様な強力な“地鳴り”が起きた。
その揺れは継続的な揺れの地震とは違い、地面から突き上げる様な一過性の揺れで治った。
市場の出店の店員や市場の客がザワザワと一層騒がしくなる。
「地震か…?」
「馬鹿、四足歩行の周回移動都市に地震なんてある訳ねぇだろ。」
「一様、エヴァンテ様の遣いの人から今日“大号令”が使われるかもとは聞いていたけど、こんなすごい揺れなのか…大号令ってのは…」
「3000年生きてる俺でもこんな大きな揺れ初めてだぜ…」
「いや、大号令っての発令しても揺れたことなんてねぇぞ?」
「ママ…?」
子供は手を繋いでいたはずの親の姿が見当たらずその首を上下左右に振る。
そして気づいた。
子供の真横から先の地面が無くなっていた。
「マ、マ…?」
それは向こう側の見えない断崖絶壁の崖になっていた。
そして子供は腕だけになった母と手を繋ぎその場へ力無くしゃがみ込んだ。
そして理解する。
「…ッあぇ?」
new orderと1対1になる前から負けを悟っていたミルはレイと未知のスフィアが時間を稼いでいる間、戦っているフリをしてずっと駆逐艦瀬音夏を使ってエネルギーを生成していた。
そして未知のスフィアが最後に逃亡する前、静かにそれを放っていた。
太さが直径1kmにまで達する不可視の破壊光線は周回移動都市の胴体を貫き、そのまま上部へ向かってスライスしていた。
甚大な損傷を負った周回移動都市はそれ故に歩行困難となりその場へしゃがみ込んだ。
そして、その動きを停止させた。
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更にそれらをも凌駕する最悪の事態が起こっていた。
ミルの放った不可視の破壊光線が引き起こした損害は周回移動都市の破壊のみでは収まらない。
破壊光線の揺れが地下の眠れる獅子へ最悪の合図を出してしまったのだ。
——————「そろそろ暇つぶしも飽きてた頃なんよ〜。まぁこの“絶対インポッシブル”とか言う映画は続編観たかったけど…。まぁ、ちょうどええタイミングで始まったなぁ〜。」
—————— 「 始めよか。」
エネ•ローゼ•ユワナ•ベクターの名前はユワナです。漢字で雪和鳴です。
ベクターとかの方で呼んだら結構怒ってくるので注意して下さい。
ユワナはとても良いキャラをしている割に、本編にはあまり出てこないのが悲しいです。ので、外伝とかにいっぱい出したいです。ユワナはこの後、終末世界を旅します。楽しそうですね。
【完遂した。】




