〔第60話〕これから起きる事
周回移動都市の中心にある街、エヴァンの中には、旧東京にあった国会議事堂がある。
俺も何故それがそこにあるのかはわからない。
今は聞く時間も無い。
俺は国会議事堂の中で、どこの誰かもわからない奴の開幕の挨拶を聞く。
まぁつまり開会式って奴だ。
この会議は222第一の布石ド級駆逐艦へついての対処を決める参謀会議だ。
——————ガチャンッ!
開会式が終わると同時に1000人程が着席している国会議事堂の扉が勢いよく開かれた。
——————ツカツカツカ。
そこにはいつもの外行き衣装を着たエヴァンテがいた。
豪勢なシスター服を着て異様な目隠しで顔を隠されたその姿に絶対的な支配者たる何かを感じさせる。
そしてその隣にはいつもより少し着飾ったエヴァンテの専属護衛、“セルフレリア”も居る。
場内は拍手どころか、エヴァンテの足音と参謀議員達のひそひそ声しか聞こえない。
エヴァンテは早速、中央の土台へ立ちマイクの様な物を手に取って話し出した。
——————『皆々様大変お待たせ致しました。ヴェルサイユ代理人エヴァンテ只今。』
このタイミングで少量の拍手が起こった。
恐らく都市の中でもエヴァンテに味方する派閥だけ拍手しているのだろう。
んー…ちょっと少ないな…。不安だ。
——————『弩級駆逐艦レベルの軍用機が今、周回移動都市へ向かって来ています。さて、その対策または対処について決定致しましょう。では、この名称不明の弩級駆逐艦レベルの軍用機に対し覚えがある方はいらっしゃいますでしょうか?』
エヴァンテを囲む様に座っているお偉いさんや参謀のトップと思われる人達がチラホラ挙手している。
挙手しているその中の1人をエヴァンテが指名した。
指名された人物はその場で立ち上がり全方向にお辞儀した後、その場で名乗った。
———「カスミ部隊、第3師団隊長エウレカ提言を願います。」
エウレカと名乗る好青年の形式的な挨拶を聞いて、俺は若干頭が痛くなった。
やめてくれよ、堅苦しい喋り方だと頭に入ることも入んなくなんだよエウレカ…。
——————『許しましょう。』
エヴァンテの独裁者の様な返事が場内へ響く。
“許しましょう。”って独裁者かよ。
いや、実際独裁者みたいなもんだろうけど…。
———「今、旧世界、現世界、新世界に現存する弩級駆逐艦または超弩級駆逐艦は6つあるとされています。その中でも超弩級駆逐艦は2つ。その2つのいずれも軍用目的ではなく他国の国家兼住居として運営されています。そしてその残り4つの弩級駆逐艦に置きましては全てヴェルサイユの意向の元、旧世界で管理、保管されています。補足ですが、弩級城塞や超弩級城塞は連合国連邦が管理運営し、その数は不明です。共通認識として確認させていただきました。」
おい!弩級駆逐艦レベルがどんなレベルでどんなヤバい兵器なのか知らねぇけど、ほとんどヴェルサイユが持ってんじゃねぇか!
——————『ありがとうございますエウレカ。では、その中のいずれが攻めて来たかという話になりますわね。』
———「それが…ですね…エヴァンテ様。大変申し上げにくいのですが…今、周回移動都市の現在地“新世界”では駆逐艦自体が確認されておりません。」
場が唖然とした。
呆気に取られた参謀議員達は、不確定な事実をさも当たり前に起こる事実かの様に進められるこの参謀会議の現状に不満が募る。
必然、場が荒れ始める。
——————『では、ここで私エヴァンテから変わって、222との戦いにおいて最も最前線で身を削っているツグネに登場して貰いましょう。』
は?
ちょいちょいちょい!!!
何も聞いてねぇーぞ!!!
——————『さぁ、どうぞ。ツグネ。」
あぁッくっそぉ!
クソひでぇ無茶振りだなぁッ!!
——————『さぁ!どうぞ!ツグネ!』
「あーーー!クソォッ…行くよ!行きゃいーんだろ!!」
俺はエヴァンテの居る中央の舞台へ向け、重い腰を上げた。
俺は大衆に晒されながら中央舞台まで歩く。
(なんかアレだな…。肥えた偉そうなお偉いさんが多いな…)
俺は過去数回だけエヴァンテと同じ国会の中央部に立った事がある。
その時は軍部の精鋭千人だった、今回は肥えた権力者千人って言った感じだな…。
まぁ…多分、どこの世界の参謀議員もだらしねぇ見た目してっからな。
軍部の精鋭達と違ってプライドが高そうな奴が多そうだ。
——————タッタッタッ。
俺が舞台の中央へ近づけば近づく程、場が静まり返っていく。
(…なんだこの気色悪い感覚は。)
舞台へ繋がる高い段差をなかなかよじ登れずに居るとエヴァンテの隣に立っていたセルフレリアに手を差し出された。
別に運動不足とかじゃねぇけど…俺も、参謀議員達の事とやかく言ってらんねぇな。
そして俺は国会の中央部、舞台に立った。
俺はとりあえず、エヴァンテから渡されたマイクの様な物を持ちマイクチェックがてら話した。
もうコイツにはマイクと名付けよう。
今日からお前はマイクだ。
細長い奴よ。
——————「ん゛ん゛…えーと…。…てか、さっきまでエヴァンテに対してうっさかったお前らが、急に静かになって正直怖ぇんだけど…」
俺の言葉に対し、誰も何も返さない。
それどころか紙の擦れる音1つしなくなった。
——————シーーーンッ。
——————「おい!お前ら気持ち悪りィなァ!おい、エヴァンテ!これ新手のイジメとかじゃねぇだろーなァ!!!」
『ツグネ、大丈夫ですわ。貴方に対するイジメは私が許しませんの。』
——————「あァー無駄に説得力あるなクソッ。もうッ…んで、俺は何でここへ呼ばれたんだっけぇ?」
『私の口からでは駆逐艦が襲来するという話を信じて貰えませんでしたので、ご協力願いますわ。』
——————「俺が出て何が解決するんだよ…」
そんな中、少し背の小さい腹の出た中年男が中央へ向かって、正面堂々ヤジを飛ばした。
「ふざけるな!こんなひょっとでのガキの言う事を信じろと言うのか!ド級駆逐艦は全てヴェルサイユが管理している!故に攻めてくる駆逐艦など有るはずが無いのだ!さては貴様orderの手先だな!敵だなぁ!!!」
周りが急に静かになった分、このおっさんが俺へ対して飛ばしたヤジが愛の告白レベルで胸に刺さった。
——————「うわぁ…。そーゆー反応マジで助かるぜ…。俺だけ無視系のイジメされてるみたいになってたから本当ッ…。ほんっと…お前!対等に扱ってくれてありがとよ!」
「な、何を言ってるか!クソガキッ…!」
俺へヤジを飛ばした中年男の言葉をエヴァンテが遮る。
———『貴方は出世が遅れに遅れているダグでは有りませんか。』
エヴァンテの辛辣な発言にダグと呼ばれた中年男がキレる。
「うるrrrさいわ!!!こんなガキの何の根拠もない言葉を鵜呑みにするお前らの方が愚かではないか!!!私は私の信念に従ってるから出世が遅いのだ!」
俺は俺への罵倒に感動し、エヴァンテとおっさんの会話に割り込んで感謝した。
——————「ありがとな、おっさん…。お前のその言葉だけで今日ぐっすり眠れそうだぜ…」
ここへ来て以来、初めてエヴァンテが俺に対し鬱陶しそうな顔をしている。
正直それも超嬉しかったが、エヴァンテは俺の言葉に返す事なく話す。
———『市民権にはレベルというものがあるという事はご存知ですね。ダグ。』
「とーぜんだろ!私を誰だと思って…」
———『別に市民権のレベルが上がったからといって、これと言った祝福は有りませんが、ただ1つだけ可能になる事があります。』
「な、何だそれは!なぜ私が知らんのだ!なぜ知らせんのだエヴァンテ!!!」
———『それは得た者にしか分からないからです。』
「ふざけるな!出世出世と世論はうるさいが私は私の信念と正義と理性に従って、この都市を参謀議員として導いているつもりだ!それを得たものにしか分からないと秘匿するなどッ!」
———『素晴らしいですわ。ならば、ダグ。貴方に祝福を与えましょう。』
エヴァンテの言葉と共にダグの頭上に一瞬だけ複雑な機械仕掛けの天使の輪が出た。
——————ガキンッ。ガコンッガシャンッガコンッ。
そしてそれはガチャガチャ動いた後、何事も無かったかの様に姿を消した。
「ななななッ…」
——————「おい、急にどーしたおっさん。エヴァンテに何かされたのか!」
俺が言葉を掛けた瞬間、その中年男ダグは肩を震わせ黙って自分の椅子へ座り込んでしまった。
——————「おい!おっさん!お前がこの中で唯一友達になれそうだったのに何ソッポ向いてんだよ!ダグとか言うおっさん!!」
相変わらずエヴァンテはちょっとだけ鬱陶しそうな顔を俺へ向けてくる。
俺がダグとか言うおっさんへ距離を詰めようとするのがそんなに嫌なのか?
中年男ダグはガクガクと震え出した。
頭を両手で抱え込み目線を下へ向けて、ただひたすらに怯えていた。
「や、ややややめてくれ…」
——————「はぁ?!おい!エヴァンテ!お前なんかしたろ!!!」
『私はダグに対し、周りの議員と同じレベルの市民権を与えたまでですわ。』
——————「おい、ぜってぇ嘘だろ。」
『嘘じゃ有りませんわ。私の命を賭けても大丈夫ですわ。』
——————「うっそくせぇ〜…。じゃぁ、嘘だったら何でも1個言う事を聞けよ。」
『嘘ですわ。何でも言う事をどうぞ。』
——————「清々しい程のドMだな、おい。」
にしても…不気味過ぎるほど静かだな。
一体コイツらには俺がどう見えているんだろうか。
なんか前にもビビられた事あったな…。
あー、つまりアレって議員級の市民権持ってる奴だったから俺に対して何か見えたんか…。
オーラとかでも見えんのかな。
俺のオーラ凄いのかな…?
何だこれ、自分で思うのですら恥ずいわ。
『では、ツグネ。これから222襲来までの間、何が起こるか参謀議員達へ説明頂けますでしょうか?』
——————「そういやぁ、そんな話だったな。」
俺は気を取り直して、黙り込んだ参謀議員へ対し222襲来までの、出来事を話す。
当然だが、目の前のコイツらには“やり直し”の事は明言していないし、するつもりもない。
——————「まずは、情報の出所は聞くな探すな考えるな。」
——————シーン。
この沈黙には何故か参謀議員のドぎついプライドを感じた。何故だろう。
なんかちょっと嫌になってきたな。この空気…。
——————「結論から言う。3日後に駆逐艦が攻めて来る。以上だ。ご清聴ありがとうな。」
俺はこの空気感に耐えられず、颯爽と舞台を降りようと背中を後ろへ向けた時…
———「おい!それだけかクソガキ!この都市を背負うんなら責任持てよ!」
参謀議員の1人の声が場内へ響き渡る。
俺はその反応に感動しながら体の向きを元へ戻した。
——————「ありがとな。誰か知んねぇが今俺を引き留めてくれたお前は今日のMVPだよ。」
すると場内に困惑と動揺を含めた声がザワザワと聞こえ出した。
俺は何の反応も来ない状況を何とか打破し、安心する。
それと同時に沈黙の怖さも重い程、思いもよらぬ程、思い知った。
時々聞こえて来る罵声がこんなにも嬉しいとは思わなかった…。
何だか罵声を聞くと、あぁちゃんと俺の話聞いてくれてるんだなって感じになる。
…何だこれ。
——————「でもな。正直、空飛ぶ駆逐艦の対処はnew order1人で何とかなるってのも事実だ。だから、俺達は222について考察しなきゃなんねぇ。んで俺は思うんだ。222は死んだ奴を自分の伏兵として復活させる事ができるんじゃねぇかってな。」
周りの声も少しずつが大きくなりツグネの胸も膨らむ。
——————「222今回現れる予定の空飛ぶ駆逐艦は、人じゃねぇが過去に潰れた駆逐艦とかなんじゃねぇか?だから現状記録にねぇんじゃねぇか?」
すると議席の方からパラパラと手が上がり始めた。
これはいわゆるさっきエウレカがやっていた挙手という奴なのだろうか。
俺はとりあえず1番近くに座っていた人を指差して当てた。
「はいはぁ〜い!カスミ部隊、第3師団副隊セネカ•ミル•レイディ提言願いまぁ〜すぅ。」
マジかよ…お前だったのかよセネカ…。
てか、お前ら“軍部”なんじゃねぇのかよ。
それとも、隊長.副隊レベルだと、こういう参謀会議にも招集されんのか?
———『ごるぅらぁぁ!どの面下げて議席座っとる!セネカ!!!』
———『ミルとレイディに謝れぇ!!!
———『しょーもねぇ事言ったら殺すぞぉ!!!』
———『部屋の角のゴミ発言忘れてねぇからなぁ!!!』
———『攫うぞぉごるぅぅらぁぁぁぁあ!!!』
参謀議員の奴らはセネカに対し、暴言というか脅迫という誹謗中傷を浴びせる。
俺ん時と大違いじゃねぇか!
しかし、セネカも負けじと言い返す。
「はいはぁ〜い。ネチョネチョした油汚れさん達も〜部屋の角に詰まった掃除しにくい埃さん達もぉ〜ルール的に喋ったらダメなんだよぉ?知らないのぉ?掃除しちゃうぞ?」
セネカへ対する暴言は更にヒートアップした。
さっきまでの通夜の様な静けさとは反対に、フェスの様な盛り上がりを見せている。
——————「んで、何だよセネカ。」
「過去に潰れたド級駆逐艦は3隻なんだけど、攻めて来る駆逐戦艦の見た目とか特徴って、わかる〜?」
——————「…そうだな。見た目は黒と銀だったな。大きさは確か4〜5kmぐはいだったな。」
「ん〜…もうちょっと、なんかない?」
俺は1回目の時の事をよく思い出せる様に、手のひらを口へ当てて、下を向く。
んー…正直覚えてるも何も1回目の時は軍部の部屋からnew orderと駆逐艦が戦う所見てただけなんだよなぁ…。
あっ…
——————「そういえば、最初ソイツが来た時、発見に時間掛かってたわ。」
「ド級レベルの駆逐艦なのに?!」
周りの歓声も相変わらずだが、俺とセネカはマイク越しで話をしているので全然声はかき消えない。
——————「アレだ、ステレス艦だった!確か軍部の奴がそんな事言ってたわ!」
「おっけぇい!ステレス性を持った昔潰れた駆逐艦は…」
セネカは何故か押し黙ってしまった。
いつものちょけていた姿から想像も出来ないぐらい真剣な顔をしている。
そしてしばらくの沈黙の後、場内の罵声を掻き分けてマイク越しにセネカの声がようやっと俺の鼓膜へ届いた。
「ド級駆逐艦セネカだね。」
——————「はぁ?なんで今このタイミングでお前の名前が出てくんだよ!?」
【科学の魔女】




