〔第44話〕第二回命懸け鬼ごっこ選手権
全然ッ周回移動都市に乗りませんねぇこの人達は…本編が始まらねぇよ!!!
「うわぁぁぁぁあああ!!!目玉!目玉!!」
並々ならぬ反応をするフブ。
それに動揺せず兎は速攻でゾンビにキックをかます。
——————ドスッ!
窓の外に何が居ようと関係ない。
今目の前にいるこのゾンビの方が危ない。
だから、最初にゾンビを倒さなければならない。
兎はキッチンからアイスピックを持ってきて、丸まっているゾンビの後頭部からそっと海馬に向かって差し込んだ。
——————バタッ。
ゾンビは静かに倒れ込んだ。
兎の冷静な行動を横目にフブは窓を指差して言う。
「兎!!!目玉が外に居る!でっかい目玉がいる!」
まるで子供が節分の日に、本気で鬼に怯えてはしゃいでいるみたいだ。
「おおおおっきい目玉…だね…めっちゃこっち見てるね…」
「睨み合いか?!上等じゃぃ!!!んーーー!!!」
睨み合いを始めたフブ。
しかし、実際は目玉に瞼や皮膚がない為、睨んでいるのはフブだけだ。
「みみみ見てくるだけ…だね…ぞぞぞゾンビはコイツに怯えてたのか…」
——————パッ。
大きな目玉が一瞬にして消えた。
「え…」
「ききき消えた…」
「私の睨みが効いたね。」
「そそそそうなのかな…」
まるで元々そこにいなかったかの様な消え方。
でも、確かに見間違いなんかじゃない。
「…目玉怖いけど、そんな事より兎!私達の時間巻き戻ってる…よね?」
「…あッ。」
兎はテーブルに置いてあるスマホを取り早々電話わかけ始めた。
——————プルルルルッ。プルルルルッ。
フブは疑問に思う。
誰に電話をかけているのだろうか。
今目の前に居た大きな目玉よりも時間の逆行よりも大事な事が…?
あっ…時間が戻ったって事は…!!!
——————ツーッ。ツーッ。ツーッ。
「ででで電話が繋がらない…いいい急がなきゃッ。」
——————ダッダッダッ!
兎が玄関に向かって走り出す。
フブは静かに兎の後ろをついて行く。
靴を履き廊下に出てエレベーターに乗る。
マンションの玄関に到着し、設置してある彫刻に言う。
「即時、警戒体制、レベル5、No01〜10まで着いて来い。」
——————メインサーバーから了解致しました。
——————プシュッンッ、ガシャンッ!
ヴィーナスとその他、諸々の彫刻が動き出す。
ヴィーナスを見たフブが歓喜の声を上げた。
「ヴェーナス!なんか凄く久しぶりに感じる!!」
——————「“お帰りなさいませ”。」
ヴィーナスのその発言にフブは違和感を覚えたが、今は防衛省に急がねばならない。
「No05、No08飛行形態になれ。」
——————メインサーバーから報告します。その行為は日本国憲法、第506条に抵触する恐れが有りま…
「いいい行こう、フブお父さんがッ…!」
「え、あ、メインサーバー…うん、行こう。急がなきゃだしね。」(え、兎…メインサーバーの言葉無視した?!)
——————… No05、No08に飛行形態の仕様を許可します。では、良い旅を。
——————ガシャンッガシャッ!ガシュンッ!
ヴィーナスとその隣のロボットが変形して小さいドローンの様になった。
「ふふふフブ、ヴィーナスの方に乗って!!!」
「あッ、うん!」
言われるがまま乗るフブ。
自動で安全ベルトが足と腰に巻きつけられる。
——————No05ヴィーナスから兎様へ目的地防衛省、ルートを問います。
「最短だ。」
兎が返答した1秒後2人を乗せた飛行形態のロボット達が発射準備を始めた。
——————2分で参ります。
——————ゴォォォォォォォオオオッ!!!
「えっ…ジェットエンジン?!ドローンじゃないの?!」
「フブ、背骨折らないでね。」
「え?」
その瞬間、マ○オカートの如く急発進した。
——————ゴォォォォォォォオオオッ!!!
「うわぁぁぁぁぁあ聞いてないぃ!!!」
———————————————#####
「カスミ、目的地に到着したァ。サキミネのマンションだ。」
「立派な建物だな。さぞ地位が高い人物なのか?」
「知んねェが早く回収しに行くぞォ。」
——————ゴォォォォォォォオオオッ!!!
「んァ?何だァ?」
「ほう…なんだ。」
——————ヒュッンッ!!!
カンネ•ロードとカスミの横をジェットエンジン付きのドローンで通り過ぎる兎達。
「はァ?!サキミネェ!!!」
「なかなかアドレッシブだな。」
兎達が通り過ぎるとマンションの扉は閉まった。
カンネ•ロードは唖然としている。
カスミは近くにいた兎の家の警備ロボットに話しかけた。
「すまない。先ほど飛んで行かれたサキミネ殿は何処へ向かったのだ?」
——————警戒レベル5故、お教えする事は出来ません。
「そうか…。それは残念だ。」
「聞かなくてェいい。今飛んでったのがァサキミネだ。」
「相変わらずカンネの目は良いな。」
「あんがとよォロボットさん。」
——————バックアップを確認。んー。んー。んー。
「おい、随分可愛い声を出すロボットじゃないか。」
「あ?どォーでもいーぃ行くぞォ。」
「あぁ。」
——————衛星からのバックアップによりカンネ•ロード、カスミの存在を確認。兎様との接触、友好関係、利害の一致確認、状況シュミレーション開始。終了。海岸沿いでの超常現象、未知のエネルギー確認。
「なんか始まったぞカンネ。」
「…は?」
「どうしたカンネ?」
「コイツ、今“巻き戻った出来事”の話し出したぞ。」
——————確認完了。カンネ•ロード様カスミ様、咲嶺兎様は防衛省に向かいました。至急、援護をお願いします。
「お前ェ…何故、過去の事実を知ィっている?」
——————衛星のバックアップから未来の日付の出来事が記録されてありました。それらを観測しました。
「どうなってやがる…つまり、“やり直し”のルールの穴を突いたってェ事かァ?」
「ほぼ間違い無く偶発的な物だろう。」
「そんなァ事は後で考えんぞ。防衛省へ急ぐ。」
——————ガシュンッ、ガシュンッ、プシューッ。
カスミの腰についているバックパックの機械が大きく変形した。
そこにカンネ•ロードが乗る。
「行くぞ。カンネ舌を噛むなよ。」
「わァーてる。急ぐぞ。」
——————良い旅を。
警備ロボットの挨拶を気にカンネ•ロードを乗せたカスミが急発進した。
——————ヒュンッ!!!
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飛行形態に変形したヴィーナスに乗るフブ。
後ろからは8体の警備ロボが追跡し護衛する。
——————ゴォォォォォォォオオオッ!!!
路地裏を飛び抜け上空に出る。
電線ギリギリの低空飛行をし、防衛省まで一直線で行く。
「アババババッ!!!」
風圧で息ができなくなり焦るフブ。
兎が心配になり兎の方を見ると体制を前に屈めてバイクレーサーの様なポーズをしていた。
それに習って持てる力を腹筋に込め兎と同じ体制にする。
「プハァッ!!!」
(この体制だと息が出来る!!!)
先に教えといて欲しかったと言う気持ちを抑え込み兎視点に立って考える。
今はお父さんの命が心配で後先考えられなくなっているのだろう。
ヴィーナスに付いているパネルを見る。
そのパネルには後1分で到着と書いてある。
(早ッ!!!)
——————ゴォォォォォォォオオオッ!!!
兎はフブの方を見る。
体制を教え忘れていたから心配したが、無事私の真似をしてくれたらしい。
この速度とあの仰け反り体制からよくこの体制に持っていけたな…。
フブの筋肉はどうなっているのだろう…。
そんな事より、顔の潰れたゾンビが玄関から侵入してくる前、お父さんとの電話が突然切れたのってメイトンが防衛省に攻めてきたからか…何故メイトンが攻めてきた?
いや、理由はわかる。
お父さんが“サキミネ”という名前だからだ。
そこからメイトンは私の情報を掴んでマンションまで来た。
…でも、私が今ここでメイトンの元へ行って何になる?
防衛省でも敵わないメイトン相手に何が出来る。
マンションの強力なナノシステムでも時間稼ぎにしかならなかった。
防衛省に備え付けられている兵器でメイトンは死なないという事実は、もう巻き戻る前のお父さんが体験した…。
防衛省の人を非難させるか?
いや、国の防衛の要を投げ出す様な人居ない…。
それはお父さんも同じ…なのかな…。
どうやって納得させればいいんだ。
時間が巻き戻った事を言うか?
カンネ•ロードとカスミに助けを求めるか…?
しかし、カスミはメイトンに負けていた。
「私はどうすればいい…」
そして、何も考えつかないまま防衛省へ到着してしまった。
——————ズドドドドドドドッ!!!
機関銃の音が聞こえる。
兎とフブはヴィーナス達と共に防衛省上空でホバリングする。
上から見える景色は奇形だ。
——————ズドドドドドドドッ!!
防衛省の入り口で1人の女が機関銃に集中砲火されている。
——————ズドドドドドドドッ!!
しかし、その女は機関銃の集中砲火を喰らって尚、ケロっといている。
「メイトンッ…!」
兎の詰まる言葉にフブが返す。
「兎!防衛省の人、早く非難させよう!!!」
フブの言葉に兎は肺から空気を搾り出す様に言う。
「ししし信じて貰えない…何も…思いつかないッ…」
悔しそうに唇を噛む兎にフブは飛行形態のヴィーナスをバンバン叩き言う。
「ヴィーナスくふぅん。理由は知らないけど、未来のバックアップ、メインサーバーから貰ってるんでしょ?」
——————察しがいいですね。フブ。
兎が驚いた顔でヴィーナスとNo08に問いかける。
「それは…一体…どういう…?時間の逆行に対抗…?データは逆行しないのか…?いや、データも電子だ。壊れた建物が元に戻ったと言う事はつまりそう言う事で…わからない。どうして警備ロボ達はバックアップが取れてい…」
兎の動きが止まった。
「どうしたの…兎、急に黙って…?もしかして何かいいこと思いついたの?!」
「わわわわかった…衛星だ…。時間の逆行の法則は大気圏外にまで影響しないんだ。いいいいや、正確にはわからないし違うかもしれない。ででででも、衛星自体の時間は逆行してない…。つまり、メイトンのデータがある!」
「おぉ!つまりぃ!!!」
「めめめメイトンのデータがあっても…物理法則を超えた動きは予測できない…どどどうしようも…」
その時、兎を乗せているロボットNo8が言った。
「主人を危険に晒す行為の提案。これは決してあってはなりませんが主人の意に反する様な事はしたくない。よって私は提案します兎様。お父様をお守りする為には貴方が囮になれば良いのではないでしょうか?」
その考えに兎は歓喜する。
「そそそそうか!メイトンにカンネ•ロードやカスミ程の速度はなかった!今この状態ならば私を囮にメイトンを防衛省から離すことができる!!!」
その考えにフブは納得いっていない様子だったが他にいい提案が思いつかない。
現状、全員助かる方法はこれしか無いのだ。
「よし、わかった兎。危険だけどやろう。メイトンにギャフンと言わせてやろうぜ!へっ!」
「…うん。」
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『ハァ〜…アンタらおもん無いなぁ…さっきから飛び道具ばっかりで手数が少ないったらありゃせんわ〜。』
メイトンが防衛省の建物に向かって拳を構えた瞬間、上空から叫び声が聞こえた。
——————「クソゴリラァァア!!!サキミネは私の隣に居るよぉおおだ!!!私が先に貰って行くからねぇ〜ん!!!」
『はぁ?!どこの誰か知らんけど…って!アンタらあん時の?!かっぷらーめん教えてくれた子ぉやんか。まぁとっ捕まえて損は無いか。捕まえてサキミネ本人ちゃうんやったら殺したらええだけやしなぁ。ええよ。その誘い乗ったるわ。』
一方その頃、兎はフブの発言に困惑していた。
「え?ふふふフブ?!何でそんな一捻り入れたの?」
「いーから、いーからぁ、ここはね私が先に誘拐しちゃうからねぇ〜んって言った方が相手は食いつきやすいんだよぉ。」
「そそそそうなんだ…」
そんな事を話しながら兎はメイトンの方を見る。
メイトンの顔がこちらに向けられている事がわかる。
ひとまず安心した。
誘導は出来たし、メイトンに時間を逆行する前の記憶は無い。
過去の記憶が残っていたら防衛省を攻撃なんかせずに直で私のマンションに来ていただろうから。
思考が冴えてきた。
フブとNo8のおかげだ。
さぁ、2回目の鬼ごっこ開始だ。




