〔第24話〕チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!!
兎はひとりを極度に怖がります。
孤独に耐えられるけど、ひとりには耐えられません。
まぁウサギですからね。
鳥も鳴き疲れた午後の昼下がり。
そいつは来た。
——————『エグい事すんなぁアンタら。うちと同類やねぇ〜。』
モニターに映るチャイナ服の女、その姿に恐怖の記憶が蘇る。
「メイトン…」
「なななな何で、ここに…」
——————「あっ、そういえば。テレビ見てみぃな。アンタの父さん殺したで。」
兎は自分のスマホを取り出してニュース一覧を確認する。
「ぼぼぼ防衛省…消失……破壊の…数々…」
一番上出てきたニュース。
出てきた情報や写真は目を疑いたくなる程、残酷だった。
転がる死体と燃える兵器、防衛省の建物はボロボロになって骨組みだけになっていた。
「ワタシの肉親は、もう…もう。アアッ…。アア゛ア゛ア゛!!!」
「兎!落ち着いて!兎!!!」
フブは目の前の現実に怯える兎を優しく介抱する。
「アア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!ワ゛タ゛シ゛の゛唯一の家族がッ!!!ワ゛タ゛シ゛の゛唯一の家族がぁぁぁぁあ!!!!!」
「兎!!!兎!!!」
頭を抱えて叫ぶ兎にフブは背中をさする事しか出来ない。
——————『キャッキャッキャッキャッ恨むなら222を恨みぃなぁ〜キャッキャッキャッキャッキャッ。』
「アア゛ア゛ア゛…ア゛…ア゛…アァ…アァ……」
「メイトンッ…!!!」
蹲る兎とは対照的にフブはメイトンに怒りを向ける。
——————『家…邪魔するデェ…』
メイトンは拳でゆっくり警備ロボを殴る。
——————ドゴォーーーーンッ!!!
——————バキャッンッ!!!
警備ロボは勢いよく吹っ飛び、兎のマンションの外壁にめり込んだ。
モニターでその様子をはっきり目に捉えたフブ。
あの時見た、コンクリート破壊は見間違いなんかじゃなかった事を知る。
「や、やっぱり…アイツはやばい…兎、行くよ!!!」
兎をお姫様、抱っこして運動場を出るフブ。
「兎!!!逃げるよ!ほら、しっかりしてぇ!!!」
焦るフブに兎は体を脱力させる。
【孤独には耐えられる。でもひとりには耐えられない。】
母が旧都市の戦争で死んだ時、悲しかった。
沢山、泣いた。
けど、お父さんが隣にいて一緒に泣いてくれた。
そして今、お父さんが死んだ。
私の隣には、もう誰も居ない。
この世界から私に対する無償の愛が消えた。
「も゛う…いい゛…も、も゛う…いい゛…」
「何゛にもぉ!良くない!!!!!」
「ア゛ァ゛…も゛ぅ…いない…も゛ぉ…いない…私゛は、ひとり゛だぁ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
お姫様抱っこされた状態で項垂れる兎にフブは自分の額を兎の額に強くぶつける。
——————ゴツンッ。
「わ゛た゛し゛が居るだろ゛こっち見ろぉ!!!!!」
「うぅ゛っ…う゛…て゛も゛ぉ、私゛は…」
お姫様抱っこされ、抱えられた兎がベソをかきながらフブに反応し、救いを求める様な目で一縷の希望を見る。
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!」
「ッ?!」
突如、発せられたフブの咆哮に動揺を隠しきれない兎。
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!」
「何゛…言って…」
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!」
「…な゛な゛な゛なななッ!?」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
轟音と共にマンションが揺れる。
メイトンが一階のロビーから鉄の扉をぶち抜いて侵入してきたのだろう。
「ななな何言って…」
「メイトンが来るッ…上に逃げるか、下へ逃げるか…それとも…」
兎の困惑を置き去りにするフブ。
兎はさっきまで泣いていた自分の瞼のふちをなぞる。
まだ、悲しみと涙が止まっていない様だ。
しかし、脳味噌にねじ込まれたチベットスナギツネがそれの邪魔をする。
冷静にチベットスナ発言について考える頭と、悲しみにくれる頭があった。
そのせいで感情がぐちゃぐちゃになり、開いた口が塞がない。
「ア゛…アァ…アッ…チ… チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ーーー!!!」
なぜかわからないけど、叫んでた。
兎の叫びに呼応する様にフブも叫ぶ。
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!」
「ア゛…アァ…アッ…チ… チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ーーー!!!」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
メイトンが下から迫ってくるのが肌で感じる。
どこかの扉を破壊するごとに、揺れと轟音がする。
肌で感じる。
揺れで感じる。
耳でも感じる。
やばいと。
それでも2人は交互に叫ぶ。
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェェエ!!」
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ーー!!!」
「兎!私達メイトンからどう逃げればいい?!」
泣きながら泣き叫ぶ兎の指が非常階段の方を指した。
「チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ーー!!!」
叫びながらジェスチャーする兎の指示に従いフブはお姫様抱っこしたまま非常階段へ走り出す。
———ガチャッ。
「次はっ!!」
「 チ゛ヘ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ーー!!!」
兎の指は上を指していた。
「まっかせぇてぇ!!」
——————タッタッタッタッタッタッタッ!
兎をお姫様抱っこしながら、5段飛ばしで階段の上を走る。
——————タッタッタッタッバキャッ!!!
屋上へ出る扉を勢いよく蹴り開けるフブ。
勢い良すぎて開いた扉が反対側に当たり反発して閉まる。
屋上に出るとフブは懐かしそうに周りを見渡した。
「私ここからロープで兎の部屋まで降りたんだった。」
「…あ゛あ゛あ゛ありがと…」
泣き終えた子供みたいに嗚咽しながら言う兎。
フブは兎の目を見て、ニンマリ笑い軽い口調で言葉を返す。
「これから寂しい想いなんかさせてやらないんだからなぁ〜!このぉ〜!!」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
揺れが大きくなり轟音も近づいてくる。
「わーーーー!!!やばいやばい!兎なんか秘密道具ないのぉ?!」
少し落ち着いてきた兎が返事する。
「…ある。」
「さっすが!じゃぁじゃぁ早くそれ使お!!」
「ででででも、時間稼ぎにしか…ならない…。じじじ時間稼ぎしてる間に逃げる…」
フブは兎を地面に降ろす。
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
「やぁーばいッ!早く教えてぇ!」
兎が広い屋上の隅に行き何かをごそごそ漁っている。
「あっ、あああった…」
「こ、これは…何…?」
「う、うううウイングスーツ…」
「何それ?!」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
奴は確実に迫ってくる。
「こここ、これ鳥みたいに…たた高いところから飛べる。」
「あっ!これ、あれじゃん!なんかツバメみたいな見た目の凄い飛びながら落ちる奴ぢゃん!!」
「いい1着に見えるけど…ふふふ2人用…だから、早く着よう…」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
「そ、そうだね!早く着よ!!」
2人はあーでもないこーでもないと言いながら説明書を読み、ウイングスーツを着る。
「やばい!!このスーツ着るの難しいぃ!!」
「むむむ難しい…」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
「やばい!!もう来る!!アイツ来る!!!」
「ややややや…」
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
——————ドゴォォォォォォォォンッ!!!
——————バキャッーーーンッ!!
フブが勢い良く開け反発で閉まっていた扉が、宙へ舞っていた。
——————『コンコンってノックするつもりやったんやけど…なんか吹っ飛んだわ〜。どっかのネジ緩んでたんとちゃうか〜?』
フブがメイトンの顔を睨みつける。
「メィトン゛!!!」
『わぁー、久しぶりやねぇ。まさかこんなところで再会するとはなぁ〜。』
「何で、!」
フブの言葉にメイトンは名探偵の様なポーズを取り、何かの説明し出す。
『いやぁ〜、“殺したい方のサキミネ”見つけんの苦労したわぁ〜。場所聞き出すの忘れてたからなぁ〜うちのおっちょこちょいさんっ!』
メイトンは2人の睨みを気にもせず話を続ける。
『うちは街に歩いてる貴重な生存者一人一人に聞いたんよぉ。サキミネの娘はどこや〜ってなぁ〜。ほんなら、皆んな簡単に教えてくれたんよぉ、アンタ偉い凄い発明家で有名なんやねぇ〜。』
そして、メイトンは2人をギラついた目と声で問う。
『ほんで、どっちがサキミネなん?…でも、なんか…アンタら…何してんの…?』
メイトンの話を途中から無視して、2人は2人用の“1着”のウイングスーツを着る。
準備ができたのでヨチヨチ屋上の隅まで歩き、落下防止の手すりの上に腰掛ける。
ウイングスーツ的にフブの膝の上に兎が座っている様な構造になる。
その姿はまるで親子ペンギンだ。
メイトンの目からは変な服を着て遊んでいる様にしか見えないだろう。
ほら、さぞ困惑している。
『あ…アンタら…頭イカれてもうたん…?』
そして、兎は冷静に言う。
「メインサーバー、各警備ロボのバックアップは?」
——————完了しております。
「わかった。じゃぁ、コイツにナノシステム。」
——————かしこまりました。
『アンタのお父さんもそれ使ってたなぁ〜。ナノシステムゥ?まぁうちには全く効かんかったけど、またやるん〜?』
——————ギィィィンッキィィィンッキィィィンッ!!!
空気が揺らぐ。
前と同じ様な空気の揺らぎにメイトンは退屈を感じていた。
しかし、今回は違う。
『ア゛ア゛ッ!!!頭が痛いィ!!!何コレェ!!うちぃ…頭痛いんやけどぉ!!!』
蹲るメイトンに屋上の隅に腰掛けた兎が言う。
「わわ私のマンションのナノシステムは…通常電力のごご50万倍…苦しめメイトン…」
メイトンは少し奇妙に笑いながら言う。
『なんでぇ…ア゛ンタの奴の方が国家のよりぃ゛ッ…』
「わわわ私がそれ作ったから…」
『でも゛ぉ…なんでぇ…そんな゛ぁ…強力な゛ぁ…』
「こここのマンションの体積85%が発電機…それが答え…」
親を殺した相手に対し、怯えを交えた冷静な態度で話す兎。
『ア゛ア゛ァ゛…頭゛ぃ゛だぃい…びざし゛ぶりぃの…い゛た゛さ゛ぁ』
兎とフブは肺に空気を目一杯吸い込みメイトンに吐き捨てる。
「しねぇ゛っ!!!」
「しねぇ゛っ!!!」
そのまま2人はメイトンに中指を立てて、屋上から飛び降りた。
メイトンは逃げられる事を察し、マンションを殴った。
——————ドォォォォオオオオオオンッ!!!!
マンションが轟音と共に崩壊し出す。
マンションの破壊によってナノシステムが解除された。
メイトンはマンションから落ちた2人に急いで駆け寄る。
しかし、崩れるマンションの屋上から2人は見えない。
『なっ!?』
ウイングスーツで飛びながら落ちる2人にメイトンは驚愕しながら、叫ぶ。
『なんやぁぁあそれぇぇえ!!!逃げてんちゃうぞぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!』
崩れゆくマンションの瓦礫を拾い、それを殴って飛ばそうとするメイトンに第二の刃が襲いかかる。
——————バゴォァォォォォォォォオオオオンッ!!!
マンションの85%の体積を占める超巨大な発電機が爆発した。
メイトンは爆発の勢いで高い上空へとぶ。
『アァァァァァァァア!うちなんでぇこんないっぱいぃ飛ばされんのぁぉぉぉ!!!!もぉ意地でも逃がさんッ!!!』
自由落下の中、逃げた2人の方向目掛けて拳を振る。
——————ブウォォォォォォォンッ!!!
ありえないほどの豪風が2人を襲う。
『なぁッ?!』
しかし、2人は豪風を利用しウイングスーツで更に遠くへ飛ぶ。
「うわぁぁぁぁあああ!」
「頑張って兎ぃぃぃぃい!!!!」
メイトンは自由落下の中、下を見る。
内部から爆発し、ゆっくり崩れるマンション。
『あぁぁぁぁあっクッソォ!!!流石にあん中に落ちんのはめんどいからなぁもぉ!!!』
体を横にずらして落下地点を近くの公園の砂場にするメイトン。
しばらくの落下が続き、まもなく着地するであろうと言う時にそれは見えた。
馬鹿みたいに大きな剣を構えた女の姿。
『カンネェェエ•ロードォォオ?!』
“何故ここに”と考える間もなく地面は近づく。
もう落下地点は変えられない。
——————ズゥッッッッッドォォォォオオオンッ!!!
カンネ•ロードは大きな剣を下から上へホームランを狙うバッターの様に振り抜いた。
その瞬間メイトンは“亜音速”を超えソニックブームを出しながら遥か彼方へふっ飛んでいった。
———『いっちょ上がりぃ。」
———『おぉ〜、流石カンネ。』
———『まぁあれだよなぁ、あんな轟音出してたらそこぉ行くよぉなぁ…』
———『そうだな…実際、なってた音の様子を見に来たからな。私達は…』
———『サキミネは見つからなかったけどよぉ、メイトンがあの様子だと、絶対ぃ生きてんだろ。』
———『それにしても…私達は2人とも方向音痴だから、メイトンより先にメモの場所に辿り着けなかったな。不甲斐ない。この土地の住所はわかりづらいからな。』
———『わッかァりやァすく書かねぇアイツが悪い。』
———『にしても、間に合ってよかった。』
———『間にッ…あった…のかァ?そんでサキミネは…どこだ…よ…』
———『………どこだろうな。』
やっと出てきましたね。
カンネ•ロード。
もう1人はカスミです。
2人ともめっちゃ強いです。
モモンガみたい…
ねぇ゛ーーー!!!
【孤独には耐えられる。でもひとりには耐えられない。】




