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周回移動都市ヴェルサイユ  作者: 犬のようなもの
《セカンドオーダー編》            [第一章]ようこそ新世界へ
23/51

〔第21話〕新世界へようこそだ〜にゃ♪

新キャラ【ドーベル•ラン】


ツグネとタフナの過去は番外編などで、もっと丁寧に書きます。なので、今回書かれている事はツグネとタフナの一部に過ぎません。

 


「戻った…」


 数日前まで戻ったことを自覚するツグネ。

 自分の体をジロジロ見た後、タフナの方を見る。


「まだ、意識は戻ってない様だな…」


 そうだ、今回はタフナの記憶も持ち越した。

 俺とタフナだけが過去の世界の記憶を持っている状態にした。

 にしても…


「もっかい、この洞窟に戻ってくるとはなぁ…」



 ——————ザーッ…。ザーッ…。ザーッ…。



 崖に打ち付ける波の音が聞こえてくる。



『わぁぁぁああああ!!!!!』


 タフナが絶叫し目を覚ます。

 目玉が飛び出そうな程目を見開き、震えるタフナ。


「大丈夫…か?」


「アッアッアッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」


 体を酷く丸め、頭を抱えてもがく。

 そんなタフナをツグネが抑える。


「待て!!ここはぁ!大丈夫だ!!安全だ!!!」


 タフナがしばらくして、我に返りツグネの方を見て涙を流す。


「うわぁぁあ!!お化けぇ!!!な、何で生きてるんですか…?!」


 まるでゴキブリが出た様な反応に少しイラつくツグネ。

 タフナをある程度まで正気に戻した後、落ち着いてツグネは言う。


「俺の…“異能”のチカラだ。」


 タフナがまだ少し混乱を抑えきれない様な表情をする。 


「…。」


 タフナは黙っている。

 自分の中で色々考えているのだろう…

 しばらく沈黙した後、ツグネに向かったタフナは言う。


「…わ、わかりません。僕、わかりません…今わかりません。」


 再び混乱するタフナにツグネがゆっくり説明を始める。


「俺の異能は“やり直し”だ。死んだらその地点から好きな過去に飛べる。」


「……そんなの、最強じゃないですか。」


 今度は疲れ切った表情で体を傾けるタフナ。

 崖から落ちた所まで時間を戻したから、体が痛むのもあるだろう。


「俺は自分の記憶と共に任意の人の記憶も過去に持ち越せる。タフナが今死んだ事を覚えている様に…」


「……なんで今まで黙ってたんですか?」


「お前が信用に()る人物か見定(みさだ)めてた。」


「……てことは、合格したんですね。僕は。」


 タフナがツグネの答えに淡々と返事する。


「今まで教えてなくて、悪かったな…」


「そんな事より……よかった。」


「ん?」


「僕達ぃ…死ななくてよかったぁ…」


 噛み締める様に言うタフナ。

 ツグネはタフナの肩に手を乗せた後、波の音が聞こえる洞窟の中で焚き火を始める。

 ポケットのライターを取り出して洞窟の奥の方にある水分の抜けた流木を取り、そこに火をつける。


「タフナ。もしかしてさ、俺らが草薙…殺さなくてもアイツが殺してたのかな…」


「…えぇ多分そうでしょうね。」


「あぁ…無駄な事やっちまったなぁ…」


 その言葉にタフナはしっかりした口調で言う。


「この世に無駄な事なんてありません…。その出来事を無駄な出来事にした当人の責任です。そして僕はこの出来事でツグネさん、貴方の異能を知ることができました。」


「…随分、元気になったじゃねぇか。」


「まだ、今も混乱してます。過去に戻ったなんて…とても信じられませんが…貴方が僕の事を信用してくれた様に、僕も貴方の事を信用してみます。」


「そうか…。案外あっさり…だな。それに、お前は強いな。」


 タフナは震えた手で自分の頬をビンタして言う。


「僕は、つ、強い。僕は、つ、強い。」


 ツグネも自分の頬をビンタして言う。


「俺は、強い。俺は、強い。」


 タフナとツグネは顔を見合わせて、静かに(うなず)く。


「よし、逃げるぞ。」

「よし、逃げますよ。」


 2人は洞窟から出て、近くの海岸まで泳ぎ乗り捨てられた車を調達する。

 そして、出来るだけ遠くへ行く。

 そう、遠くへだ。

 アイツに殺されない場所。

 アイツと出会わない場所。


 俺たちは遠くへ逃げた。


 2人は捨てられたキャンピングカーで1年暮らしその後、朽ち果てた田舎の宿を拠点にして生活の基盤(きばん)を整えていった。

 水は雨水を貯めて、食べ物は畑の後地(あとち)を再利用し、ゾンビからの防衛は大きな木の柵を建てた。

 ツグネとタフナはそれぞれ自分の能力について研究した何が出来て何が出来ないのか。

 ツグネの能力はツグネが自覚している範囲で問題はないがタフナの能力には少し捻りがあった。

 それは“能力消しの霧”だ。

 タフナの霧は異能のチカラを消すか、弱める。


 そして、この短期間で何度か“やり直し”を使わなければならないほど世界は過酷で残酷だった。

 決して簡単じゃない。

 生きている限りは街に用事もできるし、人間の襲撃もあった。


 俺達はそんな奴らに対抗する為、仲間を探し始めた。

 同じ“異能”を持つ仲間を。

 そしてある人物に出会い、異能を持つ人間を紹介するという約束でヴェルサイユの涙を依頼され、気づいたらここに居た訳だけれど…。


 ———————————————

 ————————————

 —————————

 ——————

 ———


 “異能”の事を周回移動都市は“ギア”と読んでいるらしい。

 まぁギアの方が語呂がいいし、俺もそう呼ぶとしよう。

 ギアの恐ろしさは俺らが1番よく知っている。

 草薙もそうだし…

 草薙を、倒した後の死もそうだ…

 死ぬ間際には、いつも異能が関わっていた。


 あの日の死。


 普通のやり直しではない。

 しっかり2人に恐怖が刻まれた。

 “死”

 圧倒的な強者を前に逃げ出した日。



 教会内での会議中、そんな事を1人で思い出しているツグネ。


「ツグネ、どうかしましたか?」


 エヴァンテに話しかけられてハッとする。


「…いや、何でもない。続けてくれ。」


 エヴァンテはツグネの方を心配そうに見た後、話の続きをしだす。


「連合が主戦力のメイトンを動かした…となると此方(こちら)も連合を警戒しなくてはなりません。」


 タフナが挙手(きょしゅ)してエヴァンテに質問する。


「連合…って何ですか…?」


「連合とは、生存者コミュニティが何千年もかけて大きくなった国の事です。」


 その言葉にツグネが突っ込む。


「ちょっちょっと待てよ!まだゾンビの世界になってからそんな経ってねぇよ。」


 その言葉に端っこでただ話を聞いていただけのニヴァが反応する。


「簡単な話だにゃ♪ツグネくんとタフナくんがこっちの世界に迷い込んできたって…だけにゃん♪」


「はぁ?こっちの世界って、その言い方じゃまるで…」


 ニヴァの言葉に動揺するツグネ。

 しかし、タフナは冷静な表情で“エヴァンテ”に問う。


「つまり、僕達は周回移動都市に迷い込んだ…だけじゃないんですね…」


 ニヴァがムッとした表情でタフナの方を見る。


「ちょっとぉ〜ワタシがヒントあげたんだからワタシに質問してにゃ〜」


 エヴァンテはニヴァに微笑み、貴方が説明して良いわよと言わんばりのジェスチャーをする。


「やった〜!じゃぁワタシが説明するね〜!あ、にゃ〜!」


 ツグネとタフナが胡散臭(うさんくさ)い詐欺師を見る様な目でニヴァを見る。


「1.周回移動都市は名前の通り移動する。

 2.一年で地球を一周する。

 3.三つの世界を行き来する。あ、にゃ。」


「ファンタジーだな…」

「えぇ、とても信じられませんね…」


「でも〜ぉ〜それがぁ〜ぁ〜世界ぃの〜真実だにゃ〜。」


「3つの世界ってなんなんだよ…」

「ぼ、僕も気になりますそれ。」


 ニヴァが教会の大理石で出来た大きな机の上に立ちツグネの席の前まで歩く。


「ちょっと!ニヴァ!行儀悪いですよ!!」

「ニヴァ、靴の上で机に乗るな。」

「おいおいニヴァ何やってんだよぉ。」

「…。」

「ニヴァァだけセコイぃ僕もそれやりたぁいぃー」


 セルフレリア、アネロ.ネッサ、ダーレン、虫っ子、セネカがそれぞれの反応をしている。

 ドレス•ロードは…ケモノ女に顔をスリスリしている。

 めっちゃくちゃ眠たそうだ。

 多分、あと数秒で寝るだろう。

 そして、ニヴァはそんな事お構いなしに続ける。


「一つ“旧世界”。二つ“現世界”。三つ“新世界”。それぞれが独立していて、独自の世界軸を持っている…あっ、にゃ。」


「お前もう“にゃ”使うのやめろ。」

「なんか壮大(そうだい)な話になってきましたね…」


 ツグネとタフナはそれぞれ言った。

 ニヴァはその反応を見て、楽しんでから再び説明を始める。


「“現世界”それは終わった世界。ツグネくんやタフナくんが元居(もとい)た世界だにゃ!」


「そんな軽いノリで喋る事じゃねぇだろ…」

「ぼ、僕達の世界。終わった世界だったんですね…」


「そして“旧世界”周回移動都市、私達の世界だにゃ!もぉ〜終わり超えて地獄の世界!ここは超ぉ〜やばいよぉ〜“現世界”のゾンビと違ってぇ変異種がうじゃうじゃいて普通の人間は生きていけないんだにゃあー!!」


「…てことは、今この場所は…お前達の“旧世界”に居るってことで間違いねぇのか?」


 ツグネの質問にニヴァはニヤニヤしながら答える。


「違うにゃ〜。ほら、思い出してにゃ〜♪。この都市は“移動”する。」


「分かるように言ってくれ。」


 ニヴァは教会の中に設置されている3つの大きい女神の石像指差して言った。


「今、周回移動都市がいるのが“新世界”。ようこそ新世界へ…あ、にゃ♫」


 タフナは状況を整理しながら話す。


「えーと…つまり、貴方達(あなたたち)…周回移動都市の人達は“()()()”の住人。僕とツグネさんは“()()()”の住人…そして今、この周回移動都市が居る世界が“()()()”っていう事ですか?」


 ニヴァが満遍(まんべん)の笑みで言う。


「タフナくんは呑み込み早いにゃ〜!」


「つ、つまり…この周回移動都市は“三つの世界”を行き来出来るんですね。」


「タフニャくんは超頭いいにゃ〜!」


「はぁ…めちゃくちゃファンタジーになってきましたね…ツグネさん…」


「あぁ、そうだな。もう俺はハナシ半分わかってねぇよ…」


 ニヴァが一通り暴れ回った後、席に戻る。

 それを見計らいエヴァンテが話し出した。


「説明ありがとうございます。ニヴァ。」


「どういたしましてぇ〜にゃぁ〜。」


「ドレス。連合列車が今どう言う状況なのか教えてくれますか?」


 ドレス•ロードは居眠りしていた。

 ケモノ女に起こされている。

 そして、ケモノ女から状況を耳打ちされ、ようやく話し出した。


「連合列車は今、大阪に停まってる。()()()()ひとりを大阪に降ろす為に停まってる。私は連合列車のエンジンを切り刻んだ。1週間ぐらいは修理で動かないはず…。」


 エヴァンテが少し呆れた様な表情で言う。


「貴方…休暇の為にそこまでしなくても…私に言ってくだされば、連合との協議の(すえ)列車を停めてもらうことも出来たのに…」


「でも、連合は都市の敵。とにかく…連合は周回移動都市と222(セカンドオーダー)の衝突を“望んでいる”。」


 ドレス•ロードからの言葉に皆は黙る。

 エヴァンテはドレス•ロードに向かってひとり会話を続ける。


「そうですね…私達が共倒れで弱まれば、連合は“攻めやすい”ですからね…」


「本当、嫌な奴ら…」


 その会話にツグネとタフナはついていけない。


「ちょっと待て、待て!タンマタンマ!連合はメイトンという戦力をさいて222(セカンドオーダー)の調査に乗り移ったんだろ?なら何故、俺達はここで集まって、だべってんだ?」


 ツグネの疑問にエヴァンテが答える。


「周回移動都市側もロードの名の者を3人、六防も4隊。相当数の人員をさいて調査しています。」


(六防…?まぁなんかあれだろ精鋭部隊とかいうやつか?まぁ何でもいい今は…)


「その調査って何してんだ…?俺らはどうやって222(セカンドオーダー)っていう、バケモンに対抗したらいいんだ…?」


「対抗の仕方は(いた)って簡単です。私達は“サキミネ”を探して、見つけてここへ来させればいいだけです。」


「…人の名前で合ってるんだよな“サキミネ”ってのは?」


「えぇ。その通りです。」


「そいつがめちゃくちゃ強い…のか?」


 ツグネの頭の中には、あの日みた“黒いローブ”の男や、カンナ•ロードが浮かぶ。


「正直に申し上げると分かりません。ただ、この都市の意志ヴェルサイユの指示なので間違いないかと…」


「ヴェルサイユの指示か…。もしかして、俺をここに(おび)き寄せたのも…そいつの指示か?」


「半分正解ですね。」


「半分…?まぁいい。“サキミネ”を探すヒントはあるんだろうな?」


「いいえ、全く御座いません。」


清々(すがすが)しいなぁぁあ!!!」


 するとエヴァンテに1人のシスターが耳打ちする。


「そろそろお開きにしましょう。私はこれから都市の協議に参加しなければなりません。」


 エヴァンテが立ち上がると、近くで待機していたシスターがそそくさと後ろにつき取り巻きになる。


「ツグネさん今日は教会に泊まっていってくださいまし。では、また明日会いましょう。」



 ——————バタンッ。



「嵐の様に、さって行ったね…エヴァンテいっつも忙しそぉ…」


 セネカが引き気味に言った。



 ——————パンッ。



 ニヴァが手を叩いてツグネとタフナの視線を集めた。


「とにかく!(こま)かい事は置いておいて!!!!私達は“サキミネ”探しを頑張るの!でも連合から攻められない様に防衛もキッチリしなければならない。そして……もっとも私が言いたい事……それは……」


 ニヴァが再び机の上によじ登り手を大きく広げて言った。



「新世界へようこそだ〜にゃ!」





「にゃは飽きた。なんかお前のにゃはウザイ。」

「そうですね。ツグネさん、ニヴァのにゃんなんか…もう、ウザくなってきましたね…」

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