母さんの置手紙
放課後、相変わらずユウカさんはさっさと帰宅するが、母さんが化けているとかどうでもいいレベルでヤコがイライラしているので一緒に帰る。
「サワ兄、あいつのことどう思ってるの?」
「ん? ユウカさんのこと?」
「ユウカ『さん』とか言わないで呼び捨てにするのよ」
「お、おう……」
「で、どう思ってるのよ」
「いや……えーと……ユウカはただの転校生かな?」
「……なんか、その呼び方の腹立つわね」
「どーすりゃいいんだよ」
「やっぱり『さん』づけして。その方が距離感があっていいわ」
ヤコとは兄妹でずっと一緒だから何を考えているのかはだいたいわかっていたが、ユウカさんが転校してきてから訳が分からなくなってきた。あいつも母さんが化けていると思っているはずだが……。
「なぁ、ユウカさんて、やっぱり母さんが化けてるのかな?」
「そんなことは絶対ないわ」
「そ、そうか……けど、似すぎていない?」
「うん……そこだけは……化けているとしか思えない」
ヤコが立ち止まる。
「どうした?」
「サワ兄、本当に母さんが化けていたら、あたしにあんなことすると思う?」
「あんなことって……弁当のあれ?」
彼女の顔がみるみる赤くなっていく。あの時のクラスの空気感はとんでもなかった。だから、俺はヤコの手を掴んでそのまま教室から連れ出して、あまり人のこない校舎裏のベンチまで連れて行って落ち着かせた。
「普通に考えると、あんなことしないよね」
「うん……だから、母さんじゃないと思う。けど、どう見ても母さんなの」
「だよね……」
「サワ兄は、昨日母さんに聞いたんだよね?」
「……お前……やっぱり気にしているのか?」
「ううん、ずっと前に聞いたことがあるの」
「え?」
「だって、いろいろおかしいもん……そこに、母さんと瓜二つの転校生が来て、めちゃくちゃにしているのよ」
「……」
「やっぱり……今晩、二人で母さんに聞いてみるよ」
「何を?」
「『ユウカって転校生のことを知っているか?』と聞く」
「よかった……父さんのことを聞くのかと思ったわ」
「聞きたいけど、聞かないようにするよ。母さんは『もうすぐわかる』と『あなたたちに説明する』って言ってたからね」
「え!? 母さんがそんなこと言ってたの?」
「なんだ、お前それは知らなかったのか?」
「私が聞いた時は『ヤコちゃんにはまだ早い』ってはぐらされたの」
「……それ……めっちゃ意味深だな」
「うん……だから……昨日はごめん」
「いいよ、ヤコが家族思いなのが分かったから。痛かったけど」
ヤコはうれしくなったのか抱き着いてきたので、「人前でやめろ」と引きはがしたが……こいつは、小学生の頃からずっとこれだ。かわいい妹で困る。
帰宅すると、テーブルの上に母さんの置手紙と夕飯があった。
俺もヤコも置手紙に一瞬身構えてしまったが、「今日は、久しぶりに友人に会うので、作ってあるごはんを温めて食べておいてください」と書いてあったので、ほんの少しだけ安心した。かつ、母さん手作りのうまそうなハンバーグステーキのプレートがたまらん。
「サワ兄、母さんの交友関係って……知ってる?」
「いや……ご近所にいる宇宙人さんくらいしか知らないよ」
「そうよね……宇宙人さんのところに行ってるのかしら?」
「いや、あの人は、母さんの肉じゃがを食べに来るだけだから……別の人?」
「も、もしかして……」
「父さん?」
こればっかりは考えても仕方がないのと、ヤコと俺で父さんのことについては、母さんが説明するまでは考えないことにして夕食を二人で食べる。いつも母さんが、俺達がうまそうに夕食を食べる時の、あの笑顔がここにないのが寂しい。とは言え、うますぎる。母さんがいたら「おいしいよ、ありがとう」と言って二人で食べるんだがなぁ……。
「サワ兄……あたし、今気が付いたの」
ヤコは、ハンバーグをオッサンみたいに頬張りながらしゃべるもんだから、聞き取りにくい。
「どうしたの?」
「母さん……そう言えば、私たちが食事をしているときに、いつも笑顔で私たちを見ている」
「そんなの今頃気が付いたの?」
「ちがうわ……母さんが食事をしているところを……あまり見た事がないのに気が付いたの」
「え? た、たしかに……あら? 母さん、いつ食べてるんだ?」
「あたしたちが食べ終わるまで、いつも話をしたりするけど、決まって水を飲みながらしゃべっているだけよね」
「う、うん。数年前に一緒に食べた事はあったけど……それ以降は……食べてないよね」
「そうなのよ……」




