他人の空似
ユウカさんとの同居が始まって一か月ほど経過。最初は慣れない感じだったが、だいぶ落ち着いてきた。というのも、ユウカさんは外では積極的になるが、自宅にいる間はヤコよりおとなしい。また、俺がリビングでくつろいでいても、迫ってくるなどはなく、むしろヤコと女子トークをしているほどだ。
だから、余計に外に出た時のギャップがすごいので……も、もしかして意図的にギャップ萌えを作っているのか?
そんなある日、夕食後に期末テストに向けて勉強をしていると、ユウカさんが珍しく声をかけてきた。
「サワ、質問したいのだが、今いいか?」
「いいよ、どうしたの?」
「この質問へは答えなくてもいいのを、先に言っておくぞ」
「?」
「お前たちの父親はいるのか?」
「あ……」
「すまない、つい、気になってしまってな」
「母さんに以前聞いたんだけど、はぐらかされて……ヤコは俺がそれを聞いたのを知って激怒してぶたれたよ」
「フフ……ヤコさんさすがだな」
「まぁ、ヤコの意図も分かるけど。そんな感じで、幼少のころから母さんとヤコの三人だったよ」
「悪かった」
「ユウカさんのご両親は、仕事で忙しいの?」
「ま、まぁ……そんなところだ」
「父親がいるというのはどんな感じ?」
「親が二人いるという感じだな」
「……」
「……」
二人で噴き出してしまった。全然答えになっていないけど、確かにそうだ。母さんが二人いるようなものか……って、ユウカさん、母さんにそっくりだから……。
「ユウカさん、俺から質問してもいい?」
「ん? いいぞ。どうした?」
「この質問へは答えなくてもいいのを、先に言っておくね」
またユウカさんが笑う。かわいいけど……この質問はダメかな?
「母さんにそっくりなんだけど……なんで?」
「……」
ユウカさんが黙ってしまった。
「ごめん……」
「いや、いい。もっと早くその質問が来ると思っていたんだ」
「そうなの?」
「ああ、どう見てもそっくりだろ?」
「う、うん。転校してきたとき、母さんが化けているとヤコと言ってたくらい」
「フフフ、ズバリと言おう。驚くなよ」
「……」
「他人の空似だ」
ユウカさんのドヤ顔で「他人の空似だ」とか言うが、自分で言ってて笑っているから、妙にポンコツなドヤ顔になってて笑ってしまう。
結局二人で爆笑して「答えになっていない」と「答えたぞ」の応酬で盛り上がってしまった。
「あらあら、リビングがにぎやかだから来てみたけど、お二人さん楽しそうね」
母さんがやってきたが……やっぱりどう見てもそっくりだ。
「母さん、ユウカさんに『母さんに似ているのはなぜ?』と聞いてたところなんだ」
「まぁ、私も知りたいわ。ユウカさん、どうして私とそっくりなの?」
ユウカさんは意表を突かれたのか、普段と全く見せない顔をした。
「オー……奥さん」
彼女はなぜか奥さんとか訳の分からないことを言い出す。これがまた面白い。
「はいはい、奥さんは私ですね。どうしました?」
「いや……その質問がこちらに向けられるとは思いもしなかった」
「ふふ、こうやって同じ見た目に見える二人がいるのは面白いですね」
「で、母さんとユウカさんが似ている理由は?」
俺が早く答えてと催促すると、母さんもオウム返しでユウカさんに「ユウカさんと似ている理由は?」と聞く。
「他人の空似だ」
絶好のタイミングでオチをつけるユウカさん。全員で笑いこけた。
一通り笑った後に、ユウカさんが真面目な顔になって、母さんに質問を投げつけた。
「ママン、サワとヤコさんが父親について知りたいと言っているぞ」
母さんは彼女を見て頷いた。
「サワ君、知りたいのは分かっているわ。小さいころにほんの少しだけ一緒にいたことがあるんだけど、覚えている? 昔のことを思い出してみて」
小さいころ……いや、記憶にないが……。
「それって俺が何歳の頃?」
「1歳くらいの頃よ」
「一番古い記憶でも3歳くらいの時の事しか覚えてないよ」
母さんが自然な感じでユウカさんを見て「そう……まだ早かったようね」と言った。確かに……「早かった」と言った。どういう意味だ?
「母さん、『早かった』てどういう意味?」
「フフ、もうすぐ分かるの。そのために今確認したのよ」
「それって、俺が思い出すという事?」
「そうよ。今は完全に忘れていると思うの。けど、絶対忘れないほど強烈だから、思い出すのを待っているの」
「なんで、そんなの分かるの?」
「母親だからよ。私の大切なサワ君とヤコちゃん。あなたたちの成長は手に取るように分かるの。もうすぐ……あと少しだけ我慢して」
「母さんを悲しませたくないから我慢はするけど……ヒントない?」
なぜかユウカさんがズッコケている。
「ヒントね……あなたの父さんは、ここ、アリスト3のナムバ出身よ」
「ナムバ……隣町じゃん」
「そう、休日にでも行ってくると思い出すかもしれないわ。今度、ユウカさんと行ってらっしゃい」
「うん、ナムバといっても広いけどどのあたりなの?」
「エリホ地区よ」
「エリホなんだ……分かった、次の休みの日にでも行ってくるよ」




