新生活スタート
「皆さん、おはようございます」
朝、母さんが全員の朝食を並べ、揃った三人に対して改めて挨拶をした。ユウカさんがいるから、いつもと全く違う雰囲気だ。
「昨日の晩から、ユウカさんがこの家で一緒に暮らし始めました。改めて、今日から新しい一日が始まります。この一年で皆18歳になる大切な時期です。成績も進路も恋愛も、いろいろ気になるところはあると思うけど、気を引き締めて後悔のない一年にしてくださいね」
母さんは、三人の顔を順番に見ながら少し厳しめの顔をした。ヤコはずっとユウカさんを睨みつけている。
「母さんが可能な限りフォローするけど、気になる事とかあったらいつでも相談してね。分かった?」
「母さん」
「ヤコちゃん、どうしたの?」
「あたしたちはしっかりやるけど……」
「ユウカさんもしっかりやると昨晩、私のところに来て言ってくれたわ」
「……そうなの」
「心配しないで、母さんが目を光らせてるわ」
「……」
ヤコの顔は『サワ兄はどう思っているの?』と言いたげな顔をしている。俺のかわいい妹を悲しませるわけにはいかない。とは言え、ユウカさんは俺たち二人を見ているが……美人すぎてやべー。母さんと違った雰囲気で、同じ顔なのにこんなに感じ方が違うとか聞いてないよ。
「サワ兄、学校に行くわよ」
ユウカさんが鞄を取りに行っている間に、ヤコが俺の鞄を持って無理やり連れだそうとする。
「ユウカさんがまだだよ」
「……」
無言で俺を引きずっていくヤコを見て、母さんは微笑みながら「行ってらっしゃい」と俺たちを送り出した。
「そんなにユウカさんが気になるのね」
「い、いや……なんか、これだとカドが立つよ」
「もうすでに立ってるわよ」
そうかもしけないけど、一緒に住んでいて置き去りにして出てくるなんて……。と思ったが、あまり気にする必要はなかった。
「サワ、ヤコさん、出発前にモタモタしてて悪かった」
猛烈な勢いで走ってきたユウカさんが、大人な発言をするのでヤコがちょっとバグってて面白い。
「え? いや、その……」
「明日からは、ちゃんと皆で登校できるように段取りをしておくよ」
うーん、これはユウカさんの勝ちだな。
「サワ、明日は私がエスコートするから、今日はヤコさんを楽しんでおけ」
「ち、ちょっと! 何明日の予約をしているのよ」
「ふふ、家ではおとなしくしているが、外では別だ。とは言え、取りあいをしていたら、つまらないところで差が開いたように感じてしまう。こういう日常は、それぞれが半分ずつ分担しておいて、いざという時まで趨勢が分からないようにするのが基本だぞ」
「何を言ってるのか分からないわよ!」
「登校の時に、どっちがサワと一緒になるかで揉めていると遅刻するから、一日おきに交代する。こうすると遅刻しないということだ」
ユウカさんのドヤ顔と、ヤコのキツネにつままれたような顔が面白い。とりあえず、明日からそうするみたいだけど……俺は普通に登校することができるのだろうか?
この日以降、登校はユウカさんが決めた50%ルールが適用された。もちろんヤコは初日は憮然としていたが、それ以降は堂々とできるからか、毎回ヤコはユウカさんにマウントを取るような感じになる。対するユウカさんは、大人の女性みたいな雰囲気を醸し出しながら、さりげなく手を取ったりこちらが気が付かない服やネクタイのズレを正したりする。これがまたなんだか気分が良い。ヤコは、毎回遅れをとってしまう自分を隠すかのように、次の日はMAXベタベタで妹パワーをいかんなく発揮する。
クラスメイトもこれに気が付き始めたので、「またあの兄妹」ではなく「あの三人がまたなんかやってる」という感じになり、友人のフタマルが茶化してくる。
「相変わらず面白いっすね」
「フタマル、何とかしてくれ」
「無理っすね。ユウカさんが最初からロックオンしてたのが原因だと思うので、自分で何とかした方がいいっすよ」
「……」
「ヤコちゃん昔から知ってますけど、多分、頭の中は『サワ兄サワ兄サワ兄サワ兄』になっているから、そのうち爆発するかも」
「もう自宅で何度も爆発してるよ」
「やっぱり」
フタマルは他人事100%なのでゲラゲラ笑う。この前の金属バットのことを話すと、息ができないくらいに笑っていた。しかも「面白いからこのままずっとこのままでいて」とか言い出す始末だ。クラスの男子はだいたいこんな感じなので、どうしようもない。困ったもんだ。




