118年ぶりの自分の部屋
懐かしい。この部屋は、かつて私が暮らしていた部屋だ。118年ぶりだが、全く変わっていない。私は戦艦金剛で、オーメに抱かれながら死んだ。あの死の直前、里帰り休暇でここで寝た。ママンとパパンの笑顔を忘れたことはないし、なんなら三途の川でも会った。
本当に不思議だが、死後の世界では後悔とかそんな気持ちがほとんどなくて、ただ幸せな気分でずっと満たされていた。だから、三途の川の畔でママンとパパンがやってきた時「私たちは先に行ってるから、気が向いたら来るのよ」とだけ言って行ってしまった。あの時、私は何も思わなかった。
しかし、ユウカとして転生してここに来たらどうだ?
喪失感、懐かしさ、人間としての感情のコントラストが、死後の世界とは比較にならん。だから、玄関を見て涙が出てしまったし、オーメが作ってくれた金剛カレーでも涙が出た。不思議だ……。もう二度とここに戻ってくることはないと思っていた……この家は残っていたんだ。
今、私は女子高生で軍人ではない。前世でやれなかったことを再度ここでやることができる。戦艦金剛の初代艦長として、宇宙を飛び回って訓練に勤しんでいた、あの生活リズムがまだ記憶に新しい。しかし、そんなものから完全に解放された。このスローライフを楽しまねば……もちろん、サワを何としてでも私のものにするために転生してきたのだ。だからと言って、実家の自分の部屋にサワを連れ込んで、奪ってしまうとかそんな気にはならない。
ヤコさんも昔と変わらずライバルだ。あの二人は、まだ記憶を取り戻していないからややこしい。はやく私に気がついてほしいものだ。
私は、昨日より落ち着いて、かつての自分の部屋を楽しんだ。昨日は、118年ぶりで感情が忙しかった。しかし、今日は落ち着いている。あれからこの屋敷がどうなったのかを、探索するのも悪くない。まずは手始めに……ここだ。
ユウカは、自分の部屋のクローゼットの奥にある隠し扉を開いた。この家は、防犯も兼ね備えた構造になっており、彼女が前世で住んでいた時には、軍の防犯チーム所属の19型アンドロイドが、隠し扉の奥にある防犯区画を巡回していた。万が一侵入者がやってきた場合に、防犯チームが家族全員を安全な場所へ連れ去り、侵入者を見えない場所から襲って鎮圧するようになっている。
彼女は、118年間使用されていなかった防犯区画を見て回り、オーメの自室へ入っていった。
「ユウカ大佐……いや、ユウカさん、お待ちしていましたよ」
「なんだ、来るのが分かっていたのか?」
「私は19型アンドロイドですよ、センサーでこの屋敷の半径200mに何がいるかはすべて把握しています」
「そうだったな……私を貫いたあれは把握できなかったようだが」
「あれはスピードがありすぎました」
「そうか」
二人だけの深夜の女子会が始まった。ユウカは、前世で軍用アンドロイドのモデルとなった。それが19型アンドロメイド、別名YUKA型アンドロイドで、サワとヤコの母を演じているのが、オーメと名付けられた特別な個体だ。
彼女らの因縁は、118年前から続いている。
「ちょっと聞きたいことがあってな」
「どうしたんですか?」
「サワとヤコは、18歳から20歳で記憶を取り戻すと言っていたが、その兆候を感じることはあるか?」
「サワ……あるじが、私の過去について聞き始めているので、その兆候は、ほんの少しだけあります。ヤコさんにはまだそれがありません」
「そうか。毎回こんな感じなのか?」
「前回の人生では、このようなことはありませんでした」
「……たしか、前回が転生の1回目だよな」
「はい」
「今回は、2回目になるが違うのか……」
ユウカは、サワとヤコの記憶の発現が違うことに「なぜだ?」という顔をしているが、すべてを理解しているオーメは噴き出しそうな顔をしている。
「どうかしたのか?」
「ユウカ大佐が転生してきたからですよ」
「あ!」
「あなたが転校してきてから、いろいろ思うところがあったようです。この二人が、瓜二つだから無理もないと思いますよ?」
「そ、そうだったな……まだ『似ている』とか言っているのか?」
「いえ、言わなくなりました。多分……彼らの表情から計算すると、怖いんだと思います」
「怖いのか……なぜだ?」
「もう……大佐、高校生の思考になってください」
「??」
「高校生が『母親が203mm砲で宇宙戦艦を撃沈させた』とか『銀河系外のNGC5694へ行って帰ってきた』とか言ったらどうなりますか?」
「フフ……たしかに、頭がおかしくなるな」
「もう、ユウカ大佐のせいで、二人の記憶取戻しがややこしくなりました」
「すまん。どうしたらいい?」
オーメは分からないというジェスチャーをした。
「お前もすっかり人間になったな」
「はい、あるじやヤコさんと人間トレーニングをしました。もちろん、ユウカ大佐の死も、人間になるための大きな学習データとなりました」
「オーメ……その本人を目の前にして『死が学習データになった』とか言うな」
「あなたの死を、無駄にはしなかったということですよ」
ユウカはフフと笑った後、現役時代の顔になった。
「そうか、よくやった」




