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今日からよろしく。母さん何者?

 俺は茫然として、WASSPから出て自宅に向かった。小さいころから一緒に遊んでいたWASSPは、全部知っていた……というより、あの優しい母さんが、異星人の宇宙戦艦を10分で……異星人とは言え、殺人者。

 意味が分からない。母さんはやっぱり何者なんだろう。

「ちょっと! なんであんたがここにいるのよ!!」

 玄関を開けると、ヤコの声が聞こえてきた。目の前には、いつもの怒髪天なヤコと、リュックを背負ったユウカさんがいて、母さんがなだめている。

「ヤコちゃん、私がユウカさんに提案したの」

 正体不明の母さんと、まったく同じ見た目のユウカさん……ユウカさんも……何者なんだ?

「サワ、ヤコさんには伝わっていなかったのか?」

「え?」

「ほら、今日から一緒に暮らすと……」

 戸惑ったユウカさんが上目遣いで俺を見る。

「そ、そうだった……ヤコに言うの忘れてた」

 母さんの過去でショックを受けていたが、それどころではない。

「サワ兄! 昨日だけじゃなかったの!?」

「ヤ、ヤコ。母さんが提案したのは本当だ」

「だからって『一緒に暮らす』って意味わかんないわよ!」

「ユウカさんのご両親が、出張で不在で一人だからだよ」

「そんなの一人で暮らせばいいじゃないのよ」

「そうかもしれないけど、俺みたいな男じゃなくてユウカさんは女だろ?」

「サワ兄は、ユウカさんの肩を持つのね」

「ち、違うけど……」

「だったら、なんでユウカさんが黙っているのよ、その説明はサワ兄がするもんじゃないでしょ」

 ユウカさんが、俺の肩に手を置いて小さく「すまない」と言ってから、ヤコに説明を始めた。それは、同級生がするような説明ではなく、大人の女性が子供に分かりやすく言い聞かせるような静かな説明だった。

「ヤコさん、突然のことですまなかった。学校で私から言っていればよかった。すまない。許してくれ」

 筋の通った説明だったので、ヤコは何も言わない……いや、言えないのだろう。

「ヤコちゃん、あなたの心配は分かるわ。私がしっかりコントロールをするから安心して」

「……母さんがそう言うなら。サワ兄はあたしのなんだからね」

「分かってますよ。ユウカさんも分かっていると思うし、サワ君も男性としてしっかりと我慢するのよ」

「うん……母さん、これとは別だけど、後でいくつか聞きたいことがあるけどいい?」

「サワ君いいわよ、なんでも答えてあげるから……落ち着いて、安心してね」

「ありがとう」

 突然の俺の申し出に、ヤコとユウカさんが顔を白黒させていた。


 夕食の肉じゃがはおいしかったけど、宇宙人さんと一緒に食べないのはなんか味気ない。とは言え、宇宙人さんと母さんの関係はどうなっているんだろうか? 皆殺しにした側の人とお付き合いをするとか……いや、この後聞くからいい。

 リビングに俺と母さんだけになったので、意を決して聞いてみる。

「母さん……聞いていい?」

「ええ、あなたからの質問を待っていたわ」

 母さんのいつもの優しい顔。この顔を見ていると安心する……あれは……嘘と言ってくれ。

「WASSPに今日いろいろ聞いたんだ」

「はい、WASSPから聞いてますよ」

「え? いつの間に?」

「ふふ、私の戦功と203mm砲を見たのね」

「うん……母さんは、WASSPと同じ型の宇宙戦艦を10分で沈めたと聞いたよ」

「ええ、そうよ。手ごわい相手で、こちらも損害が出たわ」

「ええ?」

「あの時、戦艦金剛はWASSPと同型の個体からの先制攻撃を受けたの」

「その時に……この家に住んでいた大切な人が負傷して亡くなったの」

「……」

「母さんが、その人を抱きかかえて医療チームに引き渡した時、再度攻撃を受けたの。だから、あの203mm砲で反撃したのよ」

「か、母さんの手の中でその人が死んだの?」

「ええ。その人は、最後に様々なことを私に託してくれたわ」

 母さんは、表情一つ変えず俺を真正面から見たまま淡々と答えた。

 壮絶すぎて……ごめん。余計なことを聞いてしまった。

「そうそう、サワ君が気にしているのは、敵の宇宙戦艦よね?」

「うん」

「あれは、のちの調査で判明して無人だったの。だから、母さんが誰かを殺したとかはしていないわ」

「ほ、本当に無人だったの?」

「ええ、宇宙人さんと一緒に調査したのよ。300万年間待機していたものが動き出した。だから、内部は空気も抜けていたしそんなところに誰かがいるはずはないわ」

「そうなんだ。宇宙人さんは……何者なの?」

「これが可笑しくてね。WASSPと同型の宇宙戦艦を修理していたら帰れなくなったから、冷凍睡眠していた人なの」

「え?」

 な、なんか一気に宇宙人さんがポンコツになってきたんだけど……。

「で、母さんたちのチームが宇宙人さんを目覚めさせる仕事をして、彼が目覚めたら300万年後だった。当時のチームは『生まれ故郷に送ってあげよう』となって、NGC5694までWASSPに乗って行ってきたのよ」

「あのWASSPと!?」

「そうよ、で、宇宙人さんは300万年ぶりに戻ったら、もう誰もいない。なので、チームのリーダー格の人がね『一緒に働こう』って提案をして、それで同僚になったのよ」

「で、でも……なんで、ここにいるの?」

「職場はウォルフ424という場所にあるけど、彼はNGC5694との貿易を担当していて、ずっとリモートで働いているの。母さんがこの家に来るときに、たまたま隣の家が空いていたのでそこに住んでいるだけよ」

「そうなんだ……」

「たまにWASSPの調子を見てもらったりもしているわ」

「あの人は……WASSPのことなんでも分かるの?」

「ええ、冷凍睡眠前は修理工として働いていたからね」

 良かった……母さんは殺人者ではなかった。宇宙人さんも……ちょっとポンコツだけど闇があるような人じゃなかった。どこまで信じていいか分からないけど、これまで母さんが嘘をついたことはないから信じる……疑ったらとんでもないものが出てきそうなので、心の準備ができたら少しずつ聞いていくようにしよう。そうじゃないと……やっぱり怖いな。

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