ユウカ来訪
翌日、二人とも前夜の話に圧倒されたまま、魂が抜けたような感じで学校に行く。母さんはいつもの通りで、なんの変化もない。ポーカーフェイスかと思ったが、母さんにとっては自分の人生を語っただけなのだろう。頭で分かってはいるが……。
「サワ、またすごいクマだぞ」
ユウカさんが、寝不足の俺の顔を見てまた心配してくれる。ヤコはこの言葉に以前の様な反応をせず、ボーっと俺とユウカさんを見ている。
「ヤコさんも大丈夫か? 何かあったなら相談に乗るぞ」
「い、いや……ユウカさん、それはいいよ」
慌ててその申し出を断る。ただでさえ母さんと見た目が一緒なのに、ここでまた変なことが起きると大変だ。
この日からしばらくは、俺もヤコも気が抜けたようになり、ユウカさんもなぜかおとなしかったので、特に目立つことは無かった。しかし、中間テストの初日が終わったときに彼女が動き出した。
「サワ、明日のテストだが、ちょっと教えてほしいんだ」
「明日の数学ですか?」
「そうだ、すまないが、お前の家に行ってもいいか?」
「え?」
「学校は午後には全員追い出されるだろ? 私の部屋に来いと言うとおかしくなるから、お前の家に行ってみたい」
俺はヤコを見るが、この状況を理解していないのか何の反応もない。俺自身も、勉強をしたいと言っている同級生の申し出を断るような気持ちがなかったので、そのままOKしてしまった。
これが後になって大問題となってしまった。
「サワとヤコさんの家はここなのか……」
ユウカさんは、じっと俺の家の玄関の扉を見ている。この地区は、一つの家の区画がかなり大きい。アリスト3が開拓されたときの分譲地だったらしく、ここに住んでいる人は、開拓されたころからの由緒正しい人たちが多く住んでいる。母さんが昨日言っていたことで考えると、前のオーナーはそういう高貴な人たちだったのかもしれない。
「そうだよ、どうかした?」
「いや……なんでもない」
ユウカさんは、そっけない返答をして俺から見えないように顔をそむけたが……あの手の動きは……涙でも拭っているのか?
「ちょっと、なんでユウカさんがここにいるのよ」
ヤコがやっと我に戻ったのか、いつもの感じになった。
「明日のテスト勉強をしたくてな……ヤコさんは、かなり成績がいいと聞いているので助けてほしい」
「い、いきなり何を……」
ユウカさんの真剣なまなざしを見たヤコは、そこで言葉を飲み込んだ。
「……いいわ、一緒に勉強しましょう」
「ありがとう……」
ほんの少しだけユウカさんの目に涙が見える。ヤコはこの目を見たから態度が変わったのだろうか。なんで泣いてるんだ?
「ユウカさん、どうかしました?」
なんか、変な確認になってしまう。
「サワ、少しだけ昔のことを思い出しただけなんだ。気にしないでくれ」
この話題はなんかヤベーので、それ以上は何も言わずに家に入る。
「おかえりなさい。あら、今日はお友達がいるのね」
母さんは、自分と瓜二つのユウカさんを見ても動じずに、普通に接している。なんというか……自分の容姿と同じ人間と相対して、平静を装っていられるとかすげぇな。やっぱり元軍人だからなのか?
それと、ユウカさんも全く動じていない。この二人は……本当に赤の他人なのか?
「こんにちは、サワ君とヤコさんの同級生のユウカと申します」
「ユウカさんね、この子たちから聞いているわ。いらっしゃい。今日はどういう要件なの?」
「明日の中間テストの勉強のために、無理を言ってやってきました」
「そうなの……サワくん、ヤコちゃん立派ね。お友達と一緒に勉強をしていい成績を目指してね」
母さんは普段の通りのやり取りでユウカさんを受け入れた。そのままリビングに移動をし、三人で勉強を始める。彼女は転校してきてすぐなので、テスト範囲の学習もしっかりできているかどうかわからない。そこは、俺とヤコでフォローしながら模擬問題を解いていく。
母さんは、邪魔にならないように茶菓子を置いて、そのままソファに座ってこちらを温かい目で見ている。ふと、日常のほのぼのなのだが、母さんの手前にユウカさんが座って勉強しているその姿は……ドッペルゲンガーがいるように見えて一瞬怖かった。




