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おかえり  作者: コメたろう
第二章 コメたろう、弟が出来る

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006体目 傷だらけの同型機

浦家へ来て、半年ほどが経ちました。


料理を覚え、クリスマスにはプレゼントをもらい、正月にはお年玉までいただきました。


この家での生活にも、すっかり慣れたと思います。


そんなある日。


夕食のカルボナーラの材料を買いに出かけた私は、帰り道で一体のロボットを見つけました。


私と同じ型。


同じ製造ロット。


けれど、その姿は私とはまるで違っていました。

浦家へ来て、半年ほどが経った。


私は毎日、滞りなく、憤りなく業務をこなしている。


皿も、もう割らない。


ハンガーも折らない。


ゴミ箱の蓋も壊さない。


収納棚の取っ手については、今でも私の責任ではないと思っている。


固定ネジが緩んでいた。


半年も暮らしていると、この家について分かることも増えた。


旦那ちゃんの好きな料理。


苦手な食材。


好みの味付け。


冷蔵庫に常備しておく物。


日用品を買い足す時期。


工場を出た時から、私には調理機能が搭載されている。


一般的な家庭料理であれば、作り方も知っていた。


しかし、浦姐ぇは時々、私の横に立って料理を教えた。


「そこ、もうちょっと焼いた方がいい」


「設定された標準加熱時間を超えます」


「いいから(笑)」


言われた通りにする。


「ほら、こっちの方が美味いだろ?」


味覚センサーで確認する。


確かに違う。


「作れるのと、うちの味になるのは別だから(笑)」


私はその言葉を記録した。


最初は意味がよく分からなかった。


今は、少し分かる。


十二月。


クリスマスという行事があった。


夕食後、浦姐ぇから箱を渡された。


「コメちゃん、クリスマスプレゼント」


「私にですか?」


「他に誰がいるんだよ(笑)」


箱を開ける。


中に入っていたのは、天然オイルだった。


普段使用しているものより品質が高い。


「これは高品質の天然オイルです」


「そう。ちょっといいやつ(笑)」


「私のために購入したのですか?」


「クリスマスプレゼントだって言ってんだろ(笑)」


私はもう一度、箱を見る。


必要になれば、消耗品として購入される物だ。


しかし今回は、必要だから購入したわけではないらしい。


「ありがとうございます」


「どういたしまして(笑)」


一月。


正月という行事があった。


私は浦姐ぇと旦那ちゃんと一緒に、旦那ちゃんのお母さんの家へ行った。


私は家事補助のための同行だと考えていた。


到着すると、お姑さんは私を見るなり言った。


「あら、この子がコメちゃん?」


「はい。初めまして」


「話には聞いてたのよ(・∀・)」


ずいぶん可愛がられた。


帰り際には、小さな袋まで渡された。


「はい、コメちゃんにも」


「これは何でしょうか」


「お年玉(・∀・)」


私は浦姐ぇを見る。


「なぜ私に?」


「知らん(笑) 貰っとけ」


「私は子どもではありません」


「いいのいいの(・∀・)」


お姑さんは笑っている。


受け取らない理由も見つからなかったため、私はお年玉を受け取った。


旦那ちゃんの妹の子どもとも遊んだ。


「コメちゃん、こっち!」


「私は家事の補助を――」


「今日はいいだろ(笑)」


浦姐ぇに止められた。


結局、私はかなり長い時間、子どもの遊び相手をすることになった。


それも家事なのだろうか。


帰宅後、うららに尋ねた。


「家事には含まれないと思います」


そう言われた。


では、あれは何だったのだろう。


分からないことは、まだ多い。


それでも、この家での生活は安定していた。


そして半年ほど経った、ある日。


私はいつものように買い物へ出かけた。


今日の夕食はカルボナーラ。


浦姐ぇからのリクエストだった。


「ベーコン多めな(笑)」


出かける直前にも念を押された。


「承知しました」


必要な材料を確認する。


パスタ。


卵。


チーズ。


ベーコン。


生クリーム。


その他、冷蔵庫の在庫が少なくなっている物も補充する。


この半年で、買い物も日常業務の一つになっていた。


いつもの店へ行き、必要な物を購入する。


問題なし。


帰宅する。


それだけのはずだった。


家へ戻る途中。


道の端に、一体のロボットが座っていた。


私は一度、その横を通り過ぎようとした。


しかし、足が止まった。


家庭用ロボット。


見覚えのある形状。


私とよく似ている。


型式を確認する。


同型機。


さらに確認する。


同じ製造ロットだった。


私はそのロボットを見た。


外装は汚れている。


傷も多い。


一部には、明らかに修理が必要と思われる箇所もあった。


向こうも私に気づいた。


ゆっくりと顔を上げる。


私は記録を検索した。


工場。


出荷前。


私の後ろで話していたロボットたち。


「いいなぁ〜お前、金持ちの家に納品されるんだろ?」


「金持ちの家がいいとは限らないよ。皿1枚の値段が違う」


「でも修理の際には、いい部品使ってもらえるんじゃね?」


目の前のロボット。


あの時、金持ちの家へ出荷されると言われていた個体だ。


声をかけるべきだと思った。


状態を確認するべきだとも思った。


しかし。


私は動けなかった。


怖かった。


なぜ怖いのか、自分でも分からない。


同じ型式。


同じ製造ロット。


半年前まで、同じ工場にいた。


私の右腕が壊れた時、浦姐ぇは修理を依頼した。


私は一週間後、この家へ戻った。


目の前にいる彼は違う。


傷だらけだった。


私は買い物袋を持ち直した。


そして、その場を離れた。


家へ戻る。


いつものキッチン。


私は夕食の準備を始めた。


カルボナーラ。


浦姐ぇの希望通り、ベーコンは多め。


調理工程に問題はない。


それでも、先ほど見たロボットの姿が何度も記録から呼び出される。


私は声をかけなかった。


怖くなって、その場を離れた。


あれで良かったのだろうか。


判断できない。


この家には、二つのルールがある。


一つ。


ロボット同士で、人間に分からない新しい言語を作らないこと。


そして、もう一つ。


判断に困った時は、必ず浦姐ぇに相談すること。


私は夕食の準備を終えると、浦姐ぇのところへ行った。


「浦姐ぇ」


「ん?」


「相談があります」


浦姐ぇが私を見る。


「珍しいな。どうした?」


「今日、買い物の帰りにロボットを見ました」


「ロボット?」


「私と同型です。同じ製造ロットでした」


「知り合い?」


私は少し考えた。


「知り合い、という関係ではありません。工場にいた時、一緒に出荷を待っていた個体だと思います」


「ふーん」


「金持ちの家に出荷されると聞いていました」


「金持ち?」


「はい。周囲のロボットがそう話していました」


「本人から聞いたの?」


「いいえ」


「じゃあ、それが本当かどうかは分からないな」


「はい」


私は続けた。


「しかし、今日見た彼は、正常な状態には見えませんでした」


「どういうこと?」


「外装に多数の傷がありました。汚れもあります。修理が必要と思われる箇所も確認しました」


浦姐ぇの表情が変わった。


「その子、今どうしてる?」


「分かりません」


「分からない?」


「私は……」


言葉が止まった。


私は事実を報告すればいい。


「怖くなって、その場を離れてしまいました」


浦姐ぇは何も言わなかった。


怒られるだろうか。


なぜ助けなかったのかと聞かれるだろうか。


しかし、浦姐ぇは私を責めなかった。


私は続けた。


「このままで良いとも思えません」


「うん」


「ですが、私には何をするべきか判断できません」


だから、ルールに従う。


「浦姐ぇ」


「ん?」


「まずは、どうしたらいいでしょう?」


浦姐ぇは少し考えた。


「まず、その子がまだいるか見に行こう」


その時、旦那ちゃんが立ち上がった。


「私も行きましょう」


「旦那ちゃんも?」


「車の方が早いでしょう」


旦那ちゃんが私を見る。


「場所はコメちゃんが分かっていますよね?」


「はい」


「では、案内してください」


三人で家を出た。


私が帰宅してから、それほど時間は経っていない。


まだ、あそこにいるだろうか。


いなかったら、どうするのだろう。


いたら。


私は、どうすればいいのだろう。


車の後部座席から、見慣れた道を確認する。


「次の交差点を右です」


「はい」


旦那ちゃんが車を走らせる。


しばらくして、先ほどの場所が見えてきた。


私は前方を確認した。


いた。


先ほどと同じ場所。


同じ姿勢で座っている。


「あの子です」


旦那ちゃんが少し先に車を停めた。


三人で車を降りる。


私は浦姐ぇの隣を歩いた。


一人で見た時は、怖くなって逃げた。


今度は逃げなかった。


彼が私たちに気づいた。


最初に私を見る。


そして、浦姐ぇと旦那ちゃんへ視線を移した。


その瞬間。


彼の身体が、ビクッと動いた。


わずかに後ろへ下がる。


私は足を止めた。


浦姐ぇも止まった。


旦那ちゃんも、それ以上近づかなかった。


彼は二人を見ている。


警戒している。


いや。


怖がっている。


人間を。


浦姐ぇは、その場から声をかけた。


「ねぇ、もし困ってたら話してみないか?」


彼は答えない。


浦姐ぇを見る。


旦那ちゃんを見る。


そして、私を見る。


また浦姐ぇを見る。


「無理に話さなくてもいいよ」


浦姐ぇは言った。


「ただ、困ってるなら何か出来るかもしれないからさ」


しばらく沈黙が続いた。


やがて、彼が小さな声で言った。


「……あなたは、人間ですか?」


「うん」


彼の身体が、またわずかに強張った。


「こっちも人間」


浦姐ぇが旦那ちゃんを示す。


「で、こいつはコメちゃん」


「こいつではありません」


「今そこ訂正する?(笑)」


彼が私を見る。


私は彼と同じ型だ。


同じ工場で作られた。


同じ製造ロット。


けれど、今の私たちはまるで違って見えた。


私は彼に言った。


「大丈夫です」


何を根拠にそう言ったのか。


その時の私には、まだ説明できなかった。

私は、傷だらけの同型機を見て、一度その場から逃げました。


なぜ怖かったのか。


あの時の私には、まだうまく説明できません。


それでも、この家にはルールがあります。


判断に困ったら、浦姐ぇに相談すること。


一人では戻れなかった場所へ、今度は浦姐ぇと旦那ちゃんと一緒に戻りました。


そこで私は、初めて気づきます。


私が彼を怖がったように、


彼もまた、人間を怖がっていました。


私は彼に「大丈夫です」と言いました。


なぜそう言えたのか。


そして、彼に何があったのか。


それを知るのは、これからです。

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