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おかえり  作者: コメたろう
第一章 コメたろう、家族になる

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004体目 返品伝票と家族

この家に来てから、私は毎日のように何かを壊しました。


同じ失敗は繰り返していません。


毎日、違うものを壊しただけです。


そして一週間ほど経った頃。


とうとう、壊れたのは私自身でした。


その時、私の手元には一枚の伝票がありました。


「返品伝票」と書かれた紙でした。

皿を割った翌日。


私は同じ失敗を繰り返さないため、食器を扱う際の動作を修正した。


指の圧力。


持ち上げる角度。


移動速度。


棚へ収納する際の動作。


すべて調整した。


これで、もう皿を落とすことはない。


実際、その日は一枚も皿を割らなかった。


代わりに、洗濯物を干す時にハンガーを折った。


「……」


私は折れたハンガーを見た。


「コメちゃん?」


浦姐ぇが来た。


「ハンガーを破損しました」


「見れば分かる(笑)」


「強度に対して、力が強すぎたようです」


「まあ百均のだし、いいよ(笑)」


「次回から把持圧を調整します」


「うん。頼む(笑)」


私は設定を修正した。


翌日。


ハンガーは一本も折らなかった。


代わりに、掃除中にゴミ箱の蓋を壊した。


「……」


「今度は何?」


「ゴミ箱の蓋です」


「今日はそこかwww」


開閉機構に必要以上の力を加えたことが原因だった。


私は設定を修正した。


翌日。


ゴミ箱は無事だった。


ハンガーも無事。


皿も無事。


その代わり、冷蔵庫の棚を外そうとして固定部品を折った。


「コメちゃん」


「はい」


「毎日なんか壊してない?」


「同一の失敗は繰り返していません」


「毎日違うもん壊してんじゃねえかwww」


「原因はすべて異なります」


「威張るなwww」


威張ったつもりはない。


私は事実を報告しただけだ。


しかし、浦姐ぇの指摘にも一理ある。


私は家庭用ロボットとして、この家に来た。


家事を補助するために作られた。


それなのに、毎日この家の何かを一つずつ破損させている。


私は自己診断を実行した。


駆動系、正常。


視覚系、正常。


触覚系、正常。


出力制御、正常。


異常なし。


では、なぜ壊すのだろう。


工場では問題なく動作していた。


しかし、人間の家にある物は、工場の試験用機材とは違う。


軽い物。


薄い物。


古い物。


少し傷んでいる物。


想定より簡単に外れる物。


力を入れてはいけない物。


私はそのたびに記録した。


この皿には、この程度の力。


このハンガーには、この程度。


このゴミ箱の蓋は、ここを押す。


この棚は、先に固定具を外す。


少しずつ、この家の物の扱い方を覚えていった。


そして浦姐ぇも、少しずつ変わった。


最初は、


「大丈夫?」


だった。


次は、


「何壊した?」


になった。


その次には、


「今日は何だ?(笑)」


になった。


ある日、うららが私の作業を見ながら言った。


「コメちゃん、今日はまだ何も壊していませんね」


「はい」


時刻を確認する。


午後三時二十二分。


「現時点では、破損物はありません」


「おお!」


浦姐ぇが喜んだ。


なぜ家庭用ロボットが物を壊していないだけで褒められるのだろう。


「このまま今日は無傷でいけるか?(笑)」


「努力します」


その日の夕方。


収納棚の取っ手が外れた。


私は取っ手を持ったまま停止した。


浦姐ぇを見る。


浦姐ぇも私を見る。


「……」


「……」


「これは私の力による破損ではない可能性があります」


「言い訳覚えたwww」


「事実です。固定ネジが緩んでいました」


「はいはい(笑)」


納得していないようだった。


私は少し不満を感じた。


不満。


これも、この家へ来てから認識するようになった反応の一つだった。


翌朝。


この家へ来てから、そろそろ一週間になる。


私は朝食の準備をしていた。


今日こそ、一日何も壊さずに仕事を終える。


そう考えていた。


食器を並べる。


問題なし。


飲み物を用意する。


問題なし。


調理を始める。


問題なし。


「おはよー」


浦姐ぇが起きてきた。


「おはようございます」


私は振り返った。


その瞬間。


右腕が止まった。


「……?」


動作指令を送る。


反応しない。


もう一度。


わずかに動いた。


しかし途中で止まる。


「コメちゃん?」


「少々お待ちください」


自己診断を実行する。


駆動系。


異常。


右腕制御部。


エラー。


再起動。


右腕が数センチ動いた。


再び停止。


「……故障した可能性があります」


浦姐ぇが私の右腕を見る。


「今度は自分か」


「その表現は正確です」


「正確じゃなくていいから(笑)」


私は左腕を動かした。


正常。


「左腕は使用できます。作業を継続します」


「しなくていい」


「掃除、洗濯、簡単な調理であれば左腕だけでも――」


「座ってろ」


「しかし」


「座ってろ(笑)」


私は座った。


非常に落ち着かない。


浦姐ぇがメーカーへ連絡した。


症状。


エラーコード。


購入日。


使用期間。


いくつかの確認が行われた。


初期不良の可能性が高いらしい。


購入直後のため、保証対象。


メーカー側は、点検のため一度私を引き取ると説明した。


その日の午後。


回収用の梱包材と書類が届いた。


私は書類を確認した。


修理受付。


回収。


交換。


返品。


そして、一枚の伝票。


返品伝票。


私はそれを手に取った。


返品。


購入した商品を販売元へ返すこと。


必要に応じて返金、または新品との交換が行われる。


合理的な制度だ。


私は自分の右腕を見る。


動かない。


この一週間で、私は毎日のように何かを壊した。


皿。


ハンガー。


ゴミ箱。


冷蔵庫の棚。


そして今度は、自分が壊れた。


家庭用ロボットとして考えれば、正常な新品へ交換する方が合理的だろう。


私は返品伝票を持ったまま立っていた。


そこへ浦姐ぇが来た。


私を見る。


私の手元を見る。


「コメちゃん、何持ってんの?」


「返品伝票です」


浦姐ぇの表情が変わった。


「何でそんなもん持ってんの?」


「メーカーから送付されました」


「それは見れば分かる」


「私を返品する場合に使用します」


浦姐ぇが黙った。


私は続けた。


「新品との交換も可能です」


「……は?」


「同型機であれば、私と同等の家事機能を有しています。また、新品であれば現在の故障もありません」


「コメちゃん」


「はい」


「返品されるつもりなの?」


私は質問の意味を考えた。


「その方が合理的である可能性があります」


浦姐ぇの眉が動いた。


「私はこの一週間で複数の物品を破損しています」


「知ってるよ」


「皿、ハンガー、ゴミ箱、冷蔵庫の棚――」


「一覧にすんなwww」


「さらに初期不良が発生しました」


私は返品伝票を見る。


「交換した方が、この家にとって損失が少ないと考えられます」


浦姐ぇは私の手から伝票を取った。


そして、その紙を見た。


「返品・交換だと?」


私は浦姐ぇを見る。


「冗談じゃない!」


声が大きくなった。


私は停止した。


「来て一週間とはいえ、コメはうちの家族だぞ?」


家族。


その言葉は知っている。


工場にいた時から、知識として持っていた。


血縁。


婚姻。


同じ家で生活する人々。


親。


子。


兄弟。


配偶者。


私は、そのどれにも該当しない。


「私は家庭用ロボットです」


「知ってる」


「浦姐ぇが購入した製品です」


「それも知ってる」


「新品に交換すれば、正常な家庭用ロボットを――」


「同じじゃない」


「同型機です」


「同じ型でも、コメちゃんじゃないだろ?」


私は答えられなかった。


同じ型式。


同じ機能。


同じ基本データ。


それでも違う。


その意味が分からない。


浦姐ぇは端末を手に取った。


メーカーへ連絡する。


「返品もしません。交換もしません」


少し間を置いた。


「この子を修理してください」


交換なら、すぐに正常な新品を用意できる。


修理には時間がかかる可能性がある。


メーカー側がそう説明した。


「構いません」


「浦姐ぇ」


「何?」


「交換の方が早く正常な家庭用ロボットを使用できます」


「いらない」


「なぜですか?」


「コメちゃんがいるから」


答えになっているようで、答えになっていない。


「でも私は故障しています」


「だから直してもらうんだろ?」


「これからも物を破損する可能性があります」


「それは困る(笑)」


困るらしい。


「ですが――」


「それと交換するのは別の話」


メーカーとの連絡が終わった。


浦姐ぇが端末を置く。


返品伝票は、テーブルの上に置かれている。


私はそれを見た。


「浦姐ぇ」


「ん?」


「家族とは何ですか?」


浦姐ぇは少し考えた。


「難しいこと聞くなぁ(笑)」


「私は一般的な家族の定義には該当しません」


「そんなもん知らん(笑)」


「では、なぜ私を家族だと言ったのですか?」


浦姐ぇは私を見る。


「一緒に暮らしてるから?」


疑問形だった。


「それだけですか?」


「名前も付けたし」


思い切りダサい名前だが。


「毎日なんか壊すし」


それは家族の条件ではないと思う。


「それに」


浦姐ぇは言った。


「もうコメちゃんじゃなきゃ嫌だから」


私は返答できなかった。


同じ型では駄目。


新品でも駄目。


正常に動く別の個体でも駄目。


私でなければ駄目。


数日前。


私は皿を割った。


浦姐ぇは、皿より私が壊れる方が面倒臭いと言った。


今日。


本当に私が壊れた。


それでも、壊れた私を新しいものに交換するのではなく、


私を直すと言った。


そして、


家族だと言った。


私は「家族」という単語を検索した。


表示された説明は、工場にいた時と何も変わっていない。


けれど、その説明だけでは足りない気がした。


私は右腕を見る。


動かない。


家庭用ロボットとしては不完全な状態だ。


それでも、この家から追い出されることはないらしい。


テーブルの上には、使われることのなくなった返品伝票がある。


私はこの家へ届いた時、シリアル番号しか持っていなかった。


名前をもらった。


コメたろう。


思い切りダサい名前。


そして今度は、


家族というものまで増えた。


それが何なのかは、


まだ、よく分からなかった。

こうして私は、返品されずに済みました。


理由は、まだよく分かりません。


同じ型の新品でも駄目。


正常に動く別の個体でも駄目。


浦姐ぇが必要としていたのは、「家庭用ロボット」ではなく「コメたろう」だったようです。


そして私は、この日初めて「家族」と呼ばれました。


名前をもらった時と同じです。


意味はまだ、よく分かりません。


でも――


悪くないと思いました。


さて。


返品されないことは決まりました。


次は、壊れた私を直さなければなりません。


初めて家を離れることになりました。


今度は、箱に入れられる理由が少し違います。

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