031体目 ワシの味方はおらんのか!
裁判は、いつの間にか世間の話題へ。
新聞には、いろいろな立場からの意見が並び始めました。
当然、金造と同じ考えの人だっているはず。
いるよね?
金造、一生懸命探します。(´・ω・`)
数日後。
成田家の居間。
金造は新聞を読んでいた。
大村先生からは、新聞を読むなとは言われていない。
電話もしていない。
誰にも会いに行っていない。
取材にも答えていない。
ただ新聞を読んでいるだけである。
完璧だった。
「…………」
しかし。
金造の機嫌は、完璧ではなかった。
社会面には、家庭用アンドロイドについての記事が載っていた。
裁判そのものだけではない。
家庭用アンドロイドと暮らす人。
メーカー。
法律の専門家。
さまざまな立場から、この問題を取り上げている。
金造は新聞をめくった。
「…………」
戻した。
もう一度読む。
「高橋」
「はい」
「この記事を読んだか」
「拝見いたしました」
「どう思う」
「どの部分についてでしょうか」
「全部じゃ!」
高橋は新聞を見る。
「家庭用アンドロイドをどのように位置づけるべきか、さまざまな意見が掲載されておりますね」
「そうじゃない!」
「では、どの部分でしょうか」
金造は記事を指で叩いた。
「なんでワシの味方がおらんのじゃ!」
「いらっしゃいますが」
「どこに!」
高橋が記事の一部を指した。
「こちらに」
金造が顔を近づける。
そこには、家庭用アンドロイドは購入者の所有物であり、所有権を過度に制限すべきではないという意見が紹介されていた。
「ほれ!」
金造の顔が明るくなる。
「おるじゃないか!」
「はい」
「この人は分かっとる!」
「左様でございますか」
「当たり前じゃ! 金を出して買った物なんだから!」
高橋は黙っている。
「なんじゃ」
「何でもございません」
金造は上機嫌で記事を読み進めた。
しかし、その表情が徐々に曇っていく。
「…………」
別の意見が載っていた。
アンドロイド雇用機会均等法によって、雇用されるアンドロイドには一定の安全や待遇、自らの意思に関する権利が認められている。
一方で、個人が購入し家庭内で使用するアンドロイドについては、法整備が追いついていない。
その空白を、今回の裁判が問う可能性がある。
「なんじゃこれは」
「専門家の見解でございますね」
「雇われとるロボットの話じゃろ?」
「そのように書かれております」
「だったらワシには関係ない!」
「その違いが今回の争点になる可能性がある、とも書かれております」
「ワシは雇っとらん!」
「存じております」
「買ったんじゃ!」
「存じております」
「だったらワシのモンじゃろ!」
高橋が少し考える。
「それを現在、裁判所に判断していただいているところかと」
「お前まで大村先生みたいなことを言うな!」
「大村先生から、そのように伺っておりますので」
金造は新聞を置いた。
「まったく……」
しばらくすると、また手に取る。
別の記事には、家庭用アンドロイドの所有者への取材が載っていた。
『購入したのは確かですが、物として考えたことはありません』
金造の眉が動く。
『家族というのとも少し違います。でも、一緒に暮らしている相手です』
「相手?」
さらに読む。
『名前をつけています。名前で呼ぶと振り向きますし、嫌なことをされたら嫌だと言います』
金造が新聞から顔を上げた。
「高橋」
「はい」
「ロボットは嫌だと言うのか?」
「そのようですね」
「ワシのは言わんかったぞ」
高橋は少し黙った。
「言えなかったのではないでしょうか」
「なんでじゃ」
「旦那様がお怒りになるからでは」
「…………」
金造は高橋を見る。
高橋も金造を見る。
「ワシはそんなに怒らん」
「左様でございますか」
「なんじゃ、その顔は!」
「生まれつきでございます」
「またそれか!」
金造は新聞に戻った。
今度は、別の家庭の話だった。
『失敗すれば注意しますし、叱ることもあります。ただ、叩いたり、充電を取り上げたりはしません』
金造の手が止まる。
「…………」
読む。
『人間でもアンドロイドでも、何が悪かったのか説明しなければ分からないと思うので』
金造は黙った。
高橋は何も言わない。
しばらくして、金造が口を開いた。
「高橋」
「はい」
「ワシは説明しとったぞ」
「どのようにでしょうか」
「悪いことをしたら、悪いと言った」
「具体的には?」
「…………」
金造が考える。
「鯉に金魚の餌をやった時とか」
「違いを教えていらっしゃいましたか」
「口を見れば分かるじゃろ!」
「…………」
「なんじゃ!」
「何でもございません」
新聞をめくる。
今度は、読者から寄せられた意見だった。
アンドロイドに人間と同じ権利を与えることへの懸念。
所有者の権利とのバランス。
事故が起きた場合の責任。
メーカーの責任。
そして。
アンドロイド自身の意思を、どこまで尊重するべきなのか。
「ほら見ろ!」
金造が一つの記事を指した。
「この人も言っとる!」
「何と?」
「『人間と同じ権利を与えるのは慎重であるべきだ』!」
「はい」
「ワシの味方じゃ!」
高橋が記事を読む。
「続きがございます」
「ん?」
金造が続きを読む。
『ただし、権利を人間と完全に同一にするかという問題と、虐待的な扱いから保護するかという問題は分けて考える必要がある』
「…………」
金造が新聞を閉じた。
「味方じゃなかった」
「そのようでございますね」
「なんでじゃ!」
「私にお尋ねになられましても」
金造は腕を組んだ。
「おかしい」
「何がでしょうか」
「ワシは金を払った」
「はい」
「ちゃんとした店で買った」
「はい」
「盗んだわけでもない」
「はい」
「それなのに、なんでワシがこんなに言われなきゃならんのじゃ」
高橋はしばらく答えなかった。
「旦那様」
「なんじゃ」
「購入されたこと自体を問題にされているわけではないのでは」
「じゃあ何が問題なんじゃ」
高橋は新聞を見る。
そこには、ムギじろうの言葉が載っていた。
帰りたくない。
怖いから。
「購入された後のことではないでしょうか」
金造は黙った。
「…………」
高橋はそれ以上言わなかった。
金造は、もう一度新聞を開く。
読む。
また閉じる。
「……高橋」
「はい」
「お前はワシの味方だな?」
「旦那様の味方でございます」
金造の表情が少し緩んだ。
「そうか」
「はい」
「だったら、この裁判はワシが正しいと思うな?」
「それは裁判所がお決めになることかと」
「お前はどっちの味方なんだ!」
「旦那様の味方でございます」
「だったら!」
高橋は静かに答えた。
「ですので、旦那様に不利になるようなことは、申し上げなければなりません」
「…………」
「大村先生も、同じではないでしょうか」
金造は黙った。
少しして。
「……大村先生もワシの味方か?」
「代理人でいらっしゃいますので」
「そうか」
「はい」
「でも、すぐ怒るぞ」
「旦那様が言いつけをお守りになれば、怒られないかと」
「…………」
金造は考えた。
「ワシ、昨日は何もしてないぞ」
「存じております」
「今日も何もしてない」
「はい」
「偉いだろ」
「その調子でお願いいたします」
金造は満足そうに頷いた。
そして新聞を畳む。
「しかしなぁ」
「はい」
「世の中、もう少しワシの味方がおってもいいと思うんじゃが」
高橋は答えなかった。
「高橋」
「はい」
「ワシの味方はおらんのか!」
「おります」
「誰じゃ!」
「私と大村先生が」
金造が黙った。
「…………」
少しして。
「二人だけか?」
「少なくとも、お二人は確実かと」
金造は新聞を見た。
そして、ぼそりと言った。
「……少ないな」
高橋は何も言わなかった。
ただ。
ほんの少しだけ、笑った。
金造、一生懸命探しました。
「この人はワシの味方じゃ!」
……と思ったら、続きを読むと違いました。
ようやく見つけたと思ったら、やっぱり違いました。
そんな金造にも、確実な味方が二人。
高橋と大村先生。
ただし。
味方だからといって、何でも「旦那様が正しい」と言ってくれるわけではありません。
むしろ味方だからこそ、都合の悪いことも言う。
金造には、まだそこが少し難しいようです。
そして何より。
新聞を読んだだけ。
電話してない。
出かけてない。
警察も来てない。
金造、二日連続で何もしてません!
成長した!(∩´∀`)∩ワーイ
……基準が低い。(´・ω・`)
では、次回。
スルメ食う?




