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おかえり  作者: コメたろう
第三章 ぼくは、ここにいたい

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30/34

030体目 今度こそ何もしません!

昨日、警察署で大村先生と固く約束した金造。


勝手なことはしない。


相手方には近づかない。


取材にも答えない。


今度こそ、本当に何もしません。


たぶん。


きっと。


お願いだから何もしないで。(´・ω・`)

翌朝。


成田家の居間は、妙に静かだった。


金造はソファに座っている。


高橋は少し離れたところに立っている。


テーブルの上には新聞。


電話。


そして、金造。


高橋は時計を見た。


それから金造を見る。


金造は動かない。


五分。


十分。


十五分。


「高橋」


「はい」


「ワシは何もしてないな?」


「はい」


「新聞社にも電話してない」


「はい」


「浦さんのところにも行ってない」


「はい」


「誰にも余計なことを話してない」


「はい」


金造は胸を張った。


「完璧じゃ」


「まだ朝でございます」


「なんじゃ、その言い方は!」


「昨日も、午前中は完璧でございましたので」


「昨日の話はもういい!」


「承知いたしました」


金造は新聞を手に取った。


そして、すぐに置いた。


「読まんぞ」


「左様でございますか」


「読んだら腹が立つからな」


「賢明かと存じます」


「ワシは学習する男じゃ」


「左様でございますか」


「なんじゃ、その言い方は!」


高橋は答えなかった。


金造は腕を組む。


「先生も心配しすぎなんじゃ」


「そうでしょうか」


「ワシだって、一度言われれば分かる」


高橋が金造を見る。


「二度でございます」


「細かい!」


「昨日の朝と、警察署で」


「回数の問題じゃない!」


「左様でございますか」


金造は不満そうに鼻を鳴らした。


その時。


電話が鳴った。


金造の身体が反応する。


高橋も反応する。


二人同時に電話を見る。


プルルルル。


「…………」


プルルルル。


金造が手を伸ばした。


高橋も一歩動いた。


二人の視線が合う。


「なんじゃ」


「いえ」


「電話じゃぞ」


「存じております」


「出るぞ?」


「どうぞ」


金造が受話器を取った。


「はい、成田ですが」


『突然のお電話、失礼いたします。私、――新聞の者ですが』


金造の動きが止まった。


高橋の目が細くなる。


『現在争われている家庭用アンドロイドの裁判について、成田さんにお話を――』


ガチャン。


金造は電話を切った。


高橋が目を見開いた。


「…………」


「…………」


二人で受話器を見る。


金造が、ゆっくり高橋を見る。


「切ったぞ」


「はい」


「ワシ、何も喋ってないぞ」


「はい」


「先生の言いつけを守ったぞ!」


「お見事でございます」


「そうじゃろ!」


金造は嬉しそうだった。


「今度こそ何もしません!」


高橋は静かに頭を下げた。


「そのお言葉、ぜひ継続していただければと存じます」


「任せろ!」


昨日、警察署から帰ってきた男とは思えないほどの自信だった。


その日の午後。


大村法律事務所。


「……で、本当に切ったんですね?」


『切りました!』


電話の向こうで、金造が得意げに答える。


「何も話していない?」


『何も!』


「相手が新聞社だと名乗ったところで?」


『ガチャンです!』


大村先生は、しばらく黙った。


『先生?』


「……ありがとうございます」


『ほら! ワシだってやればできるんですよ!』


「はい」


『もっと褒めてもいいんですよ?』


「成田さん」


『はい!』


「電話に出ただけで褒められる状況を、まず疑問に思ってください」


『?』


大村先生は眼鏡を外しかけた。


途中で思い直して戻した。


「とにかく、その対応で結構です」


『はい!』


「今後、取材の申し込みがあっても、ご自分では答えないでください」


『分かっとります!』


「相手方にも連絡しない」


『しません!』


「ご自宅にも行かない」


『行きません!』


「裁判について、SNSなどに書き込むこともしない」


『えすえぬ……なんです?』


「分からないのであれば、今はそのままでいてください」


『はい!』


大村先生は小さく息を吐いた。


「それから、昨日の件についてです」


電話の向こうが静かになる。


『……はい』


「先方が、今後の裁判で触れてくる可能性はあります」


『なんでですか!』


「裁判中の相手方の自宅へ、直接出向いたからです」


『でも昨日のことは裁判とは別だって先生が――』


「警察の手続と民事裁判は別だと申し上げたんです」


『同じじゃないですか!』


「違います」


『難しいなぁ……』


「ですから、勝手なことをしないでくださいと言っているんです」


『はい……』


大村先生は机の上の資料を見る。


そこには、これまでの裁判記録が並んでいた。


杖。


池。


充電。


メンテナンス。


置き去り。


そして、本人尋問。


金造自身が語った言葉。


ムギじろうが語った言葉。


その上に、昨日の出来事まで加わった。


「成田さん」


『はい』


「これから先は、今まで以上に慎重に行動してください」


『分かりました』


「この裁判は、もうあなたとムギじろうさんだけの話ではなくなりつつあります」


『どういうことです?』


「新聞報道が続いています。世間の関心が高まっています」


『ワシ、有名になったんですか?』


「そこを喜ばないでください」


『はい』


「家庭用アンドロイドを、単なる所有物として扱っていいのか」


大村先生は資料をめくる。


「その問題そのものが、注目され始めています」


『でもワシが買ったんですよ?』


大村先生の手が止まった。


『金を払って』


「……はい」


『だからワシのモンでしょう?』


「成田さん」


『はい』


「その話を、今まさに裁判で争っているんです」


『そうでした』


大村先生は眼鏡を外した。


やはり眉間を押さえた。


『先生?』


「なんでもありません」


『また眉間ですか?』


大村先生の手が止まる。


「なぜ分かったんですか」


『昨日から何回もやっとるでしょう』


「…………」


『先生も身体には気をつけた方がいいですよ』


大村先生は天井を見た。


「ありがとうございます」


『いえいえ』


なぜ自分が、この人に健康を気遣われているのだろう。


大村先生は考えるのをやめた。


「とにかく」


『はい』


「何もしないでください」


『任せてください!』


今度こそ。


金造は自信満々に答えた。


『今度こそ何もしません!』


大村先生は、その言葉を信じることにした。


少なくとも。


今日一日くらいは。

新聞社から電話。


名乗られた瞬間、


ガチャン。


金造、できました。


何も喋ってません。


浦家にも行ってません。


警察も来てません。


素晴らしい。


……電話一本切っただけで、ここまで褒めてもらえる依頼人も珍しい気がします。(´・ω・`)


そして、ついに金造から大村先生への気遣いまで。


「先生も身体には気をつけた方がいいですよ」


その眉間の原因、おそらくあなたです。


とはいえ今度こそ、


「何もしません!」


大村先生も信じることにしました。


少なくとも、今日一日くらいは。


では、次回。


スルメ食う?

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