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おかえり  作者: コメたろう
第三章 ぼくは、ここにいたい

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029体目 先生、ワシを見捨てないで下さい!

大村先生から、


「次はありません」


とまで言われていた金造。


その日のうちに警察署で、大村先生と再会することになりました。


先生。


予想以上に早かったです。(´・ω・`)

大村先生が警察署に到着したのは、高橋から電話を受けてからしばらく後のことだった。


受付で用件を告げ、案内された先へ向かう。


そこには。


「先生!」


金造がいた。


大村先生の姿を見つけた瞬間、椅子から立ち上がる。


「先生! 来てくれたんですか!」


「……来ました」


「よかったぁ……」


心の底から安心した顔だった。


その横には高橋もいる。


大村先生は高橋を見る。


高橋は静かに頭を下げた。


「申し訳ございません」


「いえ。高橋さんのせいではありません」


「先生!」


金造が割って入る。


「ワシも悪くないんです!」


大村先生は金造を見た。


「成田さん」


「はい!」


「まず、警察の方から事情は伺いました」


「なら分かるでしょう!」


「何がですか」


「ワシはロボットを返してもらいに行っただけなんです!」


大村先生が眼鏡を外した。


眉間を押さえる。


高橋が少し視線を落とした。


「成田さん」


「はい」


「今朝、私は何と申し上げましたか」


「…………」


「覚えていらっしゃいますか」


「覚えとります」


「では、言ってみてください」


金造は少し考えた。


「新聞社に電話するな」


「はい」


「取材に勝手に答えるな」


「はい」


「浦さんに連絡するな」


「はい」


「何かする前に先生に相談しろ」


「はい」


「それから……」


金造が黙る。


大村先生が待つ。


高橋も待つ。


「…………」


「成田さん」


「はい」


「訪問しないでください、とも申し上げましたね?」


「…………はい」


「なぜ行ったんですか」


「話せば分かると思ったんです」


「誰と誰がですか」


「ワシと浦さんが」


「裁判中の相手方と?」


「はい」


「私に相談せず?」


「はい……」


大村先生は眼鏡をかけ直した。


「しかも、先方から帰ってほしいと言われたにもかかわらず、敷地内に居続けた」


「いや、あれは――」


「インターホンも何度も押した」


「話が途中だったからです!」


「ムギじろうさんに向かって声をかけた」


「おるのが分かったからです!」


「成田さん」


「はい」


「今、ご自分で全部おっしゃいましたよ」


「…………」


金造は黙った。


大村先生は警察官へ向き直る。


「ご迷惑をおかけしました」


「いえ。こちらとしても事情の確認が必要でしたので」


警察官は金造を見る。


「成田さん。今回はまず、相手方のご自宅には近づかないようにしてください」


「でもワシのロボットが――」


「成田さん」


大村先生の声が飛んだ。


「……はい」


「返事だけしてください」


「はい……」


警察官が続ける。


「今後については、弁護士さんを通してください」


「……はい」


「今日はお帰りいただいて結構です」


金造の顔が一気に明るくなった。


「帰っていいんですか!」


「はい」


「捕まらんのですか!」


「今日は事情を伺ったものです」


「よかったぁぁぁ……」


金造は胸を撫で下ろした。


そして、すぐに大村先生を見る。


「先生!」


「はい」


「ワシ、この歳で牢屋に入るのはイヤなんじゃぁァァァァァァ!」


「入りません」


「本当ですか!」


「少なくとも、今ここでそのような話にはなっていません」


「よかったぁ……」


大村先生は深く息を吐いた。


「ただし」


金造の動きが止まる。


「今回のことと、現在進行中の民事裁判は別の問題です」


「別?」


「ムギじろうさんを巡る裁判は民事です。今日、警察が来たこととは分けて考えてください」


「じゃあ裁判で負けても牢屋には?」


「入りません」


「よかった!」


「そこだけ元気にならないでください」


「はい」


大村先生は金造をまっすぐ見た。


「成田さん」


「はい」


「今朝のお話を覚えていますね?」


金造の顔が曇った。


「……はい」


「私は申し上げました」


大村先生が一語ずつ区切る。


「私に相談せず、相手方に直接連絡したり、訪問したり、裁判に影響するような行動をした場合」


金造が小さくなる。


「代理人を辞任します、と」


「…………」


「そして今日」


「…………」


「あなたは、その日のうちに浦さんの家へ行きました」


「……はい」


「相談は?」


「……してません」


「先方から帰るよう言われても?」


「……すぐには帰りませんでした」


「結果は?」


「……警察が来ました」


大村先生は黙った。


金造も黙った。


高橋も黙った。


やがて金造が、恐る恐る顔を上げる。


「先生……」


「はい」


「本当に……辞めるんですか?」


大村先生は答えなかった。


「先生……」


金造の声が弱くなる。


「ワシを見捨てないで下さい……」


大村先生は眼鏡を外した。


机の上に置く。


そして両手で眉間を押さえた。


長い沈黙。


「先生?」


「……成田さん」


「はい」


「私は今、本気で辞任を考えています」


「せ、先生!」


「当然でしょう」


「困ります!」


「私も困っています」


「ワシ、どうしたらいいんですか!」


大村先生は顔を上げた。


「私の話を聞いてください」


「聞きます!」


「勝手なことをしないでください」


「しません!」


「相手方へ行かない」


「行きません!」


「連絡しない」


「しません!」


「新聞社にも連絡しない」


「しません!」


「取材にも勝手に答えない」


「答えません!」


「何か思いついても、まず私に相談する」


「相談します!」


「本当に?」


「本当です!」


大村先生は金造を見つめた。


金造も必死に見つめ返す。


「先生……」


「…………」


「ワシを見捨てないで下さい……」


再び沈黙。


やがて大村先生が、ゆっくり眼鏡をかけた。


「……今回だけです」


金造の顔が輝いた。


「先生!」


「次はありません」


「はい!」


「本当にありません」


「はい!」


「今日と同じことをもう一度されたら、私は辞任します」


「分かりました!」


「高橋さん」


「はい」


「何かありましたら」


「旦那様が何かする前に、大村先生へご連絡いたします」


「お願いします」


「承知いたしました」


金造が二人を交互に見る。


「ちょっと待て」


「なんでしょう」


「ワシを何だと思っとる!」


大村先生と高橋が顔を見合わせた。


「依頼人です」


「旦那様でございます」


「だったら、もう少し信用せんか!」


二人は黙った。


「なんじゃ、その顔は!」


高橋が静かに答える。


「旦那様」


「なんじゃ!」


「本日の出来事がございましたので」


「今日は今日じゃ!」


「本日でございます」


「細かい!」


大村先生は、また眼鏡を外した。


「先生! なんでまた外すんですか!」


「少し眉間が痛くなりまして」


「大丈夫ですか?」


「……誰のせいだと思ってるんですか」


「?」


大村先生は答えなかった。

大村先生。


朝に最後通告。


午後に警察署。


まさか同じ日のうちに、ここまで見事に約束を破られるとは思わなかったでしょう。


しかも本人は、


「ワシを見捨てないで下さい……」


しおらしい。


大村先生、今回だけは踏みとどまりました。


次はありません。


本当にありません。


たぶん金造も分かったはずです。


……今度こそ分かったよね?(´・ω・`)


なお、大村先生の眉間については、労災認定を検討したいところです。


では、次回。


スルメ食う?

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