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おかえり  作者: コメたろう
第三章 ぼくは、ここにいたい

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028体目 まだ何もしとらん!

大村先生から、


「何もしないでください」


と、あれほど念を押された金造。


その日の午後。


本人はちゃんと言いつけを守っているつもりでした。


――途中までは。(´・ω・`)

大村先生から、


「何もしないでください」


と、これ以上ないほど分かりやすい指示を受けた、その日の午後。


金造は自宅の居間で腕を組んでいた。


「…………」


高橋は少し離れたところに立っている。


「…………」


「高橋」


「はい」


「ワシは何もしてないな?」


「今のところは」


「なんじゃ、その言い方は」


「事実を申し上げただけでございます」


金造は不満そうに鼻を鳴らした。


朝から新聞社には電話していない。


記者にも話していない。


浦家にも電話していない。


もちろん、大村先生にも余計な連絡はしていない。


完璧である。


「先生も心配性じゃな」


「そうでしょうか」


「ワシを子どもみたいに」


「…………」


「なんじゃ」


「何でもございません」


金造は新聞を広げた。


もう何度読んだか分からない。


『「帰りたくない。怖いから」――家庭用アンドロイド、法廷で訴え』


また腹が立ってきた。


「怖いってなんじゃ」


高橋は答えない。


「ワシが何をしたっていうんじゃ」


高橋が金造を見る。


「お答えしてよろしいのでしょうか」


「いや、いい」


「承知いたしました」


金造は新聞を畳んだ。


しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。


「高橋」


「はい」


「ちょっと出てくる」


「どちらへ?」


「散歩じゃ」


「お車は?」


「いらん」


「左様でございますか」


金造が立ち上がる。


数歩歩いたところで、高橋が呼び止めた。


「旦那様」


「なんじゃ」


「大村先生のお話は、覚えていらっしゃいますね?」


「覚えとるわ!」


「それでしたら結構でございます」


「ワシを何だと思っとる!」


「旦那様でございます」


「なら信用せい!」


「しております」


「顔が信用しとらん!」


「生まれつきでございます」


金造は「ふん」と鼻を鳴らして、部屋を出ていった。


玄関の扉が閉まる。


高橋は、その場に立っていた。


十秒。


二十秒。


三十秒。


そして、静かに時計を見る。


「…………」


もう一度、玄関を見る。


「…………」


高橋は電話を取り出した。


だが。


まだ、かけない。


大村先生は言った。


相手方へ行くようなことがあれば、すぐに連絡してほしい。


しかし金造は、散歩に行くと言っただけである。


まだ何もしていない。


高橋は電話をしまった。


一方。


金造は歩いていた。


「まったく……」


ぶつぶつ言いながら歩く。


「ワシは何も悪いことしとらん」


歩く。


「新聞社にも電話しとらん」


さらに歩く。


「浦さんにも連絡しとらん」


そして歩く。


「先生の言うことは、ちゃんと守っとる」


やがて。


金造の足が止まった。


目の前には、一軒の家がある。


「…………」


金造は家を見た。


表札を確認する。


「ここか」


大村先生の言葉が頭をよぎる。


――浦さんにも連絡しないでください。


「連絡はしとらん」


――相手方への直接の連絡、訪問――


「…………」


金造は少し考えた。


「まだ訪問もしとらん」


門の前に立っているだけである。


何もしていない。


「そうじゃ」


金造は頷いた。


「ワシはまだ何もしとらん!」


誰に言うでもなく宣言する。


そして。


門を開けた。


敷地の中へ入る。


玄関へ向かって歩く。


ピンポーン。


インターホンを押した。


少しして、声が聞こえた。


『はい』


「あー、成田です」


間があった。


『……成田さん?』


「そうです。ちょっと話がありましてな」


再び、沈黙。


『どちらの成田さんでしょうか』


「だから成田金造です! ロボットの!」


長い沈黙。


「聞こえとりますか?」


『聞こえてます』


「なら開けてください」


『開けません』


「なんでですか!」


『なんで来たんですか』


「ワシのロボットを返してもらいに来たんです!」


『裁判中ですよね?』


「だから話し合いに来たんです!」


『弁護士さんは?』


「先生は関係ない!」


『一番関係あると思いますけど』


「とにかく話を――」


『帰ってください』


「ちょっと待ちなさい!」


『帰ってください』


インターホンが切れた。


「…………」


金造はボタンを押した。


ピンポーン。


反応がない。


もう一度。


ピンポーン。


「浦さん!」


返事はない。


「話くらい聞きなさい!」


玄関の向こうで、浦姐ぇは旦那ちゃんを見た。


「……どうする?」


旦那ちゃんは静かに答えた。


「警察に連絡しましょう」


「だよね」


「敷地内に入っていますから」


浦姐ぇはスマートフォンを手に取った。


玄関の外では、金造がまだインターホンの前にいた。


「まったく、話の分からん人じゃな」


その時。


家の中から、かすかに声がした。


「ムギ、こっちにいよう」


金造の耳が動いた。


「…………」


玄関を見る。


「おるんじゃないか」


一歩、近づく。


「おい!」


家の中で、ムギの身体が固まった。


その声を知っている。


「おい! お前!」


ムギの手が震え始めた。


コメたろうが、その横に立つ。


「ムギ」


「……はい」


「こっちにいろ」


「はい……」


外から、また声がする。


「ワシじゃ! 出てこい!」


浦姐ぇの表情が変わった。


旦那ちゃんが玄関の前に立つ。


「開けないでください」


「うん」


しばらくして。


遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。


金造が振り返る。


「ん?」


音が近づいてくる。


やがて家の前で止まった。


警察官が降りてくる。


金造の顔が明るくなった。


「おぉ!」


警察官へ向かって手を振る。


「お巡りさん、いい所に!」


警察官が金造を見る。


「どうされました?」


「ちょうどよかった!」


金造は玄関を指さした。


「ワシのロボットが、この家に人質にとられとるんです!」


警察官が家を見る。


それから金造を見る。


「人質……ですか?」


「そうです!」


「こちらのお宅の方ですか?」


「違います!」


「では、なぜ敷地の中に?」


「ロボットを返してもらいに来たんです!」


警察官が一瞬黙った。


「こちらのお宅の方から、入っていいと言われましたか?」


「言われとらん!」


「門は?」


「開けて入りました!」


「…………」


もう一人の警察官がメモを取り始める。


「現在、そのアンドロイドについて裁判中だと伺っていますが」


「そうです!」


「弁護士さんは?」


「おります!」


「今日こちらへ来ることは、弁護士さんに相談されましたか?」


「しとらん!」


警察官二人が顔を見合わせた。


「成田さん」


「はい!」


「ひとまず、こちらの敷地から出ていただけますか」


「なんでワシが!」


「お話を伺いますので」


「話ならここで!」


「先方が帰ってほしいとおっしゃっています」


「ワシのロボットが中におるんですよ!」


「その件は裁判中なんですよね?」


「そうです!」


「でしたら、ここで直接解決しようとなさらないでください」


金造が固まった。


警察官は穏やかに続けた。


「まず敷地の外へ出ましょう」


「いや、しかし――」


「成田さん」


「…………」


金造は不満そうに玄関を見た。


そして警察官に促され、門の外へ出る。


「少し詳しくお話を伺いたいので、ご同行いただけますか」


「同行?」


「はい」


「どこへ?」


「署です」


「…………」


金造の顔色が変わった。


「ワシが?」


「はい」


「なんで?」


「事情を確認するためです」


「いやいやいや!」


金造が一歩下がる。


「お巡りさん、違うんです!」


「何がですか?」


「ワシはロボットを返してもらいに来ただけで!」


「そのお話も含めて伺います」


「ちょっと待ちなさい!」


警察官に促され、金造が歩き始める。


「お巡りさん!」


振り返る。


「ワシじゃないんです!」


警察官が首を傾げる。


「はい?」


「ワシじゃ!」


「……はい?」


「お巡りさーんっ!!」


その頃。


成田家では。


高橋の電話が鳴った。


「はい、高橋でございます」


話を聞く。


「…………」


高橋の顔から、表情が消えた。


「承知いたしました」


電話を切る。


数秒、動かなかった。


それから別の番号へ電話をかける。


『はい、大村です』


「大村先生」


『はい』


「だ、旦那様が……」


『成田さんが?』


高橋は一度、息を吸った。


「旦那様が警察に!」


電話の向こうが静かになった。


『…………』


「先生?」


やがて。


ひどく落ち着いた声が返ってきた。


『高橋さん』


「はい」


『最初からお願いします』

「何もしないでください」


ここまで分かりやすく言われたのに。


新聞社には電話していない。


浦家にも連絡していない。


だから金造の中では、ちゃんと言いつけを守っていました。


――訪ねて行くまでは。


そして警察が来れば、なぜか味方が増えたと思う男。


「おぉ! お巡りさん、いい所に!」


違います。


あなたを迎えに来ました。(´・ω・`)


一方その頃、大村先生のもとには、高橋から一本の電話が。


「旦那様が警察に!」


大村先生。


まだ午前中にした最後通告の余韻すら残っております。


次回。


先生、出番です。


スルメ食う?

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