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おかえり  作者: コメたろう
第三章 ぼくは、ここにいたい

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027体目 何もしないでください

朝刊を読んだ成田金造。


どうやら、記事の内容にご不満のようです。


新聞社に電話する?


相手方に直接話す?


大村先生。


今日も朝から、お疲れさまです。(´・ω・`)

その朝。


成田家の食卓には、いつものように朝刊が置かれていた。


金造は湯呑みを片手に新聞を広げる。


一面。


経済面。


そして、社会面。


「…………」


金造の手が止まった。


『「帰りたくない。怖いから」――家庭用アンドロイド、法廷で訴え』


「…………」


記事を読む。


杖で叩かれた。


充電を禁じられた。


置き去りにされた。


雨の中で迎えを待っていた。


以前の所有者の家には帰りたくない。


怖いから。


「…………」


金造の眉間に、深い皺が寄っていく。


記事の最後まで読み終えた。


そして。


「なんじゃこの記事はぁぁぁぁ!」


新聞が大きく揺れた。


「高橋!」


「はい」


すぐに高橋が現れる。


金造は新聞を突き出した。


「これを見ろ!」


「拝見しております」


「なんじゃこれは!」


「今朝の新聞でございます」


「それは分かっとる!」


「失礼いたしました」


金造は社会面を叩いた。


「まるでワシが悪者みたいじゃないか!」


高橋は記事を見る。


「昨日の法廷での証言が掲載されておりますね」


「そんなことは分かっとる!」


「はい」


「ワシの言ったことが全然載っとらん!」


高橋が記事を確認する。


「前回の記事には、旦那様のご主張も掲載されておりましたが」


「今回はあのロボットの話ばかりじゃ!」


「昨日はムギじろうさんの本人尋問でしたので」


「お前までムギじろうと呼ぶな!」


「失礼いたしました」


金造は鼻息を荒くして、新聞を畳んだ。


「新聞社に電話する!」


高橋の眉が、わずかに動いた。


「旦那様」


「なんじゃ!」


「その前に、大村先生へご連絡された方がよろしいかと」


「なぜじゃ! 新聞に文句を言うだけじゃぞ!」


「ですので、大村先生へ」


「ワシは記事を訂正させたいだけじゃ!」


「ですので」


「……分かった!」


金造は電話を掴んだ。


数分後。


『はい、大村です』


「先生! 今朝の新聞を見ましたか!」


『拝見しました』


「ひどいでしょう!」


『成田さん』


「なんです?」


『まず確認します』


大村先生の声が低くなる。


『新聞社には、まだ連絡していませんね?』


「しとらん!」


『記者から取材の申し込みは?』


「来とらん!」


『もし来ても、ご自分で答えないでください』


「なんでですか!」


『裁判中だからです』


「でも先生! この記事じゃワシが一方的に――」


『成田さん』


「はい」


『新聞社にも連絡しない!』


「……はい」


『取材にも勝手に答えない!』


「はい……」


一拍置いて、大村先生が続けた。


『それから、浦さんにも連絡しないでください』


「まだ行くとは言っとらんぞ?」


電話の向こうが静かになった。


そして。


『あなたの場合、先に言っておく必要があるんです!!』


高橋が静かに頷いた。


「高橋! なんで頷いとる!」


「大村先生のおっしゃることは、ごもっともかと」


『高橋さん、そこにいらっしゃるんですか?』


「おります」


『代わっていただけますか』


「はい」


「待て! ワシの電話じゃ!」


高橋が受話器を受け取った。


「高橋でございます」


『高橋さん』


「はい」


『成田さんが新聞社や相手方に連絡しようとしたら、必ず私に連絡してください』


「承知いたしました」


「高橋!」


『特に浦さんのご自宅へ行くようなことがあれば、すぐに』


「承知いたしました」


「お前はどっちの味方なんだ!」


高橋が金造を見る。


「旦那様の味方でございます」


「だったら!」


「ですので、大村先生のおっしゃる通りにされた方がよろしいかと」


「ぐぬ……」


高橋が受話器を金造へ戻した。


「先生!」


『はい』


「ワシはただ、あのロボットを返してもらいたいだけなんですよ!」


『その件を争うために、今、裁判をしているんです』


「だったら本人に話した方が早いでしょう!」


『早くありません』


即答だった。


「でも――」


『成田さん』


大村先生は、ゆっくりと言った。


『これはお願いではありません』


金造が黙る。


『今後、相手方への直接の連絡、訪問、新聞社を含む報道機関への対応、そのほか裁判に影響する可能性のある行動を、ご自分の判断でなさらないでください』


「……はい」


『何かしたいと思った時は、先に私へ相談してください』


「はい……」


『もし、私に相談せず、そのような行動をされた場合』


大村先生が一度言葉を切った。


『私は代理人を辞任します』


金造の顔色が変わった。


「せ、先生……」


『はい』


「ワシを見捨てるんですか……?」


高橋が目を閉じた。


電話の向こうでも、しばらく声がしなかった。


おそらく大村先生は、眼鏡を外している。


そして、おそらく眉間を押さえている。


やがて声がした。


『私は、あなたを見捨てたいと言っているのではありません』


金造の顔が明るくなる。


「先生!」


『あなたが、私に見捨てざるを得ない行動をしないでくださいと言っているんです』


「…………?」


金造の顔から、明るさが消えた。


「どういう意味です?」


高橋が静かに口を開いた。


「旦那様」


「なんじゃ」


「何もしないでください、という意味でございます」


「…………」


金造は受話器を握ったまま、高橋を見た。


「最初からそう言え!」


電話の向こうで。


大村先生が、もう一度眉間を押さえた。

大村先生から、ものすごく分かりやすい最後通告が出ました。


新聞社に連絡しない。


取材に勝手に答えない。


浦家に連絡しない。


訪ねて行かない。


何かしたくなったら、まず大村先生に相談する。


そして高橋による完璧な翻訳。


「何もしないでください」


ここまで言われれば、さすがの金造でも分かったはずです。


……分かったよね?(´・ω・`)


大村先生の眉間に、平穏な日々が戻ることを祈ります。


では、次回。


スルメ食う?

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