020体目 ロボットだ!
「高橋! 車を出せ!」
ようやく「お前」を探しに出た金造。
手がかりは、いなくなった場所だけ。
とりあえず現場へ戻ってみたものの――。
探すのは高橋。
問い合わせるのも高橋。
果たして金造は、自分のロボットについてどれだけ知っているのでしょうか。
「このあたりだ」
車を降りた金造は、周囲を見回した。
「高橋、探せ」
「かしこまりました」
高橋は辺りを見回しながら歩き始めた。
金造はその場に立ったまま、苛立たしげに腕を組んでいる。
しばらく探したが、それらしい姿はない。
「おい、高橋! まだ見つからんのか!」
「見当たりません」
「もっとよく探せ!」
「かしこまりました」
高橋が再び歩き始める。
その様子を、一人の警察官が見ていた。
やがて二人に近づいてくる。
「何かお探しですか?」
「ああ?」
金造が振り向く。
「ロボットだ。俺のロボットがいなくなった」
「ロボットですか」
警察官は金造と高橋を見た。
「遺失物届は出されていますか?」
「遺失物届?」
金造が眉をひそめる。
「出してない」
「では、まず届を出していただいた方がよろしいかと思います」
「勝手にいなくなったんだぞ!」
「そうですか」
警察官は淡々と答えた。
「製造番号などは分かりますか?」
「知らん!」
「購入時の保証書などに記載されていると思いますが」
「保証書?」
金造は少し考えた。
「そんなものは捨てた!」
「箱と一緒に処分しております」
高橋が静かに付け加えた。
「そうだ!」
「購入された店舗は分かりますか?」
「店じゃない。メーカーから直接買った」
「メーカー直販でしたら、購入記録が残っているかもしれません。問い合わせてみてはいかがでしょう」
金造は高橋を見た。
「高橋! メーカーに電話をしろ!」
「かしこまりました」
高橋はスマートフォンを取り出し、メーカーへ電話をかけた。
「購入したロボットの製造番号を確認したいのですが」
電話の向こうの担当者と、しばらく話をする。
「はい。成田金造名義です」
いくつかのやり取りのあと、高橋の声が止まった。
「そうですか……少しお待ちください」
受話口を片手で押さえ、高橋が金造を見る。
「本人確認が必要だそうです」
「あー! いいっ! かわれ!」
金造は高橋からスマートフォンを受け取った。
「俺だ! 成田金造だ!」
電話の向こうから質問される。
「購入日?」
金造の眉間に皺が寄った。
「分からん!」
さらに何かを聞かれる。
「いつ頃って……そんなもん、いちいち覚えてるか!」
電話の向こうの担当者は、別の確認方法を案内しているらしい。
「保証書?」
金造の声がまた大きくなった。
「そんなものは捨てた!」
高橋が小さく付け加える。
「箱と一緒に処分しております」
「そうだ!」
再び電話の向こうから説明が続く。
「だから製造番号が分からんから電話してるんだろうが!」
しばらくして、金造の表情が変わった。
「……何?」
聞き返す。
「何だと? 納品先に書類を送るだと?」
高橋がちらりと金造を見る。
「こっちは今すぐ番号が必要なんだっ!」
担当者が何かを説明している。
「本人確認はしただろうが!」
さらに説明が続く。
「だから! 俺が買った俺のロボットの製造番号だぞ!」
まだ説明は終わらない。
「規則だぁ?」
金造の顔が険しくなる。
「そんなもん知るか!」
高橋は黙っている。
警察官も黙っている。
電話の向こうの担当者だけが、根気よく説明を続けていた。
「だったら! 書類をさっさと送れ!」
プチッ!
金造は一方的に電話を切った。
スマートフォンを高橋へ突き返す。
「ったく! どいつもこいつも使えんっ!」
吐き捨てるように金造が言う。
高橋は黙ってスマートフォンを受け取った。
警察官も何も言わなかった。
しばしの沈黙。
やがて警察官が口を開いた。
「本日は、外見だけの特徴で届を出してはいかがでしょうか?」
金造が警察官を見る。
「製造番号は、書類が届いてから追加でお知らせいただければ結構です」
「……最初からそう言え!」
警察官は何も言わなかった。
二人は警察官に案内され、遺失物届を出すことになった。
警察官が用紙を前に尋ねる。
「色は何色ですか?」
「色?」
金造は眉をひそめた。
しばらく考える。
「あぁ! クリーム色だ!」
警察官が用紙に書き込む。
その横で、高橋は黙っていた。
――旦那様。
――あれはクリーム色ではなく、白では……。
もっとも。
白と呼ぶには、かなり薄汚れてはいたが。
高橋は何も言わなかった。
「では、クリーム色のアンドロイドですね」
警察官が確認する。
「ロボットだ!」
金造が即座に訂正した。
警察官は顔を上げた。
「……人型のロボット、ということでよろしいですか?」
「そうだ!」
「分かりました」
警察官は淡々と用紙に書き込んだ。
高橋は、やはり何も言わなかった。
クリーム色のロボット。
……だそうです。
高橋は気づいていました。
本当は、白です。
ちょっと――いや、かなり薄汚れていただけです。
製造番号は分からない。
購入日も覚えていない。
保証書も箱と一緒に捨てた。
それでも金造にとっては、
「俺のロボット」。
一方、そのロボットには今――。
ムギじろうという名前があります。
さて。
遺失物届は出ました。
少しずつ、金造の手がムギじろうへ近づいてきます。




