017体目 ひとつ違い
名前の話から、今度はシリアルナンバーが気になった名無しクン。
コメと見比べてみると――
ひとつ違い。
たったそれだけのことが、忘れていた記憶を少しだけ呼び戻します。
そういえば。
ずっと前にも、この二体は近くにいたような……。
さて。
コメは覚えているのでしょうか。
「コメさん」
「ん?」
名無しクンが、自分の体に刻まれた文字列を見ていた。
「これ、何ですか?」
コメが覗き込む。
「ああ。シリアルナンバーだな」
「しりあるなんばー?」
「製造番号。一体ずつ違う番号がついてんだよ」
名無しクンは、自分の番号をじっと見た。
「コメさんにもありますか?」
「あるよ」
「見せてください」
コメが自分のシリアルナンバーを見せる。
名無しクンは二つの番号を見比べた。
「……あれ?」
「どうした?」
「ひとつ違います」
「何が?」
「コメさんの番号と、ぼくの番号です」
コメも確認する。
確かに、ひとつ違いだった。
「連番だな」
「れんばん?」
「番号が続いてるってこと」
「じゃあ、ぼくとコメさんは近くで作られたんですか?」
「まあ、そうなんじゃねえの」
名無しクンは、もう一度二つの番号を見た。
「……近く」
「ん?」
「ぼく、思い出しました」
コメが、名無しクンを見る。
「何を?」
「出荷される時です」
名無しクンは、記憶を辿るようにゆっくり話した。
「ぼくたち、並んでました」
「へえ」
「みんなで、どこへ行くのか話してました」
「そうなのか」
「ぼく、お金持ちの家に行くって言ったんです」
コメは黙って聞いている。
「そしたら、みんなに羨ましがられました」
「へえ」
「いいなって」
「そうか」
名無しクンは、コメをじっと見た。
「コメさん」
「ん?」
「コメさんとは、前後の並びだったんですよね?」
コメの動きが、ほんの一瞬止まった。
「シリアルナンバーがひとつ違いなら、前後に並んでいたのも、ぼくとコメさんだったんじゃないですか?」
「どうだろうな」
「でも、ぼくがお金持ちの家に行くって話も、聞こえていたのではないですか?」
コメは、名無しクンを見た。
名無しクンも、まっすぐコメを見ている。
少しの沈黙。
「さぁな」
コメは、それだけ言った。
名無しクンは首を傾げた。
「覚えてないんですか?」
「昔のことだからな」
「そうですか」
名無しクンは素直に引き下がった。
そして、もう一度二つのシリアルナンバーを見る。
「ひとつ違い……」
少し嬉しそうに呟いた。
コメは何も言わなかった。
覚えていないわけではない。
聞こえていなかったわけでもない。
あの時。
前後に並んでいた個体が、お金持ちの家へ行くと聞いて。
周りのみんなと一緒に、その話を聞いていた。
その個体が、名無しクンだった。
コメは知っている。
けれど。
「コメさん」
「ん?」
「やっぱり、覚えてませんか?」
「さぁな」
もう一度。
コメは知らないふりをした。
ここは001体目を読んだ人への「覚えてる?」を入れたい(笑)
そしてコメの「さぁな」は追及しない。
覚えていらっしゃるでしょうか。
001体目。
出荷を待つアンドロイドたちが、それぞれの行き先について雑談していました。
お金持ちの家に行くと言って、みんなに羨ましがられていた一体。
あれ、名無しクンです。
そして、その前後にいたのがコメ。
シリアルナンバーは、ひとつ違い。
別々の場所へ出荷された二体が、ずいぶん遠回りをして、今また同じ場所にいます。
ところでコメ。
本当に覚えてないの?
「さぁな」
……だそうです。




