016体目 ぼくも、名前がほしいです
名前なんて、呼べれば何でもいい。
……と思っていた、名無しクン。
ところが、コメにはちゃんと名前があって、その名前には命名した者たちがいる。
ライスから米へ。
米からコメたろうへ。
……進化なのか退化なのかは、この際置いておこう。
そんなコメの名前の由来を聞いた、名無しクン。
どうやら、何か思うところがあったようです。
「コメさんの名前って、誰がつけたんですか?」
名無しクンに聞かれて、コメは少し考えた。
「浦姐ぇとうらら」
「二人でつけたんですか?」
「まあ、そういうことになるな」
名無しクンの目が輝いた。
「どうやって決めたんですか?」
「最初はライスだった」
「ライス」
「それが米になって」
「お米」
「最終的にコメたろうになった」
名無しクンは黙った。
コメも黙った。
「……」
「……」
「カッコいいです」
「どこが?」
コメが即座に返した。
名無しクンはキラキラとした目でコメを見ている。
「コメたろう、カッコいいです」
「そうか?」
「はい!」
コメは首を傾げた。
自分では、そんなにカッコいい名前だと思ったことはない。
というより、ライスから始まって、米になって、どういうわけか最後にはコメたろうになった。
名前を考えてもらった結果、だんだんカッコよくなったという記憶もない。
むしろ逆だった気がする。
「二人で考えてくれたんですよね?」
名無しクンが聞いた。
「ああ」
「コメさんの名前を?」
「ああ」
「コメさんのために?」
コメは、名無しクンを見た。
「……まあ、そうだな」
名無しクンは嬉しそうに笑った。
自分の名前でもないのに。
「いいですね」
「何が?」
「名前です」
名無しクンは言った。
「誰かが考えてくれるんですね」
コメは答えなかった。
名無しクンは、自分の胸元に目を落とした。
ここに来てから、みんなは自分を名無しクンと呼ぶ。
呼ばれるたびに、それが自分のことだと分かる。
だから、何も困ってはいなかった。
名無しクンでいいと思っていた。
でも。
コメには、コメたろうという名前がある。
浦姐ぇとうららが、コメのために考えた名前。
「コメさん」
「ん?」
「ぼくは、どうして名無しクンなんですか?」
「名前がないからだろ」
「はい」
名無しクンは頷いた。
それは知っている。
名前がない。
だから、名無しクン。
今までは、それだけだった。
名無しクンはしばらく黙っていた。
コメが横から顔を覗き込む。
「どうした?」
「あの……」
名無しクンは顔を上げた。
「ぼくにも、名前を考えてもらえますか?」
コメの耳が、ぴくっと動いた。
「名前?」
「はい」
「欲しいのか?」
名無しクンは少しだけ考えた。
そして、はっきり頷いた。
「はい」
その顔は、どこか嬉しそうだった。
「ぼくも、名前がほしいです」
コメは、名無しクンをじっと見た。
それから、にっと笑った。
「じゃあ、言いに行くか」
「誰にですか?」
「決まってんだろ」
コメは立ち上がった。
「浦姐ぇとうららだよ」
名無しクンの顔が、ぱっと明るくなった。
名無しクンが初めて自分から欲しがったもの。
それは、名前でした。
誰かが自分のために考えてくれた、自分だけの名前。
コメの名前の由来を聞いて、そこに気づいたようです。
そして、その命名をお願いする相手は――
浦姐ぇとうらら。
ライスを米にし、最終的にコメたろうへ着地させた二人です。
名無しクン。
その人選、本当に大丈夫か。
次回、命名会議。
嫌な予感しかしません。




