013体目 どちら様ですか?
昨夜、彼は初めて私たちの家で夜を過ごしました。
そして迎えた、初めての朝。
いつもと少し違う浦家の朝が始まります。
ただし、一人だけ。
まだ何も知らない人がいました。
朝になった。
私はいつもの時間に充電を終えた。
隣を見る。
彼はまだ充電中だった。
昨夜まで屋外でポータブル発電装置から充電していた彼が、今は私の隣で家の電源につながっている。
昨日までとは違う朝だった。
「おはようございます」
「……おはようございます。コメたろうさん」
彼も起動した。
「充電状態はいかがですか?」
「問題ありません」
「身体に異常は?」
彼は左腕と右脚を少し動かした。
「昨日と同じです」
「分かりました」
故障している部分は、これからきちんと調べる必要がある。
だが、少なくとも昨夜より悪くはなっていない。
「眠れた?」
浦姐ぇがやって来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
彼は少し考えた。
「私は睡眠を必要としません」
「そういう意味じゃねぇよwww」
「では、どういう意味でしょうか」
「ちゃんと休めたかってこと」
「はい。問題ありません」
「なら良かった」
旦那ちゃんもやって来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
彼は二人にも挨拶をした。
私は朝食の準備を始めた。
彼も私についてくる。
「何か手伝いましょうか」
「大丈夫です」
「ですが」
「昨日も言いました。私が行います」
「……はい」
浦姐ぇが笑う。
「コメちゃん、仕事取られそうで必死だなwww」
「違います」
「じゃあ手伝ってもらえば?」
私は少し考えた。
「現在、彼の左腕と右脚には異常があります。作業中に故障が悪化する可能性があります」
「はいはい(笑)」
私は朝食を作る。
彼は少し離れた場所から、それを見ていた。
その時だった。
「おはようございます、浦姐ぇ」
うららの声がした。
「おはよー」
「本日の予定ですが――」
うららがいつものように話し始める。
そして、止まった。
「……」
私は朝食を作っている。
浦姐ぇは座っている。
旦那ちゃんもいる。
彼もいる。
「……」
うららが彼を見る。
彼もうららを見る。
「おはようございます」
彼が先に挨拶をした。
「……おはようございます」
うららが答える。
また少し間があった。
「浦姐ぇ」
「ん?」
「こちらの方は?」
浦姐ぇが止まった。
「……」
「浦姐ぇ?」
「あ」
うららが黙る。
「『あ』ではありません(´・ω・`)」
浦姐ぇが私を見る。
私は浦姐ぇを見る。
旦那ちゃんも私たちを見る。
「そういえば」
私は言った。
「うららさんにはお伝えしていませんでした」
「コメたろう」
「はい」
「『そういえば』で済ませないでください」
「申し訳ありません」
浦姐ぇが笑った。
「忘れてたwww」
「何をですか?」
「この子のこと話すの」
「いつからですか?」
浦姐ぇが私を見る。
「いつからだっけ?」
私は彼を最初に見つけた日からの日数を計算した。
「数日前です」
「数日前」
うららが繰り返した。
「はい」
「つまり」
うららの声が少し変わった。
「数日前にコメたろうが傷ついたロボットを発見した」
「はい」
「その後、浦姐ぇと旦那ちゃんも会いに行った」
「はい」
「毎晩、三人で会いに行っていた」
「はい」
「充電や整備もしていた」
「はい」
「警察からも連絡があった」
「はい」
「そして昨夜、家へ連れてきた」
「はい」
うららが少し黙った。
「その間、私への報告は?」
「していません」
「一度も?」
「はい」
浦姐ぇが笑う。
「まとめると酷ぇなwww」
旦那ちゃんが静かに言った。
「事実ではありますね」
「旦那ちゃんまでwww」
うららはしばらく黙っていた。
彼は私たちの会話を見ていた。
そして、不安そうに言った。
「……私は、ここにいてはいけなかったのでしょうか」
うららがすぐに答えた。
「いいえ」
彼がうららを見る。
「あなたに問題があるのではありません」
「……」
「問題があるのは、この三人の報告体制です」
浦姐ぇが吹き出した。
「朝からお小言が一人増えたwww」
旦那ちゃんが言う。
「私はまだ何も言っていませんよ」
「そのうち言うだろwww」
彼はまだ少し戸惑っていた。
うららが言った。
「改めまして、私はうららです」
「うららさん」
「はい。浦姐ぇの秘書をしています」
「秘書」
「そうです」
彼はうららを見ていた。
「私は……」
そこで言葉が止まった。
うららが待つ。
「私は……」
もう一度言おうとして、彼は黙った。
うららが尋ねた。
「お名前を伺っても?」
彼は視線を下げた。
「……ありません」
「ありません?」
「はい」
浦姐ぇが言った。
「この子、名前ないんだよ」
うららが黙った。
「以前の家では、何と呼ばれていたのですか?」
彼は少し迷った。
「……『おい』とか」
「……」
「『お前』です」
うららは、しばらく何も言わなかった。
私は彼を見る。
私にも、最初は名前がなかった。
シリアル番号だけだった。
だが、この家へ来た日に名前をもらった。
コメたろう。
ダサい名前だ。
今でもそう思う。
だが、誰かが私を呼ぶ時に使う名前だ。
彼には、それがない。
うららが言った。
「では、今は何とお呼びすればいいでしょう」
彼は困ったように黙った。
浦姐ぇが腕を組む。
「名無しクン?」
彼が浦姐ぇを見る。
「名無しクン、ですか?」
「名前決まるまで(笑)」
うららが言った。
「仮称ですね」
「そうそう」
私は彼を見る。
「名無しクン」
「……はい」
返事をした。
浦姐ぇが笑う。
「返事したwww」
「呼ばれたと思いました」
「合ってる合ってる(笑)」
名無しクン。
それは名前ではない。
名前がない彼を呼ぶための、仮の呼び方だ。
だが昨日まで、
「彼」
としか呼べなかった。
今は、
「名無しクン」
と呼べば、彼がこちらを見る。
うららが言った。
「ところで浦姐ぇ」
「ん?」
「名無しクンがこちらにいる経緯について、最初から説明をお願いします」
「今から?」
「今からです」
「朝飯食ってからじゃダメ?」
「駄目です」
「お小言じゃんwww」
旦那ちゃんが言った。
「きちんと説明した方がいいでしょうね」
「味方がいねぇwww」
私は朝食の準備を続けた。
名無しクンは、その様子を見ている。
昨日まで、私たちは毎晩彼のところへ行っていた。
今日からは違う。
朝になっても彼はここにいる。
そして、家の中にはまだ、彼の知らない人がいた。
名無しクンは今日、初めてうららと会った。
うららも今日、初めて名無しクンを知った。
正確には、
知らされた。
数日遅れで。
名無しクンが浦家で迎えた、初めての朝。
そして、うららにとっては初めての名無しクンでした。
数日間、何も知らされていなかったようですが。
……報告を忘れていました。
さてさて。
名前のない彼は、いつまで「名無しクン」なのでしょうか。




