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おかえり  作者: コメたろう
第二章 コメたろう、弟が出来る

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11/33

011体目 行っても、いいですか?

昨日、彼は警察の方に声を掛けられました。


そして翌日。


今度は浦姐ぇのところへ、警察から電話が掛かってきました。


彼が同じ場所に居続けることが、少しずつ難しくなり始めていました。

翌日の昼。


浦姐ぇが仕事をしていると、電話が鳴った。


「はい、もしもし」


『○○警察署ですが、浦さんのお電話でよろしいでしょうか』


「はい?」


浦姐ぇの声が少し変わった。


私は作業を止めた。


『昨日、こちらで一体のロボットに声を掛けまして』


「ああ……赤いポンチョの子ですか?」


『はい。そのロボットです』


「何かありました?」


『実は、近隣の方から、ロボットが不法投棄されているのではないかという連絡がありまして』


浦姐ぇが黙った。


「……あー」


少し考えてから言った。


「そりゃ、そう見えるか」


『昨日、本人にも確認したのですが、人を待っているということで』


「はい」


『その相手が、コメたろうさんだと』


浦姐ぇが私を見る。


私は何もしていない。


「はい。コメはうちのロボットです」


『やはりそうでしたか』


警察の方は、浦姐ぇに彼との関係を尋ねた。


浦姐ぇは、私が彼を見つけたこと。


彼には帰る場所があるが、帰りたくないと言っていること。


私たちが毎晩、状態を確認しに行っていること。


そして、私たちの家へ来るかと尋ねても、彼自身が断っていることを説明した。


『そういう事情でしたか』


「はい」


少し間があった。


『こちらから持ち主の方に連絡することもできますが』


浦姐ぇがすぐに答えなかった。


「……ちょっと待ってください」


『はい』


「それ、本人に聞いてからでもいいですか?」


電話の向こうが少し静かになった。


『本人、ですか?』


「そのロボット本人です。持ち主に連絡していいか、まだ聞いてないんで」


『分かりました』


警察の方は、確認した上で連絡をもらえればいいと言った。


電話が終わる。


浦姐ぇが私を見る。


「今日、聞いてみよう」


「はい」


その日の夜。


夕食の片付けを終え、私たちはいつものように彼のところへ向かった。


彼は、いつもの場所にいた。


「こんばんは」


「こんばんは」


「こんばんは。コメたろうさん」


「こんばんは」


まず、いつものように状態を確認した。


充電残量にも大きな問題はない。


身体の故障も、昨日から悪化してはいなかった。


一通り確認を終えたところで、浦姐ぇが言った。


「キミさ」


「はい」


「今日、警察から電話あった」


彼の身体が止まった。


「……警察の方から?」


「うん」


浦姐ぇは、近所の人から、不法投棄されたロボットではないかという連絡があったことを説明した。


彼は黙って聞いていた。


「それで、警察の人がさ」


浦姐ぇが続ける。


「持ち主に連絡することも出来るって」


彼の視線が下がった。


「……持ち主への連絡は……」


そこで言葉が止まった。


浦姐ぇは待った。


「うん」


「……」


しばらくして、彼が言った。


「……してほしくありません」


「分かった」


浦姐ぇはそれ以上、理由を聞かなかった。


彼は少し迷ってから、また口を開いた。


「また警察の方が来たら、どうしましょう……」


「うん」


「持ち主に連絡されるのは困ります」


昨日、警察の方に声を掛けられたことを話した時よりも、不安そうだった。


浦姐ぇは少し考えた。


それから鞄の中を探した。


「じゃあさ」


何かを取り出して、彼に差し出す。


「これ、うちの連絡先」


彼がそれを見る。


「……連絡先?」


「また警察の人が来て、困ったらこれ見せな」


「……」


「私に連絡してくださいって言えばいいから」


彼はすぐには受け取らなかった。


「よろしいのですか?」


「いいよ」


「でも……」


「困った時に使うための連絡先だろ?」


彼はゆっくりと手を伸ばした。


「……ありがとうございます」


受け取った連絡先を、彼は大切そうにしまった。


私は言った。


「紛失しないようにしてください」


浦姐ぇが私を見る。


「お前はまず情緒を覚えろwww」


「重要なことです」


旦那ちゃんが静かに言った。


「それも間違ってはいませんね」


「そういう問題じゃねぇwww」


その日は、それ以上警察の話をしなかった。


帰り際。


「また明日な」


浦姐ぇが言った。


「はい」


彼は答えた。


翌日の夕方。


また警察から電話があった。


浦姐ぇが電話に出る。


「はい」


昨日と同じ警察の方だった。


話を聞いていた浦姐ぇの表情が、少しずつ変わった。


「……はい」


「はい」


「そうですか……」


電話を切る。


私は浦姐ぇを見る。


「何かありましたか?」


「また近所の人から連絡あったって」


「不法投棄の件でしょうか」


「今度は違う」


浦姐ぇが椅子に座った。


「まだどかさないのか、って」


私は意味を考えた。


彼は昨日も、同じ場所にいた。


今日も、おそらく同じ場所にいる。


私たちにとっては、それが普通になっていた。


夜になれば、そこへ行く。


彼がいる。


話をする。


状態を確認する。


そして、また明日と言って帰る。


しかし、近所に住む人たちにとっては違う。


傷だらけのロボットが、何日も同じ場所にいる。


「警察の方は、何と?」


私が聞いた。


「このまま同じ場所にいる状態が続いたら、持ち主にも確認しなきゃならなくなるって」


私は黙った。


彼は昨日、


「持ち主に連絡されるのは困ります」


と言っていた。


「どうしますか?」


「本人に話すしかないだろ」


その日の夜。


私たちはまた、彼のところへ向かった。


彼はいつもの場所にいた。


私たちの車を見ると、こちらを向いた。


「こんばんは」


「こんばんは」


いつもの挨拶。


いつもの状態確認。


だが今日は、その後に話さなければならないことがある。


浦姐ぇが彼の前に座った。


「今日さ、また警察から電話あった」


彼の身体が強張った。


「……またですか?」


「うん」


「持ち主に、連絡したのですか?」


「してない」


彼の身体から、少し力が抜けた。


「たださ」


浦姐ぇが続ける。


「また近所の人から連絡があったんだって」


「……」


「まだどかさないのか、って」


彼は何も言わなかった。


「このままずっとここにいたら、警察も持ち主に確認しなきゃならなくなるみたい」


「……」


彼は下を向いた。


「それは……困ります」


「うん」


「私は……帰りたくありません」


「うん」


浦姐ぇは、それ以上何も言わなかった。


しばらく沈黙が続いた。


彼が言った。


「どうしたらいいのでしょうか」


浦姐ぇは少し考えた。


「それを一緒に考えよう」


「……一緒に?」


「うん」


「でも……」


彼は周囲を見る。


ここに居続ければ、持ち主に連絡が行くかもしれない。


帰る場所はある。


けれど、帰りたくない。


私たちの家へ来ることも、これまで彼は断ってきた。


浦姐ぇは言った。


「前に聞いた時、キミはうちには行かないって言っただろ?」


「はい」


「それは今も同じ?」


彼は答えなかった。


浦姐ぇも、答えを急かさなかった。


「別に、うちに来いって言ってるわけじゃないよ」


「……」


「キミがどうしたいか聞いてるだけ」


長い沈黙だった。


彼は私を見る。


旦那ちゃんを見る。


最後に、浦姐ぇを見る。


「……浦姐ぇさん」


「ん?」


「もし……」


また言葉が止まる。


「うん」


「もし、私がそちらへ行ったら……」


「うん」


「迷惑ではありませんか?」


「別に?」


あまりにも早い返事だった。


彼が浦姐ぇを見る。


「でも、私は故障しています」


「知ってる」


「修理も必要です」


「それも知ってる」


「充電も必要です」


「毎晩発電機持ってきてる奴に言うか、それwww」


旦那ちゃんが少し笑った。


彼は黙った。


浦姐ぇが言った。


「警察のことは別にしてさ」


「……はい」


「キミは、うちに来たい?」


彼は、また長い時間考えた。


私は待った。


浦姐ぇも待った。


旦那ちゃんも待った。


やがて彼が顔を上げた。


「……行っても、いいですか?」


浦姐ぇが答えた。


「いいよ(笑)」


彼は何も言わなかった。


ただ、少しだけ俯いた。


私は彼を見た。


初めて会った日。


私たちは彼を家へ連れて行こうとした。


彼は言った。


「行きません」


だから、私たちは彼を置いて帰った。


それから毎晩、ここへ来た。


充電をした。


オイルを交換した。


話をした。


彼が嫌だと言えば、やめた。


そして今日。


私たちは彼を連れて帰ることにしたのではない。


彼が、自分で決めた。


「……行っても、いいですか?」


その答えは、


「いいよ」


だった。

「行きません」


そう言っていた彼が、初めて自分から言いました。


「……行っても、いいですか?」


今夜、名前のない彼が、初めて私たちの家へやって来ます。


さてさて。


どうなることでしょう。

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