鋼鉄を断つもの
「ラーグさん、昼間の蛮刀を真っ二つに出来たのはその剣だからこそなのですか?」
二日目前半の夜営番、焚き火の前でコクトウムメイの手入れをしている俺に女神官パールが話しかけてくる。
「あぁ、そうだ。こいつの斬れ味はズバ抜けているんだ。構造の隙間を感じられれば、そこに通すだけで断ち切れるな」
正直言うとコクトウムメイの切れ味には驚愕しかない。
V式両手剣でも似たようなことは出来るが、切るというよりは打ち付けて亀裂を作り抉じ開けて折る形で切断とは言えない。
コクトウムメイは普通の鉄くらいなら俺と同等の技術があれば容易く切れる。師匠なら樹齢百年位の大木でも断ち切れるだろう。
「ほへ〜、斬れ味凄すぎですね。手入れの時怖そう」
パールが俺の隣に座りコクトウムメイを覗き込みながら呟く。
「それがな、魔術的な回路が組み込まれていて使い手が望んでいなければ、なまくらとまでは言わないが斬れ味が鈍る」
こいつは、いわゆる魔剣。魔術回路が刻まれており斬れ味が変わる。エルの見たてでは他にも回路が組み込まれているが、複雑すぎて容易に分からないとのこと。
持ち手に不利になる類ではないから使っているうちに、自然と使いこなせる様になるんじゃないか、だそうだ。
「意識持つ剣って事ですか?」
『インテリジェンスソード』アーティファクト武器の代名詞と言われ持ち主を選び力を貸すと言われている。西大陸の皇国に伝わる皇帝を導くという博愛の剣が有名だ。
「そこまでではないな。持ち手の意思と魔力で斬れ味等が変わるようだ。俺も師匠から授かって日が浅い、こいつとの絆はこれからだよ」
コクトウムメイは、師匠から受け継いだ絆。この絆を紡いで自分のものにできるかは俺次第。
「武器との絆いいな。武器も人も鍛え上げられる過程が最も重要と、我が神も仰っておられます。私もこの写し身の剣とそれくらいの絆を築きたいな〜」
パールが腰に下げた白いなめし革の鞘に収まった剣をゆっくりと抜きながら呟く。
聞いたことがある。鋼鉄を鍛える神に仕える神官は自分の武器を自らが鍛え、神に捧げて祝福を頂くと。
本物は初めて目にする。パールの様にまっすぐで迷いがなく混じりがほぼ無い素直な両刃の片手剣。
扱いやすそうで、重心のブレも柄の癖もほぼ見られないお手本のような剣。
「パール、流派は違うが何か教えられることがあるかもしれない。その剣で何か型を見せてくれるか?」
パールはとても嬉しそうに飛び起きて滑らかに剣を構える。片手剣らしい素早い飛び込みを意識した左足が前に向いた半身の構え。
顔の高さに剣を地面と平行に構える。頭部への攻撃、腹部への攻撃に対して素早く対応が可能な構え。
変則的ではあるが効率的で、体のねじれを使うことで防御時の剣の軌道が自在に調整が可能。受けを重視した守りよりの型だな。
そこから、右足を踏み込み低い位置取りをしながらの横薙ぎから左方向への斬り上げで元の構えに戻りながら仮想敵の左懐に潜り込んでいる。
小柄なパールに適した非の打ち所のない実に鍛錬が身についている美しい演武。
その後、追撃と受け流しをみた所で拍手と称賛を伝える。
「滑らかさと鋭さ、相手の選択肢を詰めて退路を断っていく組み立てが際立っている。凄いじゃないか、型組は多分パールが考えたな」
俺の言葉を受けてパールの顔がパッと明るくなる。
「私、ちんちくりんじゃないですか。習ったとおりだと、高さが足りず打ち負けちゃうんです。それで、打ち下ろしに対して距離を詰めるこの型を考えたんです」
自分の体格を有利にする為の工夫をしっかり考えられる戦闘センス、これは磨けば光る。
「自分を主体に良く練れている。次の段階である、武器との一体感に進んでいい鍛錬量だ。期間が短いから入口程度だが、少し稽古つけてやろうか?」
先輩ぶるわけではないが、ヒントくらいなら伝えられるだろう。基礎の剣術をここまで我流に持ち込める才能だ、選択肢が増えれば確実に強くなれる。
「是非、お願いしたいです」
満面の笑みで俺に抱きついてくるパール。
その時、見回りでキャラバン後方に行っていたペイルが馬車の脇から顔を出す。
「あっ、すみません………」
すっと、元の馬車の影に消えるペイル。
「ちげぇよ、待てよ〜」
アイツは何だ。勘違いとか、間が悪いとか言う特殊能力でも持ってるのか? 誤解すんなよ〜




