大きな一歩
「パール、さっきの立ち回りすごいな」
ペイルの素直な称賛にパールは頭を掻いて照れている。
今日の道中、街道近くにゴブリンの集落があったようで、かなりの数のゴブリンが頻出した。
だが、その度パールが無言で前線に出て、疾風の如くゴブリンを斬り伏せていった。低い位置から滑るように斬り上げて次の獲物に襲いかかる…………
まさかここまで化けるとは…………俺は一昨日と昨日の夜営時にグレンカイザー師匠の基本歩法と振り上げ斬りの基礎を教えた。
それに加え、エル直伝の凝縮詠唱『瞬間加速』。この三つだけなのだが…………パールのスタイルにベストマッチだった。
魔力回路の基礎を知り戦闘センスの高いパールにとって凝縮詠唱の魔力回路は相性が抜群で、緩急をつけ相手を完全に翻弄していた。
教えた甲斐があったな。
しかし…………一日目のバタバタがなければ振り上げ斬りからのコンビネーション
まで行けたんだが…………
ペイルの勘違いを止めようとした騒ぎを就寝準備中のエルが聞きつけて
「私は遊びだったのね、若い女に手を出すなんて」
と騒ぎ出し、キシリアやディルのみならずアダまで巻き込みやがった。本人は騒ぐだけ騒いでトンズラして寝る始末。
事態を収めるのにどれだけ面倒だったか…………
「ラーグ、難しい顔でどうした。考えすぎはよくないぞ」
頭痛の元凶が人の気も知らないで説教めいたことを言ってくる。
「エル、わかって言ってるだろう…………まぁいいや、今日からパールとペイルを頼む。パールには無詠唱時の効率化、ペイルには凝縮詠唱の触りだけでも教えてやってくれ」
今日から夜営番のチェンジで俺はキシリアとディルと組むことになる。軽く、昨日までの引き継ぎをする。
「任された。キシリアは襲うな、ディルと絡むときは私を呼べ」
ビッと親指をあげてドヤるエル。
「襲わねぇし、男同士をくっつけようとすんな」
いつもの軽口を交わし、ノリでハイタッチをして夜営の準備に入る。何故かパールとペイルともハイタッチしてノリノリなエルを横目にキシリアに話しかける。
「うちの師匠が迷惑かけなかったか?」
キシリアは苦笑しながらエルが書いた、字がみっちみちに詰まった紙を見せてくる。あぁ、『漆黒のメモ』か。そういや最近は会話だけで済んでるな。
「そいつを読むコツはめちゃくちゃ適当に読むことだ。やたらと盛ってあるから、自分に必要なところだけ分けて読むとかなり的確なアドバイスになってるはずだ」
あぁ、と納得してもう一度メモを読み出すキシリア。
「凄い、本当だ。始めからラーグ君に聞けばよかった。三日間読んでも頭に入らなかったのよ」
エルは魔術の天才であり、世の理と対話をすることができる稀有な存在。だが、それ故に常人と異なる感覚がある。
それが異常な装飾語だ。実は、魔術を行う際に世に対して願いや命令を行うのだが世は飾った言葉を明らかに好む。
飾れば飾るほど魔力回路は強靭に高出力になる。エルは自分の意思を出力する際、常人よりも世に近い感覚で表現してしまう癖がある。
その為、喋り始めるとペラペラと止まらなくなる。本人も自覚していて、伝えたいことがある時は端的な部分しか言わないようにしている。
だから、軽口以外は寡黙というイメージになってしまう。
だが、文字になるとその辺のタガが全部外れて過剰な装飾だらけの漆黒のメモとなる。白いはずの紙が黒く見えるので俺が名付けた。
「にしても、パールの変わりようが凄いのだけど。私にも稽古つけてくれるわよね」
キシリアがずいっと近づき、からかうように言い放つ。
「長物は得意じゃないんだが、大剣使いがやられると嫌な動きくらいなら教えてやれるぜ」
キシリアは元々距離感の掴み方が上手いからこいつを教えれば劇的に効率良くダメージの蓄積が可能だろう。
抑えのペイル、機動のパール、削りのキシリア。ディルがエルの完全詠唱をマスターすればこのパーティーはとんでもなく伸びる。
なんか俺意外と教えるの上手くないか?
自画自尊しちゃうぜ。




