巣を駆ける銀蜘蛛
森と岩場に囲まれた見通しの悪い街道で多人数の野盗の襲撃、最初に動いたのはエル。
「我らに矢は通じず『矢返し』」
四方から降り注ぐ矢は商隊の馬車や使用人達には届かずバラバラの方向に散らされ、こちらに向かってきた野盗に降り注ぎ悲鳴が上がる。
「獲物を絡め取る銀糸よ、我の願いに応え大地を疾走れ『蜘蛛罠』」
少し前から完全詠唱を始めていたデイルの魔力回路が完成する。
エルが銀蜘蛛用に組んだ特殊拘束魔術。デイルを中心に大地に縦糸が放射状に拡がり、その糸の間に横糸が張られて行く。
「ぐぁ、なんだ。足が張り付いて動けねぇ」
「クソっ、絡まりやがる」
こちらに向かっていた野盗が横糸に足を取られ転んで絡まる。踏みとどまった者も足を取られて動けない。
粘着性の無い縦糸を、駆け抜けて行く俺たち。最速でパールが立っている獲物に横切りで足を断ち、振り上げ斬りで命を奪っていく。
キシリアが転んで動けない者に、槍で精密に突いて一撃でトドメを刺していく。ペイルは盾でチャージをかけ、バランスを崩した所を剣で首を取っていく。
俺は野盗どもが多くもがいている手前でコクトウムメイを鞘から放ち左腰に添え深く腰を落とす。
全身のバネを総動員して横一文字に空を切り裂く。
一瞬の静寂の後、プシャーと勢い良く血が噴き出し野盗たちが横一文字に切断され力なく崩れ落ちていく。
グレンカイザー師匠の奥義の一つ『風断ちの一閃』
衝撃を伴う神速の振り抜きにより、風を切り眼前の扇状の空間を断ち斬る大技。コクトウムメイの斬れ味と精密斬撃があってようやく真似が出来た程度。
師匠なら少なくとも俺の五倍以上の広範囲を斬り裂ける、今更ながら師の凄さを痛感する。
振り返ると銀蜘蛛たちはデイルの魔術攻撃も始まり、ほぼ決着が着いている。
もう少し手こずると思ったが、見違えるように動きが良くなっており無駄が無い。たった五日でここまで伸びるとは思わなかった、凄まじい吸収力だ。
銀蜘蛛の動きを見ていると、ふと視線が気になりアダたちに目を向けると呆然と俺を見ている。
んっ? どうしたんだ、目を見開いて。
その後、妙によそよそしいアダたちに少し待つように声を掛け、同時にエルに目配せする。
「大地よ、飲み込め『浄化』」
エルの声に応え、蜘蛛の糸と死体や血飛沫が大地に溶けていく。後に残された物は、妙に綺麗になった鉄製の武具等。
デイル以外の銀蜘蛛の面々はかさばらず、金になりそうなものを回収している。ディルはエルに今の浄化の魔術について質問をしている。
アダたちに少し早いが夜営の準備を提案し、いつもの様に手伝うと使用人の一人がおずおずと俺に声をかけてくる。
「ラーグさん、さっきのは魔術なのですか?」
あぁ~『風断ちの一閃』か。確かに俺も初めて見た時同じようにビックリしてた。慣れって怖いな、当たり前だと感じてたぜ。
魔剣を使っているが剣術の一つだと伝えるととても興奮して、すげぇすげぇと語彙を無くしていた。
他の使用人たちにも伝わり、どうやるんだという話に。パールやキシリア、ペイルも混じり興味津々な皆に、師匠の特訓と修行を伝えると……………皆から、慈しみの目を向けられ…………
「生き残ってくれてありがとう」
という言葉を贈られてしまった。




