宴の夜
「アチシのダーリンからもラーグにプレゼントっス、ヴァルグラン最高峰の水酒黒鋼大吟醸ベシュッツシュピネっス」
ヘルガが黒い光沢の瓶に蜘蛛の柄が入った瓶を傾け、俺のグラスになみなみと透き通った美しい酒を注いでくれる。
酒に疎い俺でも聞いたことがある高い酒の代表格。値段も高いが出荷量が極端に少なく手にはいらないらしい、幻の酒。
ヘルガに恋人がいるのはパーティーを組む時から知っているが、かなりの自由人で大金持ちらしい。
急にダーリンに呼ばれたっスと言ってパーティーを一時的に抜けてしまうぐらいぞっこんらしい。
そういう時はエルは魔術ギルドの講師に行き、俺は流しの冒険者として過ごしているので特に問題はなくヘルガの恋人は気分転換させてくれる人くらいの認識だったが…………
こんな凄い酒を簡単に用意しちまうとは一体どんな凄い人なんだ……まぁ、そのへんも含めて好感度爆上がりだ。ヘルガの彼氏さんサンキューだ。
「プロージット!」
俺の掛け声に合わせて、ちゃっかり混じっているリルヴァやグレン師匠と仲間たちの杯が交わる。
楽しいな〜、俺はこの感覚を味わいたくて冒険者になったんだ。親父がいつも言ってた言葉を思い出す。
『クソみたいに死が近い職だが、生きてる実感は最強だ』
親父は正しい、俺達冒険者はいつ死んじまうかわからねぇ。だがな、ヴァルグランの冒険者は絆の力でその常識を覆す。
西大陸の冒険者がヴァルグランに来て一番ビックリするのは徹底したサポート体制と、生き残る技術講習。
親父は初期の移民で、まだこの体制ができる過程だから実感できなかったかもしれない。ヴァルグランは西から伝わってきた冒険者の常識を変えた。
西の冒険者は基本的にパーティーではまとまるが、ほかのパーティーとの繋がりは商売敵という認識だ。
手柄の横取り等の物騒な事件は当たり前であり、隙を見せたものが間抜けという認識で弱い者が悪いという考え方が西大陸では主流だ。
その風潮はヴァルグランに移民が流れてきた当初は根強く見えたのだが、実際にはヴァルグランの助け合いの心の方が冒険者には効率が良く、あっさりと塗り替えられていった。
「ラーグ、考えることは悪いことではない。だが、宴の途中に難しい顔はよろしくない。そもそも、神はこう仰っている」
安定の神様大好き病を拗らせるエルに苦笑いをしつつ、ヘルガにもう一杯酒を注いでもらう。
喉へ一気に流し込み、焼ける喉と奥から湧き上がる穀物の雄大な余韻を楽しむ。
ヘルガが微笑みながらもう一杯注いでくれたので、今度はエルがショーちゃんと一緒に神様賛美しているのを肴にチビチビ味わう。
「ラーグ〜、君たち本〜当にいつも楽しそうだねぇ」
右手に煙管、左手にグラスを持って赤ら顔で上機嫌のリルヴァが俺に寄りかかり、胸を押し付けながら笑いかけてくる。
「まぁな、リルヴァが二人を紹介してくれたおかげだぜ、感謝してるよ。」
名残惜しいがリルヴァの寄りかかりから逃れてグラスを酌み交わす。
「あの二人ってばぁ〜。腕はいいけどぉ〜、癖があるからぁ〜こんなに長く組んだの初めてなんだよぉ〜」
リルヴァはそう言って、俺の事を沢山褒めてくれた。無我夢中だったが、やってきたことをきちんと評価されると嬉しいもんだ。
「ラーグ君、ちょっといい?」
クイクイと袖を引かれたので顔を向けると、メイドのデーラがモジモジしながらキラキラと光るブレスレットを手渡してくる。
「冒険者二年目のお祝い、お守り代わりにつけてくれたら嬉しいです」
ずっと握っていたからか、人肌に温かいブレスレットを左手に着けさせてもらった。気恥ずかしくしていると、グレン師匠が耳元で囁く。
「それ二年目の冒険者に店から渡すお守りッピ」
へっ? サッとデーラの方を見ると明後日の方を向きながら、妙に上手なフレアート鳥の鳴き声の口笛を吹いている…………くっそ、一瞬騙されたぜ。




