伝説のレストラン
「ラーグさん、本当に美味しかったです」
仕立ての良い服を着てテーブルマナーもしっかりしているペイル。恐らくいい所の出なのだろう、品があるんだよな。
「パンナコッタと桃のコンポート、甘くて甘くてほっぺ落ちそう」
普段の動きやすい革鎧を組み合わせた法衣ではなく、儀礼用の長い法衣を着たパールが笑顔でデザートを食べている。
「ええ、私は冷製コーンポタージュが忘れられないわ。どうしても言い表せないコクのような味が…………思い出してもうっとりするわ」
赤で派手さはあるが露出は控えめでシックなドレスを纏ったキシリアは少しスパイスの効いた紅茶を手に取りながら呟く。
「おっ、キシリアちゃん舌肥えてるっスねぇ。リーベエイゼンのコーンポタージュは創業当時から変わらぬ古臭い製法で、秘伝のレシピらしいっすよ」
見た目は夜会の貴婦人すら霞むほどの装いなのに、口調はいつもの微妙な毒舌で違和感が半端ないヘルガが口を挟む。
「あっらぁ〜、ヘルガ。古臭いなんてひどいわねぇ、伝統あるって言いなさいよ」
扉からコックスーツを身にまとった美女が現れる。はち切れんばかりのコックスーツ…………何だ? ヘルガやショーちゃんすら凌駕している。
だけど何だろうな、彼女から何とも言えない親近感というか安心感を感じる…………初対面なのだが…………強いて言うとヘルガに初めて会ったときみたいだ。
「皆様、本日のお食事はいかがでしたでしょうか? わたくし、オーナーシェフのリーアネイスと申します。お気軽にリーアとお呼びください」
リーアさんは深々とお辞儀をする。ペイルとデイルは無自覚だろうが、あのはち切れんばかりのあの場所に目が釘付けだ。
まぁ、これは仕方ない。ヘルガ、リルヴァやショーちゃんで慣れている俺でも一瞬ビビったくらいだからな。
「リーアさん、初めまして。噂以上の味に大満足でした」
俺からの素直な感想だ、以前から旅人の噂やヘルガとエルから聞いていて気になっていた店なんだ。本当に美味くて、体中が喜んでいるのが分かるくらいだ。
「リーア、久しぶりに食べたが、流石は龍抑えの英雄『野獣ガイン』が愛したコーンポタージュだ。伝説では、これがきっかけで初代オーナーシェフと恋に落ちたのだろう」
エルが口の周りを桃のコンポートの汁でベタベタにしながらリーアに話しかける。
へー、そんな話しがあるのか。野獣ガインはヴァルグランの英雄の一人。
三本の刀身を持つ奇剣と黒い短杖を使いこなした伝説の剣士だ。同時に夜の噂の絶えない節操なしとも言われてる。
そう言えば珍しい短杖使いだな。俺の短杖も黒いが親父は西大陸出身だから関係はないよな。
「正確に言うと、ランチで食べたポタージュコロッケバーガーだったらしいわ」
リーアさんが補足する。店に伝わる逸話なのか? 血縁で代々このレストランをやっているのか?
「リーアシェフは初代からの血筋なのですか?」
いつものローブではなく、かなりの年代物だが仕立てのいいスーツを着たデイルが質問する。あっ、俺も気になる。
「はい、そうですわ。わたくしは初代から数えて七代目です。何故かわからないのですが女傑の一族で、代々長女がオーナーシェフになりますの」
へーって、七代女性。長女がオーナーシェフを継いでるって凄くねぇか? 普通じゃねーよな、作為的だとしてもおかしくねぇが…………神でもなければできないよな。
「とても伝統のあるポタージュなのね。納得だわ、是非ランチのポタージュコロッケバーガーも食べてみたいわね」
よほどポタージュの味が気に入ったんだな、キシリアが呟く。
「ふふ、冒険者の皆様にはコースでは足りないですわよね。よろしければお持ちしますが、どういたしますか」
リーアが微笑んで訪ねてくる。
「食べたいです」
期せずして全員の声が揃う。異口同音の食いしん坊宣言。
まっ、冒険者はこれくらいがいいぜ。




