炎に還る獣の城
ついに神獣討伐が始まる……。
まず最初に討伐に向かうは、狐神フレイシーザー。
ついに来た邪神討伐の日。とんでもなく危険な戦いになると思うが、正直な所少しワクワクしている。
今日、討伐するのは狐の神獣『フレイシーザー』。一応読んでおいたサリヴェルトの神話によれば、遥か昔、サリヴェルトの大地を創り上げた神らしい。ところで狐って天地創造するイメージあまり無くない?俺だけか?
他にもサリヴェルト文明を作り出したと言われている猫の神獣アンプタリムや、文明の守護者の狼の神獣ラッサンぜルクとか…。いろいろ居た。
とりあえず俺は事前に伝えられていた集合場所へ向かった。
集合場所には既にクラリアと他の討伐メンバーの2人が集まっていた。俺が最後だった。
その場にはリンクスが居たから、コロンっていう人は結局来なかったみたいだ。彼はとても不機嫌そうだった。余程これに参加したく無かったのだろう。可哀想に。
「ふぁ〜あ。皆早いね。まだ予定より30分も早いというのに。」
ベルファイアが欠伸をしながら言った。彼女も寝起きみたいだ。
猫、狐、狼という夜行性の動物の獣人なのにこんな早朝に集まれたのは凄いな。
クラリアは言った。
「これで全員集まりましたね。それでは討伐作戦を開始しましょう。内容はベルファイアに伝えてある為、彼女から聞いておいて下さい。それでは、健闘を祈ります。」
そうしてクラリアは頭を少し下げ、その場を去った。もう出発しても良いのだろう。
ベルファイアによれば、サリヴェルトの神獣には、それぞれに神殿があるらしい。北の方にここからでも見える高い塔があるが、あれは鳥の神獣の神殿らしい。今回向かう狐の神殿はここから北東の位置にある。距離が遠い為、少し急いで向かった方が良いのかもしれない。
「さて、とっとと終わらせよう。」
リンクスがそう言い、先頭につき、全速力で走り出した。急いだ方は良いけれど、流石に急ぎ過ぎである。だが、俺の事など何も考えずに彼は走り続ける。それを俺らも走って追う。大丈夫か?神殿に付く前に体力尽きないか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
野を越え、森を越え、山を越え、そして神殿に到着した。5時間くらい走った気がする。あんなに走ったというのに、二人はまだ余裕そうだった。体力永久機関なのか?そんな2人の横で俺は死にかけで立っていられなかった。俺が体力なさ過ぎなのか…?
というかこんな長い距離走らされるなら乗り物とか用意しておいて欲しかった。自分の足で行くのはキツすぎる。
なんか回復アイテムとか無いのか…?無いよな…。
地面に大の字で倒れている俺を、リンクスは見下ろし、冷たく言い放った。
「おい、何故こんな所でへこたれている。まだこれからだろ。」
鬼教官かよ…。
「…いつもは馬車を用意してくれるんだけどね、今日は馬の体調が悪かったみたいで…。」
「まじかよ」
だとしても全力疾走はおかしいだろ。せめて徒歩で行ってほしかった。追いつけた自分を誰か褒めてくれ。
「よく頑張りましたね〜♪」
その場にいる誰のものでも無い、幼い女性の声が聞こえた。
…え?誰?本当に誰?疲れすぎて幻聴でも聞こえてるのか?怖いんだけど。
その所為からか、冷や汗が吹き出たと思ったら、疲れが吹き飛んだ。まぁ…良かったのか…?
その言葉のお陰からか、俺は元気を取り戻し、先に神殿に入ろうとしている2人の後を追う。
その神殿は灰色のレンガで造られており、外観はまるで城の様だった。
その周辺は異様な雰囲気が漂っていた。神獣のオーラ的なやつだろうか。
内部に入ってみれば、要塞の様な狭く暗い内装となっていた。その内部の所々に、モノクロに変化した部分が点在していた。神獣は虚無の力によって凶暴化しているらしいから、その影響なのだろう。
そうして神殿内を見渡していると、通っていた通路の奥から、虚無の分体が3体ほど現れた。それらは四足歩行の何かの動物の様な形をしていた。
俺は剣を取り出そうとしたが、取り出す前に、既にリンクスが3体全員を倒していた。
よく見えなかったが、とんでもないスピードで動いていた事だけは見えた。
虚無エネルギーをぶつけなくとも、こんなに早く倒せるなんて、彼はとんでもない手練れなのか、それとも、あいつらが雑魚なだけなのか。だが、彼のそのスピードは本物なので前者だろう。
その虚無の分体共が消えると、彼らはまた直ぐに神殿の奥へと走っていった。このままで良いのだろうか。今の所、俺の出番が全く無い。もうあの人だけで良くないか?
そう思いながら俺は放心状態でその場に剣を抜く姿勢のまま突っ立っていた。
「おい、何をもたもたしている。早く来い。」
遠くからリンクスがこちらへ叫ぶ。
そして俺ははっと我に返り、彼らのもとへと走る。
神殿の中では、ただただ俺らは次第に狭くなってゆく通路を歩くだけだった。特に虚無の分体が現れるような事も無かった。
三人の間にはずっと沈黙が流れていた。
ずっとこのままでも気まずいので、そこで俺は二人に聞いた。
「そういえば、狐の神獣ってどんな奴なの?歴史とかじゃなくて、戦闘の面で。」
「そうだね…。伝説によれば、炎の攻撃を繰り出すらしいね。其が発する炎は、どんなものでも焼き尽くすだとか…。」
ベルファイアはそう言った。
「今はあまり情報はないけれど、此処はかつてフレイシーザーを祀っていた施設だ。書庫があれば、そこにもっと詳しい事が書かれてるかもしれないね。」
俺らは廊下を歩きながらそう話していた。
すると、部屋の入口がいくつかある廊下に出た。
こういう所に書庫とかが有るのだろうか。
「一応探索してみるか?」
リンクスが言った。
それにベルファイアが頷くと、二人は辺りの部屋に入っていった。皆こういう事に慣れてるからか、行動が早い。
俺もとある一室に入ってみた。
錆びた鉄の装飾が施された木製の重い扉を開いた。その部屋は誰かの個室の様だった。
部屋の真ん中にベッドが置かれ、その周りに机や椅子、本棚などが配置されていた。壁にはもう燃え尽きた松明が掛かっていた。この部屋には窓が無いため、とても暗かった。
とりあえず俺は一番良い情報が乗ってそうな本棚を物色する事にした。
本棚はそこそこ大きいが、本はほんの数冊しか無かった。
サリヴェルトの神話に関する本や、昔の地図帳、謎のファンタジー小説。街の大図書館にもありそうな本しか無かった。
神話の内容は既にある程度知っているため、その本には特に良い情報は無かった。
今朝は思っていたよりも早く起きすぎてしまったから、朝の4時くらいに大図書館に行ってみたんだ。
そこで歴史書を読み漁っていたのだが、すると歴史に詳しい少女に出会って、神話と歴史の話を頭に叩き込まれたっけな…。
俺は早朝の事を思い出す…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゴゴゴ……。
重い扉の音が館内に響き渡る。
なんだこれは、大図書館って多くの人が来る場所だというのにも関わらず、扉が凄く重い。子供だったら開けられなかったかもしれない。不親切だな…。
それか普段は常に開いてるとか?俺が早く来すぎた所為か?
館内は驚くほど静かだった。人が誰一人として居ない。まぁこんな早朝に人が居ることなんてそんな無いか。
とりあえず俺は、『神獣記』という本を取り出し、広い机が並ぶ館内広場の席に座った。
タイトルの通り、サリヴェルトの神獣に関することが事細かく書かれている。本の道中に挿入されている挿絵からは神々しさが滲み出ていた。絵って凄いな。
それにしても、かなり昔の本だからか、文がかなり読み取り辛い。現代語訳版とかも無いようだし、なんとかこの暗号の様なものを解読しないといけない。
「…わっかんないよ!」
現代を生きる人にとって、昔の言葉は外国語とほぼ同じ様な物だ。雰囲気でなんとなく読み取るしかない。
「教えてあげよっか?」
ふと声がした。顔を上げると、一人の少女が多少のニヤつきを浮かべながら立っていた。ぼさぼさの紫苑色の髪を下ろし、その上に兎耳が生えていた。兎族の子だろう。
「あー、頼むわ」
俺は何も考えずにそれを了承した。
すると、少女は、明らかに身長が合っていないが俺の隣の席に座った。
そして彼女は語り始めた。
「──まずね、神獣は元々神なんかじゃ無いの。其は今でこそ神として崇められていたりしたけど、昔はただの動物の1匹に過ぎなかったの。」
「…なるほど?」
「今の神獣は、人々が勝手に其らを神格化しただけって説が濃厚なんだよね。其らは特別な力を持っていただけのただの動物だったの。」
「でも特別な力を持ってたって事は普通に神だったんじゃ?」
俺は純粋な疑問をふっかけた。
「確かに、神獣は特別な力を持ってる。フレイシーザーは大地創造、アンプタリムは過去改変ができたりとかね。だけど、それだけでは神になんて成れないの。」
「それは何故?」
「例えば、私達人間が特別な力を持っていたって、真の神という存在には成れないでしょ?それは其らも同じこと。…じゃあ君、神に成るには、何が必要だと思う?」
少女はこちらへ問う。
神に成るのに必要な物……か。何だろうか。圧倒的な力か、それとも信仰力?……いや、でもそれじゃ真の神という存在には成れないよな…。
そうこう思考を巡らせている内に、少女は口を開いた。
「はい、時間切れ。」
「今の時間制限あったのかよ?!」
「そだねー。それでね、とある説によると、答えは"外的要因"なんだよ。神に成るきっかけはいつだって外的要因だ。それは何でも良い。神の更に上の上位存在だったり、謎のアイテムの影響だったり、なんなら寝不足だったって良い。実際、この世界の神々は皆そんな感じに神に成ってるしね。」
「なるほど。分からん。」
寝不足で神に成ってたまるか。だったらもう俺は神なんじゃないのか?そんな気持ちは心に仕舞っておこう。
サリヴェルトに来てからなんか難しい話をする人が多いな…。船の少年といい、この少女といい…。
「それでね、神獣は上位存在に神にされたパターンなんだよね。その存在の名前は色々あるんだけど、一般的には『百獣の王』と呼ばれているよ。彼が其らを神にした。目的までは分かんないんだけどね。」
百獣の王…か。五大神獣とはまた違った存在なのだろうか。神獣が中ボスだとするなら、百獣の王はラスボスかな。
それからの時間は、少女が淡々と歴史を解説する時間が2時間ほど続いた。話だけなので、とても退屈であった。
──ふと俺は時計を見た。すると待ち合わせの時間が、残り30分という所まで近づいて来ていた。
一応、もう集合場所へ向かっておこうと思い、俺は席を立った。
「あれ?もうどっか行くの?」
「あぁ、予定があるんだ。」
「そっか…。また来てねー。」
少女は少し寂しげな感じで言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結局彼女は何者だったのだろうか。突然現れてたらたらと歴史を語り続ける拷問をする少女…。
怖いな。
だけど彼女のお陰で、あのやけに難しい歴史と神話も、半分くらい理解できた。ギリ感謝だな。
特に目ぼしい物も無かった為、その部屋を出た。
廊下に出ると、二人も居た。様子からして、彼らもあまり良いものを見つけられなかったのだろう。
周りの部屋も見てみると、全て同じような個室であった。どうやら此処は寮のようだ。
「ここには何も無いようだ。先に進もう。」
リンクスはそう言い、先陣を切って上へと向かった。ベルファイアと俺もそれに続く。
俺らは長い階段を登っていた。数十段はあった。その先には、少し開けた空間があった。
その空間の壁には、とても大きな鉄扉が立ち塞がっていた。この先に何かを封じているかの様に。
扉の向かう側からは異質な暑い空気がこちらへ溢れ出して来ている。
緊張の所為か、俺の体から汗が吹き出た。だが、二人は汗一つ流さず、冷静に、扉を開けようとしていた。
「開けるか。」
「気をつけて。」
リンクスが扉に手をかける。
彼が扉に体重をかけると、扉からドガガガガ、と重い轟音が鳴った。とても扉から出ていい音じゃない。
扉の先は先程よりも何倍も広い空間が広がっていた。真ん中に玉座の様な物が置かれている。玉座の間なのだろうか。
その玉座をよく見てみると、小さい、鮮やかな橙色を灯した子狐がその上で寝ていた。その狐が神獣なのか?
一見、ただの子狐にしか見えないが…。
「あれが神獣?」
ベルファイアに聞いた。彼女はポケットから神獣の絵が描かれた紙を取り出した。そしてそれとあの子狐を見比べる…。
「確かに絵と見た目は同じだけど…大きさが…。警戒は怠らないようにね。」
ベルファイアはそう言った。
「起こすなよ。寝てる間に仕留めよう。あの子狐以外に気配は感じない。刺客の心配はいらない。」
リンクスも続いて言った。
俺はその神獣を起こさないようにゆっくり…ゆっくりと、足音一つ出さないように、忍び足で玉座に近づいた。
すると、その子狐はむくりと起き上がった。
何故だ。足音は完全に遮断してた。気配は無かった筈なのに、どうしてだ?
その瞬間、その空間中に忽ち炎が立ち込め、空間は炎に包まれた。
熱い、熱すぎる。俺は炎に焼かれていた。早く此処から離れなければ…。
俺は走った。その間も炎は俺の身体を蝕み続けていた。
次第に息が苦しくなってきた。
やばい。
このままだと普通に死ぬ。
すると、空間中に充満してた炎が一瞬だけ消えた。
その隙にリンクスがこちらへ飛んで来て、俺の首根っこを掴み、思いっきり引っ張って空間の外へ投げ飛ばされた。
俺は硬い地面に叩き付けられた。
俺は炎の空間が脱出し、やっと息が出来るようになった。
「はぁ…はぁ……ありがとう…リンクス……。」
「お前に此処で死なれたら困るんだよ。」
先程まで居た空間の方へ目をやると、炎が一瞬だけ消えた空間は、もう既に再び炎に呑まれてしまっていた。
その炎が僅かながらこちら側にも侵食している事が見て分かる。
フレイシーザーの炎はどんな物体でも燃やす事が出来る…。なら、この城が燃やし尽くされるのも時間の問題か?
ならこの城が崩れる前にあの神獣を討ち、此処を脱出しないといけないな…。
二人にもそれを伝えておこう──。
「──そうだね。皆、出口を塞がれる前に其を討伐しよう。外に出られたら面倒だからね。」
ベルファイアはそう言い、作戦を考え始めた。
流石は経験者。話と行動が早くて助かるよ。
一体どんな賢い作戦を持ってくるんだ。
そうして少し考えた後、ベルファイアは口を開いた。
「作戦は簡単だ。神獣はこちらが干渉しづらいように、炎の中に閉じこもってるだろう。リンクスがそれを消化してる間に橙雀が虚無エネルギーの弾をぶつけるんだ。其は虚無に侵食されてるから、虚無エネルギーで一撃の筈だ。どう?簡単じゃない?」
思ってたよりゴリ押し作戦だった。
まぁでも確かに、あの大きさならそれで倒せる気はする。
でも俺にそんなエイム力あるのか?まぁいいか。数撃ちゃ当たるだろ。
「よし、それじゃあ早速やってみようか!私は後方支援に回るから、前線はよろしく。」
ベルファイアがそう言うと、どこからともなく銃口が付いている大剣を取り出し、少し離れた位置に着いた。
早速リンクスが前へ出て、炎の空間に向かって、手を払った。
すると、その先から水の霧の様な物が吹き出たと思えば、少しの間だけ炎が消えた。
俺は攻撃を仕掛けれるように構えた。
今のうちに──。
「子狐が居ない…?」
炎が開けた空間に、子狐が見当たらなかったのだ。
「物陰に隠れたか。」
横にいたリンクスが冷静な様子で言った。
確かに、炎の中とはいえど、何の遮蔽物のない場所にいるのは危険だな…。
子狐の癖に、意外と考えている。神獣だからか、人間程の知能が備わっていたりするのだろうか。
「どうするんだ?遮蔽物ごと撃ち抜くか?」
「それは駄目だ。今は両者共に互いの居場所が分からない状態だ。そんな中で弾を外せば、相手にこちらの居場所が割れてしまい、反撃を食らう可能性がある。」
「だったらどうするんだ?」
「…奴をおびき寄せるんだ。」
「どうやって?」
そう聞くとリンクスはパーカーのポケットから肉を取り出した。
「これを使うんだ。携帯用の猪肉だ。狐ならこれによく釣られる。ベルファイアも釣れた事もある。万が一の為の食料として取って置いたが、まぁ良いだろう。これを置いて奴をおびき寄せるんだ。」
こういう肉を食うことって獣人にとっての倫理観的には良いのだろうか。まぁ大丈夫だから食ってるんだろうけど。
そしてリンクスはその肉を一つ、少し離れた、広い廊下に投げた。
「此処で少し待機だ。」
俺とリンクスは念の為物陰に隠れた。
少しの間、待ち続けた──。
──来た。
あの子狐がとことこと、投げた肉の方へ歩いて来ている。
俺らはそれをじっと見つめていた。
隙を伺え。奴が食いついたタイミングで撃とう。
さぁ…食いつけ…食いつけ──。
──食いついた。
子狐は罠の可能性も警戒せずに、その肉に食いついた。
さぁ…今だ…!
俺は腕をを上げ、狙いを定め、手の先に力を込め、呼吸を整え、集中し、虚無エネルギーの弾を発射する──。
その弾は奴に命中した。高密度で発射したからか、それは奴の身体を貫いた。
奴はぱたん。と倒れ、動かなくなった。
完全に動かなくなった事を確認し、二人はその死体に近づいた。猟でもしてる気分だ。
「…これは…死んでいるな。気配を感じなくなった。」
リンクスはそう言った。
どうやらこれで倒せたらしい。やったね。
「おい!ベルファイア。討伐が完了した!こっちに来い!」
リンクスはベルファイアにこちらに来るよう叫んだ。
ベルファイアはこちらへ近づくとどれどれ、と死体を観察し始めた。
これで狐の神獣討伐は完了した。だが、少し後ろに居るリンクスはまだ腑に落ちない様子だった──。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(視点変更:リンクス)
リンクスは思考を巡らせていた。
何故この神獣は子狐の姿なのか。そして何故いとも簡単に討伐できたのか。と
子狐の姿だったのはこちらの油断を誘う為…?だったら最初の発火以降子狐である必要は無い。伝説であった大狐の姿の方が確実に戦闘はしやすい。
今思えば狐は人間程の知性がありそうな動きはしていなかった。もしあの狐が神獣じゃないとするなら…いや、だが気配はあの子狐のみの筈…。倒した後も子狐の気配は消えた…。
それに子狐が神獣ならあのような罠に釣られる訳が無い。其は少なくともまともな人間が有する程度の知能は持っている筈だ。
つまりあの子狐はダミー。あれは炎に焼かれないだけのただの子狐…!
こうしてあえて殺させる事で相手の油断を誘う…。そうしてその死体に集まった所を…。
いや、考え過ぎか?第一、気配が全くしない。なら神獣が居ないなんてことは無い筈だ。
…いや、違う。気配が無いんじゃない。気配が大き過ぎるんだ…!大き過ぎて気付なかった…!
今思えばここら辺一体には異様な雰囲気があった…!それが奴の気配だったのか…?
だとしたらこれは奴の──
そうして俺は咄嗟に敵の攻撃に備えるため、水属性の力を込めながら、後ろを振り返った。
だが、遅かった。
目の前には人の数十倍も大きな狐がそこに在った。
俺は込めておいた力を放とうとしたが、その攻撃は虚しく、既に奴の鋭い爪が俺の胸を切り裂いていた。
「──ッッ!」
辺りに鮮血が飛び散った。
傷口の痛みに苦しむ余裕なんて無かった。
俺は死を覚悟で、側にいたベルファイアを思いっきり蹴飛ばした。彼女をなんとか狐から引き離せた。もう一人の方はどうでもいい。なんとか避けるだろう。
俺はその蹴りで体力を使い果たし、気を失い、その場に崩れ落ちた。
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(視点変更:ベルファイア)
突然リンクスに蹴飛ばされた…?何が起きているんだ?
一瞬の出来事であった。突然リンクスに蹴飛ばされた事しか分からない。
先程まで居た場所を見てみれば、絵で見た通りの狐の神獣の姿と、血塗れで倒れているリンクス、それからまだ存在に気づいていない橙雀が居た。
瞬時に状況が理解できた。
神獣は次の標的を橙雀に決め、大きな前足を挙げた。
その前足に、私は大剣に付属している小型の大砲で砲弾を1発御見舞した。
ドゴォンと轟音を鳴らし、砲弾は弾け、奴の片足は少し欠けた。
「君の相手は私だよ!」
すると、神獣は少しの間、こちらに注意を向けた。
その少しの間に、もう一発の砲弾を橙雀の真下の床に発射した。
そうすると橙雀の乗っている周囲の床は崩れ、橙雀は下の階へと落下していった。それは橙雀を神獣から少しでも遠ざける為だ。
多少怪我をするかもしれないけど、仕方無い。あのままでは確実に死んでいた可能性があったからね。恨まないでね…。
それで、リンクスの方は……見た感じ即死では無い。幸い、心臓と大血管は避けたみたい。でも大量出血で死んでしまうかもしれない。早めに治療しないと…。
「よし、さっさと終わらせよう。」
早めに戦闘を終わらせて、リンクスの治療をしないといけない…あの出血量なら、長くても5分以内に止血しないと確実に死に至る…。
私は静かな殺意と怒りに満ちていた。それはもちろん、仲間を瀕死の状況に追いこんだからだ。
私にとって、孤児だったリンクスやフエルヴィ、ヴァルフォン、コロン、フレン…皆大切な仲間なんだ。
「リンクスからはお節介だと言われるけどさ──」
大剣に砲弾を装填しながら、神獣の方へ歩み出す。其はそれをじっと待ち構えていた。
「──私は皆を救いたいんだ。だから──」
その瞬間、ガキィィーンと、大剣と大爪がぶつかり合う。凄まじい速度で私は其に切りかかった。神獣はそれに反応するのに精一杯だった様だった。
「──邪魔しないで。」
そう言うと、其に隙も与えずに、装填した砲弾を3発程、其の両目に撃ち込んだ。
其はその攻撃に怯む。弱点に命中した様だ。
そして其の視界が見えない間に、心臓、肺に一発ずつ撃ち込んだ
それは一瞬であった。
其はその猛攻にもがき苦しむ。
其の身体は穴だらけだった。脳、両目、心臓、肺、足といった重要な器官が欠けている様子だ。
だけど、虚無に蝕まれてるからか、それだけでは倒れてくれない。身体を破壊し尽くさないと駄目かな。
このまま再生される前に仕留めたいが…。一旦此処は下がって弾をリロードした方が良いだろう。
私の普段使っている、メラレッタから取り寄せたパルテナ工房製の大砲付き大剣『カノンブレイド』は近接武器の大剣に大砲が内蔵されているのは強いしロマンがあるから良いと思うのだけど、装弾数が最大7発は少ないと感じるよね…。
「グゥゥォォォォォォォォォォオオオオオ!!!!!!!!!!」
突如として其がけたたましい唸り声を発すると、自身を炎の壁で囲んだ。
再生を図ろうとしているのか。それを炎の壁で阻止できなくした…と。
だがそんな物はもろともせず、私は炎の壁を走ってくぐり抜けた。
「残念。炎には慣れているんだ!」
神獣はぎょっとした様子で、私の方を見つめていた。
良かった。まだ再生して無かったみたいだね。
私は間髪入れずに、リロードしたばかりの砲弾を5発ほど、残りの箇所に撃ち込む。その部位は弾け飛び、肉塊が舞った。
そして撃ってない箇所に刃を振る。
気づけば其の肉体はバラバラになっていた。
残すは頭だけ──
「グワァァァァァァァァアァァァァアアア!!!!!」
其は最後の力を振り絞り、その咆哮と共に、周囲に大量の蒼炎を放った。
蒼い炎…。完全燃焼の炎だ。その温度は1200〜1500℃以上にも昇るという…。流石に普段から炎に慣れている私でもこれはきついかもしれない…。それを其は弾幕の様にこちらに発射してくる。このままでは近づけない…
「大砲の事、忘れてない?」
ドゴォン、と轟音が鳴り響いた。其の頭部は消滅した。
辺りの炎も消え、この城を包んでいた気配も消えた。今度こそ、狐の神獣討伐は完了した筈だ。
戦闘時間は3分にも満たなかった。
「君、大砲の最大装填数を5発だって勘違いしてたでしょ。あえて5発撃った所でリロードしてたからね。だけど残念、本当は7発だったんだよ。それとも、何も考えてなかったかな。」
もう何もない虚空に私は喋りかけていた。
「さて、リンクスはどうかな。」
倒れているリンクスの方へ駆け寄り、彼の口元に手を当てた。
僅かながらも、空気の動きを感じた。
「良かった…まだ生きてる。」
だが彼の胸元からは血が溢れ続けていた。とにかく止血しよう。
私は着ていた上着を脱ぎ、それで彼の胸部分を押さえた。その上から、紐状の包帯でそれを結び付けた。
とりあえずこれで止血は完了。
応急処置もせずに放置したのはかなり危険な行動だったけど、なんとかなったようで良かった…。
私はふぅ…。と息をつき、安堵と疲労でその場に仰向けで倒れた。
「…俺の事忘れてない?」
ふと声がした。橙雀君の声だ。
彼は体に少し傷を負っていた。でも生きてて良かった。
「大丈夫。君なら生きてると思ってたよ。」
私はそう答えた。続けて、
「とりあえず今回の神獣討伐は成功したよ。あとはこの子を連れて帰るだけ。」
今、クラリアや他の子供達はどうしてるのだろうか。と、ふと思った。
私は起き上がり、黒く焦げた玉座の間のテラスから、外を眺めた。
時刻は16時頃、もう夕方だった。空が茜色に染まっていた。
そして街の方に視線を移す
「──!?」
「…どうしたんだ?」
その目に映ったのは、とても信じ難い光景だった。
「街が…燃えている…!!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(視点変更:ヴァルフォン)
ベルファイアさん達が神獣討伐に向かった後、今日暇な人達は皆クラリアに大図書館へ呼び出された。
「──二人しか居ないの…??」
大図書館で待っていたクラリアは驚いた様子でこちらを見ていた。今日暇な戦闘員は二人しか居ないの?
ちなみに一緒に来ているのはフエルヴィ。
今日はベルファイアさんとリンクス。それから橙雀が討伐に行っちゃってる。でも、それでも暇な人は4人はいるはず。
今日来てないのはコロンとサティー。
「皆どうしてるか分かるかしら…?」
クラリアは少し頬に汗を流しながら聞いた。
「コロンは僕の家で寝てるよ。」
「そう…。サティーは?」
「わかんない」
「そう…。」
クラリアはやれやれといった様子で、僕達二人に話し始める。
「二人とも聞いてると思うけど、二人には街の護衛をしてもらいたいの。そして、不確定な情報だけど、一応伝えておくわ。今回攻めてくる可能性があるのは、『黒曜』という集団よ。」
「なにそれ?」
「そうね…まだ詳細は分かって居ないの、目的もね。でもその集団をまとめてるのは、ボルダインの人間であるという事は確かよ。」
ボルダイン…確か、大陸の北西端にある国だっけ。すごく危険な所だった気がする。あと魔王がいるとこ。
まぁそこはそんなに重要じゃないね。
「とりあえず、街を守っておけばいいってことだよね。」
「そういう事よ。それじゃあ気をつけて、無事でいてね。あとヴァルフォン、できればコロンを連れてほしいわ。頼んだわよ。」
クラリアがそう言われると、僕らは外に出た。
街を守ってと言われても…。何処を守れば良いんだろう…。
「それじゃあ僕はコロンを起こしてくるね。また後で。」
そう僕はフエルヴィに言う。彼はそれに静かに頷いた。
僕は家へと向かう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕は家に着いた。家から大図書館は遠いから移動が大変である。
僕は玄関の扉を開けると同時に言った。
「コロンー、いるー?」
「ん。あぁー…。いるよー。」
コロンはパジャマ姿で僕のベッドで寝転がっていた。凄く眠そうにしていた。今起きたのかな。
僕は彼女に近づき、言った。
「クラリアが街を守ってくれって、」
「えー、やだー」
「僕も一緒にだって。」
「うん、いこー」
そうして彼女は直ぐに起き上がり、着替え、外に出た。
彼女はどこかウキウキな様子だった。街を守るだけなのに、どこにそんなウキウキする要素があるんだろう。
僕らは家を出て、少し歩いた。
まだ何も攻めてくる気配はしない。
この街には、いつも通りの平穏があった。
だけど、その平穏は長くは続かなかった。
突如として、黒装束のフードを被った集団が街に現れた。その人たちは列になって歩いていた、先頭にいる謎の男について行ってるだけみたいだ。
周囲の住民の間でざわめきが生まれる。
すると黒装束の先頭にいた黒髪ロングの帽子を被った男が、とある住民と話しているようだ。何を話してるかまでは、ここからじゃ遠くて聞き取れない。
少しその人達が話すと、その男は、住民をズタズタに切り裂いてしまった。
瞬間、街中に絶叫が響き渡る。公共の場で殺人が行われたのだ。その場の住民達は混乱に溢れた。僕も動揺を隠せなかった。
そんな中、その男はこちらに向かって、ゆっくりと歩いてくる。
その道中でも、男は住民と何かを話し、その後にその住民を切り裂く事を繰り返した。
逃げる事など容易い筈なのに、その場の誰も、その異質過ぎる存在の男の前では、恐怖で逃げ出すことはできなかった。
そうして、男はこちらに向かって、ゆっくりと近づいて来る。それは、次は僕の番だと示していた。
「…コロン、逃げれる?」
小声で、僕の腕に捕まってるコロンに聞いた。
彼女は少しの間を置いてから、首を横に振った。やっぱりそうか…。どうにかしてここで死なないようにできないのか…?
そうこう考えている内に、男は僕の目の前にやって来た。その男の顔には、両目を覆うように包帯が巻きつかれており、その上に丸眼鏡を掛けていた。
目は見えない筈なのに、こちらをじっくりと見つめているように感じる。
僕の心臓の鼓動はとても早いスピードで鳴り、冷や汗が止まらなかった。
そうして、その男は口を開いた。
「貴様は、クラリアという人物が何処にいるか知っているか?」
それは、クラリアの居場所を尋ねる問いだった。
僕は直感で感じた。今ここでクラリアの居場所を伝えれば、クラリアは殺されてしまうと。そしてもし伝えなかったら、僕が殺されると…。
僕は迷わず答えた。
「知らない。」
クラリアの命に比べたら、僕の命なんて安い物。クラリアが殺されて神獣討伐が止められるのはなんとしてでも阻止したい。
「そうか…。それは残念だ。」
男はそう言った。そして、僕は隠し持ってた剣を取り出した。
ガキィィーン
まるで剣と剣がぶつかり合うような音がした。男は剣を持っていないというのに。だけど、男の攻撃を受け止めれたみたいだ。
男はたまげた様子で、
「ほう?これを防げるとは…。面白い。」
その顔は笑っていた。それは不気味な程に。
その瞬間、僕の身体は途端に切り刻まれた。剣で防げなかった。不思議な事に、物理的に切られた感触がしなかった…?
傷はまだ浅いが、それでも僕の身体中から鮮血が吹き出た。僕は立ってられずに、剣を落とし、その場にへこたれる。
「ふむ…。これは防げなかったか…。残念だ。」
そう男は、僕を見下ろしながら言った。
だけど、男は僕を殺さずに、他の住民の所へ向かった。その代わりか、黒装束の男が5人、僕の方へ歩いてきた。
僕はこの人達にこれから殺されるのだろうか…。だけど、そんなのは嫌だ。
僕は傷だらけの身体を起こし、斧を取り出した。それを見た黒装束の人達は静かに片手剣を取り出した。
僕は斧を振りかざした。意外にもあっけなく、一人の頭は割れた。特別な防御をしてこない、人形を相手にしているみたいだった。
そんなだからか、5人を倒すのに、そこまで手間は掛からなかった。
だけど、さっき切られた傷は、じわじわと僕の身体を痛めつけ続けていた。
「ヴァルフォン…無理はしないでね…。」
側で座り込んでいたコロンが、心配そうな目付きでこちらを見る。
僕はコロンに「大丈夫」と伝えようとした。
だけど、そんな暇は与えられなかった。
次から次へと、黒装束の集団がこちらに向かってくる。
僕はそれに応戦しようと試みるが──。
「あっっ……」
大量出血により、体に力が入らなくなり、倒れてしまった。
そんなのはお構い無しに、黒装束の人達は、刃を向けてこちらに向かってくる。
僕は今度こそ死を覚悟した。せめてコロンだけでも…。あぁ……こんな所に連れてくるんじゃ無かった…。
そうして僕は目を閉じた。特に意味はない。
…だけど僕は突然、謎の浮遊感を感じた。天国に登ってるのかな。
目を開けてみると、空の上だった。何かに掴まれて、運ばれてるみたいだ。
視線を上にやると──。
「──フエルヴィ…。」
フエルヴィだ。彼は鳥族だから、空を飛べる。多分間一髪の所で、僕らを助けてくれたんだと思う。コロンも一緒に運ばれていた。
彼は少し飛び続けると、近くの高台で僕らをおろした。そして彼は丁度良いところにあった近くの椅子に座り込んだ。
「…ありがとう。」
「はあぁ…。年上を二人も運んだから…めっちゃ疲れた…。」
フエルヴィは息を切らしながら言った。
続けて、
「はぁ…ところで、今どんな状況?」
彼は高台から街を見下ろしながら聞いた。
「それは…僕にもよくわからないけど、あれがクラリアが言ってた、『黒曜』だと思う。それと、その人達はクラリアの事を探してた。多分クラリアを殺す為に…。」
「…何故クラリアさんの命を……何故だ…?」
フエルヴィは少し考えたが、彼らの本当の目的までは分からなかった。
事態は悪化していた。黒装束の集団が街中に散り、住民の殺戮が行なわれている。
事を重大にさせ、偉い立場の人……クラリアをおびき寄せる為だろう。
それと、フレン達は無事なのだろうか…。ちゃんと逃げれてると良いけど……。メイエナも、ちゃんと逃げれてるのか…?いつも余裕そうにしているけど……。それにクラリアも──。
次々と不安要素が湧いて出てくる。
頭の中は不安でいっぱいだった。
「………うぅっ…」
このような惨劇を見ていると、あの時の事を思い出して、気分が悪くなってくる。嫌でも思い出してしまう。
そんな僕を見かねてか、横で傷の手当をしてくれてたコロンはそっと僕に抱き着いた。
「大丈夫…私がついてるからね………。」
………。
それを遠くから見ていたフエルヴィは言った。
「今はいちゃいちゃしてる場合じゃないぞ。此処ももう安全じゃ無くなるかも知れない。移動しよう。」
街では、黒装束の男達は建物に火を付けていた。民家はごうごうと燃え、煙を上げていた。
僕はフエルヴィに言った。
「…街の護衛はしなくていいの?」
「今は怪我人がいるから、そっちを優先する。」
彼は僕の方を見つめながら言った。その怪我人というのは、僕の事なのだろう。
「──それからコロンさん、そっちは戦えそう?ヴァルフォン君の代わりに戦闘に加わってほしいんだ。」
「いいけど…武器無いよ?」
そういえば護衛に行くというのにコロンに武器を持たせてなかった…。
「無いなら僕の物を何個か貸そうか?」
念の為、僕は武器を常に5つ程隠し持っている。それで戦闘中に敵の不意を付きつつ戦っている。この前喧嘩押し売り業者と戦った時もそうして追い払ったしね。
そうして僕は懐から剣とリボルバー銃を取り出し、コロンに渡した。
「やっぱり武器持ち過ぎじゃないか?重くない?さっき運んでる時も重かったし…。」
それを横から見ていたフエルヴィはそう言う。
「確かに重いけど、念の為にね。」
僕はそう答えておいた。
多分この斧とナイフがあれば、最低限は戦える。戦闘中の不意打ちは狙い辛くなるけど、黒装束の男くらいなら、問題はないと思う。多分。
「それじゃあ、ヴァルフォン君をひとまず安全な所まで連れて行こう。」
彼はそう言うが、もうこの街に安全な場所なんて無いのかもしれない。
見た感じ、この街の中心部分は殆ど全て黒曜に破壊され尽くされている。
なんなら僕らがいる高台が一番安全だけど、それは時間と共にそうじゃなくなるだろう。
もう安全な場所といえば、街の端あたりか、郊外や森だろう。そういえば、森に住んでるおじさんがいた気がする。その人の所は確かに安全かもしれない。
「──歩ける?」
コロンがこちらへ手を差し伸べる。
僕はそれを掴み、立ち上がる。
「うん。大丈夫。」
そうして僕らはその高台から降り、街の中を歩き続ける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その道中で黒装束の集団に何度か戦闘を仕掛けられたが、他の二人が難なくそれを片付けた。頼もしいね。
長い間歩いているが、まだ街からは抜け出せない。
サリヴェルトの街は、昔削られたとはいえ、未だ広大だ。それに複雑である。だからその分安全地帯も広くなる。敵からすれば、この街は迷路のようだ。侵入も遅れる。
「…気をつけて。」
フエルヴィが言い、立ち止まり、剣を構える。
彼の視線の先には、黒装束の男が居た。だけど、他とは違う。ただならぬオーラを発していた。
暫くの間、互いは見つめ合い、沈黙が流れる。黒装束の男は微動だにせず、こちらに身体を向けるだけ、僕らはいつ来るか分からない攻撃に備えていた。
その瞬間、地面が眩い光を照射した後、爆ぜた。その衝撃で三人は飛ばされ、分断された。
僕はそのまま、大図書館前の噴水広場の所まで飛ばされた。二人の姿は、建物に隠れて確認できない。
僕は立ち上がった。
直ぐに二人の所に戻らないと──。
「何処に行こうと言うのかね?」
背後から、身の毛がよだつ様な、恐ろしい声が聞こえてくる。その声には聞き覚えがある。あの時、人々を殺し回っていた、黒装束集団の先頭にいた男。
後ろを振り返ることすら、その圧倒的な威圧感の前では許されなかった。
僕は恐怖で、全身から汗が溢れ、身体を震わせていた。
男は続けて、僕に言う。
「貴様はクラリアという女の居場所を知っているな?」
気づかれていた。だが、彼女の位置を伝えてしまったら、彼女は殺されてしまう。
絶対に彼女を死なせる訳にはいけない。
絶対に彼女の位置を伝えてはいけない。
だから、僕はじっと黙る。攻撃を仕掛けようとも思ったが、瞬時に無理だと悟った。
僕ではこの人に勝てない。戦っていなくても分かる。
「どうした?答えないのか?」
男は話を続ける。
「貴様が答えないというなら、答えるまで、存分に痛めつけてあげよう。」
そう言いながら、男は僕の背中を刃物でなぞり始める。背中が傷だらけになる。だけど、僕は口を割らなかった。
何度蹴飛ばされても、背中を切られても、殴られても、血を吐いても、口を割る事は無かった。
他の皆が死ぬくらいなら、僕だけがここでやられた方が良い。
僕は口から血を垂れ流しながら、地面に跪いていた。
「ふむ…。常人なら、これで口を割る筈なのだが…。なかなか丈夫な肉体だ。」
男は困った様に喋る。
続けて、
「なら、先程まで一緒にいた者共だ。貴様の目の前で、奴らを死なせてあげよう。」
「────!!」
それは駄目だ。絶対に駄目だ。
僕は動揺を隠せなかった。それを見て男は少し嗤っていた。
二人が殺されてしまう。それは阻止しないと──。
「ならば、あの狼の小娘からにしようか…。」
その男は、コロン達がいる方向に向かって、歩き出した。
だけど、その時──。
「貴方が探している人は、ここに居るわよ。」
──声がした。その声は紛れもなく、クラリアのだった。
声の方を見てみれば、クラリアが居た。
どうして、何故彼女がこんな所に…?出てきたら殺されてしまうというのに…。
「子供達がこれ以上痛めつけられるのは見過ごせないわ…。」
「フン、ならばもう少し早く出てくれば良かったものを。」
クラリアは今までに無い、真剣な顔つきだった。死を覚悟してるかのような、そんな顔だった。
彼女は此処で死ぬつもりなのか…?だけど、そうしたら神獣討伐は──。
そして1秒にも満たない間に、男はクラリアの目と鼻の先にまで迫っていた。
男は彼女の首を片手で掴み、持ち上げる。
「貴様の様な有能な女は後々厄介だ。先に始末しなければならないならない。」
男は軽くそう言うと、首を掴んでる手に力を込める。
クラリアの首が徐々に絞まってゆく。
苦しみながらも彼女は口を開く。
「……貴方………ボルダインの……『風蝕』…ね。…貴方の噂は…聞いている……わ」
「ふむ。いつの間にか私も有名人になっていた様だ。」
男は首を絞める力を更に強めた。クラリアの首からはギチギチと音が鳴る。
僕は残りの弱い力で隠し持っていたナイフを男に投げる。だけど、それは難なくキャッチされてしまう。
阻止しようとしても、それは無駄な足掻きでしか無かった。
僕はクラリアが殺されるのを、動けないまま見届ける事しかできない。
「…そろそろ終わりにしようか。さよならだ、クラリア。」
「……やめっ───!」
彼は最後にそう言い、その手でクラリアの首の骨を握りつぶした。バキィ、と骨が折れ、潰れる音だけがその場に乗り残されていた。
彼女の身体はピクリとも動かなくなり、男が手を離すと、その遺体は静かに地面に落下した。
僕はそれを見るだけしか出来なかった。阻止出来なかった。そんな強い罪悪感が僕の頭を支配していた。
ドッッッ
途端に鈍い音がした。瞬時には気付なかった。僕の右目をナイフが貫いていた。
男に投げた物が、投げ返されたのだ…。
ドサッ
僕はそのまま意識を失ってしまった。
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(視点変更:フエルヴィ)
突然目の前に現れた黒装束の男に、僕らは分断された。
僕はそのまま黒装束の男に戦闘を仕掛けられる。
「──そっちの目的は何だ!」
僕は黒装束の男に聞いた。だが、彼は無言のまま、こちらに攻撃を仕掛ける。
彼が手を構えると、辺りの地面が発光し、その後爆発する。
だけど、その攻撃は、僕には通用しない。鳥族である僕なら、空を飛んで避ける事は容易い。
すると、男は手を合わせ、指先をこちらに向ける。その先から光の線が、銃弾の様に飛び出す。
「──速い…!」
それは一瞬で僕の頬を掠めた。相手のエイム悪くて助かった…。傷口は燃えているかのように熱くなる。
あれは光属性の攻撃。なら光と同じ速度で属性エネルギーを放射できるという事なのか…?だけど、そんな事可能なのか?何か種があるのか…?
もし、種も仕掛けも無いのなら、彼は光属性を扱う達人となる。
光属性とは厄介なものだ。特に光の屈折を発生させ、相手に幻覚を見せる戦い方をするタイプ。相手がそれを扱える場合、この戦闘の勝率は格段に落ちる。
僕はその場に風属性の力で竜巻を吹かせる。辺りの砂を巻き上げ、擬似的な砂嵐を作り、相手の視界を僅かながらも奪う為だ。こうする事で、相手の攻撃をこちらに的確に命中させることは難しくなる…!
「───!?」
その強風で、男のフードが捲れ、男の顔が顕になった。
その顔には、何も無かった。目も、鼻も、口も耳も、何もかも。のっぺらぼう……いや、それは人形のようだった。
僕が戦っていた、あの達人級とも言える光属性の技能を持っていたのは、人間ではなく人形であった。
でも、人間じゃなくて良かった。もし人だったら、殺すのを躊躇っていたかもしれない。
そう思うと、少し気が楽になった。
僕は人形へと剣を構えながら飛んだ。それに切りかかったが、黒装束はありえないほど硬かった。鉄の剣くらいでは、傷一つつかなかった。
そして、人形は反撃を開始する。
人形は瞬時に、眩い光を発した。そして、爆ぜた。その衝撃で、僕は上に打ち上げられた。
鳥族で空を飛べるからなんとかなったけど、そうじゃなかったら落下死している高さだ。危ないな。
人形は続けて、光の弾幕を放つ。だけど、これはそれ程速くは無い。避けるのは容易だ。
「もうこんな所で足止めされる訳にはいかないんだ…!」
僕は空中で剣を構え、力を込める。集中だ。集中。
風とは空気の流れ。風属性による打撃は、空気を押し出した塊。つまり、空気を刃の様に研げば──。
「──風ギロチンの完成だ…!」
そうして僕は溜めた力を一気に放出した。
高密度に固めた風は刃の様に変形し、目にも止まらぬ速さで、人形へ落ちていく…。
そして地面に着弾。人形は、地面ごと真っ二つに割かれた。
「ふぅ…。これ、結構消費が激しいんだよね…。」
この戦闘で多くの体力を使ってしまった。まだ戦いは続くかもしれないのに。
だが、不思議な事に、先程まで沢山いた黒装束の男達は、何処にも居なかった。
何故だ…?
僕は辺りを飛び回った。ヴァルフォン君とコロンさんは一体何処へ──。
上空から二人を探す。コロンさんは戦闘力的に大丈夫だとして、ヴァルフォン君は大怪我負っている…。一刻も早く見つけ出さないと──。
「────いた。」
噴水広場の方に、ヴァルフォン君らしき影を見つけた。
僕は急いで地面へ着地する。そして彼の居る所へ駆け寄る──。
「…。」
僕は一瞬、事態が理解出来なかった。その広場には、ヴァルフォン君が血溜まりを作って倒れており、その近くにはクラリアさんが…。
それを見て僕は唖然とした。安否を確認しようと、話しかけようとしたが、声が出せなかった。
「………ッ大丈夫かぁーッッ!!!」
そこで、息を切らしたベルファイアさんが、その場に現れた。
彼女は背中に、体中に血塗れの包帯が巻かれたリンクス君を背負っていた。
「ベルファイアさん……。」
「フエルヴィ……。これは……。」
ベルファイアさんは倒れてる二人の方を見て、焦った顔をしながら言った。
「…分からない…何者かにやられて……。」
そう言ってる間にも、ベルファイアさんは背負っていたリンクス君をそっと下ろし、直ぐに倒れてる二人の安否確認を始めた。
「何だこれは……体中が傷だらけでボロボロだ…。一体誰が…。」
彼女は倒れたヴァルフォン君の前で、涙ぐんだ声で言った。その声には、微かにも大きな怒りが込められていた。
「……虫の息だが、生きている。」
彼女は一瞬だけ安堵した様子を見せ、次にクラリアの方へ向かった。
ベルファイアさんの顔色は明らかに悪くなっていた。
「こっちは……もう駄目みたいだ。」
彼女は静かにそう言った。
その場の空気は、どんよりと重かった。まさに絶望。
僕らはこんな惨状に、涙を流す事しか出来なかった。
To Be Continued…
さて、まだ序盤のはずなのになぜ死傷者が出ているんだい。
まぁそんな物語です。




