転換
爆破魔スバラ=シイヨと接触し、重大な情報を手に入れた橙雀とロザン。
一方で、スレインはルペタルを殺害する事に成功したが──
荒廃した街での青空教室とスバラ=シイヨの演説(?)を聞いていた所為で妙に疲れた。耳と頭しか使っていないのにだ。
あれが終わってからロザンは何処かに行ってしまったしな…。さて、どうしたものか。残りの半日はこの荒廃した街を散歩でもするか?いや、こんな所を歩いてたって何も無いよな…。
とりあえず俺も街の方へ帰ろうかな。
そんな事を考えながら俺は中央街の方へ足を運び出す。
「そろそろ休憩の時間が欲しいなぁ…」
そう不意に呟く。この3日間、突然尋問されたり、なんか財閥の裏の顔の調査したり、青空教室が開かれたり…。色々とありすぎるな。そんな事が続いているから今は休息がとても欲しいのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらく色々考えながら歩いているうちに街の通りに到着していた。その時にはもう既に夕方に差し掛かる刻であった。
そういえば、スレインは何処に行ったのだろうか。何か別の用事があったらしいが…。まぁいっか。──ん?
向こう側からロザンが急ぎ足でこちらへ向かってくる。
「橙雀!また突然ですまないが緊急事態なんだ!すぐ来てくれ!」
ロザンは切羽詰まった様子で話している。
「今度は何があったんだ?」
「今回は国の存亡に関わる事なんだ!だからすぐに来い!詳細は移動中に伝える!」
いつも落ち着いているロザンがこんなに台詞に感嘆符を入れるのは初めてかもしれない。そりゃ国の存亡に関わるんだ。入れない方が不自然だ。
…は?国の存亡に関わる……?マジでやばい奴じゃねぇか。
俺は直ぐに了解のジェスチャーをし、向こう側へ走っていくロザンを追う──。
「──で、国の存亡に関わる事って何だ?!」
街道を走りながら俺はロザンに聞いた。
「いろいろあって国を滅ぼしかねないとんだ化物がこの国に解き放たれる!それを直ちに始末しないとこの国は陥落する!」
いろいろって何だよ!そこも大事かもしれんからちゃんと説明してくれ!─だがそんな事言ってられる状況では無さそうだ。黙っておとなしくその化物を始末しないと──。
ロザンが走っていく方へ俺も走ると、そこは王宮であった。フリタールのちょうど中央に位置する立派な王宮だ。
「此処にその化物がいるのか?」
「あぁ。それも超危険な個体のな。」
彼は迷い無く王宮の中へ突撃していく。それに俺も続く。
その中に入り俺らは言葉を失う。王宮内部は辺り一面血の色に染まっていた。そこら中に衛兵らしき人や中型くらいの化物の死体が転がっている。悲惨という言葉でも形容し難い程に内部は朽ちていた。
「…これ程とはな…。しかも化物の死体も転がっている…。化物は一体だけでは無かったのか…?」
ロザンが呟く。この惨状は彼にも予想出来ていなかったのだろう。
「──この王宮の何処かに例の大物がいる筈だ。そいつを直ぐに始末しないとこれが街中に広がる事になるぞ…。」
彼は立ち塞がってきた生き残りの化物共を炎を纏った大剣で薙ぎ払い、一網打尽にした。これが処刑人の力か。初めて見たときは弱い人だと思ってたけどちゃんと強い人っぽくて少し安心。それにその謎の炎魔法は何なんだ。あの刻律者とかいう女性もやってたけど…どうやってやっているのだろうか。聞いてみよう──。
「──って居ないじゃん」
ロザンの姿が遠くに見えた。彼はもう先に進んでいたみたいだ。どんどん先に進むロザンを追いかけるのにはとても苦労した。
そして俺たちは王宮内を探し回る。他の場所も変わらずに死体で部屋が散乱していた。だが、これといった収穫は見つからない。
そして、俺達は玉座の間の前に到達した──。
「──なんかここだけ何かを感じるな。」
なんというか…オーラみたいなのを俺は感じ取った。あの時の無彩色のオーブに近い感じがするというか…。そこに無い筈なのに絶対的な存在を感じる…。
一方、ロザンはこの重い雰囲気には気づいていない様子だ。もしかしたら、これは俺にだけある特殊能力みたいなものなのかもしれない。
「玉座の間に何かあるのか?」
ロザンは俺に聞く。一応、俺だけがこれを探知できることは伏せておこう。
「あぁ、なんかそんな気がする。勘だけど。」
「なら一応中を確認しろ。何かあるかもしれない。」
そう言われ、俺は巨大な鉄と木製の両扉を両手で押す。ゆっくりと大きな音を立てて扉は開かれた──。
「…!!」
二人は驚愕した。玉座の間には、胎児のような姿をした禍々しい化物がいた。肉体の周りに膜のようなものが張られていた。それはこの広い空間を埋め尽くすほどの巨体であった。もごもごと蠢き、肉体からは謎の液体が溢れ出ており、部屋中がそれに濡れていた。
「…なんだこれ。これが例の化物なのか…?」
「あぁ、おそらく。」
するとその化物の後ろから見覚えのある人物が出てきた──。
「──お前は…確か、アルベルト…?!」
あの金色の長い髪をおろしたスーツ姿の男は、紛れもなく以前死んだ筈のアルベルトであった。以前泣き別れになったはずの上半身と下半身は何事も無かったかのように結合していた。
「お久しぶりですね。橙雀殿。またお会いできてとても光栄に思います。」
彼は僅かな微笑みを浮かべ俺に丁寧な挨拶をした。
「どうしてお前がここに居るんだ?この前死んだはずだろ?」
「…橙雀殿、確かに私は一度死んでいます。ですが、今現在、私は虚無の分体として新たな命を手に入れました──。」
虚無の分体として…?──まさか、彼は虚無の分体と融合したということなのか…?!
彼は続けて話す。
「──新たな命と言いましたが、厳密にいえば今の私は生命体から脱却した存在。死んでいるような状態である。今の私にどれだけ攻撃を仕掛けようとも、直ぐに身体は再生しますし、身体が消し飛んでもそのまま活動は続けられます。ですがそんな私にも一つだけ、弱点があります…。特別にお教えしましょうか?」
「あぁ。教えてくれ」
彼は先程よりも明るく笑いながら答えた。それはこちらを見下すかのような笑いであった。
「虚無のエネルギーを与える事です。虚無エネルギー同士が衝突すると互いに相殺される。…ですが、人間が意図的に虚無エネルギーを放出する事は不可能です…!つまり、誰も私を止められない…!」
そこまで言うと彼はフハハハと高笑いを始めた。それは今までの彼に対する印象からは想像できない程に煽りが含まれていた。
「あぁ…すまないね。つい笑いが溢れてしまった。…他に何か聞きたいことはありますか?」
彼は突然落ち着いて言った。質問…か。彼に聞きたいことは山程ある。折角なら全て聞いておきたい。
「お前の目的は何だ。」
彼はとても笑いのこもった顔を話し始める。
「…この前までは女皇様の計画を完遂させることだったのですが…生憎、私は見限られてしまったのですよ。なので私は自身の目的の為に国を利用する事にしたのですよ。目的はとても単純で愚かなものだとは思いますが……破壊の欲求を満たす為です。その為に私は女皇を殺害し、本来国一つ滅ぼして終わりの筈の化物にとある血液を注入し、大陸を破壊できる程のより凶暴なものへと進化させました。それだけです。」
本当に愚かな奴だ。私利私欲の為に大陸を潰すだなんて…。もう少しまともな目的は無かったのか?
俺が次の質問を問う前に彼は口を開いた。
「…おや、そろそろ時間の様です。では、後は頑張って下さい。」
彼はその胎児のような化物の方を一瞥し、その場を去ろうとする。俺らはそれを止めようと足を踏み出した。
しかし、化物が突然暴れだしそれは阻止された。化物は足の様な部位で膜を破り、姿を現す──。
あまりの巨体により、玉座の間が破裂してしまいそうになる。俺らはすぐに窓から外へ脱出し、中庭に出た。
風船のように化物は巨大化していき、ついには玉座の間は耐えきれずに崩壊してしまった。そこら辺で巨大化は止まった。
そこに現れた人間とカタツムリと植物の複合体の様な悍ましい外見の化物は上からちらりと俺らを一瞥した。化物に目はついていないが、確かにそう感じた。
すると、化物は俺らの事はお構いなしに街の方へ向かい始める。
「まずいな。このままでは街の方へ被害が出る。直ちに止めなければ甚大な被害が出るぞ…!」
俺らは直ぐに化物の進行を止めようと攻撃を仕掛ける。だが、剣で斬りかかっても、炎で燃やしても、奴は風に吹かれた程度にしか感じていない様子だ。
普通の化物は通常攻撃でも葬れるらしいのだが、奴にそれは通用しないようだ。
何か策は無いのか…?
俺は思考を巡らせた。奴にダメージを与える方法だ。それは何か。剣で無理なら大爆発とかか?それも核爆弾程の威力があれば──。
いや待てよ、どっかで聞いたことがある。虚無の分体は何処かの学説では虚無エネルギーの集合体。それに虚無エネルギーを打ち込めば──。
「ロザン、あれを倒す方法が分かったかもしれない。」
「何だ。それは」
「あの化物は虚無エネルギーの集合体だろ。あれに虚無エネルギーをぶち込めば、あれは消滅するんじゃないのか?」
ロザンは少し間を開けて言った。
「…確かにそうだが、どうやってあれに虚無エネルギーを与えるんだ?」
「まぁ任せとけ。」
そう言い残して俺は化物の方へ向かった。
特に作戦とかは無いが、まぁなんとかなるだろう。そんな俺をロザンは馬鹿を見るような目で見ていた。
そして俺は虚無エネルギーを剣に込める。剣は白黒に光り、それで奴の胴体を斬りつける。すると、斬られた部位とその周辺が塵となり、灰のように消滅した。
やった。この手は奴に有効だ。だけど、それには問題があった。
そう、奴の身体は自然に再生を始めていたのだ。虚無の分体は傷口を放って数秒すると、自然に再生を始める性質がある。この剣でちまちま攻撃してるだけでは永遠に戦いが終わる事は無い。
俺は攻撃を警戒し、後退して馬鹿を見るような顔をしているロザンのいる所へ戻る。だが奴は攻撃を仕掛けてくる気配は無い。
「なぁロザン、なんか一撃必殺の技とか持ってないのか?」
「は?無いが。それがどうした。」
「いや、あいつの再生能力が強いから再生される前に殺したいんだ。何か広範囲で1発ドカンできれば倒せそうなんだ!」
一応化物にも通常攻撃は通用する。あれに効くかは知らんが。だから一撃で大ダメージを与える方法が欲しい。流石にあれを一撃で葬れるほどの虚無エネルギーを放出出来ない。オーバーヒートして死ぬ。
なら核爆弾はどうだろう。だけど俺らがそんなもの持ってるわけ無いし…。あぁ、こんな時にスバラ=シイヨが居ればなぁ…。大声出したら来てくれないかな。
「おーーい!!スバラ=シイヨッッッ!!!いるかーー!!!来いッッッッ!!!」
「おいおい何をするつもりだ?!」
俺が叫ぶと、信じられないような表情で彼も叫ぶ。彼は俺の事を完全に馬鹿だと思っている。まぁ彼から見たら確かに馬鹿みたいな行動だったよな。そう思われても当然だ。
すると遠くの方から爆破音がした。その方向を見ると、爆風で空中滑空してこちらへ向かってくる人影が見えた。
「やぁ、ワタシを呼んだかい?」
マジで来やがったこいつ。まぁいいか、丁度良い。
「実は赫々云々で…。」
「なるほど」
多分理解してもらえただろう。便利だなぁこの言葉。これを言うだけで会話が省略できるなんて。それから二人で計画の打ち合わせをした。その様子をロザンは遠くから見ているだけだった。
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時は少し進み、化物は王宮の正面の広い庭の様な所に到達した。奴の進行速度が遅くて良かった。
作戦はこうだ。まず、スバラ=シイヨが奴を大爆発させ、奴を発散させる。それで残った部位を俺が消滅させる…。とてもイージーな作戦だね。即興で考え、直ぐに実行に移す何の計画性の無い作戦だが…まぁ大丈夫だろう。
化物が広い庭の中央に到達した頃、俺は合図を送った。すると、奴の身体の上部分がドカーンと、赤い閃光が辺りに弾け、奴の身体も弾け飛ぶ。そこに俺は建物の上から飛び込み、虚無のエネルギーを大量に放出し、奴に浴びせた。残りの奴の部位が灰になるかの様に消えてゆく。
これで作戦は成功!──の筈だった。どうやら、奴の身体は虚無100%では無かったらしい。一部分に紅い肉塊の様な物が見える。あれが本体なのだろうか。
そうして奴はけたたましい咆哮を上げた。鼓膜が破れそうだった。そしてそれは人間の悲鳴のようにも聞こえた。
俺はその咆哮の圧で宙に飛ばされた。そして肉塊から鋭い茨の様な物が飛び出てきた。それは物凄い速さでこちらへ飛んでくる。あ、これ終わったかも。
死ぬ直前だからか、世界がスローモーションに見えた。走馬灯はまだ見れない。俺は目を瞑った──。
「…あれ、死んでない…?」
目を開けると、俺は横方面にふっ飛ばされていた。視線を動かすと、見覚えのある人物が居た。
「橙雀、君は命を粗末にし過ぎだ。」
スレインだった。彼女が死ぬ寸前の俺をどうにか助けてくれたのだろう。何故か彼女の背中はびしょ濡れだった。
「あぁ、ありがとう…。これからは気をつけるよ。」
「…それで、アレは何だ?」
スレインは化物の方を見ながら俺に聞いた。
「…なんか知らんが何故か生きてたアルベルトが作ったやべぇ奴だ。」
「……は?」
真顔だった彼女の顔は一瞬で鬼の形相へと変貌した。妹の敵がまだ生きてたんだから当然だろう。おそらく彼女は化物よりもアルベルトの事の方に苛立っている。
「それで、奴は何処に?」
「どっかに逃げた。」
スレインはため息をついて言う。
「…とにかく、今はこれを先に片付けないとな。」
そう言いながら彼女は銃に弾を込め、戦闘の準備を進める。
半身が吹き飛んだ化物は直ぐに再生したが、先程より不完全な形態になっている。あんなバケモンでも100%の完璧な治癒は無理みたいだ。なら、あの茨に気をつけながらさっきみたいな大ダメージを与え続ければ勝てるかもしれない。
スレインにも協力してほしい為、彼女にも作戦の概要を伝えた。彼女からも馬鹿を見るような目で見られたが、協力はしてくれそうだ。
少し時は進み、もう一回あの作戦を実行しようとしていた。俺は合図を出し、奴の上部分を爆破させる。ボガーンと、気持ちさっきよりも大きな爆発を発生させた。奴の身体は、再生したばかりで完全治癒出来ていなかったからか、スライムの様に、ブワァッと肉片が飛び散った。
そして残った部位に俺も気持ちさっきより大きめの虚無エネルギーをぶつける。奴の胴体であろう部分も灰のように消えてゆき、本体であろう肉塊が露出した。
今回も茨が飛び出てくるかと思ったが、そんな事は無く、俺は命を省みずにその肉塊へ飛び込み、手を伸ばす。
すると、突然白い光が俺を包み込んだ。俺の視界は真っ白になり、段々と身体の重みを感じなくなっていった──。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…あれ?」
気がつくと、俺はまたあの庭園に居た。何故このタイミングなんだ…?
辺りの芝生の真ん中に、こちらに背を向けた少女が腰を下ろして座っていた。あの時の少女かと思ったが、なんか雰囲気が違う。前あった方は幼そうな印象を受けたが、今いる少女はもっと幼い感じがする。見かけからして5歳くらいかな?
俺が少女に向かって歩みだすと、彼女は俺に気づき、こちらを振り返った。
「誰…?」
エメラルドの様な丸い瞳でこっちを凝視しながら少女は言った。
「あー、俺は橙雀だ。君は?」
「私、ルシウス。」
「そっか。迷子?」
彼女は首を横に振る。迷子では無いんだな。不安そうな様子からしてすごい迷子っぽいけど。
それにしてもこの庭園の存在がますます謎に満ちていく。俺の精神状態を表すだけの精神世界かと思ったけど、なんか全く知らない人がいるし…いや、この人は俺の知り合いだったのかな。俺が忘れてるだけ?
確かになんか見覚えのある気がする…。何だ?でも見覚えがあるなら記憶失ってから知った事になるのか?だったら──。
「あ。」
完全に思い出した。この子、スレインが尋問タイム中に見せてきた写真の子だ。それになんか研究所の資料の中にもいた様な…。
俺はルシウスの顔を見つめる。
…確かにこうしてみたら割とスレインと顔似てるな。でもまだ確証は無いから一応聞いておこう。
「ねぇ、君にお姉さんとかいる?」
「うん。スレインお姉ちゃんってひとがいるよ。」
スレインの妹確定!あの人妹とか居たんだ。でもなんで彼女が此処に…?
…もしかしてあの肉塊が彼女なのか?あれに触れてから此処に来たんだし、可能性は有る。
「君は最近どうしてるの?」
「うーん…。ずっと寝てた。」
多分こういう事だろう。アルベルト財団の研究所で培養液のカプセル?みたいなので保存されていた肉塊の正体はこの子だ。そしてずっとカプセルの中で寝ていた彼女は今日起こされて、化物となり街を破壊しているのだろう…。
我ながら名推理なのではないだろうか。いやそんな事は無いのかもしれない。
この子があの化物ならここで色々と説得すれば街の破壊を止められたりしないのか?それで止めれるのなら、極力止めておきたい。
「ねぇお嬢ちゃん。ごめんだけど、また寝てくれないかい?」
「なんで?」
彼女は不思議そうに言う。こんな幼い子に言えないぞ、『お前が街破壊してるからそれ止めてほしい』だなんて。
「もうねんねする時間なんだ。」
「そっかぁ」
彼女は残念そうな表情を浮かべる。この歳くらいの小さい子にとって、寝る事はとても退屈な事なんだ。とても長い眠りから覚めたばっかだから余計にだ。
「なら、お兄さんと遊ばない?」
「なに?」
彼女は『遊ぶ』というワードに反応して、餌を見せられた犬の様にこちらを嬉しそうな顔をしながらまじまじと見つめる。
「お兄さんと、鬼ごっこしよう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(視点変更:スレイン)
橙雀がまた考え無しに化物に飛び込んで行ってから数分。露出した肉塊が突然白い光を発し、それが辺りを包み込んだかと思えば、橙雀の姿はそれに吸い込まれたかの様に消え、化物も動きを止めた。肉塊は未だに露出しているが、今破壊するのは橙雀に危険が及ぶ可能性がある。それに、迂闊に動けばまたあの鋼よりも硬い茨が飛び出て来る危険もある。今は待機が一番安全だろう。
「スレイン、状況は。」
遠くから建物間を飛び、こちらへロザンが現れる。
「君も居たのか。見ての通り、化物は硬直し、橙雀は消えた。」
「…つまりどういう事だ?」
私は事の経緯を彼に伝えた。
「──なるほど。それでどうするんだ?」
「一旦このまま待機が安牌だろう。」
そう話していると、化物の傷口が白く光り出し、そこから橙雀が勢い良く飛び出てきた。
「はいはい、こっちだぞー!」
彼は化物の方へ叫びながら王宮の方へ全速力で走り出した。何だあれは。ついに頭が可笑しくなったか。いや、元々だったな。
街中を走っている彼を化物は狂ったように追いかけ始めた。不思議だ。今まで私達に何の興味も向けなかったが、今だけは奴の視線は橙雀に釘付けの様に見える。
私達もそんな彼を追いかける。おそらく彼が囮になっている間に私達がどうにかしろ。という事なのだろう。
私は巨大な円柱状の水弾を2つ、後ろに作り、自分らの背に向かって発射した。その水圧で私達は前方向へ20mほど吹き飛び、彼らに追いつこうとした。
「何だこれは?」
「水の圧力で飛ばす移動方法だ。」
「器用な事をするなぁ。お前は」
「あぁ。だが偶に背骨が折れるぞ。気を付けろ。」
それから2回ほど水圧弾で跳躍し、王宮へ到着した。
無駄に広い王宮の庭では、橙雀とあの化物が、円を描くように追いかけっこをしていた。全く何をしているんだ。だがそれのお陰で街への被害は抑えられている。それだけは感謝しよう。
それに、奴の意識が橙雀に向いているからか身体の再生が止まっている。この隙にあの肉塊を破壊出来れば奴を討伐することが出来るかもしれない。
そうして私は建物の上から広い庭に降り立った。此処から同じ軌道上に走り回り続ける奴の身体に飛び乗り、そこから肉塊を破壊する事にした。
だが、化物は突然、橙雀を追うことを辞め、私の方へと爆速で向かってきた。私が近付いたから私に標的が移ったのか?
「オ…ネ゛ェ゛ェジャ゛…ン゛!!!! オネ゛ェ゛ェジャ゛ン゛オネ゛ェ゛ェジャ゛ン゛オネ゛ェ゛ェジャ゛ン゛!!!!!」
奴はそう連呼しながら私の方へ走る。私は死を覚悟で、向かってくる奴の方へ走り出した。少し横にずらし、奴の身体の横部分にしがみついた。奴は私を見失ったのか、頭部と触覚をキョロキョロと動かしている。その間に私は肉塊の方へ近付いた。
肉塊を目の前にし、私は銃口をそれに向ける──。
──だが、そこで手が止まった。
この醜い肉塊には見覚えがある。そうだ。あの研究施設の肉塊。私の妹…。それに、さっき奴が叫んでいた言葉…『お姉ちゃん』と言ってるようにも聞こえた…。いや、まさか。そんな事が──。ルペタルも言っていた。『研究は成功した』と。
もう私は悟ってしまった。この化物こそが研究の成果。私の妹である事を。
それは違うと言い訳を頭の中で述べるが、それも最終的には論破されてしまう。そして周りが真っ黒になり、まるで時が止まったかのような感覚に陥った。
その間に、奴の身体からは茨が出てきていた。総数は数十本にも及ぶだろう。
今すぐにでも引き金に手を掛ければこれは止まるかもしれないのに、指が動かない。身体が拒絶しているのだ。これを殺す事を。
だが、このままにしておく訳にもいかない。私が死ぬのは勿論。妹もこのような姿になって苦しんでいるだろう──。ならば、私がその苦しみを断ち切ろう。
「………っ、あああああああああああッッッッッ!!!!」
私は叫んだ。後はもうその叫びに任せる事にした。
叫ぶのと同時に、引き金を引いた。今までで一番、その引き金は軽かった。するとその場には静寂が訪れた。だが、銃声だけは私の頭に鳴り響いている。
「オ…ネェ…チャ…ン……」
妹は弱々しい断末魔をあげ、ゆっくりと塵となり、風に乗って消えた。
あの巨体は全て消え、その空間には、腰が抜けて座り込んだ私のみがあった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気がつくと、私は真っ白な空間に居た。そこには何もなかった。それだけだった。
「ねぇ。お姉ちゃん」
後ろから声がした。聞き慣れた声だ。もう何年も聞いていないが、今でも脳裏に焼き付いている声。
振り向くと、あの最愛の妹が柔らかく微笑んで立っていた。
私は無意識に声が溢れていた。
「ルシウス…ごめん。私じゃ君を守れなかった…!こんな姉でごめんよ…」
そんな声を彼女は微笑みながら聞いていた。
「どうして謝ってるの?お姉ちゃんは悪くないのに。」
彼女は不思議そうに答えた。おそらく彼女にとってはそれはどうでもいいことなのだろう。きっと、遊ぶことばかり考えているだけだ。
「そんなことよりお姉ちゃん!また紅江のあれが食べたいの!」
「紅焼き林檎か?」
「そう!それそれ!それが食べたいの!」
ルシウスは昔から紅焼き林檎が大好物だったな。今度の紅神祭で買ってあげよう。
「またお祭り行こうね!」
彼女は明るい口調でそう言い残し、光となり、消えていった。
「……あぁ、一緒に逝こう。」
そうすると私は現実へ引き戻され、芝生の上で座り込んでいた。
私の目からは私の意志に反して涙が雨のように溢れ出ていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからというもの、化物が消えた事により、国の陥落は免れた。だが、黒幕であるアルベルトは結局何処かへ逃げてしまった。
だが、以前よりかは心は軽くなった様に感じた。妹に関する事の一部に決着がついたからだろう。このまま生涯を捧げてアルベルトを追っても良いが、何故だかそんな気も失せてしまった。
すっかり忘れていたが私はヴォイドハンターの一員だ。今回の任務結果を報告しなければならない。今回の任務は『とある"変数"に関する調査』だ。
そして今日の夜、ヴォイドハンター幹部の集会がある。私もそれに参加しなければならない。はっきり言って、あれは面倒だ。出来れば参加はしたくないが、仕方がない。
夜中に私はとある建物に入る。ヴォイドハンターの集会場所は毎回変わる。今回は此処だ。
このコンクリート製の粗末な建物の内部はとてもシンプルな造りとなっている。
いくつか階層がある建物の全ての天井の中心に大穴を開けたような。造りとなっている。天井の穴から青白い月明かりが中央を照らしている。その中心にはソファが置かれていた。
「おや、これで全員揃ったようだね。さぁ、ボス。始めよう。」
そう言ったのは序列第7位、丹永。ボーイッシュの緑色の髪の彼女の風貌はいつ見ても美しいと感じさせる。それに、ひねくれ者が多いヴォイドハンターの中では数少ない常識人だ。
「うん。…あれ、またランターネとシンタローネは欠席なの?まぁいいか。始めよう。」
ボスの声が建物中に響く。ボスに関しては私もよく分かっていない。彼女の姿すらも、側近である第二位以外は見たことすら無いらしい。
「さて、まずスレイン。今回の報告をよろしく。」
「報告します。まず、対象の知能はかなり低いです。我々が警戒する程ではありません。次に、対象は驚異的な再生能力を持っています。試しに銃弾を2発ほど打ち込みましたが、翌日には再生していました。最後に、対象は虚無エネルギーの放出が可能な様です。以上。」
その報告に一部はどよめく。馬鹿な事も再生能力もだが、一番異質なのは、虚無エネルギーの放出だ。通常、虚無エネルギーは生身の人間は自らの意思で放出する事は不可能。文献上、それが出来るのは彼が初だ。
「へぇ、確かに変数と呼ばれるだけあるな。」
「利用価値はありそうですね。」
「『きょむえねるぎぃ』って何?」
幹部達から色んな声が出る。面白がる者や、何かに利用しようとする者。そもそも虚無エネルギーが何かを理解していない者──。
「でもよぉ、対象は馬鹿なんだろ?それなら俺でも倒せるぜ?」
「もしかしたら貴方の方が馬鹿かもしれませんよ。」
「ねぇ!『きょむえねるぎぃ』って何なの??!!」
集会所は今日もとても賑やかだ。いつもこのような煩い声が飛び交っている。私はどうしてこの職場に入ったのだろうか。
「静粛に!!!」
威圧感のある低い声が辺りに反響する。その一言でその場は静まり返った。
序列第二位、ブレイン。刻律者に匹敵する程の力を有している実力者。彼は4階辺りからこちらを見下ろしているが、1階からでも威圧感のあるオーラを感じる。
場が静まり返ると、ボスが話し始める。
「…ありがと、ブレイン。それで、次の変数はサリヴェルトの方へ向かっている。ということで、コロン。残念だけど次の担当は君に決まったよ」
「え…」
月明かりの下、格好つけてるのかは知らないが、ソファで寝転んでる少女は、第四位、コロン。
彼女は気分屋で、大抵の仕事はこなせる程の実力はあるが、面倒くさがりの所為で職務を放棄している問題児だ。今回も仕事を放棄するのだろう。
「う〜。わかったよ…。」
彼女は不満そうだが、珍しく仕事を拒否しなかった。
「よし、それじゃあ集会はおしまい。解散ー!」
ボスがそう言うと、皆が凄まじい速度で退室して行った。皆も退屈なのだろう。
だが、ソファで寝転んでる第四位だけはまだ残っていた。
月光に照らされ、その真っ赤な瞳は輝いていた。
「ふふ〜ん♪やっとお家に帰れるぞ〜♪」
「待っててね〜♪」
随分ご機嫌な様で。では、私も帰るとしよう──。
私はその場を後にした。
To Be Continued…
さて、第一章はこれでおしまい。
橙雀の活躍が全くと言っていい程無かったような気がする(単に忘れてるだけかも。)
言い訳だけどこれ書いたの去年の12月とかだからさ、まだ文章力がカスだったんだよ。許して。




