爆ぜよ過去の惨劇よ
スレインと共にアルベルト財団へ侵入していた橙雀。
しかし、その最中でルペタルという刻律者を名乗る女性に襲われた。
さらにスレインは探していた妹を遂に見つけ、ルペタルへの復讐の炎を更に強めていた──
「あー。今日も良い朝だ。」
いつも通り、窓から淡い光が部屋に射し込み、小鳥たちの囀りが聞こえる。今日こそは何事もない、平和な日だと良いんだけどな。
だがそんな事は無いんだろうなぁ。と薄々感づきながら、宿を出る。案の定、外には二人の招かれざる客がいた。時刻は13時。様子を見る感じ、多分朝から待っていたのだろう。
「やっと来たか。橙雀」
なんかすごいデジャヴ。其処にはスレインがいた。それともう一人、ここに来た初日に出てきた処刑人の大剣男…名前はたしか、ロザンだったっけか。あの時の爆発を正面から食らってたけど大丈夫だったのだろうか。
「君が橙雀だな。話は聞いている。」
ロザンは俺に言う。あぁ、俺にはわかるぞ。今度はこいつに面倒事に付き合わされるぞ。
「早速だが、お前に頼みたい事がある。庶民街に指名手配犯が居るのだが、上からの命令で俺はそいつの始末をしなければならない。だからお前にはそれの手伝いをしてほしい。」
予想通り面倒事に巻き込まれた。指名手配犯って…あの爆弾魔の事か?まぁあんな大惨事を引き起こしたからな。指名手配されて当然だ。思い返してみれば、街中に指名手配のポスターが貼られていたような…。あんな奴を始末するとか言ってるけど、そんな簡単にできるものなのか??
「そう…なんだ。スレインも来るのか?」
「いや、私は別件でやるべき事があるから同行はできない。」
ん?つまり俺と大剣男の二人だけであの爆弾魔を殺さないいけないのか…?無理だろ。
「ということで、橙雀。直ぐに庶民街へ向かおう。付いてこい。」
大剣男はそう言い、片手で俺の腕を掴み、引っ張って行った。何なんだよ。怪力野郎が多くないか。そういうもんなのか?
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しばらく引きづられながら連れられると、フリタール庶民街へ到着した。俺がいた中央街と違って、ほぼすべての民家が雑な木造建築だった。だが、それは以前に起きたらしい爆破事件で崩壊してしまった。その残骸が街中に散乱している。ロザンの話によれば、この街に例の爆弾魔が潜伏しているのだとか──
「橙雀。情報によればこの近くに奴がいる。警戒は怠るな。奴は凶悪な爆破犯。見つけたら直ぐに言え。処刑する。」
「それはワタシの事かい?」
突然背後から声がした。振り返ると、あの時の爆弾魔が平然とそこに居た。気配は全く感じなかった。おいおいまじかよ。こんな簡単に見つかって良いのか?いや、あっちから見つかりに来たんだけど。
「スバラ=シイヨ、よくもそんな呑気に出てこれたな。処刑されたいのか?」
「それに関してはノープロブレム。キミがワタシを殺せる筈無いからね」
スバラ=シイヨはこちらを完全に舐め腐っている。多分めっちゃ強い人なんだろうが、ルペタルほどの強者感溢れる雰囲気は纏っていない。それどころか、気配が全くしなかった。
「ところで、君の隣にいるオレンジの男は誰だい?」
スバラ=シイヨは俺の方を見て言った。そういえば俺とこの人は初対面だったな。そう思ってると、密かにロザンを大剣を構える。俺も静かに剣に手を伸ばす。とりあえず、一旦自己紹介はしておこう。
「どうも、俺は橙雀。しがない旅人さ。」
「橙雀…か。Mr.橙雀よ。もしかしてキミはヴォイドハンターの一員かい?それとも、刻律者?」
思っていたよりも、スバラ=シイヨはフレンドリーな人物であった。もっとなんか…視界に入ったもの何もかもを無差別に爆破するような狂人を想像してたんだけどな。
「いや、どちらでも無いが…。刻律者ってなんだ?」
ヴォイドハンターはいいとして、偶に聞く『刻律者』って一体何なんだ?多分何かしら重要なワードだろうからついでに聞いておこう。すると、その場にいたスバラ=シイヨとロザンは「え?」と言わんばかりの驚いたような顔をした。
「おい。お前は刻律者を知らないのか?この大陸の一般常識だぞ?学校に通った事が無いのか?」
ロザンはまるでこの世の終わりを見るかのような顔で言った。そんなに知ってて当然な常識なの?!それってよぉ
「…あぁ、お前は記憶喪失だったな。スレインから聞いている。とりあえず俺が簡潔に説明しよう。」
ロザンはめちゃくちゃ面倒そうに説明を始めた。俺はなんか凄く申し訳ない気持ちになった。その側でスバラ=シイヨは本を読んでいた。本当に俺達の事を舐めているぞこいつは。
「まず、刻律者というのは、ヴォイドハンターの様な勝手に集まった非正規の集団とは違い、『深淵』というとある神から力を与えられ、人類最強クラスにまで昇華した者たちの、虚無を狩る正規の集団だ。ちなみに同時に7人までしか存在できない。確か今は5人しか居ない筈だ。以上。」
思ってたよりもシンプルだった。これなら俺みたいな馬鹿でも覚えられそうだ。そういえば、昨日戦ったあの白髪の女性…たしか名前はルペタル。彼女も確か刻律者だった様な…。刻律者ってあんなに強い存在なのか…。こわ
「最近は刻律者の入れ替わりが激しくなっているらしいねぇ。そうだ。橙雀よ。キミも刻律者にならないか?」
突然とんでもない事をスバラ=シイヨは提案してきた。何いってるんだこいつ。俺が刻律者に…?そんな美味しい話、あるわけが無い。
「スバラ=シイヨ。馬鹿げた提案はよせ。橙雀の様な馬鹿人間が刻律者になれる訳が無いだろう。なっても何もできない。刻律者に選ばれるのは全て『深淵』の気まぐれだ。この何億もの人が居る中で、橙雀が選ばれるのは不可能に近い。」
さらっと俺を罵倒するロザン。まぁでも確かに俺みたいな人間が神に選ばれる事は無いだろうな。それを聞くと、スバラ=シイヨは言う。
「いやいや…。なら選ばれる様にアクションを起こせば良いんだ。例えば──直接『深淵』のもとまで赴き、力づくで橙雀が刻律者に選ぶようにするとか─」
何言ってるかは理解できないが、とりあえずやばい事をしでかそうとしていることは分かる。
「まぁいいさ。これはまた今度話そうか。ワタシはそれよりももっとグッドな話を持っている。これは本当に重要なんだ。この国の裏の顔に関する情報だ。どうだ?聞きたくはないか?勿論、条件つきだけどね」
ロザンは少し間を開けて答える
「…一応聞いておこう。その条件とは何だ?」
「その条件はとてもイージーな事…今後一切ワタシの邪魔をしない事だ。ワタシにもやるべき事があるんでね。橙雀。キミはこの条件を飲めるかい?」
邪魔をするな。…か。もしもスバラ=シイヨがこれから何か重大な事をしでかしても、俺達には止めれないと…。だがこれから絶対彼はとんでもない事をしでかす。
横にいるロザンに目配せする。ロザンはこちらを向いて頷いた。多分okの合図だ。
「…分かった。飲もう。その条件を。」
「フッ。交渉成立だ。」
勿論そのままokするわけではない。先に情報を全て貰っておけば後からどれだけ裏切っても問題はない…筈だ!
「さて、そのとっておきの情報をキミ達に伝えよう…。」
スバラ=シイヨは不敵な笑みを浮かべながら話し始める。
「キミ達は、『人間を虚無の分体に変化させる実験』を知っているね?その実験はこのフリタールの政府により秘密裏に行われた。それから、政府はソレを世界中にばら撒こうとしている…。目的は知らない。簡単にまとめるとこんな感じさ。とりあえず一旦ワタシが持ってる情報はこれだけさ。」
その口からはとんでもない事が発せられた。アルベルト財団の例の研究にはフリタール政府も絡んでいたのだ。なんでこんな軽い感じでこんな重大な事言ってるんだこいつは。ロザンは不思議そうに、また疑いの目でスバラ=シイヨを見ながら言う
「これは純粋な疑問なのだが、スバラ=シイヨ。お前が何故その情報を持っている?」
そうだよ。なんでこんな爆弾魔がこんな重要な事知ってるんだよ。またスバラ=シイヨは不気味な笑顔を浮かべて言う
「あぁ、ワタシの下には情報のエキスパートがいるからね。このくらいの情報なら何でも分かる。─さて、ワタシはもう行かなくてはいけない。失礼させてもらうよ。」
そう言い残し、彼はその場をゆっくり歩いて去っていった。最初から最後まで何を考えてるか分からない、掴みどころのない人だった。
「…橙雀。突然だが俺もここで失礼させてもらう。スバラ=シイヨの件について上へ報告しないといけないし、彼が言っていた情報の真偽も確認しないといけない…。では」
ロザンも少し足早でその場を去り、中央街の方へ向かっていった。
「…え?皆突然いなくなるじゃん。何なんだよ。どうしようか…俺ももう帰ろうかな。」
俺がそんな独り言を呟いた。
「いや、まだキミには話したい事がある。」
「ウワァオ!!」
突然背後から声がした。めっちゃびっくりした。そうして後ろを振り返ると、もう何処かへ行ったはずのスバラ=シイヨが目の前に立っていた。
「フン。驚かせてしまったようだね。」
彼は顔を笑みを浮かべていたが、何処か申し訳なさそうな顔もしていた。
「お前…帰ったんじゃないのか?」
そう俺が反射的に聞くと、不気味な笑みを浮かべ、話し始める。
「あぁ、あれはあの処刑人を追い払う為の嘘と虚像さ。ワタシがあの情報を流せば、彼は直ぐに事実確認をする為に街へ戻る。イメージ通り、処刑人は街に帰り、今頃事実確認の為に情報収集をしている頃だろうね。」
「じゃああの情報は嘘だったのか?」
「NO、あれは本当の情報さ。その方がリアリティが出て、信じやすいからさ。」
いや本当なのかよ!?まじかよ。
「ところで、俺に話したい事って何だ?」
とりあえず話を戻す。ほぼ確実にやばい話だ。聞き漏らさないようにしないと。すると、スバラ=シイヨは少しだけ真剣な顔つきに変わって言った。
「そうだな、まずはキミ、普通の人間じゃない。そうだろ?キミの身体からは常に虚無のエネルギーが放たれている。ソレは普通の人間ならありえない事だ。」
「いや、俺は正真正銘人間だ。食欲も睡眠欲も性欲もある。それにほら、だって体温も温かいし。その虚無のエネルギーとかはよく分からん」
そう言いながら俺は体温を確かめてみろと、彼に腕を差し出す。彼は腕を触ってから少し考えた。──少しすると、彼は再び不気味な笑みを浮かべて言った。
「あぁ、確かに体温はホットだ。キミは確かに人間かもしれないね。だが、その虚無のエネルギーがある限り、そうとは言い切れないね。」
俺の身体から虚無のエネルギーが滲み出てるのは、多分俺が虚無の力を行使できることと何か関係はしていると思う。だが、その事を知られてはいけない。万が一何があるかわからないからな。何かいい感じの言い訳はないのか?
「あー、俺、今朝虚無災害の被災地に飛び込んじゃったからその所為かもなーアハハ」
俺の頭ではそんな言い訳しか思い浮かばなかった。なんとかなるといいが…。依然として彼は不気味な笑顔で話す。
「フン。なるほど、そういう訳か。なら仕方が無い。認めよう。キミは人間だ。」
なんとかなったわ。
「では次にキミにクエスチョンだ。キミはボルダインのワタシ達の組織に加入しないか?」
ボルダインの組織…?そういえば、宿の玄関広場の本を読み漁っていた時に聞いたことがある。たしか、『ボルダイン』という国があって、そこには『自由を追求する組織』があるとかなんとか…。スバラ=シイヨもその一員なのだろうか。その組織はいい噂を聞かない。偶に他国に攻め入り、破壊活動をしている者もいるとか…。
「特に考えてはいないけど。」
「そうか。だが記憶がパッパラパーのキミにとって其処はとてもハッピーな居場所になれるさ。どうだい?」
確かに今の俺に特にこれといった居場所は無いけど、こいつみたいな爆弾魔がいるような組織に入りたいとは思わないな。俺は正義の道を歩みたいんだ。そんなのは御免だね。
「…まぁ、強制はしないさ。キミがジョインしたくなったのなら、ボルダインに来るといいさ。」
彼は真顔のようで真顔じゃない絶妙に笑っているよく分からない顔で言っていた。
「さて、ラストはワタシの話をしようか。」
彼はそこら辺の瓦礫の上に座り話す。俺も近くに座り、それを黙って聞く。その場にはまるで劇場のような静けさと、自然と彼に視線が行く様不思議な感覚が現れる。何秒かすると、彼は口を開いた。
「橙雀よ。アートとは何か分かるか。」
「アート…?…美しさとかか…?」
何故かその場には重い雰囲気が漂う。心音すら聞こえない、無音の時間がしばらく続いた。
「あぁ…半分正解だ。アートとは…爆発だ!!!爆発こそが完璧なアートである…!!!」
…は?「爆発は芸術だ」って言いたいのか?いや、「芸術は爆発だ」って言ってる…??何なんだこいつはよ。
「…ワタシは爆発以外の芸術を芸術だとは思わない。爆発とは素晴らしいものだ。そこら辺の人間が描いたアートなど芸術ではない…。」
そう言いながら彼はいい感じのポーズを取りつつ、周囲の建築物の残骸を指を鳴らし、爆破した。演出のつもりなんだろう。
嗚呼…こいつとんでもなく思想が強い人だ…あまり深く関わったら駄目だ。あぁ、すぐにでもここを抜け出したい…。俺はそんな気持ちに駆られる。
「あぁ…爆発という現象はとてもビューティフルなものだ…。キミとは仲良くなれそうだ…。」
俺は嫌だぞこんな狂人と友達だなんて。
「…ワタシはもう帰るとしよう。橙雀。また会おう。」
彼は突然落ち着き、再び歩いてその場を去っていった──。え?何だったんだよ今の時間。
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(視点変更:スレイン)
橙雀達が庶民街へ向かっていった──。私も自分の行くべき所に行かなくては。
私はフリタールの中央の王宮へ向かう。目的は勿論、妹の仇を討つためだ。その仇、ルペタルはこの国直属の特殊な戦闘員。また奴は刻律者の一角を担っている。そのような人物に私のような一般人が敵うわけが無い。だから強力な助っ人を連れていきたいのだ。
私は道中でとある宿に寄った。とある情報によると、フリタール中央街の最東端に位置するその宿に、その強力な助っ人が其処にいる。その人は一人であのルペタルを半殺しにしたという──。
少し煌びやかで広い宿の中に入り、二階のその人の部屋の前まで歩く。そして私は艶のある木製の扉の前に立ち、ドアをノックする。
「あーぃ。どちら様でー?」
扉がゆっくり開き、半開きのまま、部屋の中から小柄な猫の少年が眠そうにしながら出て来た。
「初めまして。君がヴァルフォンで間違いないな?」
「うん。そうだよ。何か用?」
彼は不思議そうに私の方を見つめている。何かあるのだろうか。
「突然で申し訳ないが、君に協力して欲しい事がある。」
「何。喧嘩の売買なら断るからね。」
「とある者の暗殺に協力して貰いたいのだが──」
バタン。とまだ話の途中なのに扉を閉められた。この件は彼にとっては不都合だったのだろうか。だが、私も引けないのだ。必ず奴を殺さなければならない。よって私はもう一度扉をノックした。
「はーい。どちら様ですかー」
またゆっくりと扉が開き、30センチほど開いた扉の隙間から猫の少年が顔を覗かせる。先程よりも扉の開き幅が狭くなっている。警戒されているのだろう。猫は警戒心の強い生き物であるが、それは獣人も同じなのだな。
「…自己紹介がまだだったな。私の名はスレイン。ヴォイドハンターの第八位だ。よろしく頼む。それで、その依頼なんだが──」
「よろしく。スレインさん。でも依頼は受けないよ。もう面倒事には巻き込まれたくないの。」
彼は食い気味でそう言い、また扉をバタンと閉めた。やはりこのままでは駄目か。だが、私にはまだ彼に協力を促す策がある。それを実行する為、私はもう一度、扉をノックした。
「はーい。」
これだけ執拗く尋ねているというのに扉は開けてくれた。もう僅か10センチ程しかない扉の隙間から彼は目を覗かせる。そして私は懐からとある物を取り出した──。
「…これは?」
「あぁ…これは、今のフリタールではほんの数個しか在庫が無い、『NEOWちゅ〜る』だ…!!ほら、これをやろう。だから協力することを考えてくれないか。」
猫ならこれに飛びつかない者は居ない──。なら彼もこれを出せばこの件に協力してくれる気になってくれる可能性も高い筈だ。かなり高価な品なんだ。釣られてくれないと困る。
「…ちなみにその暗殺する人って誰なの?」
彼はそれを受け取った。よし、食いついた。流石にアレに釣られない者は居なかった。
「今回暗殺する相手というのは刻律者のルペタルという者なんだが…。」
「あぁ、あの喧嘩押し売り業者?」
凄いあだ名をつけられている…。それにしても、彼からは闘気みたいなものを全く感じない。気配だけでは全く彼が強いと感じない。本当に彼が刻律者を一人で倒せたとは思えない。もし意図的に気配を消してるのだとしたら…。いや、今は考えなくてもいいだろう。
「そうだ。今回はその喧嘩押し売り業者を暗殺する。」
「どうやって?」
「作戦の方はまた後ほど伝える。では、付いてきてくれ。」
そうして私はヴァルフォンという強力な助っ人を確保することができた。彼は少し準備し、同じ部屋の中に居るであろう者に挨拶し、部屋から出てきた。
「君の役割だが、君は常に後方から支援するだけで構わない。」
それは仇は私自身の手で討つためだ。それでなくてはこの仇討ちに意味は無い。彼と任務の概要を話しながら宿を出て、王宮の方へ向かう。事前の調べにより、ルペタルはこの時間帯に王宮に居ることは分かっている。
「そういえば、スレインさんってヴォイドハンターの人なんだよね。どんなところなの?」
ヴァルフォンが眉を少し上げて聞く。
「簡潔に言うと、一般人だけで構成された『刻律者』だ。彼らは虚無を狩る事を生業としている。」
「へぇ、知り合いにもヴォイドハンターの人が居るんだけど、その人は低賃金って言ってたよ。それで生活できてるの?」
「あぁ、確かにヴォイドハンターは低賃金だ。だから副業としてやってる人も多い。私も暗殺者と併任しているしな。」
そんな事を話している内に、王宮の門の目の前にまで到着していた。巨大な鉄製の門はまるで自分らを誘っているかのように大きく開いており、空はどんよりと曇っており、重い雰囲気が敷地内に漂っていた。
私達は城壁の側面に隠れ、水の粒を生成し、それの反射で内部の様子を覗いた。それを隣で見ていたヴァルフォンは不思議そうに見つめていた。
「スレインさん。その水玉の力は何?」
「水属性の力だ。」
「なにそれ」
属性の概念を知らない…?いや、確かサリヴェルトの学校は現在全て崩壊していた気がする。なら知らなくても当然だろう。
「属性というのは、炎水雷氷草風光の7種の力の性質というのがあるんだ。だがこれは一人1種類の属性しか使えない。因みに私は見た通り水属性の力を有している。」
そう言い、私は水の粒をもう一つ作り、彼に見せた。
「へぇ、じゃあ僕が電気流せるのもそういうことだったんだ。」
そして彼は水の粒の中に電流を流して遊んでいた。
「さて、この近くには誰も居ないようだ。中に入るぞ。」
私達は王宮の中へ侵入した。白を基調としたレンガ作りの外観は冷たい印象を与えていたが、それに反して内装は赤い絨毯が敷かれ、温かい灯りが空間を包む。一見ただの王宮に見えるが、違和感がある──。そう、衛兵の姿が誰一人として見えない。通常、門の警備や、王宮内部の巡回などで最低でも数十人は居るはずだ。
「ヴァルフォン。此処には衛兵が居ない。つまりこれは罠が仕掛けられている可能性が高い。気をつけろ。」
彼は頷いて手に持っていた大きな斧を構えた。
それからも罠の可能性に警戒しつつ王宮内を探索していた。書庫、食堂、礼拝堂と、ずっと歩き回っていたが、依然として人の姿は全く現れない。そして私達は中庭へ出る。背の高い生垣が迷路の様に並んでいる。その迷路の中を歩き、中庭の中央の広場に出た。其処には見覚えのある人物が居た。
「隠れていろ。後ろから支援を頼む」
ヴァルフォンにそう命じ、私はその人物の方へ歩みだす。
「──この国ももうじき陥落するわ。もしかしたら、今日が最期の日かもしれないわね。」
あの見るだけで吐き気の覚える姿は、妹の仇、ルペタルだ。奴は噴水に腰を掛けていた。その周りには、王宮の衛兵であろう者たちの死体が大量に転がっており、辺りは血塗れになっていた。
「ルペタル。この衛兵達はどうした。」
「フン、こいつらは全員、国の計画に反対した者達よ。だから殺した。」
奴は不屈そうな顔をしながら答えた。見る限り30人以上は此処で死んでいる。もしかしたら衛兵全員なのかもしれない。
「スレイン。貴方はもう例の実験の事を知っているわよね。」
「あぁ」
例の実験とは、あの人間を虚無の分体へと変貌させる実験の事だろう。知らなかったら此処には来ていないさ。
「あの実験、今まではずっと失敗続きだったんだけど、つい最近、成功したの。その被験体は、貴方の妹さんよ。どうやら彼女には特殊な血が流れてたみたいで、それの影響で実験が成功したそうよ。」
無表情のまま淡々とその詳細を語り始める。そんな態度で妹の事を言われてることに思わず腹が立ってきた。
「で、私思ったのよ。貴方も私も同じ血が流れてるんじゃないかって。だからね、貴方の血が欲しいの。」
「…貴様自身の血では駄目なのか?」
「嫌よ、痛いのは嫌だもの。極力そういうのは避けたいのよ。分かってくれるかしら、だから──」
そして奴は立ち上がり、レイピアをの取り出し、地面を割る程の強い力で勢いよく蹴り、20メートル程あった間合いを一瞬で詰める。
「──死んで。」
奴が私の胸元をレイピアで一突きする。それを私は銃剣で跳ね返す。ガキィンと鋭い音が響いた。だが、それだけでは終わらず、空中から無数の氷の槍がこちらへ降り注ぐ。それを躱しながら数発づつ銃弾を奴へ放つ。だがそれは全て手持ちのレイピアで跳ね返される。私は絶え間なく飛んでくる攻撃の嵐の中、奴に聞く。
「ルペタル。貴様は刻律者となって強大な力を手に入れたというのに何故、それを世界の為に使おうとしないのだ?」
「そんなの簡単よ。世界の為に闘うより、私自身の為に闘う方が楽で自分の為になるからよ。勝手に力をくれたのは『深淵』の方。私がどうしようと私の勝手よ。」
「あの時の刻律者とは大違いだな。」
あの時の刻律者というのは、昔戦争していた頃に出会った刻律者の男で、あの戦争を終わらせるきっかけになった者だ。彼は世界の為に考えて闘っていたが、目の前のこいつは違う。世界を救う為に力を貰ったというのに、自分自身の為にしか使わない…。
「あの時の……あぁ、あの目から炎が出てた男ね。馬鹿だと思わない?せっかくある力を他人の為に使うなんて。勿体無いわ。」
「あぁ、やはり貴様は刻律者の風上にも置けない人間だ。此処で死ぬべきだ。」
奴の自分勝手な発言に腹が立ち、先程よりも多く銃弾を放つが、いとも簡単に氷の壁を造られ防がれる。
「はぁ…もし貴方が、こっち側だったら良かったんだけどね。残念だわ。」
「安心しろ。何があっても私は貴様の側にはつかない。」
私は腕を奴の方へ向け、指を指す。指先から私は水属性の力で弾丸を作り出し、放つ。指先から放たれた超高圧の水弾は通常の銃弾よりも威力は増し、氷の壁を貫き、奴の肋に命中した。
奴が攻撃に怯む間にも、絶え間なく水の刃や水弾を放つ。何十もの数あるそれを奴はレイピアで全て捌く。奴がそれに夢中になっている間に私は持ち前の暗殺技術により背後に回り込み、銃剣の刃で背中を刺した──。
「あがっ…ッ!」
その不意打ちで奴の腕は止まり、捌けなかった弾幕が奴に容赦なく降り注ぐ。全身穴だらけの奴の全身に私は大量の水をかける。そして指で後方にいるヴァルフォンに合図を出し、電気を彼女に放ち、感電させた。これは奴の身体を感電で硬直させ、動けなくする為だ。
「やはりこういう時の為に力は隠しておくべきだな。──さて、最期の言葉を聞いておこう。」
「…お……ザァ…ァ…」
「あぁ、感電してるから喋れないのか。」
そうして私は奴の額に銃弾を1発浴びせた。すると奴は完全に動かなくなった。意外にもあっけない最期であった。血が繋がってるからといって、別に何も思わない。こいつは殺すべき存在なのだから。
「もしかして僕が呼ばれたのってこの為だけ…?」
後ろの茂みからヴァルフォンが出て、残念そうに言った。
「いや、私が死にそうになったらちゃんと戦ってもらう予定だった。だがその前に私が勝ってしまったな。」
「もぅ…わざわざ事前に斧投げといたのにさ…」
彼がそう言うと、空から剛鉄製の斧が目の前にズァッと音を鳴らし落下してきた。もしこれが人に命中していたのなら、縦に真っ二つになっていただろう…。そう思うと少し彼に対する恐怖心が芽生えた。だが、私の中ではついに妹の仇を取れたという感動の方が何億倍も大きかった。
「それでスレインさん。これからどうするの?」
「そうだな。とりあえず一旦君の仕事は終わりだ。報酬は後ほど郵送で送ろう。では。」
そう言い私は王宮を歩き去る。ふと空を見上げると、今までに見たことないような快晴だった。もう、全てが終わったのだ。もう仇討ちに囚われる必要は無い。そう思うと、ふっと身体が軽くなったように感じる。
「…見てるか…終わったよ、ルシウス。」
この大空に向かって言葉を放つ。彼女にも聞こえているのだろうか。
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(視点変更:ロザン)
「…それはどういう事だ?」
「言葉のままさ。女皇様は自ら命を断ったのさ。」
女皇の死を軽々しく言葉にするこの男、オパロドンはこの国の最高裁判官。俺は彼に国の裏の顔に関する事を聞き出したが、それをあっさりと肯定。それに加え、女皇が自殺したという…。
「だが、勿論なんの計画も無しに女皇は死んだ訳じゃあないぜ?女皇様が死ぬ事で計画は完成されるんだ。」
「…何故それをこんなやすやすと話すんだ?」
「まぁ、隠す必要が無くなっちまったからなぁ。言ったところでもう誰にも止められないさ。直にとある化物が街に解き放たれる。それからこの国の陥落をじっくりと待つと良いさ。」
「そうか…では俺はこれで失礼する」
「あー。達者でなぁ」
俺は二人で話していた貸切状態の酒屋を裁判官ごと燃やし、店を出た。アルコールが大量に保管されている為、よく燃える。
グゥヴォォォォォォォォ
その時、王宮の方でけたたましい咆哮のような轟音が鳴り、街まで響いてくる。あれの音の主がオパロドンの言っていた『とある化物』なのだろう。
「…ったく。何て事をしてくれたんだ女皇はよ…!」
俺は大剣を担ぎ王宮の方へ急ぐ──。
To Be Continued…
ここら辺から少しはマシになってきているはず。
文章力が弱小すぎる……




