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空夢  作者: くわとろ
第一章:凍てる地に燃える戦火
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黄金追跡

謎の女性に拉致されたりされた橙雀だったが、その拉致してきた女性がどういう訳か橙雀の所へ訪ねに来た……

「ふぁ〜ぁ」


 昨日は色々と災難な日だった。それで疲れが溜まってた所為か昼間まで寝てしまった…。


 今日こそはこの街を散歩しよう。そうして出かける準備を始める。散歩というのは、ただ歩くだけじゃ駄目だ。現地の人々と交流したり、写真を撮ったり…そういえば、カメラを持ってなかったな。ついでに何処かで買うか。


 そんな事を考えながら宿から出る。すると、出入り口の前には、昨日の拉致してきた女性が立っていた。


「…え?どうしたんですか。」


 暫くの沈黙が流れる──


「橙雀、君に頼みたい事があったから待っていた。朝からな」


 どことなく昨日よりも軽い喋り方なきがする。ていうか朝から待ってたのか…なんか申し訳なくなってきた。それにしても、頼みたい事って何だ…?面倒事じゃないと良いのだが…


「さて、ついてこい。」


 そう言われ、俺は彼女についていった。もし逆らったらあのショットガンで撃たれるかもしれないからな。歩いている道中で、彼女は問う。俺はお前に撃たれたこと覚えてるからな。


「君は、『アルベルト』を知っているか?」


 アルベルト…?何それ、不味そう。


「いや…知らないです」


「あぁ、だと思っていた。『アルベルト』というのは、フリタールの経済を握る財団だ。」


 そんな凄い奴らがいたのか。こういうのは多分裏でとんでもない事をしてそうな組織ってのがお決まりだ。


「なるほど…?で、その財団がどうしたんですか?」


「財団は虚無災害を人為的に発生させてる可能性がある。それに潜入するのが今回の任務だ。君にはそれに同行してもらいたい。」


「虚無…災害?」


 虚無災害…何それ。あの脱色現象の事なのか?


「君、虚無災害を知らないのか?良く今まで知らずに生きてこれたな。いいか、虚無災害というのは君が昨日浄化していたあの色が抜け落ちる現象の事だ。大地があの状態に陥ると、虚無から魔物が生まれる。それを狩るのがヴォイドハンターの仕事。」


 彼女はもう無知過ぎる俺に呆れた様子で話した。記憶喪失なんだ。許してくれ。それで、『ヴォイドハンター』って言葉がまた出てきたな。


「なるほど、因みに、ヴォイドハンターって何?」


「ヴォイドハンターは、この大陸中で虚無から生まれた魔物を狩る非正規の組織。私もその一員だ──そういえば、私の名をまだ名乗っていなかったな。私はスレイン。ヴォイドハンターの序列第八位。序列と言っても、第一位が勝手に決めた順位だが。それにしても君は無知過ぎる。何だ。20年間家に引き篭もっていたのか?」


「いや、実は記憶喪失で、昔の記憶が無いんだよね。」


「そうか」


 記憶喪失って不便だよな。ロマンはあるが、実生活とかだと不便極まりない。知っておくべき常識を知らないのは論外だ。


「ところで、どうして俺がそのアルベルトへの任務に同行しなきゃいけないんだ?」


 別にわざわざ俺を同行させる理由も無い筈だろう。


「君は、私が知る限り、虚無を完全に浄化できる唯一の人間だからだ。」


 …え?あれって俺だけができる業だったの?まじかよ、じゃあヴォイドハンターって何のために居るんだよ。


「アルベルト財団は自らの手で虚無災害を起こせる。よってそれで攻撃を仕掛けてくる事もあるだろう。それの対処用に君を同行させる。」


 あぁ、俺って虚無を片付けるだけの道具として使われるのか…。


「できる限り敵に気づかれる前に、財団の大物。アルベルトを討つ。それが今回の任務内容だ。彼はかなりの実力者だと情報が既に出ている。十分に注意するように。さて、此処はが任務地点だ。」


 スレインが淡々と説明している間に、アルベルト財団の本拠地に到着したみたいだ。いかにも、金がありそうな外観をしている。この建物だけ他と建築様式が違うし、大理石で作られてるみたいだ。彼女は手際よく路地の窓のロックを破壊し、中へ侵入していった。


「ほら、何をもたもたしている。早く入れ。」


 彼女に急かされ、窓から建物内部に侵入する。内部も豪華な内装をしていた。廊下の大理石の床に、赤いカーペットが敷かれていて、壁には高級そうな物が飾られ、照明も凝った装飾が施されていた。廊下でもこんなに豪華なんだから、建物の中心の部屋とかはもっと豪勢な内装に違いない。…一つくらい何か盗んでもバレないんじゃないか?いや、やっぱやめとこう。よく見たらワイヤーみたいなのが張ってる。多分金がある分セキュリティーもちゃんとしているんだろうし。だとしたら窓が破壊できたのは何なんだよ。


 スレインはそそくさと廊下を移動していた。とても移動が速いから、俺はそれを追うので精一杯だった。


 暫く探索していると、地下へ通じる通路をスレインは発見していた。手際が良いな。こういう建物の地下は多分闇が沢山隠れてる。さて、この財団はどんな闇を抱えてるのかな?俺は内心わくわくしていた。こんな潜入任務を遂行する機会なんて滅多にないからだ。


「ある情報によると、この地下に虚無に関する研究所がある様だ。」


 虚無の研究って、なんか物語の根幹に関わってそうだからこんな序盤に行くべき所では無いよな…?まぁ、これからもっと凄いものがあるのだろう。


 地下に入ると、スレインの言ったとおり、研究施設の様な物があった。上の階とは雰囲気が大きく変わり、豪華な装飾は消え、コンクリート製の壁と床となり、蛍光灯が光る質素な内装となっていた。長方形の部屋には、研究資料が乱雑に置かれた机や、何かを謎の液体に浸し、保存している正式名称の分からない、大きなカプセルや、手術台の様なもの等々…いかにも危ない研究をしていたことは想像に堅くない。奥にも部屋がある様だが、また後で来よう。


 スレインが研究資料を読んでいる間に、俺は手術台の方を調べた。手術台には、手足を縛ったかのような金具が取り付けられ、その近辺に血痕が残っている。何か人体実験をされていたのだろう。近くには被検体だと思われる人の情報が書かれた紙と、研究経過の手記が床に落ちていた。被検体の顔写真も載っていた。若者、老人、赤子と、色んな年齢の人を実験体にしていたらしい。俺は十数枚程ある写真を見ていたが、ある少女の写真が目に留まった。白髪の少女だ。やっぱりこの国は白髪が多い。それにしても、この少女、何処かで見た事ある気がするんだよな…緑色の瞳か…。何だろう。既視感が凄い。


「橙雀。君の方はどうだ。何か見つけたか。」


 スレインがこちらに聞く。どうやら彼女はもう一通り資料の山に目を通したようだ。


「いや、大した物は──でも、ここで人体実験されてた人達の情報が出てきた。ざっと15人ほど。」


 スレインは少し間を開けて言った。


「そうか…今まで、そのくらいの人が犠牲になったのだろう。──さて、もうこの部屋には手がかりは無い様だ。先へ行こう。」


 そう言い、スレインはスタスタと歩き出した。俺は部屋の奥の扉へ向かう彼女の後を追った。扉の奥は薄暗い廊下で、真っ直ぐ20mほど進んだ先にまた扉がある。廊下を俺らは直進する。緊迫した空気が流れてくる。この先に何か強大な者が居るかのようにだ。


 スレインが扉を開けると、半地下の広い空間に出た。部屋の上部のステンドグラスから淡い日光が照らしており、明るかった。1階に階段が端にありその上には金髪の長髪の男が微笑みながら立っていた。


「ご機嫌よう。スレイン殿。本日はどの様なご用件で?」


 彼は余裕そうな立ち振舞で彼女に話す。


 スレインは持っていた銃を男に向けて言う。


「あぁ、貴様を殺す為に私は此処に来た。アルベルト。」

 

 ちょっと待った。なんでこんな唐突に攻撃を仕掛けるんだよ。もっとこう…なんか…隠密行動とかしないのか…???


「おやおやスレイン殿。貴方は暗殺者でしょう?如何してこの様な正面から闘う真似を?どうしました?そんなに妹さんのことが憎いですか?」


 だがアルベルトは依然として余裕そうにしている。


 そしてスレインはドン、と1発撃ったが、軽々と彼の短剣で防がれてしまった。彼は未だに微笑んでいた。むしろ怖く感じる程に。


「スレイン殿。今は御客人がお見えになってる。物騒な事はよそうではないか。」


 そう言いつつ、アルベルトは短剣を片手に階段を降り、スレインの方へゆっくりと歩み寄る。彼女も黙ったまま銃を構える。


 その瞬間、アルベルトは物凄い速度でスレインへ攻撃を仕掛ける。だが、その剣は躱される。


 ──互いの刃が触れ合う音が部屋中に響く。それはとても素人にとってはレベルの高い闘いで、両者とも一歩も引かず、傷も一つも無く、戦闘は平衡していた。それを俺は少し離れた所から見ることしかできなかった。


 スレインは銃に付いている刃で攻撃し、偶に銃でアルベルトに対し発泡する。一方アルベルトは剣一本で彼女の猛攻を受け流している。


 そんな闘いが数分か続いた。だが、その闘いは直ぐに幕を閉じた。


 アルベルトは突然動きを止め、言った。


「スレイン殿、いつまで続けるつもりですか?私もそこまで暇では無いのですが……」


 そう言うと、彼は剣を上に挙げた。すると、その刀身に黄金に輝く眩い光が集まっていく──あの片手剣は、またたく間に黄金に輝く聖剣のようなものへと変貌した。威圧感と風圧が凄く、俺とスレインは少し後ろへ後退する。


 何だ…あの力は…。俺のこの虚無の力(諸説あり)とは正反対の、聖なる力みたいな雰囲気を感じる…


 ガッシャーン


 すると、突然天井のステンドグラスが派手に割られ、人が上から飛んで来た。それが床に着地すると、その衝撃で床が割れ、アルベルトの聖剣の溜めは中断された。降りて来たのは白髪の、赤い瞳をした女性。何故か胸元が血塗れだった。


 またなんだか見覚えのある人が来たぞ…何だろうか。何処かで見たことある気がするんだ。思い出せ──


「おやおや、ルペタル殿、どうなされたのですか?折角私の業を披露してあげようと思いましたのに。それと、如何してそんなに負傷しているのでしょうか?」


 アルベルトがその女性に言う。どうやら二人は知り合いの様だ。


「少し仕事に手間取っていただけよ。ところでアルベルト、貴方の仕事は終わったのかしら?」


「いえ、これからです。」


「そう。でも貴方があれを回収する必要はもう無いわ。」


 そう彼女が言うと、手に持っていたレイピアで、アルベルトを上半身と下半身をお別れさせた。刺突武器のレイピアでだ。彼の胴体は床に仰向けで落下した。するとアルベルトは彼女に問う


「おやおや…何故でしょうか。私はもう不要でしょうか。」


「えぇ、そうかもしれないわね。これは"あの方"の命令なの。きっと貴方は見放されたんだわ。」


 そう彼に言い捨て、彼女はこちらを向く。そして彼女は物凄い速度でこちらへ突撃──俺はレイピアで腹を突かれ、その衝撃で建物の外の街道へ壁を破って放り出された。何故か腹は貫かれなかった。直ぐに彼女も外へ俺を追ってきた。


 まずい。スレインと分断されてしまった。見ただけでもわかる。俺の目の前にいる白髪の赤目の女性…。滅茶苦茶強い。俺一人では絶対に勝てない。本来刺突武器であるレイピアで物を切断したり、突いても衝撃だけ伝えたり…技術だけでもかなりの手練だ。それと、今思い出した。彼女は、昨日スレインが見せてきた写真の人だ。どことなく容姿がスレインと似ている気がする。


 だが今はそんな事を考えていても仕方ない。闘いに集中しないと──


「あら、まだ生きてるのね。大抵は今ので皆死ぬんだけどね。まだ余裕そうじゃない」


 彼女は少し面倒そうに言う。


 何が余裕そうだよ…見て分からないのか?腹と背中を強打した痛みにまだ苦しんでるんだよ。


 そんな俺を彼女は容赦なく攻撃を仕掛ける。俺は咄嗟に剣を取り出し、それをなんとか受け止める。だが、勿論それだけでは終わらず、続けて彼女は高速の刺突攻撃を繰り返す。駄目だ。あまりの攻撃の圧力で視界が揺れる。なんでこの人はこんなに負傷しているのにこんなにも手強いんだよ…!


 勿論、手練の猛攻を戦い方がまだなってない俺が受けるのは無理で、俺は既に数十発の刺突攻撃を食らっている。

 

 このままでは確実に負ける。どうにかしてスレインと合流して一緒に迎え撃つしか勝つ道筋は無い。


 とりあえず俺は一旦彼女と距離を離す為に虚無の力を剣先に込め、小規模の爆発を起こした。彼女は若干怯んだが、直ぐにまたこちらへと飛んできた。


「やっと使ったわね…!その力!やはり貴方は深淵の使い手かしら?」

 

「知らないな…!俺の知らない単語をこれ以上出さないでくれ…!」


 何だよ"深淵"って。虚無とはまた違う存在なのか…?!いや、今は闘いに集中しないと…!


 俺は虚無の力を細かく出力し、弾幕の様に、力を複数発射した。我ながらこの力をもうこんなに応用できてるのは凄いと思うぞ。彼女もそんな攻撃は予測していなかったのか、2,3発ほど命中し、怯みを誘った。よし。今のうちに少しでも距離を離そう…


 俺は彼女に背を向け、走り出す。スレインと合流して少しでも戦力を稼ぐ為に──だが、それは決して簡単な事ではなかった。俺の背後に、巨大な氷の槍が無数に浮遊しており、それが俺の方へ飛んで来る──


 なんだよあれ、氷魔法?!そんな概念あったのかよ!この世界に!──あぁ、駄目だ。終わった。世界がスローモーションに見える…俺はこんなところで死ぬのか…?虚無の力で破壊しようとも思ったが、もうかなりの力を消費してしまい、いつまた気を失うのか分からない為リスクが大きい…。そんな事を考えている間にも、氷の槍が俺の方へ段々と近づいて、もう突き刺さる直前まで来ている。あぁ、もう死ぬわ──。俺は目を強く瞑った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ──何故だろう。もう氷の槍は俺の身体に刺さっている筈だが、何も感じない。何だ…?─目を開けると、また俺はあの時の庭園に横たわっていた。いや、今ここに来ても多分あんま意味は無いと思うが…。とりあえず、少しだけだが、寿命が伸びたな。


 これでここに来るのは3回目だ。ふと視線を上に向けると、以前のように、宇宙船は飛んでいなく、少し紫のかかった青色の空があるだけだった。


「久しぶりね。橙雀。あの時ぶりね。」


 突然背後から声が聞こえた。どこか優しい雰囲気を感じる、若い少女の声。聞き覚えがあるような、無いような。そんな声。初対面だが、警戒できない、何故か彼女の事を信用できる。彼女は、久しぶりと言っているが、記憶を失ってる俺からしたら初めましてなのである。


「そういえば今、記憶が無いんだったわね。」


 そうだ。俺は記憶喪失だから何も分からない。俺は横たわったまま聞く。


「君は誰なんだ…?」


 そう言い、彼女の方を見ると、以前この庭園に来たときに見た、ベンチに座っていた人と同じ、足まで届く長い白髪の青いダイヤモンドの様な瞳をした幼い顔立の少女が微笑んで立っており、俺を見下ろしていた。やっぱりこの世界白髪多いよな。彼女はフフッと微笑んで答えた。


「そうね…私の名前は幾つかあるけど、今回は『空夢』と名乗っておこうかしら。」


 "空夢"…今までに聞いたことがない様な、珍しい名前だ。まぁそりゃ記憶喪失だからそうなんだけども。まぁ多分重要人物だから名前は覚えておこう。


「そっか。ところで、此処は何処だ?」


「うーん。言葉に言い表しづらいけど、此処は私の世界。だけど同時に貴方の世界でもあるの。…と言ったら分かるかしら?」


 なんだそれ?俺とこの少女の世界?精神世界が融合したと言うことなのか?わからん。


「今はまだ分からなくてもいいわ。ところで、今貴方は闘いに負けそう─。そうよね?」


「ん?あぁ、確かにそうだ。俺が刺される直前に此処に連れてこられた。多分、現実に戻ったら俺は死ぬ。」


「ふふっ、大丈夫よ。貴方は死んだりなんかしないわ。なんとか貴方は刺されずに済むから。」


 彼女は微笑みながら言っている。本当に大丈夫なのだろうか。これで現実に戻って直ぐに死んだらどうするんだろう。彼女なりに何が策があるのだろうか。


「そうだ。俺は今記憶が無いんだけどさ、前の俺の事、何か知らない?」


 きっとこの少女は以前の俺の事を知っているはずだ。絶対に聞き出さないと──


「今はまだ教えれないわ。さぁ、目を閉じて、おやすみなさい。続きはまた今度話しましょ。」


 そう彼女は言い、俺の目に手をそっと被せた。すると、今までの戦闘の疲れが溜まっていたのか、一気に眠気が押し寄せた。俺はその睡魔に耐えられず、直ぐに眠ってしまった…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(視点変更:スレイン)


 橙雀が外に吹き飛ばされ、綺麗な建物内は瓦礫の山で溢れていた。瓦礫の下には、アルベルトの上半身が仰向けで血塗れの姿で横たわっていた。私は彼の所へ歩み寄る。彼はもう虫の息だった。この銃剣で刺せば直ぐに逝く。だが、彼が生きている内に、聞いておきたい事がまだある──


「アルベルト、最後に問う。私の妹の行方は知っているか。」


 彼を見下しながら聞く。私の妹、ルシウスは数年前、虚無を研究する組織。それに所属している私の姉、ルペタルにより連れ去られ、その後消息不明。その組織がアルベルト財団だということも既に突き止めていた。私がアルベルト財団へ乗り込んだのはその手掛かりを探す為。まだ生きているのなら、妹の居場所を突き止めるためだ。


「あぁ…妹さん…ですか…。彼女は存分に利用させてもらいました…彼女を連れ帰りたいのなら…、向こうの…研究室に…居ますよ…。」


 彼は弱い、かすれた声で、私達がさっき通った研究室を指差して答えた。彼の言ってる事が本当なら、妹はまだ生きてるということ。良かった。だが、先程研究室を調べたときに、妹らしき人は……。少し嫌な予感がした。…いや、違うと信じたいが、嫌な憶測が頭の中で飛び交う。私は研究室へ走って向かう。


 扉をバァンと開ける。あの細長い研究室を見渡すが、人の姿は無い。そう、人の姿は。私は中央にある、何かを保存している。カプセル型の入れ物に目を向ける。そのカプセルには、直径50センチ程の、血が濁っているような色の醜い肉塊が浮かび、蠢いていた。それに無数のチューブが刺されていた。カプセルには「被検体番号:XX74」と書かれている札が貼り付けてあった。私の嫌な憶測は、少しづつ真実だと証明されていっている。まだ違うと信じなから、私は近くの机に乱雑に置かれた資料の山を調べる。


 数百枚ある資料の殆どは、虚無災害に関する研究資料ばかり、だが、その中に数枚、恐ろしい物が紛れていた。それは、人間を擬似的な虚無の分体に変貌させるといった物だった。これは私の憶測はもう真実だと答え合わせされたみたいなものだ。私は緊張で全身から汗が吹き出た。


 震える手で、その資料を手に取り、1枚…2枚と読み進める…。見つけた…いや、見つけてしまった。『「被検体番号:XX74」。ルシウス、12歳。』等と被検体の情報が事細かく書かれていた。これは紛れもなく妹だ。私の憶測は完全に正解であると、此処で証明された。そう、つまりこのカプセルに保存されている謎の肉塊の正体は…私の妹だ。ショックで、私は全身の力が抜け、しばらく時が止まったかの様な感覚に陥った。


「もう…遅かったのか…?」


 少量の涙を流しながら小さく呟く、もしもう数年早かったら、助かっていたのか…?肉塊は依然として気持ち悪く蠢いていた。今でもそれがあの妹だとは到底信じられなかった。


「なぁ…ルシウス。私が憎いか。もっと早く君を見つけれなかった私が。」


 その肉塊に向かって話しかけるが、肉塊はただ無機質に蠢くばかりで、私の声は聞こえていない様だ。


「憎んでもらっても構わない…。さぁ、私はもう行かなくてはならない。ルシウス。君の仇を討たなければならない。」


 その仇とは、言うまでもなく、ルペタルの事だ。彼女こそが全ての元凶。生かしてはいけない存在。


「では、また来るよ。」


 そう言い残し、私は研究所を後にした。


 私の妹、ルシウスは、元気な、ごく一般的な家に生まれた、ごく普通の女の子だった。特段、何か突出した才能があるわけでもなく、全ての事が人並みにできる子だったが、彼女は、当時、私の家では一番と言ってもいいほど可愛がられていた。別に嫉妬したりもしなかった。むしろ、私も彼女を存分に可愛がっていた。当時、フリタールが他国と戦争をしていた時、父も姉も戦場に赴き、母も仕事で忙しかった。そんな時の、彼女は唯一の話し相手だった。それからも、二人で外国へ遊びに行ったり、海に行ったり、花火を上げたりした。幸せな毎日だった。それから数年。彼女は何者かに連れ去られた。連れ去ったのは私の姉、ルペタル。勿論私は彼女を止めようとしたが、無駄だった。当時の私には、彼女の敵うはずが無かった。彼女に私は圧倒され、ただただ何もできずに、最愛の妹を連れられていく様を、跪きながら眺める事しかできなかった──。


 それからというもの、妹の居場所を突き止めるために、私は数年を費やした。だが、やっと見つけた妹はもう、あんな醜い肉塊へと変貌していた。何故、もう少し早く此処にたどり着けなかったのだろうか。もう少し早ければ、まだ彼女を人間のままで救えたのかもしれないのに。


 だが、そんな事を悔やんでいても、もうどうにもならない。私は早足で、地上へと向かった。彼女の仇を取るために。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(視点変更:橙雀)


 長い眠りから覚めた。俺は庭園に来る前の、街の大通りに居た。氷の槍は刺さっていなかった。─後ろを振り向くと、スレインが赤目の女性の方を向いて佇んでいた。彼女があの氷の槍から俺を救ってくれたのだろうか。


「スレイン?今私が闘っている最中でしょ?邪魔しないでくれるかしら?」


 赤目の女性は不満そうに言う。


「邪魔…か。何か悪いか?」


 スレインは威圧感ある声でそう言った。すると直ぐに、周りから、銃を持った警官姿の人が何人か現れ、赤目の女性を囲んだ。そして、後ろから大剣を担いだ黒髪に赤メッシュの男…。ん?あの人はあの時の処刑人か…?


「ルペタル殿。いくら国家直属の戦闘員でも、こんな街中で大規模な戦闘を引き起こすのは大問題ではないか?」


 少し低めの、重みのある声で、彼は赤目の女性に対し言う。


「チッ、面倒な奴が次々と…。」


「それに、刻律者なら、人を狩るのでは無く、虚無を狩るべきだと思うが──」


 彼が言い終わる前に、彼女は姿を消した。彼に対し、スレインは不服そうに言った。


「…ロザン。邪魔をしないでくれないか。」


「…スレイン。こんな所で面倒事を起こさないでくれ。処理するのは全部俺らなんだ。」


 ロザンという処刑人の男も不服そうに言う。なんだこの空気は。二人は知り合いなのだろうか。スレインが素早く俺の元に来て、言った。


「橙雀。君はもう帰っても良い。面倒事に巻き込んでしまってすまない。今日はもう休んでくれ。」


 スレインは俺にそう伝えると、背中を押した。多分早くどっか行ってほしいのだろう。彼女は今、少し笑顔だが、おそらくそれは偽りの表情だ。詳細は分からないけど、きっと今は殺意に満ち溢れている。今日はもう彼女の言うとおり、宿に戻っておこう。逆らったらまた撃たれるかもしれないし…


 そうして、俺は何事も無かったかのように宿へと帰った。何事しか無かったがな。そういえば、不思議と昨日撃たれた箇所と今日刺された箇所はもう痛くなかった。あれか、アドレナリンとかいうやつが出て痛みを感じなくなってたのかな。まぁいいか。今日は疲れたし、もう寝るとしよう…。


 俺は爆速で部屋のベッドに横たわり、目を瞑った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(視点変更:ヴァルフォン)


 夜道を一人で歩く。特に目的はないけど、偶に街をひとり、ぶらぶらしたくなるのだ。この街に来てから、何日か経つけど、まだこの街の寒さには慣れない。サリヴェルトが温暖な地域だから、余計に寒く感じる。


 そんなことを考えながら歩いていると、正面からこちらへ走ってくる人影が見えた。何だろう。また喧嘩売り?…いや、違うな…。


「…なんで此処に居るの…??」


 僕のもとには、黒髪の狼の女の子。見慣れた姿がそこにいた。


「なんでって…ヴァルフォンが傷ついたって聞いたから…あたし、心配で…。」


 彼女は少し涙を瞳に浮かべながら話す。うん。多分僕が心配でここまで来たのだろう。わざわざサリヴェルトから、たった一日で。


「大丈夫。ただ喧嘩の押し売りをされただけだから。僕は何ともないよ。」


 僕は彼女に近づき、頭に手を置いて、撫でながら言った。すると彼女は安心した様で、大きなあくびをした。というか、何処から「僕が傷ついた」なんて情報を手に入れたんだろ。


「とりあえず今日はもう遅いから、近くの宿に一緒に泊まろうか。」


「うん!泊まろう〜!」


 彼女は嬉しそうに尻尾を振っている。なんでだろうか。彼女はいつも僕に甘えてくる。別に悪いことじゃ無いんだけどね。なんでだろう。





 To Be Continued…

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