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ジャケットをかけられ、お姫様抱っこの状態でしばらく移動したところで木製の扉が開かれる音がした。
少し、空気のこもった匂いがしたかとお思ったら、柔らかいクッションの上に下ろされた。
視界を遮っていたジャケットを取られると、急に明るくなった視界のせいで、目を細めると俺頭上からあからさまなため息とパチンと魔法が使われる音が聞こえた。
思わず俯くとライ様が目の前に座られ、傍には先ほど渡したプレゼントが置かれた。
「メリー??泣いていた理由を聞いてもいいか?俺は気づかないうちに何か貴方を泣かせる様なことをしたか??」
急にその場から離れたにも関わらず、批難や叱責ではなくて、かけられた言葉はいつも通りの優しい言葉だった。
「メリー?」
「・・・いいえ。ライ様はお優しいですわ。私がいいと思ったものでもライ様にとってはご迷惑かと思ってしまったら、申し訳なくなってしまい・・・・。」
「メリーはライラックの花言葉を知っているか?と聞きたかったのだが。」
「花言葉ですか?」
「あぁ。やっぱり目が赤いな・・・・。」
顔を上げた私の目元に残っていた涙を親指で拭いながら少し困った様な嬉しそうな複雑な表情をされていた。
「花言葉は‘思い出’‘謙虚’‘友情’でしょうか?」
「シャルは毎年その中の‘友情’でライラックの花や色をモチーフにしたものをくれるのは知っているよな?白や青、装飾品であれば金やプラチナ、銀、アメジストの石をこんな風につけたりするが、実は“紫のライラック”だけはもらった事がないんだ。」
何の話をしているのだろうと首を傾げ、ライ様の左耳についているイヤーカフを触るライ様に視線を移す。
そして、私が刺繍をしたハンカチを手に取ると、ライラック色で刺繍をした花の部分をなぞる。
「紫のライラックの花言葉は“恋の芽生え”“初恋”という意味がある。もちろんシャルはその意味も知っている。俺は母からプレゼントに隠された意味まできちんと理解できる様になれと言われて育ってきた。侯爵家の兄上達も同様に特にシャルは厳しかったから、必然と俺も覚えた。だから、メリーの、オステン王家の色に似た生地のハンカチに紫の糸で刺繍されたライラックの花。シャルと一緒にデザインを決めて刺繍をしたと言ってたよな?だから、てっきり意味を知っているかと思って聞いている。が、その様子だとシャルは教えていなかった。みたいだな。」
色別の意味までは把握していなかった。
いくら“ライラック色”でも私の髪色に確かに似ている生地に、紫の糸で刺繍されたライラックの花のハンカチを渡されたら“貴方が初恋です”もしくは“貴方に恋しました”と、意味を取られても仕方がない。
言葉は出ずに、しっかり頷くとライ様は少し悲しそうに笑った。
その表情に思わず本音がこぼれてしまった。
「私の初恋はライ様なので間違ってないです。」
「え?」
だからシャルは大丈夫だと言っていたのだ。
いつから、私がライ様のことを好きだということに気がついていたのだろう?
シャルの観察力には恐れ入る。
「幼少期に初めてお会いした頃からずっと私の好きな方は変わっておりません。だから、今回ライ様から個人的にご招待をいただけた事がとても嬉しかった。本格的に婚姻の話が進む前にもう一度気持ちを確認しようと招待を受けました。ライ様がシャルのことを好きなのは知っていますし2人のやり取りは私も好きなのでよかったのですが、私自身の気持ちには誤魔化せないなと思いました。たとえライ様がシャルの事を愛されていても、私はライラック様が好きです。大好きです。離れたくないと、シャルの場所が欲しいと願ってしまいまった。」
ぼろっと流れた大粒の涙と歪む視界はすぐに真っ暗になり、気がつくと私はライ様に抱きしめられていた。
「俺も、メリーが好きだ。シャルの事も。だが、シャルには感じない嫉妬の気持ちも、刺繍のハンカチをもらってどう返事をしようか焦ったのも、縁談の話が出ていることに嫉妬したのも全部全部メリーが特別だからだ。だから、泣かないで欲しい。シャルに感じるのは、家族愛だ。それはシャルも知っている。だから、《《紫》》のライラック、アメジストを俺には渡さないんだ。それにシャルの初恋は俺じゃないし、今一緒に初恋の相手を探している。見つかるまでシャルを守るために仮婚約のままでいるんだ。」
「・・・え?」
「だから、俺のことを諦めないでほしい。俺もメリーには隣で笑っていて欲しいといつも願っている。」
「好きで、・・・ライ様のこと愛していいんですか?」
「あぁ。俺もこの特別な気持ちはメリーにしか感じない。やっとわかった。俺も愛している。」
そう告げられて、私はボロボロと泣いてしまった。




