僧侶の遺した日記 3 「違いは何?」
人語を話す魔物。
アレらと、私たちとの、違いは何なんだろう。
「僕も同行していれば……。」
「気にしないで……父に……あなたのおじい様もいた。魔族の出入りのある巣は失敗すると近隣の村に危険が及ぶ事もあるから……村に居たのも……正解だよ。」
数日後……巣から1番近い村が滅んだ。
「うーむ……事態の悪化を招いてしまったか……。少々心許ないが……むしろあの魔族には少数の方が良いやもな……。あの巣へ向かおう。」
「じいちゃん……。僕も行くからね。」
「父の傭兵団も近隣の村の警護で私しか手が空いてなくて、ごめんなさい。」
前回は討伐隊と言える規模だった。今回は……3人。
巣に到着し、中を少し進むと、人型の魔物が居た。
「あ、あぁ……貴方たちは……また殺すのですか。報復に、報復で返すというのですね……。」
耳が痛い。胸も苦しい……。どう答えたらいいのだろう……。
「今回は先に話し合うつもりじゃ、魔族は……奥かの?」
「………………。話し合うと言うのなら……ここでお待ちください。お伝えしてきます。」
半刻ほど待たされた。奥から、長い黒髪に赤い目、ほとんど羽が抜け落ち、壊れたような天使の翼……。
「何用か……正義の使者ども……。」
「ここでの出来事は……すまんかった。素直にそう思っとる。報告されていた魔物の巣ではなかった。あの時、帰るべきじゃった。」
「異な事を言う……。謝罪は要らぬ、報復も済んだ。他に……何を求めここに来た?」
確かに……ただ謝罪に来ただけには思えなかったが……お爺さまは黙りこくっていた。
「…………ここから出て行ってはくれんか?ここは、ワシの村や、他の村も近い。同じような悲劇がまた起こるかもしれん。」
「……もはや太古の昔、殺戮のかぎりを尽くしたあの女神が作っただけはある。私はともかく、あの魔物どもはここでしか生きられんのだ。何処にも行く場所など……ない……ないのだよ!!」
ザシュ
一瞬の出来事に、何が起こったか分からなかった。
お爺さまとももう、何年も、何度もお会いしていたのに、初めて見る動き、初めて見る……武器だった。
いつもハンマーとして使っていた金属の杖、柄の部分を逆手に持ち……剣となった杖は、魔族の胸を貫いていた。
「な……じいちゃ……。」
「ぅ……ぬ…………土の精の鍛えし武具であったか……先の戦いで……打撃武器だとばかり……油断…………し……た。」
どさ
力なく倒れ込んだ魔族。
「な……ザリエル様!!」「なんて卑怯な!」「いや……!いや!殺さないで!殺さないで!!」「どちらが魔物なのだ!魔族なのだ!!あくまめ!!」
数々の怒号や悲鳴が聞こえる。小さな子供の魔物が倒れた魔族に駆け寄る。
「ママ……?ママ…………。」
胸が締め付けられる。どうして……私は、私達は……争っているのか、これは……争いなのだろうか?
「お前たちは……先に帰っていなさい。後は……ワシ1人で……じゅうぶんじゃ。」
「じ、じいちゃん…………。」
「……はい、わかりました……。行こう。ここにいると……私達は邪魔になる。」
彼を半ば強引に連れて帰った。
わたしたちは……なにとたたかっているんだろう……。
時折、あの魔族が夢の中で問いかけてくる……「悪とは、正義とは……お前たちは……。」
英雄ひとり
後日、勇者として讃えられていたのは、お爺さまではなく、孫の彼だった。




