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勇者は魔王を倒しました  作者: 匿名記号
韋駄天の章

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42/102

父に誇れるもの

絶望の雪原だった。


ここを渡れる者など……

 入念に入念に準備をしていたはずだった……。



雪原入りして3日目の夜

 全員初めてまともな睡眠が取れた。夜行性の魔物も多く、1人2時間、2人で夜の見張りをしていた。じゅうぶんな睡眠とはいえなかった。

 昼間は吹雪いている事もあったが比較的穏やかな日もあった。夜は一転、常に強い風が吹き眠りを妨げる。

 横穴や風を防げるような丘、森の中は、同じ理由で集まった魔物どもが大量に居た。

 1匹ですら手間取るほどの難敵、とてもじゃないが魔女の魔法なしで捌ける数ではなかった。


 それでもなんとか凌げる場所を探し、少しずつ歩を進めていた。



10日目の夜

 全員疲れきっていた。全員、見張りの勇者も……。

 俺も寝ていたとはいえ、不意の奇襲……一瞬の油断だった。気配も全く感じなかった……


「……わだ……しの事は捨てて行け……この傷……助からん……」

「止血は出来たけど、ここの環境だと……あれ以上は……延命処置にもなってるかどうか……」


 勇者の出した結論は、一次撤退。過去の文献での踏破の為の目印は、全て意味を成していなかった。

 だが、戻ろうにも……今までこちらで用意した目印は……翌朝破壊された状態で、まとめて目の前に捨てられていた……。

 魔族……この雪原を数千年以上に渡り支配し続ける氷雪の魔族だろう……。



24日目

 用意していた食料が尽きた。食用の獣が居ない事は把握していた。踏破予定自体も余裕をもって、20日分。24日間、雪原入りしてからの食料調達がほとんど出来なかったのが致命的だった。


 魔女の容態も良いとは言えない……。だが……戻ることも叶わない。……どうする……?


 焦り、空腹、極限の寒さの中で、万全を維持するのは難しい



26日目

 2日……木の根しか口にしてない。限界は近かった。

 夕刻前、風も穏やかで、まだ晴れ間も見える。

 勇者は魔物の少ない林に何か食べるものを探していた。俺は野営のための横穴を掘っていた。近くには手負いの魔女と、それを介助する僧侶。



トン



油断も、慢心もなかった、はずだった


「ぁ……え………………ぅ?ご、、、ごべ…………ん……」


 羽音など聞こえなかった。

 虫……見たことのない魔物が僧侶を襲っていた。背中……から貫通していない、何か打ち込まれた……?!毒か……卵か……どちらにしろ……口から血……肺がやられている。

 瞬く間に魔物を消し去り僧侶の様子を見る戦士。

 とても自分で歩けるようには見えない傷だった、意識も朦朧としており、ボソボソと謝罪の言葉を口にしている。


その夜、

2人に会話はなかった。



勇者の体力も限界だろう、もちろん……俺も…………。



……ダメ押しだった……。



 その日は、一際大きな吹き荒ぶ雪の嵐の日だった……魔族クロセウス……出会ったら逃げろ……?無理だろ……この吹雪、どっちに逃げろって?


 あぁ……父さん…………ちょっとばかりはえぇと怒るだろうなぁ……。いや……どうだろう、よくやった……って褒めてくれるかなぁ……。




「勇者……これしかないわ……。すまん……仲間に誘ってくれて、不甲斐ねぇ」


 小さな瓶を3つ、勇者に手渡す。


「ま、待ってくれ!僕も……」

「まぁまぁ待て待て、死に急ぐな勇者さん、お前……ここで終わるために来た訳じゃないだろ?魔女も、僧侶ちゃんも、息はある。が、このまま死んだり、奴に氷にされたら助からねぇ、お前もだ、希望を未来に託す。悪い選択じゃねぇよな?」


一瞬、勇者は迷っていたようだった。


「そんな……、戦士は……」

「………………いい2年だった、あの砦の兵士達にも……会えたらよろしく伝えておいてくれ」

「くっ……!僕は……僕は……!!すまない……」

「ばーか、負ける気で挑まねぇよ、勝ったら全員教会行きだからな!」


 ……強がりはこの辺にして……どうしようかねぇこれ……。死にたいわけじゃない……今まで死線は何度も何度も越えてきた。


 ……いつも通り……やれるだけやる!


「疾風迅雷電光石火!怒涛の韋駄天さまの最後の大一番!!その目に刻め!」




韋駄天の氷像は今も雪原に立っている。


勇者は窮地を脱したが……以降3年の眠りについた。勇者パーティ3人目の犠牲者、騎士の子、韋駄天の戦士。

魔族クロセウス

久遠の雪原を1万年に渡り支配している氷雪の悪魔。

久遠の雪原に無数に立ち尽くす氷像が、かの悪魔の強さの象徴となっている。

北の魔王が討ち取られた後、見かけた者は、居ない。

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