12.王子様
王子という立場というものは、背負っているものがあまりに重たすぎる。ルイスは廊下を走りながらふとそんなことを思った。
幼少期から、あまり出来はよくなかった。不器用で、飲み込みが悪く、場の空気を壊してしまうことも多々あった。例え国王の息子であっても、社交界では不利になりかねない欠点だった。足を引っ張るのだけは嫌だった。
並々ならぬ努力と、本来の自分を抑えることを意識して生きること数年、本来の自分というのはもはやほとんど見えなかった。冷酷、無情、影ではそのように言われることもあったが、構わなかった。この国を背負う者として正しい道を自分は選択したのだと、後悔もなかった。
感情も表情筋も固まってしまい、器用に生きられるようにはなったが退屈な日々を過ごすこと数年。メレリアへ留学が決まったが、そこでも生活は大きく変わらなかった。始めは女子生徒たちからの注目も浴びたが、それすらもなくなった。期待されるような理想の王子様でないことはわかっていた。物語の王子様なんてものには吐き気がしていた。そんな簡単なものじゃない。たった1人の女に構ってる暇なんて、実際の王子様にはないんだよ。
「ラナリーを!?」
そんな時にこの話があがってきた。メレリアからの土地の要求。自分を人質としていることをさりげなく示唆されていると知ってからの行動は早かった。ジャックが止めるのも聞かずに強行手段に及んだ。自分の立場で言うべきでないというのはわかっていたが、ディアナは最近孤立していて、一人でいることが多かった。それに彼女の賢さなら関わらずともわかっていたため、あまり大事にならずこの問題を解決できるのではないかと考えた。
「私は王宮で婚約破棄を言い渡されました」
実際は少しも上手くいかなかった。この時から既に、器用なルイス王子の仮面が若干剥がれかけていた。そしてついに全てが明らかになった。ジャックとアリア以外の前で、本性をさらけ出すのは本当に久しぶりのことだった。
「本当は、よく笑う方なのですね」
そう言って笑うディアナの方こそ、今まで見たことがない笑顔だった。
「君もな」
思わず言うと、ディアナは恥ずかしそうに口元を押さえた。彼女の前にいると、今まで上手くやってきた感情のコントロールも、表情筋の抑制も少しも上手くいかない。これがどんな感情かもわからない。
そんなモヤモヤを抱えるようになり、油断していたのだろう。屋敷全体が何者かによって襲われ、目覚めた時に既にディアナはいなかった。冷や汗と寒気が止まらなくなった。それと同時に自己嫌悪も。
そして優秀な幼馴染みたちの助けもあり、ディアナの居場所、つまりはリルノの屋敷へとやってきたわけだ。
「ディアナ様はここに、」
アリアとジャックが屋敷を覆う魔法の壁を破壊する。その穴をルイスが潜った。
「俺だけでいい」
ディアナのためだけに全てを賭けて助けに行くその姿は、彼自身が嫌悪していた物語の王子様そのものだ。屋敷の廊下を走ってついにその場所を見つけたルイスは、憔悴したディアナの姿を、ようやく見つけることができた。
「!」
彼女と目が合う。出会えたことも無事だとわかったことも嬉しいはずなのに、そんなディアナを追い詰めたリルノという女の存在に対する怒りで、身体が燃え上がりそうだった。
「ディアナ!!!!!!!!」
ルイスは今、たった1人の女性を救うために剣を抜いた。




