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妖異変超  作者: 青赤黄
人災の始まり
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変編2話 10月21日『漢字変換』

 地上では、あのババアが力を与えた人間が陸たちに襲い掛かっている。

 でも、たかだか周囲の物質を刃物に変える能力とか、周囲の空気を圧縮する能力だとか、任意の相手の五感を封じる能力だとか、任意の相手の行動を逆転させる能力とか、さまざまな物体を濃硫酸に変える能力だとか。

 その全てが無意味である。

 大抵陸に防がれる。

 陸の『合離鬼』、自分の任意の場に地球の重力の十分の一から10倍の重力を付与することができる能力。

 物質を刃物に変えようが、刃物を誰もいない地面に重力を集中させ、引き寄せる。

 他の人も引き寄せられるが、ここにいるのは4人。

 陸と海と空と神楽。

 神楽にだけ、いつもの1.5倍以下の重力を与えて、10倍の重力はなるべく遠くに置いて、少しでも、神楽への負担を減らす。

 よし、後で陸は叱ろう。

 少しでも神楽に負担かけてんじゃねぇよ。

 それはそれとして、いくら空気を圧縮しようが、常に空気が渦巻いていれば圧縮しきれないし、どれだけ1人の五感を封じても3人分の感覚を持っていたら少しの意味もないし、行動を逆転させて、右手を出そうとして左手を出すことになろうが、そんなものにはすぐに慣れてしまうし、さまざまな物体を濃硫酸に変えようが所詮液体。坂道にそって陸が開けた穴に注がれていく。

 どう行動しようが、3人には勝てない。

 そう言うような変異体を入れたからな。

 まあ、完璧とは程遠いのだけれど。

 だが、たった3人で異形の王と比べるのはいささか苦思いというものだろう。

 現代にも異形と呼ばれているものはいるのだが、あいつらの王を意味しての異形の王ではない、王として、私のような変異体を生み出す、自分の家臣を生み出す王ではなく。妖魔王のように全妖怪を統べるわけでもない。

 たった1人の異常なほど強く、異形な姿をしている王だった。

 黒目が眼球一つに八つ、両目合わせて16あり。

 口の中に歯が二百はあるような。

 そして、瞬きした次の瞬間には別な姿に見え、形が固定していない。

 そんな王。

 私と妖魔王が2人で行っても絶対に勝てない存在。

 そんな存在と比べてはいけないだろう。

「さて、こっちも終わったし、神楽のところに行こうかな」

 足元に転がっている20人を踏みつけながら、ビルの端まできて、飛び降りる。『地面』を『治面』に変える。

 治面に足が着くと、落下のダメージが入り、足の骨が折れるが、治る面なので、すぐに回復する。

 即死すると治らないので、そんなに高くないところからじゃないとこれは使えないのだが。

「あっ、縁連ちゃん!」

 戦っていた陸やサポートの海、怪我人を治していた空よりも先に、自分で動ける怪我人を案内していた神楽が真っ先に私に気づいて駆け寄ってくる。

「縁連ちゃんなにさっきの、カッコいい!」

 目を輝かせて子供のようにはしゃぐ神楽に「なーいしょ」と言ってはぐらかす。

 私が己龍の竜よりも人外だと知られたくないから後で記憶は消さなきゃ。

「そーいえば、用事あるとか言ってたけど、それは終わったの?」

「うん、終わったよ」

 他の人に言われたらそのことは言うなとブチギレて言うのだが、神楽に言われたらなんの怒りも湧いてこない。

 むしろ話す口実となって嬉しいくらいだ。

「どんな用事だったの?」

「ちょっとね親戚と話してたんだ、仕事があるとかでもう行っちゃったから、ここに来たんだ」

 まさかGPSを追ってきたら陸海空がいるとは思わなかったけど。

 スマホを取り出して、3人とのグループラインを開く。

「それでゴミ(己龍)はどこに行ったのかな?」

 神楽にそう言いながら3人には「怪我人を治して、かえって。後でそっちの家に行って話はするから。敵は治さなくていい。ただ殺すな、殺したら妖魔王に殺されるぞ」と打つ。

 我ながらよくもまあこれだけの文をすぐに打てたものだと感心する。

「己龍はね、ドラゴンになって飛んでっちゃった」

 そう言って神楽がニコッと笑ったのと、3人から了という返信メールが来たのはほぼ同時で、私が神楽の笑顔に心の中で騒ぎまくったのと、なんであのゴミ(己龍)は神楽を置いていきやがったと苛立ちを覚えたのは同時だった。

 後で燃やすか切るかしてやろうと思ったのは心の中の騒ぎがおさまった後だった。

竜火水素(りゅうかすいそ)』水が素で竜に火がつく。それか『刀竜門(とうりゅうもん)』刀で竜を門の形に切る。こっちにするか。

 刀がないから『竜火水素』でいいだろう。

 あいつは竜だから火の一つや二つで死ぬことはないだろう。

 死んだらライバルが居なくなってラッキーだし。

「竜ねー、ほんとずいぶん人外になっちゃって、昔はこうなるとは思わなかったわねぇ」

「そうだね、でも竜になれるなんてほんっとかっこいいよね、憧れるなぁ」

 残念ながら、竜になるのには代償がいる。だからそこまでいいものではない。これを言わないのは神楽が聞いたら、代償があって竜になってるなんて主人公みたいでカッコいいっていうだろうからだ。

「いやーそれにしても、ある日突然竜になってるなんて、己龍主人公みたいだよね。実際さ、異形ってのと戦ってるんでしょ?すごいなぁ」

「そんなものかなぁ、私はやだな、平和な世界で好きな人と生きてきたいよ」

「ほうほう、縁連ちゃんはラブコメの主人公になりたいんだね」

「確かにそうだね」

 私がいる世界はラブコメにはならないよ。

 そうはいえなかった。

 それに、もう一つ言えないこと、漫画の主人公なら最後まで生き残るけど、現実の主人公は生きている人全てだ。

 ある人はミステリーものの主人公だし、ある人は物語の途中で死んでしまう主人公だ。

 己龍が、物語の途中で死ぬタイプの主人公だとしたら、私はそうはなりたくない。

 神楽に悲しんで欲しくない。

そんな殊勝な物思いに沈んでいる時『収集束図(しゅうしゅうつかず)』集めたものを束ねて図にする。から、この切り取りの犯人の居場所の情報が伝わってきた。

 能力は変異体に入られて生まれたものではなく、異形を取り込んで能力を得たのではなく、何かの石から得たもののようだった。

 その石についての情報はそれ以上なく、犯人の能力は、自分の視界に入ったものを全て1センチの正方形に切り取る能力とのこと、その時の位置から見ての1センチだから、遠ければ遠いほど、同じ1センチでも切り取った正方形の大きさは大きくなっていく。

 めんどくさそうな能力だな。

 あのババアが与えたものじゃないというのも気になるが、今は妖魔王に犯人のいる場所を伝えよう。

「ごめん、ちょっと電話してくるからちょっと待っててね」

「りょーかいです!」

 神楽がふざけて敬礼して、考えながら話していたこと別の話を終わらせて、妖魔王に電話する。

 最後に信用していいかと聞かれたのにはちょっとイラッとしたけど、たまに嘘の情報を与えてからかったこともあったので、オオカミ少年の末路かと考えて我慢する。

 ここでもちろんとか言ってみたかったのだが、いたずら心が勝って「別に、信じなくてもいいよ」と言ってしまう。

 さて、妖魔王は信じるのかな?そう思うまでもなく、「信じるよ」と返ってきた。

 これは意外、まさかオオカミ少年を信じるとは。

 そう思ったが、信じられたのならしょうがない、道案内をしてやろう。

 道案内をして、たどり着く場所は児童養護施設。

 あの優しい妖魔王は一体どうするんだろうなぁと思っていると、空が「終わりました」とラインで送ってきた。

「了解。あんたらも出かけてたのに大変だったわね、また今度あんたらの家に行くから」

「はい、お待ちしております。王」

「王はいらない」

 そう返信すると陸海空がこちらに近づいてきて、「それじゃあ、神楽さん、また今度会いましょう。縁連さんもまた今度」

 海が言って、3人は手を振りながら歩み去っていった。なんとまあ、礼儀正しいことかと思い、同時にわたしにはできないなとも思う。

 それにしても、今回の犯人。

 あいつに力を与えた石がなんなのか知らなくてはいけないな。調査には『調査人夢ちょうさにんむ』人の夢の中に入って現実の情報を調査する。これと『操作令状そうされいじょう』他人の意識を操ることができる紙。この二つを使うとしよう。

 本当に、変異体とはすごく便利だ。

 どんなものでも一文字以上変えていれば自由に効果をつけることができる。

『死地点抜島』のように素の漢字が一文字すら入っていなくともいいのだ。

「すごいことが起こってたね」

 陸海空を見送ってすぐに神楽が言ってきた。

「そうだね、すごい大変だったよ」

「うんうん、怖かったねぇ」

「だねぇ」

 少なくとも私は怖いとは思わなかった。

 もう何度も生命としての死は味わったことがある。私もあのババアと同じで、核を壊されない限り本当の意味では死なない。

 何度体が死のうが、別の体に乗り移れば死なない。

 そんな化け物だから、人の温もりというものがひどく好きで、愛おしくて、

 神楽を抱きしめる。

「およ?どしたの?」

 神楽が不思議そうに聞いてくる。私は少しの間、神楽の短い髪に顔を埋めて、温もりがなくならないのよう抱きしめる力を強くする。

「ちょっと苦しいよー」

「いやーごめんごめん、いい匂いだったものだから、ついついね」

 陽気に茶化してなるべく自分の中で生まれた、いつか壊れるものなら、今ここで壊してしまいたいという気持ちと、温もりを感じたくなったという気持ちを隠す。

「あー、癒されるよぉ、やっぱり神楽は柔らかくていい匂いがして落ち着くなぁ」

 私がさらに茶化すと、

「えー、そんなことないよー。縁連ちゃんも柔らかくていい匂いしてるよー」

 と、マジに言われてしまって少しドギマギする。

 どうしよう、どう反応しようかな。

 そう悩んでいると、「お二人さん、ここ外です」と声がかかった。

 私がお母さん(ババア)の次に嫌いな人間だから、声を聞けばすぐにわかる。

 己龍だ。

 己龍は嫌いだが、今だけはナイスと言いたい。

「はっ、嫉妬してるのね、ほんっといやらしい、私みたいに神楽に抱きついて、あわよくば抱こうとでも思ってるんでしょう?これだから鬼月己龍って男は」

 それでもナイスの代わりに出てきたものは単なる罵倒で、嫌味にすらなっていないものだった。

「お前、用事は?」

「終わったに決まってるでしょ?」

 しかもそれに何も感じていないようにいうものだから、少しイラッとして語調が強くなる。

「そうか、ならこれから3人で遊びに行くか?」

 しかもそれにすら気づいていないかのように、まさかの遊びに行こうか発言。

 まさかこいつは私の敵意にすら気づいていないんじゃないか?

 あっいやそれはない。

 ちゃんと気づいてるそれはこいつのいつもの行動を思い出せばわかる。

 つまりこいつは私を敵として認識してないのか。

 なぜか悔しい気持ちになった時に「で?どうなんだ?行くのか?」と急かすように聞いてくる。

 この野郎。

「はぁ?なんで私があんたみたいなトカゲにも劣る、プラナリアよりも食物連鎖のピラミッドで下に属しているやつと一緒に遊ばなきゃいけないのよ?今だってあんたと話していて吐きそうなのを我慢してるんだから、それだけでもあんたは私に一生分の恩を感じるべきなのよ」

 言ってやった言ってやった。さっさと傷ついて涙流して脱水で死にやがれ、それとも私が焼いて脱水してやろうか。

 そう思っていると飛んで来たのは罵倒で、10分間ぐらい罵り合って、神楽が「私は2人と遊びたいなぁ」と言ったから、ちょっと遠くのゲームセンターまで行って遊んだ。

 やっぱり神楽はとてもかわいかった。

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