感情大戦 対白白白 14時27分
脳を貫く弾丸の痛みは感じなかった。
痛みを感じる脳組織を壊されたから当然で、脳組織を壊され意識が飛び、気付いたら吹き飛ばされていた。
体を貫通して私の血を撒き散らしながら飛んでいった弾丸は全て暑い日の水のように蒸発して消えてなくなり、向けられた銃口も喰らった銃弾も全てなんらかの能力で作られたものだと察する。
欲しい。
察し理解した瞬間に思ったのはそれであった。
死んでしまっても構わないと思うような絶望感の闇の中で光る輝きに、少しでも近づけるようにと願いながらそれを思う。
あれがあれば、これがあればは永遠と湧き上がって止まらない。
零火さんが欲しい。
1番強い欲は1番叶えにくいもので、ともすれば難易度は最上級のものになるもので。
それでも、どんな苦悩があろうと、どれだけの絶望を味わおうと、例え、もう自分の愛する人に愛してもらえないと理解していても諦められるものではなくて。
『自然再生回復』と『2倍』の能力を合わせて傷を再生し、『風刃』で切り掛かる。
それは避けられて、顎を蹴り上げられる。
自分の分身を2体作り出して左から『身体能力強化』を使って殴りかかり、右から『自転砂』でそこら辺にある砂をライフルの弾丸のように投げる。
「『前離後流扉』」
目の前の女の子がそう言って、『自転砂』を使う方へと体を向けて避けることなくくらい、投げられた砂が全て左の自分に当たる。
なんだ。彼女の能力は一体なんだ。
「『砲千化』」
再び、何もないところから千丁の拳銃が生まれ、その全てが自分に牙を剥く。
少女の能力を肯定したのは一木大輝が初めてだった。
少女の家族は彼女の能力を嫌い、彼女を忌み嫌った。
まるで、妖怪のようだと。
彼女の家は昔、妖怪に襲われ大半が体の一部しか墓に入れなかった。
それにより彼女の家の妖怪に対する憎悪は並大抵のものではなく、当然少女への虐待は苛烈であった。
子供の背丈でも小さい牢の中に閉じ込め、3日食を抜くのは当たり前で、一度餓死させようと1ヶ月何も与えずに置いたことすらあった。
初めのうち聞こえていたごめんなさいと泣き叫ぶ声も聞こえなくなり、愛は感情を殺し、苦痛を押し隠し、瞳に悲しみも怒りも、なんの感情も宿さなくなり、自分の排泄物さえも食料とし、生き長らえていた。
当然不潔で不純な空間には虫が湧く。
蜘蛛、百足、蜚蠊、時々蝶が迷い込んでくることもあった。
それらも食らい生きていた少女は8歳へと育ち、牢から出された。
免罪されたわけではない。
別の牢に移されるだけだ。
その間に、ひどく軽薄な、それでいて多少の真剣みを帯びた声がして、
声が言ってごらんと言った言葉を掠れた声で、なんども失敗しながら言って、
『砲千化』
といえた時には新しい自分の棲家が目の前に来ていた時だった。
鳴り響く銃声は自分を縄に繋いで歩かせていた男を肉塊へと変える。
そして彼女は男から出た液体を飲み物と判断し、動かなくなった体を食料と判断し、よくわかっていないまま、『砲千化』はご飯を生み出す魔法の言葉だと判断した。
10分もかからなかった。
家の中に血溜まりが多く生まれ、肉塊が散らばり、最後の1人となるのは。
その最後の1人が逃げるのを銃弾は逃さず。足、腹と撃ち抜いて、少女は歩み寄り、不思議なものを見た。
傷が塞がっているのだ。
もう一度『砲千化』と言おうとすると、
「待て!待ってくれ」
そいつが言った。
ただ少女は言葉を理解しておらず、している言葉と言えば死ね、消えろ、怪物などの罵詈雑言のみ。だが、そいつが目の前で手を振るだけで攻撃してこないと判断して口を閉じる。
そいつは少女の体を見て「君が、そうなのか」と呟き、手を伸ばし、抵抗しない少女の手を取り、少し上がって腕を掴み、それでも抵抗しないので思い切ってそいつは少女を抱き抱える。
そして連れて行くのはその家の風呂場。
裸体の少女はそのまま入れて、自分は袖捲りをして風呂に入る。
頭を洗って体も洗い、水滴を拭き取ってその家にあった子供用の服を着せてそして米を茶碗に盛って、卵焼きを作り、牛乳をコップに入れて出す。
少女は風呂に入っている間も少しも抵抗せず、出されたご飯はすぐに食べ終わった。
そしてなんの感情も宿していなかった瞳に猜疑を浮かべてその人を睨みつける。
どうして、
そう問う声が、たどたどしかったが、久しぶりに潤った喉から出る。
「うん、どうしてかって、俺は今日お前を引き取りに来たんだ。だからだよ」
引き取る?
その言葉の意味がわからず首を傾げる。
「今日からお前の親は俺になるってことだ。片親になるけど許してくれ」
親、親。
親とは、どういうものだったか。
自分の知っているものの中にあっただろうか。
「なぁ、お前名前は?あいつらはアレとかそれとかしか言ってなかったが」
名前。
ない。
小さな声で言うと、そいつは腕も組み、唸って、
「なら、お前の名前は愛にする。俺からお前にやる最初の愛だ」
ほら言ってごらん。
男は優しい声で言い聞かせるように言って。
「あ、い?」
品川愛の人生と呼ぶべきものはこの瞬間から始まったもののことを言う。
そして、過去がムイと比べても酷いものでそれが依存度の深さに関わるのであれば、悲しみの深さを測る天秤は愛に傾く。
ただ、悲しみが強さに変わるわけではない。
「『砲千化』」
憎しみに顔を歪めながらの攻撃も致命傷にはならない。
止められなかった。
止めたりしたら殺されるような気がした。
それに、愛ちゃんの気持ちは多少わかる。
全部はわからないし、大切な人を失ったこともないから「気持ちはわかるけどあの人はそんなことを望んでない」なんてわかったようなことは言えない。
それでも、一応は成人している身として、なんの役にも立たない、教訓として覚えている以外に使い用のない「復讐も犯罪だからやっちゃダメ」と正論を言った方がよかったのだろうか。
そんなこと無理だ、とても言えない。
愛ちゃんのあの顔を見てそう言える人は、他人の感情を理解できない人だけだ。
だから私は祈っているしかない。
あの軽薄な人の言っていた通り、愛ちゃんの能力が私たちの中では最強クラスだって。
本当にそうなのであれば、愛ちゃんに生きていてほしい。
生きて帰ってきてほしい。
生きて帰ってきてくれたら、ちゃんと大輝さんが死んだことを泣いて、悲しんでほしい。
そのあと死にたいって言うのなら死ぬのは手伝ってあげるから。
〇〇恵は、本心からそう願っているかもしれない神へと胸の前で手を組んで祈った。
『砲千化』で攻撃してすぐに『合二砕』で再生している体を砕く。
こいつの攻撃は全て『間離後流扉』で後ろに飛ばされて私にダメージは入らない。
あいつの言っていた通りだ。
ヘラヘラ笑いながら「よーよー愛ちゃんこんにちわ」と軽薄な態度で地面の中に現れたあの男の言っていた通りだった。
ひとつだけ違うところがあったのなら、私が「勝てるかもしれない」と言っていたことで、これなら、私は間違いなく勝てる。
これならあいつがまた教えてきた私の能力の使い方、覚醒した能力の効果『添木』も使わなくてもいいだろう。
今愛の使っている能力は、愛の語っていた通り、地面の下を恵の能力を使って動いていた2人の前に現れたリオル・クライシスの能力によって、愛も知らずの内に覚醒させられた能力だ。
今まであった、カタカナを使う花の名前は当て字をしても効果を発動しないと言う制限もなくなり、代わりに現実に存在しない植物も文字を変えて読み上げることで効果を発動すると言う能力と『添木』と言う1日に一度だけ植物の名前の後ろに木をつけて、樹木にする。『添木』を使う時には代償をつけるほど効果が大きくなる。
『砲千化』や『火回り』、『合二砕』などで攻撃をして、相手の攻撃は『前離後流扉』で流す。
これならいける。
こいつを殺せる。
そう思った瞬間、目の前のやつの姿が2人に増える。
懲りずに左右からの攻撃でもしてくるのかと思ったが、違った。
2人が4人に増えた。
4人が8人に増えた。
8人が16人に増える前に、これはまずいと判断した。
『前離後流扉』で防げるのは前からの攻撃だけ、左右からは別ので防ぐしかない。
そう考えている間にも16人から32人へ、
32人から64人へ。
愛が大輝が能力を見た時にはここで大輝は能力の使用を止めていて、白もここで能力を使うのをやめた。
もう、十分だと判断したから。
「ああ〜、なーんですぐに思いつかなかったのかなぁ、ほんと私って馬鹿なときあるよなぁ。でも、思いついたからいいかぁ」
自分が今1人立っている。
この事実を2倍にしていくだけ。
それだけで、私は勝ったんだ。
受け止められなかった左右からの殴打。
その威力は2倍になりよろけた愛の腹部を同一人物であるが故の連携で3人が同時に蹴り上げる。
それも2倍4倍に増えていき、増やすのをやめるまで愛は宙に浮いたまま、胃の中のものをひっくり返して消えそうになる意識を繋いでこの状況でどうやって皆殺しにするかを考え、
「死ぬと思ったら自殺してください!そうするだけで能力は奪われません」
なんでこの時に大輝さんじゃなくて、あなたが出てくるのさ。
愛が皆殺しの方法を思いつく2分前。
ゾッとして。
状況も周囲も見るもの全てにまるで脳みそをぐちゃぐちゃにされているかのような不快感が遅い、膝をついてその場に嘔吐する。
思考は混濁し、聞こえてくる声がうまく聞き取れない。
自分に腕があり、足があり、体があり、それが他人に犯されることのない絶対的な境界であると判断し、いつかくるかもしれないあの絶望的な状況から逃げるために口を拭もせずに背負っていた怠惰を振り落としてその細い肩を握りしめて「早く!早くここから!ここから逃げるんだ!どこでもいい!日本以外ならどこでもいいから!早く!早くしてくれ!」と唾を飛ばしながら叫び、その反応に樹が「おい、どうしたんだよ、何が」樹の手が肩に触れた瞬間
「触んなぁ!!」
假偽がその手を振り払い怠惰にここから離れるように懇願する。
その假偽の叫びに鬱陶しそうな顔をしながら怠惰は假偽に顔を近づけ、目を薄く開く。
動かなくなった假偽から目を離さずに
「ほら、そこ、人、假に触って」
寝ぼけたような声で言って、假偽の反応から何かまずいことが起こると判断していた樹、爆永、恵は、動かない假偽の背に手を当てて、
視界が切り替わる。
「さっむ!」
樹が叫び、周囲を見ると、そこは雪が積もり積もった場所で、今も雪が降ってきていて、真っ白な世界となっていた。
怠惰が目を閉じると、動き出した假偽が少しの間騒いで「ここはどこだ?」と怠惰に訊き、「ヨーロッパ」と怠惰は適当に言う。
「嘘つけ、お前が言ったことがあるのは北は北海道、南は沖縄だろうが、ここは北海道か?」
頷く怠惰の肩から手を離し、怠惰の手を握りしめて雪の中に寝転んだ。
それでもまだぶつぶつと呟き続ける假偽に怠惰が「何?」と訊く。
それはどう意味かわからない主語も何もないものだったが假偽には伝わり、怠惰を引き寄せて、縋り付くように抱きしめて話し出す。
「混ざったんだ、木の中で、急にでかい木が生えたと思ったら根が体に巻き付いて、吸われて、それで死んだと思ったんだ、また死んだと思ったんだ、なのに死んでなくて、自分の頭の中に他の人の考えてることが入ってきて、みんなもそうで、罵声があって泣き声があって笑い声があって辛くて、自分がなんなんだかわかんなくて、私なのか僕なのか俺なのかさっぱりわかんなくて、気づいたら死んでたんだ」
理路整然としない湧いてくる言葉を言っただけの言葉でも、話をする人間の言動で簡単にその悲惨さが伝わるもので、
その災害が、14時30分42秒から始まり、14時31分11秒に終わる。
その被害は国分寺市、国立市、立川市、昭島市、日野市が壊滅し、逃げることのできなかった住民約300万人が假偽の恐れていた、自分と他人の境界線が消え、混ざり合うことになった。
そしてそれを起こした張本人は、その中で笑い、枯れて折れるまでの100000年の間、たった1人の人間への愛情と47人の同一人物への憎悪で自分を保っていた。
15歳の時に思いついていたことがある。
球根を吸魂としてみたらどうなるのだろうと、思い、そこらへんでトコトコと歩いていた野良猫に使ってみた。
野良猫の体がパタリと倒れ、
脳内でネコが暴れ始めた。
にゃーにゃーなんて生やさしいものじゃない。
猫の感じた動揺、困惑それらが全て自分のものとなり周囲のものが恐ろしく見え、自分の口から出る言葉も猫の発する言葉と混ざり合って、偶然近くを通った通行人が気が狂った人を見るようにみて通り過ぎて行った。
それは体感的には何時間も混ざっていた感覚だったのだが、助けられた時、まだ2分も経っていなかった。
「もーやっちゃダメだぜ?猫だったからよかったものを、人でやってたらこんなものじゃ済まなかったんだよ、ちゃーんと考えて行動しようねぇ」
助けてくれた男はどこかで聞いたことがある声でそう言って、さって言った。
再開したからわかったが、そいつは私に『砲千化』を教えた男で、リオル・クライシスという男だった。
その男がダメと言ったことは、約束でもなんでもなく、破りやすいものだった。
「『吸魂木』」
誰にも聞こえないくらいの声で言った瞬間に、肉体が木へと変化を始める。
『添木』を使う際の代償に自分の命も肉体も全てを使ったからだ。
足は根となり19人の白を絡め取り魂のみを吸い尽くし、枝葉となった腕で捕まえた17人も同様に、逃げようとした白も幹となった胴が触れ11人吸われる。だが14人の白はテレポートで逃げ出していた。
だがそんなことは混濁する意識の中ではわからず、次第に無関係の人間の意識も混ざり出し、私がどういう存在だったのか曖昧になってきて、僕が何を目的に行動したのかぐちゃぐちゃと俺を暴虐のかぎりを尽くしうちの中で寝転んで
大輝さん。
誰かが言った。
大事な人。
大切な人。
愛している人。
ちょっと依存しすぎだったかなぁ。
迷惑だっかなぁ。
そんなことないよ、
きっと彼も愛していた、
自信を持って、
うん、ありがとうみんな。
何言ってるんだ、
あんなの迷惑以外にないだろう
邪魔でしかないだろ、
混ざり合った思考の中で全員が自分を肯定して否定して嫌いあって憎みあって過去が絡み合って
「あはっ」
誰が笑ったんだろうか。
私だろうか、それとも他の誰か?
わからなかったが、笑いは電波する。
誰かの笑いはみんなの笑いに、誰かの怒りはみんなの怒りに、誰かの悲しみはみんなの悲しみになって。
なんだなんだなんだあのやばい木は、テレポートできなかった奴らはみんな死んだんだ。
でも私は逃げれてる、他の奴らのことなんて知ったことか、私は生きて、他の奴らを殺してでも力を奪って、強くなって、零火さんの所に
思考ごと、気付く時間も与えられず、16人目の白白白は灰も残さず焼き尽くされた。
「よわぁ、クソ雑魚じゃん、つまんねぇの」
そう言って最後の1人を回収しに八首大蛇が純粋な力のみので大空へと跳び上がった。
感情大戦において起こった全ての戦いは、これで終幕。
これから始まるのは幕間の間の、消化試合。
異形狩り、妖怪、変異体。
この3種の混ざり合った全力での迎撃である。
次の対ワールド戦でとりあえず第二部は終わりです。
第三部は時々出てきた磊落高校の面々とこの世界に来る前の今日狂教会との戦いを描くつもりです。




