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妖異変超  作者: 青赤黄
感情大戦
36/39

感情大戦 対白白白 14時24分

 悲哀の異形は、14時23分54秒69に誕生した存在だ。

 色欲の言葉により14時21分から始まった、自分の手を汚さぬ殺戮は、まず家族を手にかけるところからはじまった。

 それにより、一部の人は恐怖を、そして大半の人はどうしてという悲しみを抱きながら命を落とした。

 そして外にいた者たちも自分の彼女、もしくは伴侶、子供を殺されて、怒るものもいるが、大半は悲しみに涙をこぼした。

 そして、異形をその身に宿していた白白白(しらじらはく)の未烈爆永と木霊樹の関係に嫉妬し、そのような関係にならなかったことを悲しんだ。

 それが悲哀の生まれた直接的原因だ。

 悲哀の姿は人それぞれ、変わる。

 自分が最も哀れだと思う存在によって、人が攻撃することは大抵できない。

 そして、相手に多大なる悲しみを味わわせて行動不能にする。

 今まで味わったものでは自分の家族が目の前で寿命を全うし、遺言を残そうとしている瞬間であったり、昔飼っていたハムスターが同じく死のうとしている瞬間、そして昔見て泣いた映画のワンシーンであったりとさまざまだった。

 だが異形が感情を持つことは珍しいため、嫉妬の異形となった白白白は悲哀の異形を攻撃することができる。

「今の状況はそういう感じです。なので僕たちが戦いに混ざるのは正直キツいです」

 假偽が空を見上げながら新たに出現した悲哀の異形の力を説明する。

「ちなみにこのビルは元は6階建、約18メートルあって、嫉妬の異形の攻撃で2階以上の階はだいたい溶けました。正しくは溶けたんじゃなくて腐ったんですけどね。ほら、嫉妬は人を腐らせるっていうじゃないですか」

 冷静すぎる假偽を見て樹も爆永も息を整えて天井に空いた穴から空を見て、そこから見える青い空を見る。

「なぁ、どうして俺たちは死ななかった。あれは死ぬ攻撃だったぞ」

 爆永の言葉に樹がこくこくと頷き肯定する。

「それは怠惰さんのおかげですよ、怠惰さんは見たものの時間を止める能力なんですよ。だからあの瞬間お二人を見て、空から落ちてくる物の時間も止めて、その間にお二人をこのビルの中に入れたんです」

 假偽が見上げていた首を元に戻して首に手を当て首を回し、眉間を指で揉みほぐし、右目にだけ目薬をさす。

「さぁ、移動しましょう。ここだと次の攻撃には耐えられない。それにそろそろ悲哀のもう一つの能力もきます」

 假偽が床に寝かせていた怠惰の元へと歩き、なれた手つきでおんぶして「ほら早くお2人も怠惰さんに触れてください」と言う。

 假偽が前に嬉々を見殺しにしたことは2人の記憶にも新しく、そんな假偽を信じるのは少し抵抗はあった。

 それでも、今生き残れるのならと2人は怠惰の背に手のひらを押し付け、それを見た假偽が「それじゃよろしくお願いします」と呟くように言って、4人の周りの景色が変わる。

 ビルの内部にあった装飾品が全て変わり、天井にも穴はない。

「これは、瞬間移動か?」

「はい、そうです。怠惰さんの能力効果は自分の知っている場所ならどこでも移動できるってものもあるんです」

 そう言いながら假偽は怠惰を背負ったまま外に出て、2人にもくるように手を動かす。

 2人が恐る恐るビルから体を出して外を見ると、外には壊れた建物は一つとしてなく、地面に傷もなく、ただ遠くからでも見えるおぞましいほどに美しい羽根と、その羽根から出される攻撃を全てくらい、泣いている存在がいた。

「近くで見れば綺麗でも、やっぱり遠くで見ると気持ち悪いな」

 假偽がそう言ったのを2人は聞き逃し、假偽はビルの中に入りスマホを取り出して時間を見る。

 説明で2分使って残り1分。

 この1分。

 この1分がキツいんだ。

 片手だけで自分の頬を叩き、なるべく最良の結末を迎えるためへの意識を整え、懸念点を探る。

 まずはビルの内部にあった企業紹介のパンフレットを見てこのビルが6階建以上のものであることを確認し、受付にボールペンがあることを確認してボールペンを取って、

 外に出て怪物2体の戦争を見ている。

 その2人に「来てください」と假偽が言って、樹と爆永は不信感を隠すことなく、それでも假偽の言葉に従う。

「ええと、今からこのカウンターの下に全員で入ります。これでなんとかなるかどうかは正直分かりませんが、それでも生き残れる確率は高くなり」

 ピピピピピと假偽の設定していたタイマーがなると同時に「あっ、人、人だ!」と言って1人の男性が現れて、その男性に気を取られている隙に假偽は握っていたボールペンを爆永、樹そして自分へと突き刺し怠惰は背中から叩き落として地面と頭をぶつけさせる。

 そして4人共が痛みにうめき、樹が木をはやし、爆永がいつでも爆発を起こせるようにする。

「何しやがる」

「少しは信用してやろうと思ってたのによぉ」

 爆永と樹が假偽を責め、假偽が指を致死量の血液を吹き出して倒れている男性へと向ける。

「カウンターに隠れて!」

 男性を見て呆けていた2人に假偽が叫び、怠惰を抱き抱えカウンターの下に入り2人がそれに続く。

「さっきのは悲哀の能力で、その瞬間になんらかの痛みを味わっていない人を殺すってやつです。さっきのスマホの音はそれがくる5秒前に設定しておいた物で、残念ですが説明するため仕方なく1人見殺しにしました。そしてもう一つ、悲哀の能力で誰かに寄り添っていない人も今から死にます。これは今こうやっておしくらまんじゅうみたいになってるのでセーフです」

 ピピピピピとまた音が鳴り、假偽がカウンターから出て走り出す。樹と爆永もそれに続いて「さぁこっからは初めて」と假偽は呟いて、次の瞬間4人の体は背中から腐り出し、その痛みに假偽は血を吐き、怠惰もろとも床に転び、そして。



 空を見上げていた頭を下げて、首に手を当て首を回し、眉間を指で揉みほぐし、右目にだけ目薬をさす。

 さぁ2回目の挑戦といこう。


 5回目。

 爆永の爆発を使って飛び、壁を木で壊し飛び上がっている間に腐敗に追いつかれた。


 8回目、全員で手を繋いで走ったら少し遠くまで行って腐り落ちた。


 9回目。

 タイマー何なってからの時間を6秒に増やした。

 ピピピピピとタイマーがなり、まずは1番力の強い爆永の腕にボールペンを刺し、驚いて体を固めている樹を刺そうとして、爆永に腕を掴まれ怠惰ごと投げ飛ばされ、頭をうち、怠惰から離れて転がる。うずくまり股下から覗くと瞳を揺るがせる男がいて、その男と樹が致死量の血を撒き散らし、倒れる。

 ああ、失敗。

 自分の血が飛び散るのを見ながら、意識を消す。


 10回目。

 ピピピピピとタイマーがなって少しして男が「あっ、人、人だ!」と叫びながら近づいてきて、その男に「あんたなんかの能力持ってるか!」と聞き、怪訝そうな顔をする男が「何を言って」

 いるんですか。と言うつもりだったんだろうな。そう考えながら男がなんらかの能力持ちのキャラで助けてくれる可能性を廃棄する。


 11回目。

「なぁ、今から悲哀の攻撃が二つくる。一つはその時に痛みを味わってない人を殺すもので、もう一つは誰かに触れていない人を殺す物だ。だから今から攻撃する。信じてください。そして悲哀の攻撃が終わった後嫉妬の範囲不明の腐敗攻撃がくる。だからここから離れるましょう」

 怠惰の能力で移動してすぐに假偽が言う。最初からこうしておけばよかったと考えたが、こうしても間に合わなかった場合、それは生き残る方法がなくなるのとほぼ同義で、だからやりたくなかったのだが、やらなくてはいけない状況になったのだ。

「よくわかんねぇけど、少しは信用してやるよ」

「俺もだ、助けてくれたことに変わりはないからな」

 爆永と樹はそう言って、ならと、假偽は2人の腕にボールペンを突き立て自分にもやり、今回は時間があるので怠惰にも刺し、「ここまでする必要あるのかよ!」と涙目で言う樹を無視して、走り出し、樹も爆永もそれに続く。

 走りながら追いついてきた爆永と手を繋ぎ、樹は爆永と既に手を繋いでいるので2回目には備えている。怠惰もちゃんと傷つけてない方の腕で支えているから大丈夫。

 ビルの壁を樹の木でこじ開けて、外に飛び出し、樹の木に背を押してもらい、加速して、ピピピピピとタイマーがなるのと同時に爆永がビルの壁を爆発をさせ通り、それを5回繰り返して、6回目をやろうとしている時にまたタイマーがなる。

 来る。さっきからタイマーがなってから約3秒から4秒で腐敗は追いついてきた。なら今これほど離れたらきっと、7秒や8秒くらいは稼げているのではないだろうか。

「みろあれ!」

 樹が叫び、假偽が後ろを振り向くと、腐敗はすぐそこまできていて、あと少し手を伸ばせば捕まってしまう。そんな位置にきて腐敗は動きを止めていた。

 見ると、ビルなどの建物は全てどろりと溶けて原型を保てずにいるが下の方はまだ原型を残している。

 そして地面は少しも腐っておらず、地面の下に逃げてればよかったんじゃないのかと假偽は思ったが、そんなことより。

「よっしゃ!生き残った!」

「いた!」

 喜んだ假偽の目の前の地面から恵がニュルンと出てくる。

「わー恵さん!遅いっす!」

「あはは、ごめんね。ちょっと色々あって」

「へー、何があったんですか?」

「あー、なんか知らない人に話しかけられてね。それでちょっと」

「藍の復讐を手伝ったんですね」

 假偽が言うと恵は体を跳ねさせて、深く息をついて

「そう。そうだよ。私はさっき愛ちゃんをあの白い人のところまで送ってきた」

 真っ直ぐと全員の目を見て言った。

「えっ、それ大丈夫なんですか!そんなの愛ちゃんが死ぬんじゃ」

「大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫」

 樹の言葉に緑は視線を逸らし、言い聞かせるように何度も何度も大丈夫と呟いて。

「とりあえず、ここから離れよう。あまりいいことは怒らなそうだからさ」

 假偽が言って、樹も爆永も賛同して、恵みを連れて離れていく。

 振り返ると、羽根の腐り落ちた蝶が落ちていくのが見えた。


 遊園地のメリーゴーランドの馬車に乗ってぐるぐるぐるぐるぐるぐると回り続ける。

 自分以外の客はおらず、自分の乗っている馬車以外は全て子供が黒いクレヨンで塗りつぶしたようになっている。

 馬車の中から降りて回り続ける台の上に乗り馬車と同じ速度で回る。

 メリーゴーランドの外にはグズグズに腐った人が2人縦になっても足りないほど巨大な果物がたくさんあった。

 全て見覚えがあるのだが、一体何だったか。

「わからなくても仕方ないよ。ここでは全て意味のない物だから、意味のないものを覚えておくことはできないでしょ?」

 声がして馬車を見ると、馬車の中の人と目が合った。

「君の嫉妬心には惚れ惚れするよ。だからこそ惜しい。君に理性があれば君は世界で初の人工的な神のバグになれていたのにね」

 神のバグ?

 聞きなれない単語に首を傾げていると、男がふふ、と柔らかく笑う。

「もしなれていたら嫉妬神って呼んでたのに。勿体無いからさ。君から異形の力は取って、意識を返すことにしたよ、多分周りは異形の力を取る時の余波で腐って平らになってるだろうからさ、すごいやりやすいと思うんだ」

 その人はニコニコと気味の悪い笑みを浮かべながらそう言ってきて、

「それじゃあもうお帰り、ここにこれたことを不幸に思うことだよ」


 空が青く澄んで、私にしては珍しく素直に、綺麗だと、美しいとそう思った。

 頭がズキズキと痛むが、すぐにそれもなくなる。

『指折り《カウントアップ》』で数える限り能力の数は変わっていない。

 白い雲がとても綺麗で、やっぱり白色はいい色だなと思う。

 白、純白、潔白。

 何の混じり気のない美しい色。

 私もそうなれたら、どれほどよかっただろう。

 母親への怒りの色も、父親への失望の色も、学校に対する憎悪の色も、零火さんに対する愛情の色も。

 全部なくなってしまっていたなら。

 どれほど楽だったことだろう。

 どれほど生きやすくなったんだろう。

 はぁ、

 自然とため息が漏れて、

 零火さん、

 自然と思いが溢れ出す。

「それがあなたの好きな人の名前?」

 体を起こして声の主人を見る。

 表情は憎悪で固まり、憤怒が瞳を染めている。

 遊園地で見たことのある子だった。私に襲いかかってきて止められていた子だ。

 きっとこの子は私を殺そうとするだろう。私も零火さんを殺されたら相手を殺そうとするだろう。

 それと一緒。

 だから、殺されてやらない。

 私は死にたくない。

 母親への怒りの色も、父親への失望の色も、学校に対する憎悪の色も無くなって構わないけど、

 やっぱり、零火さんへの気持ちだけは消えてほしくないし、零火さんを自分のものにするまで死ぬなんてできない。

「『砲千化ほうせんか』」

 女の子が呟くと、拳銃が数えきれないほど現れてその全ての銃口が私を向く。

『感覚加速』が瞳孔へと近づいてくるのを捉えていた。

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