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妖異変超  作者: 青赤黄
感情大戦
32/39

感情大戦 対侮蔑 14時21分

「なぁ、あいつと戦う前に聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」

 ラジオ体操の音楽をバックにして、妖魔王と仲のいい黒さんが話しかけてくる。

「はい、なんですか?」

 足を開いて爪先に手をつける運動をしながら答え、黒さんも同じ行動しながら「君って好きな子とかいるの?」と好奇心に目を輝かせ訊いてくる。

「・・・・・・います、けど。今訊くんですか」

「うん、今訊くの、だって君が最後の一人だからね」

 他の人にも訊いてるのか。

「なんでそんなこと訊くんですか?」

「簡単な話、守る物がある人は強い。人じゃなくても守る物があるだけで強くなれるんだよ」

 漫画でよく見るセリフだな。

 実際そうなんだから間違いではないんだけど。

「ちなみに俺は妹の白が大事だ。両親も大事だし、自分も大事。大事なものを守るために全力でやるんだ」

 最後の伸びをする運動を終えて、てんてんてーん♪と音が鳴ってラジオ体操の曲が終わる。

 俺の守りたい大事な存在は、神楽(かぐら)王臥(おうが)、それに両親に学校での友達に、意外と多いな。

「それとさー。あいつ侮蔑だから足って安直だよなぁ」

「そう・・・ですか?」

「だってさー、よく漫画とかの異世界もので馬鹿にしてる相手を足で踏んづけたりするじゃん、だから足って安直だと思うんだよ」

 あー、なるほど。そういうことか。

「そう言われるとそうですね。そういう感じがしないでもないです」

「だろー。よーしじゃあ行くぞ」

 黒さんがそう言って足を曲げて、一息に侮蔑の元へと飛び、侮蔑が天をつくほど大きい足を少しだけ上げて地面を踏み砕かんと振り下ろし、

 突然襲ってきた重みに、地面に膝をつく。

 俺たちはそれで済んだが黒さんはそうはいかない。

 10階建ての建物からほとんど横っ飛びに飛んでいたから、今黒さんは10階の高さから落ちたのと同じ。

 いくら人よりも頑丈な妖怪だと言ってもあの高さから落ちたらただでは済まないだろう。

「だいじょーぶ!安心しろぉ!俺は生きてるぞ!」

 まじかあの人、生きていたのか。

 なら助けに行かないと。

「この中で立てそうなやついるか?」

「無理です!」

 全員一言で元気よく答えて、ついで「俺たちに楽させてください!」なんて言ってきやがった。

「テメェら、終わったら覚悟しとけよ!」

 はーいと元気に声を上げる奴らに呆れながら屋上から飛び降りる。

 普段よりも重い重力で地面に落ちるが、竜に成っているこの体では大したダメージはない。

 地面に降り立って、アスファルトの地面が割れる。

 足が地面に少し埋まるが、力で引き抜く。

 黒さんとの距離は300メートルほど、その距離を1歩、2歩、3歩で辿り着き、立って手首足首を回していた黒さんの肩を叩き、どうしますか?と一応聞いてみる。

「どうするも何も、倒すしかねぇーだろ」

 ですよね。

「なんか重さも無くなりましたし、今やりましょう」

「だな、ちゃっちゃとやろう」

 黒さんが何もないところに手を入れて、水の入ったペットボトルを取り出して、水を振り撒き、その水を繋げたまま凍らせて三日月のように反った氷の剣を作り出す。

「よーし!行くぞ!たぶんあいつの能力は重力操作だろ。それがわかってたらなんとかなる」

「そうですかね、むしろ対策なんて根性とか気合いくらいしか思いつかない能力なんですけど」

「なら気合と根性で倒すんだよ」

「・・・・・・黒さんって、そんな脳筋でしたっけ」

「脳筋にでもならなきゃなんとかできないだろ」

 そういうものなのか。

 そうだと思おう。

「じゃ、行くぞ〜」

「はい」

 応え、全身に力を入れ、竜化を進める。

 鱗が腕や背中だけでなく顔全体に広がり、体が一回りほど大きくなる。

 服は伸縮性のあるものだから破けない。

 前を見て、既に黒さんが氷の氷柱を作り、それを侮蔑へと刺しており、ドバドバと赤黒い液体が流れ出ており、ビルとビルの間を流れている。

 ビルの上から見える侮蔑の足へと向かい飛ばずに地面を走る。

 侮蔑の足元へと辿り着き、その大きさをあらためて認識する。

 大きいとは思っていた。ここまでとは想像できなかっただけだ。

 土踏まずの大きさだけでかなり大きい洞窟のようで、象ですら縦に三頭入ってしまいそうなほど巨大だ。

 だが他の竜とは違い、地面も、水も、風も、電気も操れない邪竜に与えられた、他の竜の数百倍の力で、微動だにしないその足の踵を、本気で殴る。

 その殴りは下から上へのアッパーで、踵から膝までの肉が抉れ、血液の豪雨が降り注ぎ、俺の後ろに肉が落ちる。

 ちらりと後ろを見て、クジラ2頭分はありそうな肉を見て、多少の満足感を味わい、もう一度殴ろうと向き直り、侮蔑が動いているのが目に入る。

「また重力を上げられても困る。さっさとやろう」

その考えは黒さんも同じなようで、先程落ちた肉と同じくらい大きい氷柱を5本作り出し、軸足に全て刺す。

 ・・・・・・あの人わざわざ氷で剣みたいなのを作っておいて全然使ってないんだが。なんで作ったんだ?

 そう思いながら、走って、跳び、ビルを越えて侮蔑の膝を横から殴る。

 低く鈍い音が鳴り、侮蔑の膝が横にくの字に曲がり、それなのに侮蔑は倒れることなく、声を上げることもせずに・・・・・・違う倒れている。

 ゆっくりと膝をつこうと足が歪に曲っていく。

 その倒れる体を支えようと侮蔑があげていた足を下ろす、足は雲を貫いていて、重力じゃなく、ここにいたら踏み潰されて死ぬ。

 地面に着地する頃には侮蔑の体はだいぶ傾き、足も下がってきており、周囲のビルと比べるとだいぶ下がってきていた。

 つまり、時間がないということで、足を曲げて全力で横に跳ぶ。黒さんももう既に動いていて、すぐにビルを曲がり見えなくなった。

 上を見るとビルの上にヒビが入っているのが見え、少し見ているとヒビは大きくなり、そのヒビがビル全体に広がって、壁面が剥がれ、普通じゃない速度で落ちる。その速度は竜に成って動体視力が上がっているから見えたもので、落ちた音とアスファルトのヒビの入りかたからかなりのものだとわかるし、この重量はやばいと本能が訴え、警鐘が鳴り響き続けている。

 あと少しで、黒さんの曲がった角までいける。

 曲ってなんとかなるなんて少しも思えないが。

 あと数メートル。

 このままいけば、

 目の前にあるビルが潰れていく。少しも抵抗をしているようには見えず、まるで砂でできているように崩れていく。


 鬼月己龍が走った侮蔑からビルの曲がり角までは100メートルもなかったが、侮蔑から振り下ろされる脚に対しての恐怖は、体感時間を伸ばし、一秒にも満たない時間を数十秒に引き伸ばしていた。

 その引き伸ばされた時間の中、己龍は走り、そして間に合わなかった。


 頭が重くなり、前のめりに走っていた体の重心が前に倒れる。それもすぐに背中にかかる重力で前に足を出せなくなり、すぐに重力は足を飲み込み、無様に地面に倒れ人型に地面を抉る。

 そして、倒れただけでは終わらない。

 重力は体全体を押し潰してくる。

 ゆっくりとだが確実に骨を折り、肉を潰し、折れた骨が内側に刺さり口の端から血が溢れ出る。

 重い重力で口を開けず、口の中に血が溜まっていく。

 メシメシと骨が押し潰される音がして、体が凹んでいくのがわかる。

 やばい、死ぬ。

 そう思った瞬間、重い重力から解放される。

「おーい、大丈夫じゃないな?」

 上から黒さんの声がして、返事をしようとして口から血が溢れ出る。

 言葉の代わりに血液が出て、同時に体の熱も出て行く。

 全身の痛みが熱として脳に伝わってくるが、背中に何かが触れた瞬間、重力と同じように急に痛みがなくなる。

「あの、大丈夫ですか?」

 黒さんとは違う女の声がして、見ると磊落高校の制服を着た少女が不安そうな目をしながらこちらを見ていた。

 少女の右手の掌には、血がべったりとついていて、少女の手が先程背中に触れていたのを理解する。そして少女の能力は空さんの上位の回復能力なのかと想像する。

 そこまで考えて、同じ第五部隊の仲間の顔が浮かび、あいつらのいるビルを探して、周囲のビルが全て潰れているのを見て、自分の部隊が潰れているのを知ってしまう。

 己龍が悲痛そうな顔をしているのを見て、少女が遠慮がちに話しかけてくる。

「あの、あなたのお仲間さんなら生きてますよ」

「何?本当か?」

 疑いながら訊くと、少女は頷き、ビルのあった場所を指差す。そこには何もない。

 だが少女が嘘をついたとして、そのメリットが思い付かず、少女の指差した方を凝視していると、小さな点が集合したような何かがゆらゆらと動いているのが見え、視力を強化し、改めて見ると、そのゆらゆらと動いているものこそが、自分の部隊の仲間たちだった。

「どうやって」

「えっと、私の能力の『不可侵の盾』っていうのがあって、それは私が見た人を絶対に守るって感じでして、あとさっきあなたを治したのは私が『貸し借りアリ(ギフトボックス)』っていう能力でもらった『瞬間再生』って能力で、『お裾分け(ギブユー)』で能力の効果を与えたんです。だからというか、恩を着せてしまう感じになるのですが、治したので私のことを信じてくれませんか?あなたたちの敵じゃないって」

 死にかけの俺を助けたのと敵かどうかは別なのだが、こいつのことは信じてもいい気がする。

「俺は君に判断を任せる。ちょっと討伐中だからさ」

 黒さんが言って、侮蔑を見ると、侮蔑の左足が俺が抉った分も合わせてかなり抉れている。もう肌の色がほとんど見えない。

「俺たちも行ってきまーす!」

 後ろから声がしてすぐに、第五部隊の全員が通り過ぎていき、侮蔑へと攻撃を始める。

 どうやらこっちはなんとかなりそうだ。だとしたらまずいのは孤独よりも憤怒。幹部人たちと一緒に戦わせて死なれても後味が悪いし、邪魔になっても困る。

「わかった。信じる。だから今憤怒と戦っている奴らを手伝ってくれないか?」

「は、はい!わかりました」

「憤怒と戦っているのは」

「大丈夫です。わかってるので、行ってきます!」

 少女は言い残して、逃げるように去っていった。そしてその速度が自分とそう変わらものであることに驚くが、今は考えないことにして左手をまっすぐにし、その手のひらに何かを掴んでいるような形の右手を当て、引き抜くように右手を動かす。

 その右手には先ほどまではなかった刀が握られており、それを握って己龍は走った。


 異形狩り第五部隊&犬神(いぬがみ)黒&柊劫 対 侮蔑の異形

 14時31分 決着 勝者異形狩りチーム。

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