感情大戦 対孤独 14時24分
雷鳴のような音が3分前から鳴り響き続けている。
その音に紛れ、小さい破裂音が連続しており、さらにその音にかき消され、近くにいる人間すら気づけない水滴の音が絶えることなく続いている。
「大丈夫?大丈夫じゃなくても大丈夫って言ってね」
「それは、聞く意味がないじゃないか」
耳栓を超えて、近距離から低い音が響いてくる。
銃声の響くこの空間で、まともに会話ができているのは狛犬の妖術のおかげだ。
「目が痛い。視界が赤い。血の涙は出ているがまだ口に血の味はしないからそこまでのダメージじゃない。だが、指先が破裂しそうなほどに痛い。これで大丈夫って思うか?」
「大丈夫大丈夫、大丈夫だと思えば大丈夫なんとかなる時はなんとかなるんだよ」
「なんとかならないやつはなんとかならないんだよ。全てがうまくいかない時もあるんだ」
ガチャ、ドン!
狛犬が1発撃ち孤独に銃弾が当たる。
遠すぎて弾痕は見えないが、遠くても孤独の下に出来つつある血の池は見ることができ、ガトリングとライフルのどっちがダメージを与えているかは知らないがなんとかなりそうではある。
だが孤独は遅い速度で再生し続けていて、生まれた場所から動かないかわりに、風化させる速度を上げ、範囲を広げている。
もしこのまま孤独の再生能力が上がれば、決まり手にかけるどころではなく、今まで削ってきた分も全て回復されてしまう。
そして、孤独の元々の大きさが孤独を倒すのを難しくしている原因でもある。だが、大きいだけで動かない。そして人の形をしているから弱点はすぐにわかる。だが、削りきれない。
「これはぁ、妖術を使った方がいいよね。いいんだよね?」
「使えるものはなんでも使う」
「あいさっさー!」
妖術『爆弾』
銃弾が着弾した場所が爆発する妖術。
それを付与した瞬間から、孤独の体の表面が爆発していく。
だがこれも決定打にはならず、少しずつ削っていくしかないもので、孤独の再生能力に追いつかれるまでに倒すことができるかは怪しい。
もっと、俺が狙いを定めて、脳にだけ当たるようにすればいいのだろうが、それをやるとあっという間に死ぬ。
だから今は火力が欲しい。
高望みをするなら第四部隊が来て欲しい。
鬼竜のやつなら風化の中でも今なら崩壊し始めるまで5分は動ける。その間に叩き込んで、体が崩れ始めたら戻ってきて竜の力で再生。そしてまた同じことを繰り返せば、なんとかなる気もするが、どこも俺たちみたいに苦戦しているとしたら増援は望めない。
だから俺たちでなんとかするしかないのだが、なんとかしようにも火力が足りなくてなんとかできない。
狛犬に頑張ってもらうか?
それでダウンされたら困るから却下。
狐火家に頼むのはどうだ。
妖魔王にバレたらまずいがそれしかない気がする。
あとは思いつくところがない。
じゃあ狐火家に頼むしかないか。
ポケットからスマホを取り出して、『狐火造火』番号に連絡して、着信音がすぐ後ろで聞こえた。
「あら?誰じゃほい・・・・・・なぁんだ、水木かぁ」
「なんでここにいる」
気楽そうに話しかける造火に訊くと、「狼火の勘だよ」と言って笑う。
「いやー、今回の戦いの中でさ、私たちが入って行って、なおかつ死なないって条件だけだとここともう二つくらいしかなかったんだよね。だからみんなでこっちに来たんだよ。助っ人参戦!」
造火は『空間収納』という妖術を使い、中からいくつものパーツに分かれた何かを取り出す。
俺は周りを見るが、造火以外の『みんな』がいるようには見えず、少し訝しむが、ビルの屋上への入り口から哀火と冬火が息を切らしながら「は、早いよ、はぁはぁ、造火ぁ」というのを見て遅れていただけと判断する。
「ありがとう。助かる」
「いいってことよ。ただまた今度私んとこの商品買って行ってねー」
「そのくらいいくらでも」
たかだか一万円が5枚か10枚吹き飛ぶ程度だ。街一つと財布の中身全部、どちらか取るなら街だ。
そう思っている間に、造火は不思議なものを完成させていた。
それは今使っている対物ライフルと同じような形をしているが、銃弾を発射する部分の広さがこちらの十倍以上はある。
「それはなんだ?一体何を撃ち出すんだ?」
「んー?銃弾に決まってんじゃん。こいつを打ち出すの」
そう言って造火が取り出したのは銃弾は人の顔と同じくらいの大きさで、そんなものを打ち出せるのかと思ってしまうが、造火が前に物と物を融合させる装置なんて作っていたから、撃ち出せるのかと納得してしまう。
「えっと〜、これは俗に言うレールガンってやつでね。簡単に説明すると、電気でバチバチやって、加速させまくって撃ち出す装置なんだよー」
「すまん、よくわからない。だが攻撃としてはかなり良さそうだ、頼む」
アイアイサー!と造火が元気よく言って、レールガンという装置を屋上の端まで移動させてから、ボタンをいくつか押して、
「発射!」
と赤く光るボタンを押すと、チュン風を切るような音と同時に孤独の異形の脇腹付近が陥没して、遅れてドゴォ!と音がした。
「すごい、すごいぞ!ぞ「ウギャア!ぶっ壊れたぁ!」
造火の叫び声が俺の言葉に被り、銃声の音にも負けずに屋上に轟いた。
「ごめんなさい、遅れました」
そしてその悲鳴を無視するように冬火が俺のそばに来て、肩に両手を置いて、回復の妖術をかけてくる。
目の痛み、指の痛み、血の涙、先ほどまであった症状が次々と消えてゆく。
「ありがとう」
「いえいえー」
「冬火ねぇ!私のレールガンも直してえぇぇ!」
「えぇ⁈私機械は専門外なんだけど」
「造火、お前が直すとしたらどのくらいかかるんだ?」
「10時間」
長い、だめだ。確かにかなりのダメージにはなったが、10時間も待っていたら全快される。だが今ならかなり有利にやれる。銃弾を当て続けて、直るまでなんとか繋ぐか?
「冬火、大丈夫だよ、直さなくても、狼火がなんとかするって言ってくれたじゃない」
「知ってるよ!でもそいつよりも先に倒しちゃいたいじゃん」
「なぁ、さっきから何の話をしているんだ?」
俺が訊くと、
「ふぇッ!えとえとえとえと、あの、あのですね。その、その」
「狼火がね、この異形を一撃で殺せる奴がいるからそいつの説得をしてくるって言ってたんだよ」
哀火がどもり、造火が言葉を引き継いで答える。
その答えに、俺含め、聞こえていた全員が驚き、声を上げるもの(狛犬河1番声を上げていた)もいた。
「一撃とは、本当か?」
それならば、こちらとしてはありがたいのだが、その代わりに無理難題を押し付けられても困るのだが。
そう思っていると、孤独のデカい体が、中心から縦に二つに両断された。
「はぁ?」
これには、俺だけではなく、ほとんど全員が声を上げ、上げなかったものは呆然としていた。
当然だ。なぜいきなりあんな巨体が切り裂かれた。あのレールガンでさえも縦よりも短い横を貫けなかったのに。
いや、あの首無しの異形であればできるのか?あの斬りたいものだけを斬る能力を持つあの異形なら。
「うんにゃ、違うぜ。あれをやったのは首無しの異形なんかじゃねぇよ」
また後ろから声がして、振り返ると満足げな顔をしている狼火がそこに立っていた。
「そうなのか、じゃあ誰が」
「異世界帰りの女の子ぉ〜」
狼火が歌うように言って、くるぞ〜というのを聞き、孤独を見る。
孤独はゆっくりと、遅すぎる速度ではあるが、再生しており、両断された体は完全に地面には倒れておらず、ゆっくりと元の形に戻っている。
瞬きひとつの間に、孤独がいた所に、孤独の形をした血液が浮かんでいて、刹那の間浮かんで、大きな音と波を生み出して地面に落ちた。
「あれが、一撃で倒せる人のやつ?」
「そーそー、すげ〜でしょ造火姉さん」
「一撃じゃなくて二撃ぐらいだったけどね。うん、凄すぎる」
凄すぎるなんてものじゃない。こんなことができるなんて、いったいどんな力を持っているんだ。
「えっとねぇ、斬ろうと思ったものを斬る能力だよ。斬りたいものだけを斬る能力の上位互換みたいな感じ」
なるほど、そうか。
さっきから考えていることを見抜かれている気がするんだが、これも勘なのか?
だとしたら、精度が高すぎる。
まぁいいか、結局俺たちじゃ勝てなかったが、誰かが倒してくれた。それで十分だ。
ふぅと息を吐いて、屋上で横になる。
周りからは喜ぶ声が聞こえる。
異形狩り第三、第五部隊&狐火哀火、冬火、造火、狼火&椿刹那対孤独の異形
14時32分決着、勝者異形狩りチーム。
その後10秒も経たずに雲を越える大木が生まれることを狼火の勘ですら知らなかった。




