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妖異変超  作者: 青赤黄
感情大戦
26/39

11月14日 感情大戦 開戦直後

 鬼灯魂魄は東京新宿区の高くもなく低くもなく、古すぎず新しすぎないビルの前でスーツを着て立っていた。

 スーツを着ているからと言って、ビジネスマンのような物を持っているわけではない。

 右手に持っているのは酒瓶で、左手にはナイフを持っている。

 ナイフはすでに血で濡れていて、周囲には体を切り裂かれた死体が数多くある。

 だがそれは少ない方で、魂魄から少し離れた位置には怪物がいる。男性の容姿をしてはいるが、その男は顕現して5秒であるが、ゆうに1000人はすでに命を落としており、その数は加速度的に伸びている。

 その男が魂魄の元に近づいてゆき、その手から酒瓶をとり飲み下す。

「おーおー、いい飲みっぷりだなー。酒はいけるのか?」

「あー?むりらよ、下戸だケコ、酒にれもにへてね〜と死にたくなるだけら」

 赤い顔でひゃっくりをした男は、次の命を刈り取るために一歩踏み出す。

 それをニヤニヤと見守りながら魂魄は呟く

「さっさとレーカこねぇかなぁ、はやくヤリあいてぇな」

 

 色欲による動画配信は、色んなアプリで同時に行われた。

 ライブによる配信で、視聴者の総数は1300万人に及ぶ。

 その不特定多数に向けて、色欲は語りかける。

「はーい、みんな〜久しぶりー、初めての人は今からよろしくねー」

 誰にでも好感を与えられる笑みを作り、画面の向こうの人々に言う。

「皆、武器を持って。綿棒でも、鉄骨でも、包丁でも、石でも、毒薬でも、なんでもいいから持って、周りの人を殺して、私に恋してない人以外全員殺して、捕まっても歯で噛みついて、爪で引き裂いて、殺して殺して殺して。さぁ、皆、行動を開始して」

 およそ20秒以下の短い動画、それを見た全員が席を立ち、動く。

 ドライバーを持つもの、包丁を持つもの、コンクリートブロックを持つもの、それ以外のものを持つもの。

 彼ら彼女らは武器を持ち、家族を、隣人を、見知らぬ人を、切り裂き、殴り、轢き、刺し、殺す。

 それは東京以外の全国で起こり、警察機関はほとんど麻痺してしまう。

 それをリアルタイムで見ていた色欲は、恍惚とした表情で天井を見上げて、言う。

「これで狂滎様のお役に立てたぁ。よかったわぁ」

 色欲の能力は、自分の姿を見た人間を、強制的に自分に盲目的に恋させる能力。

 それは画面越しでも構わないが、唯一例外がある。

 それは相手に全てを捧げてもいいと思うほどの愛情を持っていることである。

 そんな人間は、ほとんどいない。


 千代田区の中を畏怖は走る。

「ねーちゃんに会いてーなら千代田区ってとこに行ってみな。会えるぜ」

 不確かな情報でしかない狼火の勘による情報に、少しでもあっていればと願いを込めて、走り続ける。

 それにこれから何が起ころうと、力の湧き上がってくる今ならなんとかできるような気がする。

 ふと、懐かしい匂いを嗅いだ気がした。

 十字路で勢いを殺し、向こう側を見る。

 そこには頭陀袋のようなものを被った女と、

「お姉ぇちゃん」

 懐かしい姉の姿があった。

 その姉が今目の前で、

 私の胸に飛び込んできた。

 その速度は速く、ゴキボキと肋骨が折れる。

 ブッと口から血を吐き、アスファルトの上を転がりあちこちに擦り傷ができる。

 だが姉は守った。

 姉の身体からは血も出ていないし、骨が折れた音も聞こえなかった。

「あ、あああぁ、あぁぁぁあああ!いいよねぇ!そんなふうに守ってもらえる誰かがいるんだからサァ!羨ましいよね!憎たらしいよねぇぇぇぇぇ!」

 同じ存在だからこそわかる。

 あの頭陀袋を被った女は同じ異形だ。

 だが私よりも彼女は人間のような姿をしている。顔は見えないが、私と同じように顔がないのだろうか。

「ねぇぇぇ、本当に腹立たしいよねぇぇぇ、殺したくなるよねぇぇぇ」

「はっ、雑魚が、私1人も殺せない奴が殺すとかイキってんなよ、つーか顔すら見せられねぇくせによぉ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。さっさと来いよ」

 姉が口の端を拭いながら立ち上がり、目の前の異形を挑発するように手を動かす。

「お姉ぇちゃん、逃げよう。あれは勝てない」

「黙っとけ、ゴミ」

 ズキズキ、心が痛む。

 久しぶりに会えた喜びが痛みに塗り替わる。

 だが、やはりダメだ。ただの人があいつに勝てるわけがない。

 私なら、なんとかなるか?

 姉を逃げさせようとその手を取ろうとして、目の前から姉が消え、道の奥にいた異形が吹き飛ぶ。

「あえ?」

 何が起こったかわからず間抜けな声を上げて、まるで誰かを殴った後のような様子で立っている姉を見る。

 立ち上がって姉の元へ行こうとし、体が前に傾く。

 足元には先ほどまではなかったクレーターができている。

「お姉ぇちゃん?」

 さっきまでここにいたのは姉で、今この場にいないのは姉だ。

 体勢を立て直して、姉の元にかける。

「お、お姉ぇちゃん?一体何したの?」

「さっきからごちゃごちゃうるさいんだけど、ねぇさっきも言ったけど黙って、殴るよ?」

「お姉ぇちゃん、何したの?答えて」

 姉を相手に強気に問いかけ、グルンと視界が回り、地面に頭をぶつける。

「ねぇ、そいつはなんなのかなぁ?あんたの何?お姉ちゃんとか言ってたから妹なの?だとしたら殺す。なるべく苦しめて殺す。それで少しでもあんたみたいなクズが傷付けばいいんだけど」

 言葉を聞き終わるより先に頭を掴まれ地面に叩きつけられる。


 目の前にいるのは化け物だ。

 人の形をしてはいるがどこを見ても化け物だ。

 人の顔のようなところには目はなく鼻もなく、凹凸ひとつないまま口だかけで。その口はなにかを怖がっているかのように固く閉じられ、腕は胸の前で交差されている。

 その腕にも足にも、体全体に口がある。

 こっちの担当は恐怖。

 こういう悪感情の塊のような異形を相手にするときは俺たち、四天王と呼ばれている奴らが大事を生きて戻るために2対1で相手しなければならない奴らだ。

 そいつらに1対1なのだ。

 多少燃える。

 前からやってみたかったのだ。

 こいつはどれだけ強いのだろうか。

 恐怖が足を止める。

 まさか気づかれたのか、双眼鏡で見ないとこっちは見えないって言うのに。

 まずいぞ、人の避難はまだ済んでないんじゃないのか?やばい、かなりの人が死ぬことになるんじゃないのか。

 早速王臥(おうが)から受け取った奥の手を

「——————————————————————————!」

 いっ————ッ!

 痛痛痛痛痛痛痛痛!

 なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ!

 恐怖の声が痛い。

 これが恐怖の能力か。

 声が刺すような痛みを伴って聞こえてくる。

 うずくまっていた体を起き上がらせようとして、立っていた電波塔が崩れ落ち、地面に叩きつけられる。

 もともと俺が持っていた能力のおかげで俺にダメージはないが、落ちた地面から体を起こし、瓦礫だらけの周囲を見渡す。

「あー、なめてた。強」

 鋭霊割鋭の能力は、午前0時から午後0時までは与えるダメージが1000倍になり、与えられるダメージは1000分の1になり、午後0時から午前0時までは与えるダメージが10000倍になり、与えられるダメージが10000分の1になるというものだ。


 歩いてるだけだった。

 歩いてるだけで人が死んでゆく。

 仕事をしていることに憂鬱になり死ぬ。

 歩いていることに憂鬱になり死ぬ。

 息をしていることに憂鬱になり死ぬ。

 生きていることに憂鬱になり死ぬ。

 わけがわからない。

 何故そう簡単に死んでゆくのだろうか。

 俺は、僕は、私は、うちは、自分は、儂は、あたしは、

 歩いているだけで他人を殺すような存在は、生きていていいのだろうか。

 二つの足音が聞こえてきた。

 幻聴か。

「おい、テメェ、こりゃなんだ?なんでこんなことしてんだ?」

 また幻聴か。

 下を向いて歩いていると、2人分の足が見える。

 今度は幻覚か。

「ねぇ、あなたが憂鬱?」

 歩き続けると、どんと何かにぶつかる。

 顔を上げると2人の女が見える。

 ぶつかったのか?

 今この2人にぶつかったのか。

「生きてるのか?」

「「ギリギリで」」

 2人が声を揃えていう。

 耐えられるものなのか。この憂鬱には。

「オメェのそれは洗脳が1番近いからな、よく漫画で見る痛みで洗脳を解くってのをやってみたらドンピシャだったんだよ」

 なんだ、そんな簡単な方法で防げたのか。

 生きてる人に会えた。

 思わず嬉しさに口角が上がり、自然と笑顔になる。

 思ったよりも、抵抗なく取り出したナイフが背の高い方の女のヘソの辺りに刺さる。

 それをぐりっと回してから抜き取ると、力が抜けたように女が地面に膝をつく。

 人が自分のせいで死ぬことに罪悪感を覚えるのに、人を見つけたら殺したくなる。

 こんなのははやく死んだほうがいいと思う。


 目、眼球。

 そういうものがたくさんあるのは普通に気持ち悪い。

 当然人の頭部だけがぶら下がっているのも気持ち悪い。

 この町は入った瞬間から沢山の目に見張られている。人の頭だけがぶら下がっている。

「こんなに人がいたんだな、短時間でこんなに殺せるなんて、すごいな」

 あるのは顔だけで周りのものに変化はない。

 異形の姿も見えない。

「俺の能力は索敵には使えないからな」

 地道に探すかぁ。


 ボボボボボボボボボボボボボボボボ。

 目の前にいるのはデカい脳みそのような異形、であるらしい。名は憤怒。

 あるらしいというのはその姿を見ることができないからだ。

 常に爆発し続けていて、その姿を見ることはできない。

 その姿は倒した時のみにしか見ることはできない。

 憤怒は、爆発していくたびに少しずつその体が小さくなってゆき、やがて見えなくなる。

 それも倒し方の一つだが、それを待っている間に、数万の単位で人が死ぬ。

 記録がある中での被害者数は最大で約730万人とある。

 だから、このメンバーが討伐に選ばれたのだろう。

 異形の力を手に入れたものの中には、能力が発現するものがおり、俺は周囲の酸素を操る能力で、猩猩の能力は相手につけた傷がずっと治らないというものだ。

 あの異形はずっと爆発していて、爆発が収まるまで近づけないから、俺が周囲の酸素をなくして爆発を止め、回復の早いあの異形には回復できない傷を負わすしかない。

 なんてこっちに有利で都合のいい相手なんだ。

 まるでもともと俺たちが戦うことが決められていたかのようだ。


 まるでもともと俺たちが戦うことが決められていたかのようだ。

 水木は、無意識のうちに上土と同じことを心に思っていた。

 自分と狛犬が相対する異形は、とても自分達向けの相手だ。

 孤独の異形。

 その能力は円状の範囲に入ったものを全て風化させる能力だ。

 その範囲は少しずつ広がってゆくが、風化する速度は遅く、今は生まれたばかりでその円の半径は今は2キロ、狙撃ライフルで撃てば当たる距離だ。

 そして俺のどれだけ遠くから撃っても目標に当たる能力と、狛犬の投げた、又は撃った時の初速を元々の2乗にする能力があれば、ガトリングで行ける。

 あとは狛犬と同じように、能力を自分以外のやつにも適用する。

 そうすれば、第三、第四部隊全員で、撃ちまくれば勝てる。

 その結果、自分が死ぬとしても、後任はいるから安心だ。


「蔑むから足って、なんか安直だよな」

 黒という名前の男性は、侮蔑の姿を見てポツリと言った。

 侮蔑の容姿は黒さんの言う通り足で、右足と左足が付け根の部分まであり、それより上のものはなくそれぞれ独立して動いている。

 だが目的は分かり易い。

 近くにあるものを容赦なく踏み潰すそれだけだ。

 この異形はそれしかしない。

 過去に侮蔑が現れたときは、攻撃してきたものにやり返すことはあっても、自分から何かを狙うことはせず、再生力も低く、10年前、15年前に現れた憤怒、憎悪とは比べるまでもなく脆弱な存在だったらしい。

 俺たちの目的は、速やかにこいつを討伐し、恐怖と猜疑討伐を手伝うことだ。

 なるべく被害は出さない。神楽に危険は及ばせない。

 長く息を吐くと、全身の肌が震えるような感覚が現れ、瞬きの間に目の前の自分の腕に煌めく鱗がびっしりと生えているのが見える。

 背中に意識を向けると翼があるのもわかる。

 黒さんはグイィと伸びをして、緊張感のかけらもなくあくびをして、

「さーて、にぃちゃん頑張っちゃうぞおー」

 緊張感のかけらもなく言って駆け出した。


 周囲の建物も、アスファルトも、空気も、死体も、全てが凍りついた世界が広がっていた。

「おいおいレーカ、んな怒んなよ。これは俺様ちゃんがやったことじゃねぇんだからよぉ、こ、れ、は、絶望のやつがやったことなんだよ〜、俺様ちゃん悪くなーい。だから氷漬けにしないでくれよー」

 ヘラヘラと笑い、大袈裟に腕を動かしながら言って、アピールしてくる。

「本当にやってないんだな」

「やってねえやってねぇ、だからそんな俺様ちゃんを殺すみたいな目をすんなよ」

 そんな目をしてるか?しているのか。

「2つ質問だ。呪いはどうした。何故ここにいる」

「2つ質問に答えてやろう。呪いはレーカの敵んところに入って、そこの能力持ちのやつに食ってもらったんだよここにいる理由はムイのことでな、あいつの殺した奴らの死因によ、圧殺があったんだ。しかも俺様ちゃんとかじゃねぇと動かせねぇ大岩に左右から挟まれての圧殺だ。だから、あっこりゃなんか能力持ってんな、って気付いて調べたら、ここに辿り着きました。人殺しをやめさせる1番簡単な方法は人殺しの力を奪うことだ。だからここ調べてみよーぜ。お前の担当の憎悪なら首無しとその姉がやってっから」

 来るかこねぇかは任せるぜ、言い残して魂魄はビルの中に入って行き、それを追う。

 ムイに人殺しをやめさせる。

 今の俺にとって、それが1番重要なことだ。


「ふふふふふふふ、嬉しいな、憂鬱まで自我を持つなんて、これで憂鬱は限界まで達した。これからの憂鬱は絶望に変換されて、際限なく絶望は強くなってく。ふふふ、フヒッフヒヒヒ」

 狂滎は狂ったように笑い出し、自分の体に鉄パイプを突き立てる。

「あはっ、あはは、あは、あー、全然気持ち良くねぇよ、お前の感覚マジわかんねぇ」

 鉄パイプを引き抜き、血が出るよりもはやく、その傷は治る。

 八首はそれを見て狂滎と似たように笑って、

「同意ぃ」

 楽しそうに言った。


「んー、風が気持ちいいのぉ」

 東京スカイツリーの頂点につま先立ちでたちながら少女は言った。

「それにしても、だいぶ面白い光景じゃ」

 少女は瞼を閉じながら言って、死体をカウントする。

「ろっぴゃくーきゅーじゅー、4万!おーおー、なかなかやるではないか過去の妖魔王よ。だがまだまだじゃ、サキには遠くおよばんのぉ、まぁ、サキは誰よりも強いからのぉ、どれ、ちょっと助力(じょりょく)をしてやろう」

 生きていて戦いに参加していない人間が、瞬時に二百万が死ぬ。

「ん〜〜!血液はッ!美しいっ‼︎」

 両手を広げて、サキと名乗る少女はスカイツリーから飛び降りた。

「んー?人を殺すな、とは。相変わらず模範解答しかせんのぅ、本心ではどう思っとる?・・・・・・じゃろ?綺麗なものなのじゃ」

 少女は物音ひとつ立てずに地面に降り立った。

 まるで重さがない様に。


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