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FAKE HERO  作者: 月江堂
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89/90

フルメタルカブトムシ

:……象だな


:エレファントみが強い


:光ってる象や


 一行の目の前に現れたのは金属光沢の表皮に包まれた象であった。


『ちょっとどうなってんのよおぉぉ あたしが出した仕様書と全然違うじゃないのッ!!』


 飯垣(メシガキ)博士激おこである。


『責任者出てこい! 田中ッ! 田中説明しろッ!!』


『もお~、何なんですか』


 激昂して田中という人物を呼びつける飯垣博士。田中研究員はメガデス時代の彼女の部下(お世話係)である。


 ほとんど意味のない鳴き声のような叫びだと思われたが、意外にもすぐにモニター付きのドローンを通して田中研究員は登場した。大分面倒そうな声を上げてはいるが。


『ちょっと田中くんどういうことなのよ! 私が出したフルメタルカブトムシの仕様書と全然違うじゃないの!』


『いやあ、そんなこと言われても無理なものは無理ですよ。これでも最大限意向は汲み取ったんですよ? みんな、所詮はメスガキの幼稚な発想だよね、ってポシャるところだったんですから』


 そもそも投降して出奔した形となった(実際にはその前に見捨てられたのだが)人間の意向を汲み取る必要などないのだ。


『これのどこがカブトムシなのよ! 趣旨理解してる⁉』


『そうは言ってもですね、昆虫の体をそのまま大きくしてもデザインが成り立たないんですよ。足も無視の細い奴のままだと体が重すぎて自立できなかったんですから』


 当然と言えば当然の仕儀。


 筋力は腱のつく位置などによっても大きくその出力は変わってくるものの、基本的には筋繊維の断面積に比例して強くなる。


 一方体重は体積に比例して重くなるのである。


 分かりやすく言うと筋力は大きさ(体長)の二乗に比例するが、体重は三乗に比例するのである。


 昆虫の怪力はあの大きさだからこそ成り立つものなのだ。


『つ、つまり、大きくすると筋力の増加分より体重の増加分の方が多くって、思ったほど出力が上がらないから足を太くするしかなかったってこと……?』


:そりゃそうだろ……


:所詮はメスガキの浅知恵だな


:わからせタイムってやつ?


『残念でしたね。せっかくⅡ研の方にデザインコンセプト寄せたのに』


 ぐぬぬ、と歯ぎしりをする飯垣博士。以前になかなか結果も関連商品類の売り上げも伸びず、Ⅱ研にデザイン権を奪われてしまって、久しぶりにメインデザインを担当できるとなって張り切って使用を書いたものだったのだろう。しかしそれもほとんどⅡ研に修正されてしまったのだ。


『その耳は何なのよ! カブトムシに耳なんかないでしょ! 明らかに象に寄せてんじゃん!』


『これだけの巨体になると熱問題も無視できなくって、どこかで放熱する器官が必要だったんですよ……飯垣博士ちゃんとそういうところまで考えてました?』


 いちいち田中研究員は神経を逆なでするような物言いをする。まあ、今は敵なので仕方ないが。


『じゃあ! 鼻! その長い鼻はなんなのよ! そんなの象以外の何物でもないじゃん!!』


『これはカブトムシのツノです』


 そう言われるともうぐうの音も出ない。


 昆虫並みの怪力を持つ巨大生物と言えばかなりのロマン兵器になるはずであるが、まあ現実に存在するとなると、所詮はこんなものなのである。ロマンがない。


『まあ、納得してもらえたならさっさと戦ってもらいましょうか。いけ! メタルエレファント!!』


「パオオ~ン!!」


『カブトムシは鳴かないでしょッ!!』


「来るぞッ!!」


 カブトムシか象かはどうでもいいのだ。重要なのはその先。これを倒さなければ前には進めないという事だ。


 メタルエレファント……フルメタルカブトムシの突進。その(あぎと)を開くこともなく、拳を振りかぶることもなく、予備動作の一切ない唐突な攻撃。


 攻撃の起点が見えなければ回避も防御も大いに難しくなる。正面にいたジョー1は反応が遅れて大きく弾き飛ばされてしまった。これが自然環境の戦いであれば体勢を崩したところにさらに連続で蹴りを受けて死ぬまで殺されるところだろう。暴れ出した象は手が付けられない。


「そこまでだッ!!」


 だがこの戦いは一対一ではない。


 さらに攻撃を仕掛けようとするフルメタルカブトムシの横っ腹にジョー2の飛び蹴りが炸裂し、大きくよろめかせた。


 その足音と体格からおそらくは十トンはあるだろうその巨体に打撃でダメージを与えられるのは生物としての力の範疇を超えるものだろう。


「くそ、やれるか⁉」


 ジョー1はその間に体勢を立て直し、低空タックルで膝を執ろうとする。しかし膝に抱き着いた姿勢のままで止まってしまった。


 足だけでまるで人の胴ほどの太さがある。しかも表皮は金属製。押しても捻ってもびくともしない。


「パオオ……」


「うわっ⁉」


 何とかして体を倒せないかと四苦八苦していたところ、ジョー1の体がフワッと浮いた。ジョーの腰のあたりを鼻(?)で掴んで持ち上げられたのだ。


「グオッ!!」


 先ほどから聞こえるフルメタルカブトムシの足音よりもはるかに大きな音を立てて地面に叩きつけられる。致命傷ではないが何度もやられれば重大なダメージを受ける。


 隙が無い。


 強さとは重さ。その上表皮を金属で覆われているのだ。火炎放射だとか口咬力だとかそんな小細工を弄するまでもない。ひたすらに正統的な力の持ち主である。


『へぇ、さすがは私が仕様を書いた怪獣だけあるじゃん♡ ……やっぱ私って天才♡』


:どっちの味方なんだよお前は!


 仕様を書いただけで、ほとんどその開発には携わっていないのであるが、今は少しでも自己肯定感を高めたいところなのだろう。


「パオオッ」


 その時だった、フルメタルカブトムシが異様な鳴き声をあげた。


「!! みんな! 全力で足止めをしろ!!」


 そう言いながらジョー1が再び敵の脚にしがみついて力の限り揺さぶる。ジョー2はメガスマッシュを胴に叩き込み、ミカがスパイダーウェブで視界をふさぎ、アキラが象の生態を視聴者に解説する。一日に二〇〇リットルの水を必要とする!


 真意を理解せずにジョー1の言葉に従ったメンバーたちであったが、少しするとその言葉の意味を理解した。


 フルメタルカブトムシが苦しそうにもがきだしたのだ。彼らの攻撃が聞いているのではない。その後頭部から首のあたりに茶色い塊が見えた。


「ビーバークサリガマ!!」


 そう。ジョー達が戦っている隙に敵の頭部に上ってその歯で敵の急所にかじりついているのだ。


 フルメタルカブトムシの表皮は金属製であるが、ビーバークサリガマの茶褐色の汚い歯もまたその成分に鉄を多く含んだ強固な素材。鉄筋コンクリートのビルをも容易く破壊する力がある。


「パオ……」


 やがて断末魔の鳴き声を上げながら、地響きを上げてフルメタルカブトムシが力なく倒れた。


 あたりに黒い水が広がっている。メガデスの作り出した怪人と言えども、どうやらこの怪獣シリーズはその動力においてはドグマと同じ仕組みのようである。


「ありがとう、センパイ。助かった」


「いいんだ、ボクもちょうど前歯が伸びすぎて困っていたところでね」


 ビーバーの前歯は伸び続けるために硬いものを普段から齧ってちょうどいい長さに削らねばならないのだ。


「それより、もう一匹、何か来てるようだよ。気をつけて」


 ナツキ(ビーバークサリガマ)の言葉に、全員が視線を階段の奥にやる。


「やってくれたのぉ、じぶんら。やっぱワシが出んとアカンか」


 姿を現したのは具足に身を包んだ侍であった。

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