滅亡
「私達はソラセン人によって作られた。進化によって自然に生まれてきたあなた達地球人と違って明確に目的をもって生み出された命。まあ、『神』が実在するようなもの」
話としては分かる。
「私達にとってはソラセン人はそれくらい大切なもの。もし、彼らが命令するなら……みんなを裏切るのは心苦しいけれど、その時は覚悟が必要かもしれない」
自分達を生み出した造物主。そして明確に目的をもって作り上げられた生命体。プログラムとしても逆らえない仕組みもあるのだろう。
「その心配は無用だ、ミカ君!」
ジョー達の戦闘も終わり、静かにミカが話していたところでアキラの力強い声が響く。
「今後新たに命令が下ることはないだろう!」
「なぜ? なぜそんなことが言えるの⁉」
たいそう興奮しているミカであるが、他のメンバーはアキラの言葉を冷静に受け止めている。というよりは、口に出しては言わないものの、なんとなく察しているのだ。
「私は、地球人の杉山ミカとして人生を満喫しながらも、心のどこかでいつも思っていた。この幸せな暮らしも、もしソラセン人が来れば終わりを告げるのかもしれない、家族や友人を裏切らなければいけない日が来るのかもしれない、と」
:ミカカたんにも人間らしい心があったんやね
えらい言われ様であるが実際その通りなのだから仕方あるまい。
傍若無人に見えたミカも、人知れず悩んでいたのだ。この平和な生活がいつかソラセン人によって崩されるかもしれない。そしてその時自分はその先兵となることを免るることはないと。
だがそれは杞憂である、とアキラは言っているのだ。
「いいか、ミカ君。一万年も前に連絡が途絶えて、予定通りなら二百年前に連絡が来るはずが、来ていない。これが何を意味するか」
ミカとアキラ以外の一同が沈痛な面持ちとなる。ミカにとっては神にも等しき存在。それに関するある一つの予測。それを口に出すのが憚られるのだ。
口を真一文字に引き結び、眉根にしわを寄せる表情は、弔事のそれである。
「おそらくソラセン人はすでに滅んでいる。若しくは途中で企画がポシャって母星に帰っていることだろう。よって新たな指令は来ない!」
「そ、そんな……私達に何の連絡もなく見捨てられたなんて、そんなこと、決して……」
もし滅んでいたなら連絡などよこすはずがないし、そもそも遠すぎて連絡ができない状態なのだ。その可能性は十二分にある。
「まあでも……ならいっかぁ」
ドライ。
「そもそも私が生まれる前の話だし、どうでもいいっていうか」
:さすがミカカたんはメンタルつえぇな
:なんかばかうけ放っといてもいい気がしてきたな
:意味のない前振りやったな
「大分進んできたと思うんだが、メガデスの本拠地はまだ先なのか?」
息を整えながらジョー2が訪ねる。
『飯垣博士?』
『…んあ? ああ、あたし?』
「ぼうっとしているみたいだね。ボクは一度行ったことがあるからわかるけど、メガデスの本拠地はこの一つ下の階層のはずだよ」
:いつものメスガキらしくねえなあ
:どしたん? 話聞こか?
「……兄のことが気になるのか?」
『……ッ!!』
高性能なマイクは、思わず息を飲み込む飯垣博士の反応をつぶさに感じ取った。
尤も、その言葉の意味するところは、ジョー1とナツキにしか分からなかったようであるが。
「君の兄のことなら、必ず救出する」
この言葉も配信されていない時のことなのでやはり視聴者や他のメンバーには分からないだろう。飯垣博士は前回メガデスの撤退に置いて行かれたことで投降し、なし崩し的にキャプテンケイオスと合流している。行方不明になった彼女の本当の兄も探し出したいし、その兄を模したAIユニットもまたメガデスの本拠地に置き去りにされている。
『お願い……』
表面上はクソ生意気なメスガキである彼女も、今置かれている状況は孤立無援で家族にも会えない天涯孤独の身である。
「協力してくれるな? 飯垣博士」
『うん……あたしに出来ることなら』
全員の意見が一致し、前に進む。
その時、アキラのリュードベリ原子センサーが何かを察知したようであった。
「来るぞ。今までのドグマとも、ニンジャダイナソーとも違う反応だ」
何度目かの接敵。次に来るのは何者か。
『メガデスが抱えてる怪人はもうそんなにいないはずだけど……』
ずん、ずん、と地響きが聞こえてくる。この周辺は次の階層へと降りる大きな階段の手前であり、かなり大きなスペースが取られた広間のようになっている。
「なんだ、この化け物は……」
暗闇の中にぎらりと何かが光る。
『まさか、あいつは……完成していたなんて』
「何か知っているのか、飯垣博士!」
飯垣博士の声が恐怖に震える。この重量感のある足音の正体を、彼女は知っているのだろうか。
『この地球上で、一番力の強い生き物は何か、ざこお兄さんに分かるぅ?』
大分いつもの調子を取り戻してきたようではあるが、言っている内容は何やら不穏である。よく言われるのは「昆虫」である。
「昆虫……か?」
『チッ……つまんねー奴だな』
えらい言われ様である。
しかしよくアリは自分の体重の何倍もの重量を軽々と持ち上げるだとか、ゴキブリの加速度がどうだとか、ノミは自分の体長の数百倍の高さを跳躍するだとか。そんな話はよく聞かれる。
『でも正解よ♡ そこであたしが提案したアイディアをもとに作られた怪獣があれよ♡ もし昆虫が人間と同じ大きさ、もしくはそれ以上だったら♡』
なるほど。道理としては通っている。巨人のようなサイズの生き物が自分の体重の何倍もの重量を軽々と持ち上げられるほどの怪力を持っていたとしたら、それはどれほど脅威となるだろうか。
『あたしが理論を組み上げてメガデスが仕上げた最強の怪獣“フルメタルカブトムシ”、ざこお兄さんに倒せるかしらぁ♡♡♡』
:お前どっちの立場で喋ってんだ
:もうちょっとマシな名前ないんか
:発想がニンジャダイナソーとかと大して変わんなくない?
地響きを起こしながら巨体が暗闇の中から姿を現す。
「パオオオオオ~ン」
それは、金属製の巨大な象であった。




