木彫りのダビデ像
「配信は終わったか?」
「ああ」
ジョーの言葉にアキラが言葉身近に答える。
さて、ここからが本番だ。メンバーの中心には杉山ミカが鎮座している。なぞ多きドグマではあったが、まさかそのスパイがこんな身近にいようとは。
「なぜばかうけの中にチェストがあるのか、非常に疑問に思っていた」
ばかうけの中には探索に役立つ宝箱が点在している。中には役に立つ兵装が入っていたり、時にはレーションなど飲食物が入っていたりする。
なぜそんな探索者に利するようなものが置いてあるのか。ドグマの行動一つとっても、あれだけの科学力があるならもっと作戦次第では簡単に人類に対して侵略行為を行えるはずなのではないか、と言われていた。
要は「本気で人類に攻撃する気があるのか?」という事である。
「ミカ君は、母船にその……特撮の情報を送って、向こうからはどんな反応があったのだ?」
「反応? ない。基本的には一方通行の通信だった」
母船の方から地球に向かって通信をすれば人類に感知される可能性がある。理に適ってはいる。
「もしかして、人類に兵装を与えたのはわざとで、自分達が悪の秘密結社的な存在になって、ヒーローごっこをやろうとしてるんスか?」
誰もが頭に浮かんでいた思いを鈴木リンが形にした。
「本当に、ドグマの目的は何なんだ……飯垣博士は何か知らないのか?」
「え……知るわけないじゃん♡」
ガキに聞いたのが間違いだった。
「メガデスとドグマは今日よく関係にあったんだろう? 何も知らないなんてことがあるのか? 相手の目的も分からないのに協力関係なんて築けるのか?」
ジョーの質問は至極当然の内容であったが飯垣博士はぼけっとした表情を浮かべている。頭は良くとも所詮はまだ子供である。自分の関わっていないことまでは把握していないようだ。
「あのジュラシックジーザスとかいう奴はどうだ? あいつのことは何か知らないのか?」
「あの恐竜のキリストでしょ? 恐竜のキリストなんじゃないの?」
クソの役にも立たない。これ以上の会話は無駄であろう。必要な情報は得られた。少し時間を置いて考えることで何か思い浮かぶこともあるだろう。この場は解散となった。アジトには住む場所のない飯垣博士だけが残されてそれぞれの帰途につく。
「じゃあな、センパイ」
ジョー1と相藤ナツキが別れの言葉を交わす。
「うん。ちょっと、ジョー君……」
「?」
夕闇の町中で二人、ナツキはジョーを呼び止めたが、なかなか話し出さない。
「今はあいつと……ジョーと住んでいるのか」
間に耐えられなくなってジョーが先に口を開いた。彼の言うジョーとはもちろんジョー2のことである。二人はそれぞれの本来いるべき場所に戻った。
つまり、ジョー2は本来の彼の親の元に戻ったという事であり、同時に相藤ナツキと家族になったという事である。
「うん。やっぱり近くで見てると少しずつ違いがあると思うよ。鈴木さんはよく気付いたね」
「そうだな……俺本人ですら気づいてなかったのに。あ、そうだ。これからはあっちのジョーは相藤ジョーって呼べばいいのか?」
「いや、まだ籍は入れてないみたいだから……」
やはり要領を得ない、というか、まさかこんな世間話をするために呼び止めたのだろうか。
やがて、ナツキは意を決したように本題を話し出した。
「もうすぐ、バレンタインだよね。その……ちょっと早いけど、受け取ってほしいものがあるんだ」
バレンタインイベント。
いろいろとバタバタしすぎていたためすっかり忘れていたし、実際そんなこと圧している場合でもなかったので完全に考えの外に置いていたが、確かにそんな季節である。
チョコか。チョコレートなのか。童貞であるジョーはもちろん家族以外からバレンタインデーにチョコを貰うのも初めてである。
まさか自分にそんなイベントが起こるなどとは夢にも思っていなかった。
「これ……受け取ってもらえるかな」
「これは……」
震える手でナツキがバッグから出したものを受け取るジョー。
「木彫りの……」
「ダビデ象」
「木彫りのダビデ象」
「そう。木彫りのダビデ象」
ダビデ象である。
「なぜ」
なぜの嵐。
「その……ちょっと言い訳をさせてほしいんだ」
いくらでも聞こう。それでこの謎が解けるというのならば。このままではあまりにも酷すぎる。初めて家族以外からもらったバレンタインデーの贈り物が何故かフルチンの彫像など。
「バレンタインデーという事で何か作ろうと思って、やっぱり、手作りチョコかな? ってなったんだよ」
野草弁当、手編みの教科書、相藤ナツキの「手作り」には正直言って碌な思い出がないのが事実ではある。
しかし手作りチョコはいいとして、なぜそれが木彫りのダビデ象になったのか。
「で、せっかくだから凝ったものを作ろうとして、型も自作した何かの有名な像とかにしたんだ。で、もう像っていうとこれしか思い浮かばなくって……」
それがダビデか。
ダビデ象はフルチンなのだぞ。食べ物には向いていなくはないか。
「そうか……じゃあこれは、木彫りに見えるが、実はチョコ」
「いや、それは木像」
「なぜ」
チョコはどこへ行ったのだ。
「その、ね……作ってる最中にジョー君に見つかりそうになって。あ、もう一人の方ね。その時に作ったチョコは証拠隠滅のために慌ててその場で食べちゃったんだけど」
いまいち要領を得ない答えではある。チョコの現物がなくなってしまったことは分かったが。
「あっちのジョー君に『もしかしたらチョコ貰えるのか?』って思わせるのも酷だし、家でチョコ作る作業ができなくなっちゃって……なんで、せめてすでに完成している、シリコンの型を作るための原型のダビデ像をプレゼントしようかと……」
なるほど。
話は繋がった。
繋がったものの、初めて異性からもらったバレンタインデーの贈り物が木彫りのダビデ像である。なぜこの女のプレゼントは毎回毎回処置に困るようなものなのか。
「受け取って……もらえる?」
断る選択肢などあろうか。
「あり、がとう」




