インタビュー
:言われてみれば……
:本来の杉山ミカは、とり憑かれてる状態なんか?
:二十五年も?
:ひどすぎる
ジョーの発言により、同情が集まる。人と人の子としての、本来の杉山ミカという女性に。
「どうなんだ? 本来の杉山ミカは、ドグマによって自由と意思を奪われている状態なんじゃないのか?」
彼の目から見れば、一人の無謬の市民がその自由を今も奪われ続けているという認識である。これは看過できない。
「……どういう意味? 本来も何も、杉山ミカは私」
:話の通じねえ女だな
:お前が人間に寄生なんかするからだろうが!
:普通に考えてマジでかわいそうじゃない?
「ちょっと待って。本当に。みんな何か勘違いしている。確かに寄生した、というか寄生されたけど。私は私。それ以上でも以下でもない」
「……どういうことだ?」
いまいち話が通じていない。以前アキラはドグマには言葉は通じても話は通じない、というようなことを言っていたが、それがまさにこういうことなのだろうか。
いやしかし、元々こんな感じなのでこれが彼女の個性のような気もする。
「どういうこともこういうこともない。生まれた時から私達は一心同体。ずっと寄生されているんだからこれが普通。それ以外の私なんて存在しない」
「どういうことだ? 一つ確認させてほしいんだが、主人格はどっちなんだ? 人間の杉山ミカなのか、それともドグマなのか? どっちなんだ」
困惑するジョー。しかしどうやらミカの方も困惑しているようである。演技ではない。本当に困惑しているのだ。
「あなたは何か勘違いをしている。生まれた時からそうなんだから、私とドグマが合わさった状態で杉山ミカその人。主人格も何も、私は一人しかいない」
「どういうことなんだ? ドグマが人間に寄生して操っているのかと思ったんだが……例えば、ドグマを体から追い出して、本来の人格に戻るとか、そうやって助けることはできないのか?」
「助けるの意味が分からない……ジョーは私をどうしたいの? 私は最初からドグマに寄生された状態で生まれてきたんだから、これが本来の私。ドグマを体から追い出すという事は……そんなことできないけど、私が私でなくなるという事。言い方を変えれば杉山ミカという人格が死んでしまうとも言える。そんなことをする意味が分からない」
「ううむ……」
唸るジョー。どうやら少し想像していたのとは違うようである。
一人の人間が人格を奪われたというわけでもなければ、人間の魂とドグマの意識が並列に存在しているわけでもない。その両者は完全に統合された状態で、赤ん坊の状態から人格が形成されており、彼女にとってはそれが「普通」のようだ。
むしろこの状態でドグマを剥離させてしまえば、何が起こるか分からない、という事のようである。
このぶっ飛んだ性格がどうにかなれば、という気持ちも少しはあったのかもしれないが、どうやらそんな簡単な話でもなさそうだ。
「んん……まあ、だいたい分かった。そういうことなら問題ない。いや、問題なくはないが……変なことを聞いて悪かったな」
「そんなどうでもいい話はもういいッスか?」
終わり際ではあるものの話を止めたのは鈴木リンであった。
「どうでもよくはないだろう」
「現状どうしようもなくて本人も別にそれでいいと思ってるんだからどうしようもなくないッスか?」
まあその通りではある。実際人間の杉山ミカとドグマが不可分のものであるならばもう「そういう人格である」と判断するしかあるまい。
「そんなことよりドグマの目的ッスよ。ドグマは何の目的で大気圏内に降りてきたんスか? やっぱり地球征服とか?」
「目的……?」
疑問符を浮かべるミカ。どうしたというのか。お前がそんなんでは話は全く進まない。
「私達ドグマは惑星ソラセンの人類が作った人造生命体であることは前にも言ったと思うけど」
初耳である。この女は色々と出し忘れている情報がまだまだありそうだ。
「私たちの使命は後続のソラセン人の『地ならし』をすること」
「ぐ……具体的には」
「そこは、臨機応変に。目的意識を持って現場の判断で柔軟に対応すること」
ほぼゼロ、である。指示がアバウトすぎる。
:あかんタイプの上司の指示やな
:ホンマに信用してええんかこの女
:全部妄想なんじゃないの?
:なんでこんなわけわかんない女の妄想を急遽配信してんだよ大丈夫かこいつら
「えっとぉ……じゃあッスねぇ。杉山さんは斥候としてどんな情報をばかうけに送ってたんスか?」
よどみなくリンの質問は出てくる。おそらくはこの情報を得てからある程度頭の中で質問の要点については事前に考えていたのだろう。
「ばかうけからは光学的な観測はずっとできていたけど、特に近年に入ってからは生の情報に触れることができていないでいた。電波を利用した観測をしようとすると地球側からも気づかれる可能性があったから。だからどうしても生の情報を間近で観測する斥候が必要だった」
それが彼女、というわけである。実際にその目で人類を観測して、どんな情報を送っていたのか。
「私はニチアサの特撮が大好きだったので、主にその情報を送っていた」
いいのかそれは。
誰もが言葉を飲み込んだ。
いろいろと頭の中を考えが駆け巡る。
先ず。
任務を帯びておきながらSNSで好きな番組の内容を呟く程度の仕事しかしていなくて本当に問題なかったのか。
むしろ、新たな任務を出すことなくばかうけが地球に着陸したのは、この女が碌な情報をよこさなかったからではないのか。だとしたらこの女は人類にとっての大戦犯という事になる。
さらにもっと悪い方へと想像は動いていく。
ジョー達が手に入れた兵装は元々ドグマから手に入れたものである。
どこまでが計算通りなのかは分からないが、何の因果か地球に侵略に来た悪と、それに対峙するヒーローという形になっているのだ。
「では、今日の配信はここまでという事で。視聴者の皆さん。次回はばかうけへの決死の最終攻略となります。ぜひチャンネル登録といいねをお願いする!」
やや強引な形でアキラが配信を終了した。
機材を止め、アキラは大きくため息をついた。
「ふぅ……いやな考えばかりが浮かんでしまう」
重い空気が流れる。おそらくはミカ以外は全員が、視聴者も含めて考えていることだろう。
誰もが考えていた。「この女が変な情報流すから今のこの事態が全て引き起こされているのではないか」と。




