最終決戦へ
「どうだ、ジョー? やけどの方は」
「ああ。まだ少し皮膚が突っ張るが、だいぶ良くなってきたよ、ジョー」
二月に入って間もない頃。大宮駅近くのオフィス街の一角には異様な光景が展開されていた。
一人は武石ジョー。治療用の粘膜カプセルに漬かってやけどの治癒をしている。
一方話しかけたのは武石ジョー。こちらは大きなけがは無いようで、普段着のままもう一人のジョーに話しかける。
一見すれば間に鏡が置いてあるのかと見紛う風景。服の着用の有無の違いはあれど、二人は全く同じ外見をしている。
「悪夢みたいな景色だね……ジョー君が二人いるなんて」
相藤ナツキが眉根を寄せ、苦笑する。「武石ジョー二人説」に早いうちから気づいていた彼女ではあるが、二人が普通に会話している景色にはやはり辟易としているようだ。
「まあ、いずれにしろこれで大幅な戦力アップとなったわけだ。いよいよメガデスの排除と、ダンジョンの完全攻略に向けての駒が揃った、といったところだな」
神戸アキラが眼鏡をくいっと上げて呟く。もともとこの男が変なことを言いだすから入れ替わりなどという事態が起こったのだ。
「ていうかやっぱり私が言った通りだったじゃないスか。あの武石君は別人だったんスよね?」
なぜかいる鈴木リン。さすがに思いを寄せる幼馴染といったところか。親ですら見抜けなかったジョー2の正体を見抜いていたのは慧眼と言う他あるまい。彼女はジト目で杉山ミカの方を見やる。ミカの方は二度にわたるジョーの入れ替わりに全く気付いていなかった。自称恋人であるにもかかわらず。
「内田レン、部外者を追い出してほしい。なんで関係ない人間までこのアジトに入れてしまったの」
露骨な話題逸らしにも見えるが、元々四人で使用していたアジトに現在ジョーが一人増え、相藤ナツキ、飯垣博士、それに完全に部外者の鈴木リンも含めて八人が入っているので少々手狭ではある。さらに飯垣博士が持ち込んだ機材も鎮座している。
「まあまあそう言わずに。ジョー君のやけども飯垣博士の持ち込んでくれた機材で早く治ったことだし、鈴木君も情報収集としては貴重な戦力だしね」
「そんなことはない。このメガネだけでもここから追い出すべき。何の役にも立たない一般人」
しかし実際には今更追い出すにはいろいろと知りすぎているという面もある。武石ジョーが二人いることは前回の戦いのとき配信していたため視聴者も知っていることであるが、鈴木リンはその舞台裏をほとんど全て知っているのだ。
「いずれにしろ、真実が分かって本当に良かった。俺も三か月ぶりに家に帰れた」
一番切実なのはジョー2である。
彼は十一月の交通事故以来都合三か月ほど家に帰ることもできず、家族にも会えず、なぜか赤の他人の家で生活していたのだ。帰ってきたら家族が増えていたというのは少し複雑な気持ちではあるが。
「俺のケガよりもグルナヴェⅡの自動修復の方がかかりそうだ。戦力が揃い次第、ばかうけにアタックするんだろう?」
そう。いよいよ最終決戦に打って出るのだ。
戦闘要員は武石ジョー、武石ジョー、神戸アキラ、杉山ミカ、相藤ナツキ。憧れの五人戦隊である。過去最大の戦力を以って戦いに臨む。
さらに言うなら今回はもう、ヒーロー側にも後がないという事情もある。
確定申告の時期をリミットとするなら前回の侵攻が失敗したとはいえ、また何か作戦を立ててメガデスは仕掛けてくるだろう。
その前に敵を叩きたい。
幸いにも敵の本拠地は割れている。しかもばかうけの攻略がそのままメガデスを叩くことにもなる。乾坤一擲ここで一気に潰したい。
「ジョー、ともに戦える日を楽しみにしているぞ」
「こちらこそよろしく。ジョー」
武石ジョーと武石ジョーが熱く手を握る。
「なんか分かりやすい呼び名とかも考えたいねぇ」
内田レンがぼやく。確かに彼の言う通り。名前で区別しようにも上の名前も下の名前も同じ。あだ名をつけようにも外見も特徴もほとんど同じ。そもそもそれ以前に見分けることが難しい。作者ですら持て余すキャラクターの持ち主である。
「じゃあ、攻略の目処、今だとグルナヴェの回復状況かな。それがついたら連絡するから。お疲れ」
「ああ。また」
「何かあったらまたStigramで連絡して」
「ちょっと待て」
解散の流れを止めたのはジョー2である。
「一つ決着のついてない問題がある」
今更なんだというのか。すべての謎は解き明かされたと考えてられるが。
「とくに杉山ミカ。他は帰ってもいい」
この女にはいろいろとある。櫨から言っていったら切りがないほどにだ。その中でもジョー2はどうしても引っかかっていたことがあった。
「俺とお前が付き合ってるってどういうことだ」
そこである。
「俺やジョーが記憶喪失や記憶操作をされていないのは分かった。じゃあ『付き合ってる』ってなんだ。そんな記憶はないし、なんでそんな嘘をつくのかが分からん」
「私はね……この年になるまで異性と付き合ったことが無いの」
二十五歳。
沈黙の時が流れる。どういうリアクションをとったらいいか分からないからでもあり、笑っていい話題なのかどうかも微妙だ。
「じゃあ、またStigramで連絡を……」
「ちょっと待てちょっと待て、終わりかその話」
「なにが?」
「なにがじゃないだろう。付き合ったことがないから……それでなんだ?」
「あ、イケそう、って思ったから」
「はぁ?」
「誰でもいいのかお前? もっとこう……あるだろ。その、初対面の時助けてもらって、どうのこうのとか」
「あ、じゃあそれで」
居酒屋でおすすめメニューを聞いたんじゃないんだからそんな答え方があるか。
「あと、秋葉原での手繋ぎデートとか、よかったし」
「知らないが⁉」
それはジョー1との記憶である。
「ホントにお前、誰でもいいのか? たとえば、アキラが記憶喪失になってたら、アキラに同じこと言ってたのか?」
「アキラは妻帯者だし。レンだったらどうだろ……? でも若けりゃ若いほどいいから」
この女本当にいっぺん痛い目に会った方がよさそうである。
「さいてーッスね」
「私もさすがにどうかと思うぞ。ミカ君」
「いい年こいて彼氏いない歴=年齢とか笑えるですけどぉ♡」
「やめて! 私を責めないで! あなた達に孤独な青春を過ごしてきた私の気持ちが分かるの⁉」
全員から攻め立てられてミカは急に火が付いたように感情を爆発させた。過去に何かあったのだろうか。
「そうやってあなた達も私を差別するの⁉」
「差別……?」
予想していなかった単語にジョーが首をかしげる。あまり友達がいるような正確には見えないものの、何か差別をされるような属性を持っているようには見えなかったからだ。
「私が半分ドグマだからって差別するのね!」
「……は?」




