真実
「武石ジョーと武石ジョーはクローンでもなければ双子でもない!! 二人が戦うことに何の意味もないんだ!!」
残念、五分ほど遅かった。
「ってあれ? もう戦い終わってる?」
終わっているのだ。
元気に立っているジョー1と、黒焦げになって車に轢かれたカエルのように情けなくひっくり返っているジョー2を見て、内田レン博士は大体のところを察した。
この男もこの男で不用意だ。ジョーの入れ替わりが疑われた時点でその都度兵装のメンテナンスを怠っていなければ今回の件は防げたのだ。
「ああ……こっちが、クローンだったのか?」
状況からアキラの方も何となく察する。
本人が「入れ替わっている」と主張しているにもかかわらず「大丈夫だ、お前が本物のジョーだ」と太鼓判を押して疑問にフタしてきたのがこの男である。
「いったい何が起きているんだ」
一方ジョー1は何も把握できていないようである。
そもそもこの男が事の発端である。
いくら「お前は記憶喪失になっているが、本当はヒーローなんだ」と言われても、普通はそう簡単に信じない。
スマホやマイナンバーなど、気づくポイントはいくつでもあったはず。あまつさえ二回目の入れ替わりでは全くの赤の他人の家庭で暮らしているのだ。
普通分かるだろう!
「やっぱり……そうか」
そしてこの場で内田レンともう一人だけ、事の全容を何となく把握していた人物がいた。相藤ナツキだ。
確証がないとはいえ事実関係に何となく気づいていたにもかかわらず、自分とジョーの関係性維持のために黙っていたこの女も大概である。
しかしようやく事実が明らかになる時が来たのだ。
「どういうこと、レン。詳しく説明して」
杉山ミカ。このアホ女は何も分かっていない。分かろうともしていなかった。その時その時で自分に都合のいい事実だけを選択して刹那的に生きてきた。
「その前にジョー君は……うん、深い傷じゃなさそうだ。これなら研究所で治療できる」
「早く説明して」
この女本当にジョーのことが好きなのか。鈴木リンと違って彼の入れ替わりにも全く気付いていなかった。
「ああ、まず大前提として、ジョーとクローンジョーはクローン人間でもなければ双子でもない。もちろん平行世界の住人でもなければ全セが同じ人間で今世で二人に分かれたとかでもないし、アンドロイドでもない」
「じゃあいったい何なんだ!!」
今回の件の解明を最も切望している人間、武石ジョー(1)。もう一人の方は現在意識を失っている。
「君達は記憶の操作なんか受けていないし、なんならおそらく記憶喪失にもなっていない」
「それはつまり……どういうことだ!!」
もはや威勢のいい声で相槌を撃つことしかできないジョー。
「どういうこともこういうこともない。武石ジョー君は確かに外見もそっくりで身体能力もほぼ同じ。名前も全く同じ武石ジョーで埼玉県に住んでる高校生だけど、赤の他人だ」
「…………」
沈黙の嵐が吹き荒れる。
このことを予測できていたのはただ一人、相藤ナツキのみ。
「……それは、外見もそっくりで身体能力も同じ、名前も同姓同名の武石ジョーだが、全くの赤の他人、ということか?」
オウム返し。
「そう言ってるだろう」
「そんなことあるわけないだろう!!」
あったのだから仕方あるまい!
「普通そういうのは、生き別れの双子の弟だとか! 宇宙人によって作られたコピー人間だとか! クローンだとか! そういう……文脈があって初めて成り立つものだろうがッ!!」
そんなことを言われても!
そうじゃないんだから仕方がない!
「偶然埼玉県に同姓同名の武石ジョーがいて、それが全く同じ外見で同じ身体能力を備えていたというのか! そんなバカなことを言うのか!」
そう言っている!
「その武石ジョーが、偶然同じ日に同じ病院に交通事故で入院した。それが原因で取り違いが起きたんだ」
「そんなバカなことが……ッ!!」
しかし言われてみれば心当たりがある。
あの日から全ての運命の歯車が狂ってしまったのだ。
「しかし、取り違いなんてことが起こるのか? 赤ちゃんじゃあるまいし」
そう呟いて、アキラは口をつぐんだ。元々は彼の記憶喪失発言が事の発端だからだ。しかし実際二人のジョーの赤ちゃん並みの認知能力によってこの取り違いは現実に起きたのである。
「さらにメガデス襲撃の日、あのニンジャダイナソーの攻撃で場が大混乱に陥って、さらにもう一回入れ替わりが起こった」
「いくらなんでもそれはないだろう!!」と言いたいところであったが、ジョーは言葉を飲み込んだ。
実際そうだからだ。
思い返してみれば全くその通りだったからだ。
反論の余地もない。
「やっぱり僕の見間違いなんかじゃなかったんだ。確かにマイナンバーは違ってた。まさか二回も入れ替わってるとは思わなかったよ……いや普通そんなことになる?」
なってしまったのだから仕方あるまい。これについては面目ないとしか言いようがない。
「ちょっ、ちょっと待って」
事態について行けない人がここにもう一人。
「えっ、じゃぁなに? あたし、クローン作ってなかったってこと?」
飯垣博士その人である。
というか、この女が作った記憶もないのに「自分が作ったクローン人間だ」などと適当なことを抜かすから話が複雑になったのだ。
「あ、あのぉ……」
飯垣博士は辺りを見回す。
ジュラシックジーザスが退避を促したため、もはや周りには誰もいない。取り残されたのだ。
「えっとぉ、つまり、あたしは最大戦力だったクローンジョーを失ってぇ……ってゆぅかそもそもクローンなんか作ってなくってぇ」
その通りである。
「しかもその作ってないクローンのせいで本社が襲撃されてぇ……」
メガデス本社がマルサーPPに襲撃されたのは元々固定資産として登録されていないクローンジョーの存在が原因であった。そしてそれが今更「間違いだった」とわかったところで何の解決にもならない。
「ぁたし……戦犯じゃなぃ?」
その通りである。
キャプテンケイオスを大いに苦しめた彼女であるが、正直言ってそれを上回る損害をメガデスに出していることになる。
「と……投降します……」
賢明である。




