爆破
「ちょっ……」
場が凍り付いた。
誰もが予測していなかったことが起きたのだ。
「ちょっとぉッ! 何してんのよクローンジョー」
飯垣博士が叫ぶ。
ただし、一人、この女だけはこうなることを予測していたかもしれないが。
「ジョー君、ボクは信じていたよ……」
物陰から除く大柄な少女。もしいざとなれば自分が怪人に変身して助けに向かおうかと考えていたが、杞憂に終わったようだ。ジョーの心の内を知る相藤ナツキだけは、こうなることを半ば予測していた。
かつての仲間が、いや、そうでなくともその行動に何の瑕疵もない人間が傷つけられようとしているのにジョーが黙っていられるはずがないと思ったのだ。
いずれにしろ事実はひとつ。
「いったい……何のつもりだ? クローンジョー。私達を助けるなど」
クローンジョーことジョー1はメガデスを裏切ってアキラ達を助けたのだ。言い訳のしようのない行為である。
「フッ、クローンと言えども、やはりケイオスレッドの魂は失われていない……か」
破壊された右腕を抑えながら、クロノワールがにやりと笑みを見せる。
だが、ジョーの瞳に迷いの色はない。自分のしでかしてしまったことに戸惑いなどない。信念に基づく行動なのだ。飯垣博士を助けるという目的はあったが、そのために自分の信念を曲げてしまったら意味はないのだ。
「やってくれたわね♡ クローンジョー! 自爆装置のこと忘れたのぉ?」
「あっ」
忘れていた。
飯垣博士はスマホの画面をジョーの方に見せて笑う。
そうだ。すっかり忘れていたのだ。ジョーは飯垣博士を助けるためだとかどうとか言う以前に自爆装置をつけられているためにメガデスに逆らうことができなかったのである。
「いいのぉ? 爆破しちゃって♡ 痛い目にあいたくなかったらおとなしく言う事聞きなさぁい♡」
「くっ……」
「ジョー君! ここは退くんだ。おとなしく言う事を聞くしかない!」
苦悶の表情を見せるジョー。しかし彼は折れなかった。たとえ自分の命がかかっているとしても、ここで折れてしまったら自分のヒーローとしての矜持を失うこととなる。
「やるならやれ! 命を失うことなど恐ろしくはない。信念を失ってまで生きていようなどとは思わない」
「いい度胸じゃない♡」
「ま、待ってくれ! 飯垣博士」
ナツキの縋るような声にもかかわらず飯垣博士はスマホの画面をタップする。裏切り者は許さない。戦力の低下は免れないが仕方あるまい。裏切りを許してしまえば組織の規律というものは消滅してしまう。「見せしめ」というものも時には必要なのだ。
ドオン、という大きな爆発音。
ケイオスレッドの体が宙に舞った。
クローンジョーではない。
「へ?」
飯垣博士が自爆アプリのスイッチをタップした瞬間、ジョー1ではなくジョー2の兵装が爆発したのである。
「え? あれ? ……どういう」
当然といえば当然の仕儀!
ジョー1、つまり今のクローンジョーが着装しているのは元々キャプテンケイオスの持ち物だったオリジナルのグルナヴェ。
一方ジョー2、つまり今のケイオスレッドの着装している方がメガデスがクローンジョーに支給したケイオスダークレッド用のグルナヴェⅡ。つまりは自爆装置のついた兵装なのである。
自爆装置を起動すれば当然ながら現在キャプテンケイオスとして活動しているジョー2の方の兵装が爆発するのだ。
「ええ~……なんで? なんでそっちが爆発すんの……?」
しかし飯垣博士の方はその事態を全く把握できていない様子!
仕方ないといえば仕方ない! まさか二回もジョーが入れ替わっているなどと、お釈迦様でも見抜けまい!
とはいえ、自分の配下のクローンジョーが戻ってきたというのなら普通は兵装のメンテナンスくらいは一度は挟むものである。
そこがまさにR&Dの飯垣博士の弱点ともいえようか、技術畑の人間と運用、維持管理畑の人間の常識の違いともいえるものであろう。
「みなさん、今の内です。向こうが気をとられている隙に迅速に撤退を。争いは無益です」
この騒ぎのうちに今回の作戦におそらく全くかかわっていなかったであろうジュラシックジーザスがニンジャダイナソー軍団の指揮官に接触して退避を促す。もともと作戦は失敗しているのだ。この判断は正しい。かくしてニンジャダイナソー強襲軍団はその場から撤退していき、現地に残されたのはクローンジョー達と飯垣博士、そしてヒーロー達の一団だけとなった。
今回の件。
「う……んぐ、なん……で?」
一番納得がいかないのはおそらくこの男、ジョー2ことケイオスレッドである。
怪我がもとでクローンジョー(ジョー1)に敗北し、しかし友情パワーで駆けつけてくれた仲間によって逆転できた。その仲間もピンチに陥ったがクローンジョーがまさかの裏切り。仲間になってくれるのか?
からの爆発。
突然。
理不尽。
理不尽の極みである。
極みではあるものの、普通の脳みそしていれば避けられた事態ではある。彼自身は自分の兵装に自爆装置が取り付けられていたことは知っていたのだから。
「人間は考える葦である」とはよく言ったものであるが、考えないとこうなるのだという教訓。
その時点その時点で分からないこと、説明のつかないことを深く考えずにその場の空気に流されたが故に起きた悲劇である。
ついでに言うならジョー1の方も大概であり、正直言うと立場が違えばどちらが爆発してもおかしくなかったと言えよう。
読者の方々もお気をつけていただくよう。考えることを放棄すると誰に迷惑がかかるのか分からないのだ。
まあ、まさか命令違反したら赤の他人が爆発するなどという事は滅多にないだろうが。
「え、なに? どういうこと? なんで?」
何が何だか分からない、という表情で飯垣博士がスマホの画面を何度も何度もタップする。やめたまえ、また爆発したりしたらどうするのだ。現実を受け入れろ。
「待ってくれ~ッ」
その時、もはや膠着状態に陥った戦場に大声が鳴り響いた。
「その戦い、待ってくれ」
キャプテンケイオスのオーナー、内田レン博士が駆けつけてきたのだ。今更。
「戦っちゃダメだ その二人は、クローンでも双子でも何でもない! 武石ジョーと武石ジョーは、全くの赤の他人なんだ」
今更。




