ジョー対決
「キャプテンケイオス……ッ」
退却を始めたジョー達一行の足を止めたのは彼の古巣、キャプテンケイオスの面々であった。
「なぜここに……?」
「フッ、我々には『視聴者』という無数の目があるのだよ。自衛隊は追撃を諦めたようであるが、彼らの意志は我々が継ぐとしよう」
ラップトップPCを開いたままアキラが応える。
ジョー1は自衛隊とヒーローが共同作戦をとっているのではないか、という事を警戒していたのだが、どうやらまだそこまでの事態には陥っていないようである。
ヒーローだけならば、何とかなるかもしれない。すぐ後ろにはニンジャダイナソーの一団もいるのだ。
「いずれにしろ……」
ジョー1は構えをとる。
そう。いずれにしろ逃げることはできないのだ。小回りが利き、足の速いヒーローを撒いて逃げることは不可能に近い。誰かが足止めをしなければならない。
「クローンジョー! やっちゃえ」
息を吹き返したように元気を取り戻した飯垣博士が指差して叫ぶ。
「飯垣博士……」
小さくつぶやいたのはキャプテンケイオスの方のジョー。いわゆるジョー2である。彼からしてみれば、一時期、クローンジョーとして活動していた時に上司部下だった間柄。
何かあったのかは知る由もないが、思うところあるのだろう。
「あのメスガキだけは絶対許さん。ぶち殺す」
何があったのだ。
「それはともかくとしてクローンジョー、俺が引導を渡してやる」
割と、節操のない発言ではある。以前は自分がクローンとして活動していた過去を持ちながらも、正義のヒーローとしてそのクローンを倒すというのだ。
しかし彼自身の考えに何か翻心があったわけではない。あの時は本気で自分はメガデスに作られたクローン人間だと思っていたし、今は本気でメガデスと戦っているのだ。彼は瞬間瞬間に生きているのだ。
「クッ、やるしかないのか」
一方のジョー1。
一応今のクローンジョーとしてメガデスに所属してはいるものの、積極的にヒーローや自衛隊などの人々と戦う心が決まったわけではない。しかし今の立場上戦う他すべがないことは理解している。
「行くぞッ!!」
言うが早いかジョー2は身を低くして突進してくる。そこから最後の踏み込みで大地を踏みしめるように強く蹴ると同時に順突きをぶち込む。
「ん?」
崩しやコンビネーションを伴わない、一撃目からの乾坤一擲の大技を、最速で放ってきた。アキラが小さな声を上げる。
「相変わらずの強烈な一撃だな!」
一方ジョー1はギリギリのところでそれを捌く。何とか芯を外して攻撃を逸らしたもののカウンターに入れるほどの余裕がない。仕方なく一呼吸おいてからジャブ、ローキックと繋げて相手のすきを窺うコンビネーション。
「妙……だな」
「どうしたの、アキラ」
口元を手で押さえ、二人の戦いに強烈な違和感を覚えるあまり、こぼれた言葉にミカが反応する。
「いや、まるで二人の戦い方が入れ替わったような……」
入れ替わったのは戦い方ではない。本人なのだが。
「訳の分からないことを言わないで。私達は私達の戦いをする」
そう。アキラとミカの二人も決してただの賑やかしではない。二人が戦っている間メガデスの怪人の横やりが入らないようにしなければならないのだ。
そこは基本的に前回と同じ。ジョーがクローンとの戦いに集中できるようにニンジャダイナソーと戦うというわけである。二人の戦いの感想を言っている場合ではないのはその通りだ。
そしてニンジャダイナソー達もその状況を把握しており、アキラとミカに襲い掛かってくる。
「せめて足を引っ張らないように戦う」
ミカは指先を正面に出し、その先から糸を放出する。彼女の兵装も少しずつ改良され続けている。
途中から投網のように広がった蜘蛛の糸はニンジャラプターの顔面を包み込み、最大の攻撃手段を奪う。それと同時にミカは糸をつないだまま明後日の方向に飛翔。
当然ラプターは踏ん張って引っ張られないように抵抗をするが、ミカはそれを利用して大きく円弧を描く。とうとうこらえきれなくなったラプターの脚は地を離れ、今度は逆にミカが中心となってラプターを振り子のように振り回した。
敵の動きを封じるだけではない。敵の体そのものを武器としてクサリガマの分銅のように使ったのだ。周辺のニンジャダイナソー達をなぎ倒すように激突して、それはようやく停止した。
「ヴオオ……」
直後、ミカが拘束していたニンジャラプターが不気味な唸り声をあげるとともに糸が解けて落ちた。口が塞がれているのにもかかわらず無理やり火炎放射で自分の顔ごと糸を焼き払ったのだ。
「ギャオオッ」
焼けただれた顔のまま突進し、ミカに噛みつこうとする。彼女の方は未だ体勢を立て直せていない。
「グムッ⁉」
危機一髪のところであったが、ニンジャラプターの脳天に何か四角いものが突き刺さった。
「危ないところだったな、ミカ君」
「今何を投げたの?」
「私のタフノートだ」
「あれ本当にパソコンなの? 何のためにあんな頑丈に」
マツモト電工製のラップトップPCタフノートは隕石の一撃にも耐える! 人類の叡智の結晶たるコンピュータを手裏剣の如く投擲武器として扱うこの贅沢!
ずるり、と脳漿したたるタフノートをニンジャラプターの頭頂部から引き抜く。
「しかし、やはりこの数を私たち二人で捌ききれるか……」
敵の数は膨大、そして一体一体の戦闘能力も高い。一方二人は「凌ぐ」ことは出来ても積極的に殲滅する火力はない。だが、凌ぎきるしかあるまい。
「アキラ、来る!」
ニンジャランフォリンクス、小型の翼竜が手裏剣のように体を回転させながら突っ込んでくる。とっさにアキラがタフノートを盾にして受けた。通常のパソコンはポリマー装甲であるがこのタフノートは一体どんな素材で作られているのだろうか。
それはともかくとして、ニンジャダイナソー達は野生動物などではない! 分類的にはメガデスによって作られた怪人、戦術的生物兵器なのだ。
ニンジャランフォリンクス、アキラ、ミカと固まったところにその後方からニンジャステゴサウルスの巨大な尾による横なぎの一撃。尋常であれば容易く躱せる度の鈍重な攻撃を見事に喰らってしまった。
「ぐうっ⁉」
「まずい……ッ」
集団戦で最も気を付けなければならないこと、それは「体勢を崩さないこと」である。
体勢を崩し、それこそ転倒などしてしまったらもう集団戦ではリカバリーは不可能。致命的な一撃を受けてしまったのだ。
ニンジャラプターの強靭なあごが開き、近づいてくる。自分の頭蓋をかみ砕こうとするその動きをアキラはスローモーションのように眺めていた。
「アギャアァッ」
しかし、最期の瞬間と思われたその時、まばゆい光とともにニンジャラプターが大きくのけ反って顔をそむけた。
そして次の瞬間、何かがさっと視界を奔り、同時にラプターの首が落ちたのだ。
「これは……まさか」
人の気配を感じてアキラが振り向く。ラプターを攻撃した光球と、切断した攻撃の正体。
「キャプテンケイオス、助太刀させてもらうぞ」
「お困りのようですわね、いつぞやのお返しをさせてもらいますわ」
そこにいたのは彼らと同じくヒーローの、クロノワールと館林エポナの姿であった。




